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 順調というわけではないが、どうにか歓迎会はスタートした。その主役が、今は良太郎の隣にいるわけだが・・・。


 彼女に対して、何かと疑念は抱いている。だが今は考えない事にしていた。頭を悩ませるのは祭りが終わった後でいい。




 教室には、簡素な作りではあるが、いくつかの出店が出来ていた。教室の外には立て看板が置かれていて、一見して何の店か知る事ができる。食べ物屋から、射的まで幅引く存在する。また呪術を使用したゲームなども用意されているようである。



 だが臨の興味があるものは一つだった。

 鼻歌混じりに歩を進めていた臨が、不意に立ち止まった。

「アタシの歓迎会なら、団子屋あるんでしょ」

「あるとは思うが。ちょっと待ってろ・・・」


 良太郎は尻ポケットに入れていたパンフレットを開き、団子屋の位置を確認する。どうやらこの先にあるようだ。

「もう少し歩けば、あるみたいだぞ」

「やった。んじゃ、行くか」

 子供のように笑い、臨は歩き出す。


 本当に団子が好きなようだ。




 いちはやく団子屋に行くという変わり者は、二人だけのようで、先客はいなかった。臨はラインナップをチェックしているようで、絵で書かれた見本をまじまじと見ている。

 先方も臨の団子好きを把握しているようで、十種類もの団子が並べられている。中々に力を入れている。

 そのせいか、臨は悩み考え込んでいるようだ。


「うーん・・・。ーーよし、決めた」

 勢いよく臨は顔を上げた。


 これは臨の歓迎会だ。少しくらいお姫様扱いをしてやるか。

 そう考え、良太郎は財布を取り出そうとしたのだがーー。



「三色団子二つと、みたらし、それにあんこもちょうだい」

 既に臨は金を払い終えていた。

「おい、はえぇよ」と良太郎は思わず、取り乱してしまう。



 一方の臨は気にした様子もなく、四本の団子を受け取っていた。

「つか、そんなに食うのかよ」


 目くじらをたてる良太郎に、臨は三色団子を一本渡した。直ぐには理解できず、ボッーとしている良太郎に軽く蹴りを浴びせる。



「恵んでやるって言ってるんだよ。はよ受け取れ」

 そう急かされ、良太郎は三色団子を受け取った。



「食ってみ」

 言われるがまま、一番先のピンク色の団子を食べ、良太郎は素直にーー美味い。と感想を述べた。


「だろだろ」

「てか、団子代払うわ。主役に奢ってもらうのはーー」


 財布に手をかけ、小銭を抜き取ろうとする良太郎の口元に向け、緩やかな速度でみたらし団子を突っ込む。先端にあった団子を食べ、やはり良太郎は美味いと感想を述べた。



「これはお返しだから、黙って食いなよ。美味いもんは、なーんも気にせずに食うのが一番だって」


 どうして奢られるのかは分からないが、最後の言葉には同意だ。値段なんか気にせずに食べたものはうまい。最後に値段を見て後悔する事も、たまにはあるが・・・。




「もしかしてあれか、弁当を半分あげたからか」

「んっ。あー、そんなのもあったね」

 団子を食べ終えた二人は、また賑やかな校舎を歩き出した。



 串を咥えていると落ち着くのか、臨の口元にはまだ一本の竹串が残っている。

 良太郎からすれば、できるなら臨とは距離を置きたかったのだが・・・。どういうわけか、隣同士で歩く状態になってしまっている。まるで彼女に操られてもいるように。



「どうして俺なんだよ」

 首を傾げるだけで、臨は黙ったままだった。



 仕方なしと、良太郎はため息をつく。

「どうして俺と見て回るんだ」

「運命的な」

 茶化したように臨はそう言った。



「作り上げた必然は、運命とは言わん」

「そういうものの積み重ねが、運命になるのだよ」

 反論しようとしたが、馬鹿らしくなり、良太郎は口を塞いだ。



 その直後、二人は同時に足を止めた。

 偶然でも必然でもなく、それは運命のように、一人の少女が二人の前に立ち塞がったのだ。







 天津明は、開会式の仕事を終えた後、柿崎と久我の争いーーというかイチャイチャを止めようと割って入ったが、何も出来ず、結局は霧島夢に任せるという形でその場を後にした。


 臨が素直に言うことを聞いてくれないとは思っていたが、まさかあんな事になるとは予想していなかった。



 D組の集まりに戻ってきた天津だったが、既にそこには良太郎の姿は無かった。

 やはり、あの時校庭から消えたのは良太郎と臨だったのだ。先手を打たれてしまったと、天津は歯ぎしりをする。




 近くにいた朝陽が、その姿を見て心配そうに駆け寄ってきた。

 どったの、と声をかけると、天津は思わずため息をついた。



「二人に仲直りして貰おうと思って、歓迎会のデートプランを考えてたのに・・・」

 天津が握っていた一枚の紙を受け取り、朝陽は呆れた顔をする。

「あの二人が、やるわけないじゃん。流石に・・・」

「そ、そうかなぁ」

「アイツらなりに、何とか解決するって。だからそんなに心配する事ないと思うけどな」

「むむぅ。何だか今日の朝陽君、しっかりしてる」




 それから二人は薫子のところへと向かった。

 不安な気持ちがあったとしても、顔に出さない性格なのは理解している。やはり薫子は普段となんら変わらない様子だった。ただ一点、眉間に皺が寄ってる事を除いては。


 その姿を見て、朝陽と天津は一度顔を見合わせる。



「薫子ちゃん、一緒に回ろうよ」

 恐る恐ると言った感じで話しかけた天津だったが、薫子はいつも通りの調子で応答した。

「それは構わないけど、生徒会の仕事は大丈夫なの」

「うん、わたしはあくまで手伝いだから。あとは生徒会の皆さんにお任せという感じで」

「それなら良かった」


「良太郎もあっちで楽しんでるっぽいし、俺達も楽しもうぜ・・・」

 天津が目を見開いた事で、朝陽も遅れて気づく事になった。今のセリフはタブーだと。




 薫子が一瞬、下を向いてから、天津と朝陽を交互に見据える。その間、二人は尋常ではない汗を垂れ流していた。

「明、朝陽君。二人に迷惑をかけている事は自覚してる・・・」

 薫子の意外なセリフに、二人はもう一度、顔を見合わせる。



「え、どうしたの、薫子ちゃん・・・」

 薫子は大きく息を吐き出した。

「私は、自分なりのやり方でなんとかしてみせる」

 自分なり・・・。

「確か、歓迎会ではこの施設を解放してるのよね」

 薫子が指をさした場所を見て、天津は顔を引きつらせる。



 彼女が何をしようとしているか、なんとなく想像がついてしまうが、嘘をつく事もできない。

「うん、まあ、してるけど・・・」

「だったら話は早いわね」

 薫子は自信に満ち溢れた表情で、拳を握りしめた。









 

 なぜ唐突に薫子が目の前に現れたのか、良太郎には想像する事もできなかった。

「おい薫子、どうしーー」



 その背後から、慌てて階段を登ってくる朝陽と天津の姿がみえた。ますます、良太郎の頭はパンクする。

 どうしてこのタイミングで薫子がやってくるのか・・・。それは考えても全くわからない。表情からキレている事くらいは分かるが。




 少なくとも朝陽と天津の表情から、これが不本意な行動である事も分かる。 

 だとしても、これから薫子が何をしでかすのか、予想することは難しい。




 薫子は、臨と一度目を合わせてから、次に良太郎に視線を移す。

「水無良太郎」

 いきなり名を呼ばれ、良太郎は一歩退く。



 薫子が次の言葉を発するまで、数秒しか間はあかなかった。それでもその時間が、良太郎に永遠のように長く感じた。

 動機が早まるのを感じ、この場から逃げたくなる衝動に駆られる。だが実行に移す前に、薫子が口を動かした。



「貴方に決闘を申し込む」

 薫子は勢いよく指を差し、はっきりとそう言った。



「えっ・・・」

 明らかな困惑を見せる良太郎。天津と朝陽は頭を抱えていた。

「いきなりなんだよ、決闘って」

「周りを巻き込んでうだうだしてても、しょうがないでしょう。だから白黒つけるのよ」


「白黒って・・・」

「私とのーーいいえ、四之宮との約束を果たすのか、それとも・・・」

 その瞬間、良太郎は薫子との事を思い出した。




 二人は偽りの婚約者・・・。それだけの関係じゃない。長野で契約を契った。

 その契約が、四之宮という家系の錘がどれほどか、良太郎には想像できない。だが薫子は、その得体の知れない何かと向き合って、日々生きている。


 学校でのちょっとしたトラブル。その程度にしか考えていなかった自分とは違う。それを、彼女の目を見て再認識した。

 もしかしたら戦う事で、心から対話できるのかもしれない。そうだとするなら、この勝負はーー。



 受けるしかない。




 そう心に決めた時だった・・・。先ほどまで黙っていた臨が、二人の間に割って入ったのは。

「その勝負、アタシが代わりに受ける」



 思いもよらない言葉に、天津と朝陽は声をあげて驚く。

「おい、どういうつもりだよ。これは俺と薫子の問題でーー」

 手の甲を良太郎に向けて、臨は言葉を制する。



「そうよ。貴方には関係ない」

 次に臨は、薫子に竹串の先端を向ける。


「えぇ、そうかな。アタシにも言いたい事あるんじゃない。・・・四之宮薫子さん」

 仁に似た不敵な笑みを浮かべ、臨はそう口にした。









 


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