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~キスから始まるダークファンタジー~(仮)  作者: リノ
七章 呪術選抜試験編
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友達




 あっという間に日々は過ぎ、我が高校は冬休みに入っていた。とはいってもクリスマスが終わった頃に始まり、一月の五日からは学校という短い休みなのだが。大学生の冬休みと比べれば天と地ほどの差があるだろう。


 休みが短いのはまあ良いとしても、今日が四日だというのはいただけない。確かに小型のテレビは置いてあり、殆ど予定も無かった為、だらだらと過ごしたのも事実だ。


 ただ引き換えに努力もした。学校で薫子に声を掛けようと心掛けたり、緊張しながらもインターフォンを鳴らしたりと。



 しかし会話はできずじまいで今に至る。避けられてる部分が大いにあるのだろう。



 このままだと本当に進展せず、終わってしまう。それはまずい。だが今更、打開案も思いつない。



 ハンガーに掛かっているダウンジャケットを取り、寝間着の上から羽織る。

 気晴らしに散歩でもするか。



 後ろのポケットに長財布を突っ込み、クロックスを履いて玄関の扉を開ける。と同時に風は吹き、身震いした。


 早く温かくならないかな……。 





 ぶらりと歩き、コンビニに入って雑誌を立ち読みしようとしたら、テープで固定されて読めなかったり。自販機で間違えて冷たい飲み物を買ってしまったりと散々な事が起きた。


 やっぱり気晴らしをするなら、あそこしかない。




 少し遠かったが、俺は街で一番大きな駅前のゲームセンターに立ち寄った。


 もう直ぐ深夜というだけあって、客層はほぼ固定されていた。ヤンキーかおじさん。ちらほら年寄りもいる。最近ではゲームセンターのメダルコーナーが年寄りの溜まり場になっているとも聞くし、それもあるのだろう。



 久しぶりに来たので、どんなゲームが置いてあるのかと興味本位で探索し、結果的に鉄拳の前で足が止まる。


 苦学生にとって百円は痛い出費だが、止むを得ない。投入口に入れプレイを開始する。最初は長野でやっていた以来、プレイしていなかった事もありCPUとの対戦を選んだ。ブランクがある状態で対人戦をして、段位を落としたらたまったものじゃない。



 CPU戦では圧勝し、気をよくした俺は全国対戦に臨むことになるのだがこれが失態だった。


 六段であった俺は負け、五段に段位を落としたのだ。思わず台の下を蹴ってイライラを発散する。もう一度、百円を入れようとした時、今度は背後から声をかけられる。



「あんちゃん、金貸してくんない? 全部使っちまってさ」

「良い子は帰る時間だよー」


 ガラの悪い三人組……。これは喧嘩を売られている。昔はこういう時、どうやって対処をしていただろうか。遠い昔の事のようで思い出せない。



「生憎、渡せる程の金が無くって。親に小遣いでも貰ったらどうですか」


 絶対に違った……。






 帰り道は辛かった。殴られた箇所が痛むし、途中で警官が来たせいで無駄に走らされた。 


 けど喧嘩には負けてない。相手は三人だったが、対等にはやれていた。それに正当防衛であって、それに――。



 適当な言い訳を考えるのが馬鹿らしくなり、考えるのを止めた。






 部屋に戻るとさっさと座り込み、傷の手当てをした。寮の人が消毒液と絆創膏をくれて助かった。


 ふと、自分が背を預けている壁の向こうから物音がした。そちら側は薫子がいる部屋だが、こんなに壁が薄かっただろうか? 少なくとも前まではここまで酷くなかった。



 不意に、よからぬ思考が自分を支配する。ここから話しかければ、薫子は逃げられない。これを機に誘えばいいんじゃないのかと。今はとにかく繋がりが欲しい。どんな形でもいいからそのきっかけが。




 俺は少し、大きな声を出してみた。「あーあー、なあ薫子。起きてるか?」



 ……………………………。




 期待していたわけじゃない。無謀な方法なのはわかっていた、だから落胆もしない。






「なにかしら」


 今のは俺の声じゃない。勿論、携帯やらテレビから発せられた音声でも。なれば……。



「この寮こんなに壁薄かったか?」


 今度は先ほどよりも早く、明瞭に声が返ってきた。「最近、穴が空いたのよ。理由は知らないけど。だから塞いでおいたわ。なにをされるか分からない」


「安心しろ、お前が隣ならばなにも起きない」

「私、今から寝るところだから。それじゃあ」





「あのさ――」つい、引き留めてしまった。なにも考えがない。だから良い案を考えなければ。


「遅いけど、明日、神社でも行かないか? ちょっと遅い初詣としてさ。朝陽と天津も誘って。どうせ二人共、暇だ」数秒の沈黙はあったが、不自然でなかったはずだ。



「そうね、近頃は顔も合わせていなかったし。良い思い出になる……」



 了承を得られたのは素直に嬉しい。けど声が沈んでいた気がした。顔も見えないから確信は得られないが……。



「おやすみ」

 俺はひっそりと音をたてないように、電気を消した。












 早速、次の日に決行となった。というより、その日を逃したら学校が始まってしまうのでその日でなければいけなかった。なので変わった朝陽の寮に朝一番に走って予定をたてるのは骨が折れた。



 そのかいもあり、有名でもなんでもない神社に今、D組の四人でいれる。本来、一番近いのはいつだか千代とやりあった場所なのだが、狛犬を壊してしまった建前、行き辛い。もしかしたら直っているかもしれないが、心の持ちようだ。



 目の前にいる三人は誰も着飾った格好をしておらず、完全防備だ。薫子は薄でのコート。この時期によくやる。天津は厚手のコートに耳当てを装着している。朝陽はダウンジャケット。





 鳥居や鐘はもう少し先にあり、今俺たちの目の前には短い石段がある。それを上り終えたところで、朝陽が感慨深そうに言った。「いやぁ、冬休みの最後にこのメンバーで集まれて俺、超嬉しいわ」  

 

 確かに暗い話はしないようにしようと決めてあったが。それにしたって語彙力が酷い。



「うん、わたしも嬉しいよ。初詣には遅いけどね」


 天津がフォローしたので、俺もそれに乗っかる形で話を繋ぐ。「俺たちの初詣って事でいんじゃないか」


「おーそれいいな。俺まだ行ってなかったし」

「私はもう行ったけど。毎年、四之宮家で行くのが恒例になってるから」


 薫子の口から当たり前に四之宮と出てきて、俺達は誰もなにも返すことができなかった。特に朝陽と天津はその話題に困るだろう。



 覚悟を決めて大きな声を出す。「取りあえず、鳥居まで行こうぜ」

 こんな強引なやり方は俺らしくないが、止むを得ない。




 また歩き出すと、薫子と天津が話し始めた。前を歩く俺と朝陽も後ろの声を気にしながら、雑談を交わす。


 やはり話題はクラスの話だった。


 しかしなんだろう、この取り繕った空間は。誰も本心を口に出さずタブーに触れないように気を付けている。 

 嫌いで居づらい空間だ。






 鳥居を潜り鐘の前に付く。ここまで来てなにもしないのは無駄骨になってしまうので、除夜の鐘とはいかないが、鐘を鳴らしておく事にした。


 朝陽は縄を取り、勢いよく鐘に打ち付ける。すると大きな金属音が何重にもなりこだまする。反射的に朝陽以外の三人は耳を塞いだ。



「夜なんだから周りの迷惑も考えようね、朝陽君」

「前々から思ってたけど、常識に欠けてるわね」 

 女子二人に文句を言われ、下を向いている。まあ自業自得だ。




 鐘を鳴らせばやはり手を合わせるあれをする流れになるのだが、生憎な事に。「俺は神様を信じないタイプだ」


 せっかく四人で横並びになりこれからというところだった。少しタイミングを間違えたかもしれない。


 呆れ顔の朝陽が言ってきた。「神社言い出した張本人がそれ言うか」

 ごもっともである。



 更には薫子も呆れた顔を向けてくる。「水無君ってKY――空気よめない人よね」


 二回言うな。そしてそれは違うぞ。だって心では理解していた。あえてそれを口にしない奥ゆかしさまで察してほしい。



「本心をちゃんと口にする、正直者なんだよ俺は」

「良い風に言ってるけど融通が利かないだけよね。だからモテないのよ。短所を見直しなさい」

「なっ――言わせておけば」



「ストーップ!」喧嘩腰の俺と薫子の間に、天津が飛び出てくる。両手を開いた彼女の手が眼前にはある。「こんな時に喧嘩はダメだよ」


 天津もお姉さんキャラというか、そういう立ち位置が板についてきたな。




「神様に願うのが癪だって言うんなら、なにか決心するとか。そんなんでいんじゃない。形式だけなら問題ないでしょ?」 


 俺はそこまで捻くれていないぞ。けどその案は妙案だ。雰囲気を壊さずに済む。



 それからまた横並びになる。すると朝陽が「せーの! はいっ!」と謎の掛け声をかけてきた。


 周りが目を瞑って手を合わせたので、俺もそれに習う。一度、目を瞑ってしまったので目を開けて様子を窺うのは卑怯な気がしてできない。若干、後悔した。



 さすがに東京でもあんな掛け声はないだろ。なんでみんなスルーなんだよ。神社でのマナーは万国共通だろ。


 とまあ疑るのは止め、なにか思う事にした。とはいっても願いなんて一つしかない。たった一つしか。



 目を開けると他のみなも終えていた。



「んじゃ、記念にホームパーティーでもすっか」

 朝陽からの唐突な提案だった。


「それなんの記念? まあでも楽しそうだね」

 朝陽は踵を返し一歩。それに天津も続いた。




 ここで薫子の手を取り、なにか声をかけてやるべきだところだろう。だがぱっと良い言葉が見つからない。うじうじ考えていては気を取り逃がす、ここは思い切って――。



「ごめんなさい、参加できない」

 その言葉は隣の薫子から発せられた。俺が躊躇したせいだ。



「え。なんか予定でもあった?」


「朝陽君。貴方と私が親に了承も得ず、パーティーなんて問題があるでしょ。それに隠し事をしていた人間と無理に仲良くするなんて嫌でしょ?」


 偏屈な考え方だ。けどそれを邪険になんかできない。俺も同罪であり、なにもしてやる事ができなかっかたら。



「嫌なんて誰も言ってないだろ」


 俺を見て、薫子は目を細めた。「この空間を見れば明白でしょ。みんな無理をして気を遣ってる」



 薫子もそれを察していた。次の言葉に、俺は戸惑ってしまう。

 けど今になれば、あの空間はそれだけじゃない気がする。じゃなきゃ今までの日々が嘘になってしまうから。


 誰もが黙りこくっている。




「こうやってまた空気を悪くしてしまう。だからここに居るべきじゃないの」


 踵を返そうした薫子を、制止させたのは朝陽だった。

「勝手過ぎる! 自分勝手極まりないぜ、それ」


「私は……貴方達の事を考えて」


「考えてくれてんなら、もっと前に言うべきだったんじゃないの? 自分が四之宮の娘だってさ。タイミングはあったよね」


 ダメだろ朝陽、今ここでそれは。

「おい朝陽」思わず止めに入ろうとしたが、朝陽は俺の前に手を出した。



 彼が言うと決めたのなら、俺に止める事はできないだろう。たとえこの関係が壊れても。



「そんなに俺達の事が信じられないかよ……」


「最低よね。勝手だというなら、どうすれば贖罪になるかしら」



 その時、朝陽の表情が怒りに染まるのが分かった。


「それが勝手だってんだよ! 一人でなにもかも抱え込んでさ、俺達には何一つ頼ろうとしないで、信じてもくんない。秘密もいっぱいあったし、騙されて正直、すんげぇ腹が立った。――けどさ」



 不意に、強張った顔は和らぎ、口調やトーンも温和なものに変わった。「なんかしんないけど、許せち

ゃうんだよ。だって薫子ちゃんを一人にする方が、ここからいなくなる方が辛いからさ」



「朝陽君……」



 そこでまとまった自分の意見を、俺は薫子に向けて口にする。

「お前はさっき、俺達が気を遣ってるって言ったけどさ。それは変化に戸惑ってる時間で、腹を割って話した今からはなにも問題ないんじゃないか」



「そうだよ、薫子ちゃんは大切な友達だから。一人になんかさせないし、その、えーと。あの……もう、大好きだよ!」


 天津よ、そのまとめ方は強引過ぎないか。


 でもまあ気持ちは伝わっただろう。俺にすら伝わってきた。現に、薫子の目が潤んでる。



「だって仕方ないでしょ。……友達なんて初めてだったんだもの。優しすぎるわよ、みんな」


 その言葉を聞いて、俺たちは目を合わせ微笑を浮かべた。



 目に涙を溜め込んだまま、薫子は言った。「本当はもう関わらないつもりだったのに。気が変わっちゃうでしょ」



 沢山、友達がいて、沢山の経験を積んでも。こんな気持ちは初めてだ。一度、壊れてからまた作り直す事ができる。骨折と同じで、そういう関係こそが真の友情といえるのかもしれない。


 ちょっと臭かったな。




「さてここは一旦、若い二人に任せますか!」


 なんの話だ? それに朝陽と俺は一つ違いのはずだろう。

 段々と朝陽と天津が、目の前から遠ざかる。それを見て気づいた。嵌められたと。




「なにがしたいんだろうな、あいつ等」

「さあ、知らないわ」


 何気なく薫子に目を向ける。すると偶然か必然か、不運か幸運か、彼女もこちらを見ていた。



「あのさ……。これからの事。俺に話してくれないか。助けになりたいんだ」



 薫子が求めている事がこれかどうかは分からない。けど、今できる事はこれくらいな気がした・


「嫌よ」


 え……。「そんなあっさり否定するか」



 この答えは予想外過ぎる。これじゃあ、はいそうですかって下りるしかなくなるじゃないか。他のアプローチにするべきだったか……。



「だって貴方はずるい。人の痛みを分かち合ってばかりで、自分の事は何一つ曝け出さない」


 思わず頭を掻く。「ずるいって言われてもなぁ」そんな隠し事なんてないんだが。


「気づかないとでも思ったの。水無君が大人に敵愾心を向けている事。話してほしいならそちらからどうぞ」



 これはもう、引けそうにないな。


 もしかしたら、一番、周りが見えてないのは俺かもな。「分かった、話すよ」














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