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挨拶

 





 行こうかと促され、俺と四之宮にはクラスメイトとの初対面が迫ろうとしていた。




 僕が扉を開けたら入って来て。

 日役先生の指令はそれだけだった。

 




 転校するのは初めてで、そわそわするというか、この時間は凄く緊張する。


「転校生ってこんなに緊張するもんなんだな」


「そう? 学び舎が変わって呪術の練習時間が増えるだけ」

 四之宮のやつは東京まで来てなにも分ってない。


「お前は人間としても向上する為に来たんだろ。変わったのはそれだけじゃなくて、周りの人達もだ。忘れんな」


 数秒間を置かれてから、そうだったわね。と肯定される。




 その時、扉の向こうから歓声が上がった。転校生の登場での盛り上がりだと察する事ができた。

 それから扉が開けられ、教室へと踏み入った。





 周りには三十人くらいの生徒達。誰もが大きな声でこちらに向かって呼びかけて来る。

 そして驚いたのが、教室は高校でよくある平らで置く行きのある空間ではなく。大学の講義室を連想させる作りだった事だ。


 だからか異様に広く感じる。





「みんな静かにしてね」

 呼びかけで、段々とD組の生徒達の声が小さくなる、




 俺と四之宮が教室の正面に来たところで、「それでは二人に自己紹介をしてもらいます」と生徒達に向けて言った。



 日役先生に近かったのは俺なので、自分から挨拶する事にした。


「えっと、水無良太郎です。呪術の経験は無いんですけど、みんなで学んで行けたらと思います。宜しくお願いします」

 頭を下げると、拍手の後にガヤが飛んできた。

 あまり混雑していて、言葉は聞き取れないが。






「んじゃ、次。えっと……あれ?」


 突如、日役先生が混乱しだす。


「薫子ちゃんも水無っていうんだね」


 まさかの発言だった。確かに、四之宮家からは名を隠すために他の名で登録すると言ってはいたが、なんで俺の苗字と被せるんだ。

 いやこれは誓いの遵守の為か、同じ苗字が二人が同じタイミングで同じ学校に通うなんて可能性があるとするならば限られてくる。そしてその二つとも誓いの遵守に繋がる世間体になる。


 やっぱりやる事があくどい。





「水無薫子です」

 仕方ないとばかりの挨拶も、生徒達の噂の飛び交う声で掻き消されてしまう。




「同じ苗字って兄弟?」


「てことは双子」


「でも似て無くね」


「あー、薫子ちゃん可愛い。当たりだなぁ」


「分かっちゃったかも。あの二人は結婚する予定なんだよ」





 誰かが言ったそのセリフで、周りの反応が更に大きくなった。 

 最悪だ……。その結論が一番、ダメだ。





 俺は四之宮に視線を向ける。

「水無君なんかと結婚するだなんて思われるなんて……」

 四之宮は俺を愚弄していた。

 これには堪忍袋の緒が切れるというものだ。





「大体、お前が名前の確認を怠ったのが悪いんだろ!」

 気づけば、指を差して悪いところを指摘していた。


「名前なんて私にはなんでもよかった。それにこれは謀略よ!」


「四之宮家の謀略だとしたら、お前にも責任がある!」





 俺と四之宮は額を近づかせ、間には電気が迸っていた。――そんな気がした。



 これで波乱の自己紹介は終わり、二人の間にいきなりの溝ができた。これから周りに夫婦と思われながら学校生活を過ごさなければならない。

 何度か言い訳を考えたが思いつかない。覆りようはなさそうだ。













 席は自由だったので俺と四之宮は自然と遠めに座った。そしてホームルームが終わったところでようやく、一息つく事ができた。





「良太郎君だっけ? 俺、六車朝陽。宜しく」

 そう声をかけてきたのは、左隣りに座っていた男だった。短髪で活発そうな顔立ちをしている。サッカー部といわれれば納得してしまうだろう。


「あ、よろしく」


「いいよな。あんな可愛い子が婚約者なんて」







 違う――。


 思わず口に出してしまいそうになったが、ギリギリで思いとどまる。今更、変に言い訳しても悪目立ちしてしまう。これは嘘を付きとおすのが懸命だ。それは四之宮だってわかってるはず。




「あれ可愛いか?」

 などと冷たく返すと、朝陽は即座に首を振った。






「可愛いよ! うちのクラスの女子って残念なのが多いから」

 口を滑らせた発言を周りの女子は聞きのがさなかったらしく、朝陽を責める声が多く飛んできた。






 彼は男女ともに仲良くできるタイプらしい。初めて話た相手としてはこれ以上無い。


 四之宮は上手くやっているだろうか……。

「ところで良太郎は幾つ? 俺、高三の十八」

 驚きの発言に空いた口が塞がらなかった。まさかのクラス別って、学年一貫かよ。







 ちょっとした休憩時間に、俺と四之宮は教室の外で落ち合った。

 携帯は無いが、婚約者という建前を利用すれば連れ出すのは簡単だ。唯一の役立ちポイントである。


「おい、四之宮。付き合った事を肯定するような素振りみせたか?」


 四之宮は真顔を崩さずなかった。「言ってないけど。まさか学年一貫なのを知らなくて、兄弟だと嘘を付けば良かったって可能性を忘れてたのかしら?」


 はい、その通りです。


 双子は無理でも、兄弟なら顔の作り似なかったとごまかせる。



「でも言ってないなら、今からでもやり直せる」


 俺はあの後にも婚約者っぽい発言してしまって、後戻りができないが、四之宮が言ってないのならまだなんとかなる。





「無理ね」

 返答は短く冷たかった。



「私が今から兄妹だと宣言したら、貴方は実の兄妹を婚約者と言い張るキモいブラコン野郎って事になるけど。いいのかしら」

 確かに四之宮大好きなブラコン野郎のレッテルを貼られるのは、かなり辛い。だが策略に陥るのはもっとげせない気がする。


「構わない」


「私が構わなくないの」





 え。 

 その声はどうやら漏れていたらしく。四之宮が説明口調では話始めた。



「いいかしら。そんなキモい兄妹を持つ私の身にもなってほしいの。そんな男と同じ学校に通うって事は、周りから見たらどう?」


「あんまり俺の好意を嫌に思ってない……とか」

 さっさと答えてしまったが、これが真実だろう。四之宮が無理だというのにも納得せざるを得ない。


「分かったのなら教室に戻るわ」


 教室へと進む足を途中で止めて、四之宮は振り返った。「それと四之宮は学校では使わないように」


 迂闊だった。

 そうだ、俺はいつものノリで四之宮と呼びかけてしまったが、これは重大なミスだ。もし生徒に見られていたらまずかった。







 もしかして俺は動揺しているのか……。

 四之宮がダメなら、水無か? いや同じ苗字は面倒か。だったらやっぱり――。




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