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出発




 森の中である事を忘れていて、正直、一人で帰れる気がしないが、今更、四之宮達に頼るのはもっと無理だ。




 そして一時間くらい歩いた頃だった。

 案の定、迷った……。






 正確な時間は分からないが、日も沈み始めているし、そろそろ森から出ないとまずいだろう。

 とはいえコンパスもなけりゃ、携帯もないし。星で方角なんて分からない。






 立ち止まっていても埒が明かないので、とりあえず下ってみる事にした。しかしそこは急な傾斜で、足を踏み外しそうになった。ていうか、慣性の法則が働いているなら、とっくに今頃転がり落ちていたところだった。







 けど俺は今、後ろに引っ張られてなんとかまのがれた。

 だがそれも一瞬の事で、今度は後ろから押されてあえなく転がり落ちてしまった。木の枝や石で若干、背中を痛めたが、着地点はフカフカの土の上で大きな怪我にはいたらなかった。








 そしてなぜだが、俺の上に四之宮が乗っている。

「ごめんなさい。助けようとしたら失敗した」

 ケロッとした顔で言われる。









 状況を整理すると、傾斜で勢いあまって転びそうなのを四之宮が止めようしたら、自分も慣性の法則で止まり切れずに二次災害を招いた。

 もしかすると馬鹿なのかもしれない。






「いいから退けよ」

 あっ。と今気づいたみたいな声を出してから、移動した。



 おかげで服が汚れて、顔にも土が付いてしまった。まあ、あのままでも結果は変わらなかっただろうが。





「なんでいるんだよ。ストーカーかよ」

 こんな森の中から遭遇とか、後ろを付けて来たとしか考えられない。だとしたらここまで声をかけなかったのは、少し鬼畜過ぎるが。





「馬鹿言わないで。探したの」

 耳を疑う言葉だった。

 しかし真っすぐこちら見つめる目から、嘘でないと思わざるを得なくなった。


「なんでそんな面倒すんだよ」


「迷子になってると思って」


「馬鹿にすんなよ」


「冗談よ」


 四之宮は真顔でそんな事を言うから、本気なのか分からない。

「本当は貴方に謝りたかったの。それとお礼」




 胸が痒い。ダメだやっぱり、俺は四之宮といるべきじゃない。

 土を払ってから、立ち上がる。早くここから立ち去ろう。


「聞く気がなくても言うわ」


 大人にはあんな減り下ってるくせに、俺にはこうも頑固なんだ。傍迷惑……。







「初めてだったの。大人に怯まずに自分の意見を言える人。私はずっとお父様の言いなりで生きていくと思っていた。でも、水無君ならもしかしたらって思えた。……結果はこんなふうになってしまったけれど。でも満足したの。最初で最後の反抗期みたいで―」





 なんだよそれ。俺は間違ってないはずだ。


 なのに。 


 なのにこれじゃ。


 俺が悪もんみたいだ。

 自分に嘘をついて、四之宮を涙ぐませて……。




「中途半端なこと言うなよ。反抗するなら、最後までやりとげろよ。また俺につまんねぇ顔みせる気かよ。うざいんだよ、んな顔、一生みたくねえ」

 目の前の四之宮が視線を逸らした。


「そうね。できるだけ顔を合わせないように心掛ける」


「ちげえよ! 俺が責任もって守ってやるから、一生、つまんねぇ顔するんじゃねえ!」

 言ってしまった……。



 ただ流れなんかじゃなくて、俺は本当にそう思ったんだ。


 青春だのなんだの抜かしてた割に、俺は今の青春に本当に満足なんかしてなかった。四之宮と一緒に行けば、それを埋めてくれるなにかがある気がした。けどそれは同時に、今までの自身の否定でもあった。


 世界が大きく変わるのが怖かった。安寧な生活が脅かされるんじゃないかって……。ようは冒険する勇気がなかった。


 でも、んなダサい理由で拒否なんかできないだろ。




「水無君……本気なの?」


「二言は無い」


 すると四之宮は急にクスクスと笑いだした。

 奇妙だとも思ったが、それ以上に初めて見る笑顔がちょっとだけ嬉しかった。




「水無君ってばかね」


「論理的に考えての決断だ」


「論理的でも、貴方の論理はずれてるわ」


 今も、初めて会った時からそうだ。

 四之宮と俺の関係性にどうも納得いかない。俺は助けてやったんだ。それなのに俺が助けられたみたいで。




 そして四之宮との距離を一気に詰めて、腕を掴んだ。

 彼女の艶やかな唇に狙いを定めて、俺はキスをした。


「えっ――」









 直接ではなく、左手をクッションにして。


 それから一定の距離を保って、人差し指を突き出す。


「いいか、誓いあった俺達は同等だ。リードしてるみたいな顔するな」俺だって一応、男なんだよ……。





 四之宮は苦笑を浮かべた。「そうね。なら森の外までリードしてくれる?」


 あ、遭難しているの忘れてた。

 瞬時に頭を下げる「どうか案内、お願いします」





 それから四之宮のおかげで、どうにか抜け出す事ができた。







 話し合いは途中で打ち切られてしまったが、後日話をして了承を得たらしい。俺も小さくガッツポーズをした。





 それと上京するにあたって、幾つかの条件が言い渡されたらしい。一つは護衛を二人付ける事。とはいえ張り付くようなまねはしないで、呪力に乱れが生じた時に駆け付けるとの事らしい。


 まあ乱れとかはよく分からないが、年頃の娘を案じてだろう。本当に過保護で気を遣う人だ。







 二つ目は四之宮の名を伏せる事。やはりその名の知名度は絶大らしく、目立ってしまう。そうなると派閥のやつ――要は昨日の帽子男みたいなのに狙われる可能性も考慮しているらしい。









 三つ目は呪術の制御。なぜそんな事をするか疑問だったが、幾つか四之宮家専用の呪術があるらしく、これも隠すためだそうだ。二人で放ったあの光もそうらしい。多少の制限はされるが、仕方ないと了承したようだ。











 四つ目は呪術者として、人間として成長する事。

 まあこれに関しては頷ける。女子高生が友達ゼロじゃちょっとな。







 そして最後は俺に。薫子を頼む。ただ一筆、それだけ。






 短いが親子の愛ってのが伝わってしまう。羨ましい限りだ。

 復習が終わったところで、身支度の終わったバッグを持って外に出た。






 快晴の空に向けて、大きく伸びる。

「さて、東京行ってみるか!」



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