ラウンジにて
「…ぅわあ、、、、すっげぇ・・・・・!!!」
ハナコに従って廊下を曲がり、ラウンジに通されたホナミは、独り言のようにそれだけつぶやき、あとは口をあんぐりと開けたまま無言になった。
コンクリート打ちっぱなしの暗い陰気な廊下から、一変して目に飛び込んできたのは、光りの差し込む広々とした空間。
そして巨大な窓と、その先に広がる海。
まるでスクリーンに映し出された映像のように、海の色は不安げな灰色に覆われたり、真昼の黄色い光に照らされエメラルドグリーンに甦ったり、またうつむくように藍色に染まったり。
強い風と雲が太陽のそばでじゃれ合うたびに、天然の色彩は生き生きと変化した。
ホナミはしばらくその光景に釘付けになり、ラウンジの真ん中で突っ立っていた。
ヒュン… ヒュン… ヒュン… ヒュン…
小さな風切り音に気付いて上を見上げると、吹き抜けになった高い天井で、黒い鉄製のシーリングファンがゆっくりと回転していた。
それは吹き抜けというよりも、実際には天井にぽっかりと開いた『穴』だった。
何故か海に近いその天井の一部は、爆破されたかのように大きく崩れ、錆びた鉄骨が何本も露出し、まるで牙の生えた巨大な口のようだった。
外から見た限りでは、すでに捨て去られ、息の根が止まった廃屋のように見えるのだが、一歩中に入れば、シーリングファンは優しい吐息を送り、壁に掛けられた古い振り子時計はしっかりと脈を刻み、磨き上げられた大きな窓は、青い入り江に恋するように見開かれている。
アンティークのスチール製食器棚や笠のついたアルコールランプ、その他の古い家具や雑貨も、それぞれ臓器の一部のように生きていて、この古びたコンクリート製の建物は死んではいない、ということが分かるのだった。
「なんつーか、、、変わったトコだね……」
ホナミは感心してため息をついた。
「ふふふっ。初めて来た人はみんなそう言うわ。さて、とりあえず何か冷たい物でも飲む?」
笑いながらバーカウンターに入って行ったハナコに合わせ、井田も
「中に入れば、お化け屋敷には見えないだろ?」
と言って、自分がここのスタッフの一員であるということが誇りであるというように腕を組み、今日も素晴らしい入り江の景色を眺めた。
「せっかくこっち方面に来たから、ナカムラさんにもここを見せてあげたいと……」
井田が言いながらホナミの方へ目を向けたその時、
「あっ!ナカムラさん、後ろっ・・・」
「 えっ? 」




