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~キスから始まるダークファンタジー~(仮)  作者: リノ
七章 呪術選抜試験編
69/97

分枝





 この教室が前より物騒だと感じる事は多々ある。勿論、彼――六車朝陽が今まで体験した事に比べれ

ば、それは些細なレベルなのだが。


 せめて教室くらいは平穏であってほしいと、朝陽は思った。




 今も木刀を振り回した白井が物議を醸している。

「講義ばっかじゃなくて、戦おうぜ」

 筆記授業に嫌気がさし、そのような主張をしている。といっても実技の方が今は、時間割的に多く、寧ろ実技ばっかという状況だ。 


 まあどちらかといえばわがまま。




 白井に引き続き、卯月兄弟もその活動に参加し始め、収集つかなくなってくいた。

「そうだよ、俺達は動きたいの!」

「そーそー」

 堪忍袋の緒が切れたのか、先生は大きな声を上げてからチョークを彼等に向けて投げつける。それは物の見事に白井に直撃した。



 これはまずい……。

「あっ……。上等じゃねえか、やってやる!」


 その時、白井が木刀を振りまわした。それが卯月に当たる。


「おい、白井。暴力振るう相手間違えてんじゃない?」 

「兄貴、やっちゃおうよ」

 目が血走り既に臨戦態勢。一触即発といった状況の二人を、止めようとする者はいない。




 仕方なく朝陽は飛び出し、彼等の前に飛び出した。功を奏したのか、タイミングが悪かったのか……。

 木刀と卯月の拳に挟まれ、喧嘩は終幕となった。



「喧嘩はいかんぜ……」

 そのまま朝陽は倒れ、保健室へと運ばれた。目覚めた時には放課後で、家に帰るのみとなった。




 クラス別呪術合戦以外でのクラス異動は中々、珍しいらしく、京都の一件やら普段の成績やらで朝陽、薫子、天津がそれぞれ別のクラスになった。


 朝陽は呪力こそ少ないが、呪術のレベルはそれなりで筆記試験も高得点を収めた為、C組に上がる事ができた。ただそれを素直に喜べない部分もある。




 大我にいには褒められたけど、やっぱり良太郎がいないのは寂しい。



 あれ以降、危険性も考慮されて俺は寮を変えた。それからめっきり会わなくなり、もう少しで一か月。違うクラスというだけで会う機会も少なく……。



 気づけば校門から出て、前まで住んでいた寮の方へと足が進んでいた。


「あーもう、未練たらたらじゃねーかよ!」

 心の内に気持ちを留めておけず、思わず声に出して発してしまった。それを聞かれ近くにいた人から、うるさいぞ。と叱責される。



 あぁ、すいませ――。


 謝ろうとした時、朝陽は思わず言葉を噤み。自分を叱った人間めがけて飛びついた。わき目も降らずに。







 アクティブな男だとは思っていたが、まさかここまでしてくるとは思わなかった。たじろぎ後方に倒れそうになるのを、なんとか右足で踏みとどまる。



「久しぶりだな良太郎!」

 死んだ奴に会えたみたいに喜ばれても、気恥ずかしい。



 立ち話もなんなので、近くのファーストフード店に入る事にした。苦学生にとって外食は天敵だが、安い店なので我慢する。



 店舗数も多いという事もあり、学校近くに構えていた店に入った。同じ制服を着た人もちらほらいたが、知り合いではなかった。ポテトと飲み物を頼んで好きなカウンター席に横並びに座る。



 最初はやはり下らない雑談から交わした。お互い居場所が変わり、話す事は増えた。




「そんでさ白井と卯月が暴走するわけ。ほんと耐えられないよ」

「酷いなそれ」

「だろ。そっちはどう?」




 話し終わって飲み物を一服する朝陽。


 変わった事は沢山ある。薫子が、お前が、天津がいなくなった。物足りなさとか虚無感とか色々。

 他の別れ方ならもっと納得できて、頑張ろうとも思えたかもしれない。



 だから――。「上手くやれてるよ」嘘を付いた。




 朝陽は小さく相槌を打ち、目の前の窓から外を眺めた。木々と車、歩いている学生やサラリーマン。面白くもなさそうな物をじっと見ている。



「良太郎はどう思う、京都の事。俺、馬鹿だから頭廻んなくてさ」


 無理もない。色んな事が朝陽には起こり過ぎた。混乱するのも仕方ない。だから俺が少しくらい楽にしなきゃいけない。


「取り敢えずは気軽に構えてればいいんじゃないか。考えてどうにかなる問題じゃないだろ」

「そっか、強いな良太郎は」

 朝陽は小さくため息を漏らした。




「薫子ちゃんが四之宮の当主の娘さんで、桜子さんはそのお姉さん。隠してるのには俺とは別の事情があったのかもしんないけどさ。どこかで、なんで話してくれなかったんだろうって思っちゃうんだ。

 信じられてなかったのか、頼りにならないと思われたのか。夕陽の事を話した時にでも、打ち明けてくれれば良かったのにって。薫子ちゃんは悪くないのに……最低だよな」



 最低なのは俺の方だ。全部知っていて、こうなる事もいつか予期していたはずなのに、いざ起これば返す言葉が思いつかない。



 薫子に返すみたいな調子で、なんで言葉が出てこないんだ。この役立たずが。



 不意に朝陽は身体を伸ばし、ポテトをひとつまみ。


「言ったらなんかすっきりしたわ。愚痴みたいになって悪い」



 なんだよ……。俺なんかよりよっぽど強いじゃないか。


 それからは下らない話を散々とした。喉が渇きLサイズでコーラを頼んだのは失態だったと、帰り道で後悔する事になるのは少し先の話。









 

 


 静まり返った教室の中、誰もが手を合わせ祈っている。誰の名を呼ばれるかを。

 そんな中、先生は落ち着いた調子で言う。「今回、満点は二人――柿崎穂希と天津明だ」



 普段は静かなB組にもどよめきが起こる。



 今回の呪術論理の小テストは難易度が高く、満点がいる事自体が驚くべき事だったにも関わらず二人。しかも一人はD組から昇進したばかり。どよめくのも必然だった。



 自分の席から立ち、堅くなりながらも天津は先生の前に立ちテストを返却してもらう。


 元々、B組にいながらある理由からD組へ降格した彼女だが、京都での一件の評価、また呪術レベルの向上などがあり、B組へと戻った。また、原因であった柿崎との和解も理由の一つである。


 しかし一番はやはり、京都での呪力に対しての違った意見を聞いたからだ。




 覚悟があって戻って来たのはいいけど、やっぱり緊張するなぁ。足を震わせながら、天津は何度も手に仁と書く。



「ブランクを感じさせない……。こそ勉してたでしょ。憎たらしい」

 不意に、一緒にテストを受け取っていた柿崎が話かけてくる。


 少し前までは話すのにぎこちなさが残っていたが、今では彼女とも明朗快活に言葉を交わせるようになった。



「日役先生が付いていけなくなるからって、教えてくれて」

 そこに自分の席から霧島夢がひょっこりと顔を出す。



 生徒会長である柿崎穂希が唯一、心を許している相手で、天津がB組で気がねなく話せる相手の一人でもある。


「二人共、仲良さそうでなによりだね」


 仲が良い。その言葉に反感を覚えたのか、柿崎はムッとした表情になる。「別に仲良くなんてしないわ」


「照れなくていいんだよ、ほまれぇ」



 自分よりも大きな相手の頭を、霧島は腕を伸ばして撫でる。


「止めなさい、学校では! 生徒会長としての印象が……」



 背や顔立ちは霧島の方が幼く見える。柿崎の方がしっかりしているし大人っぽい。はずなのに二人の時の立場的には霧島が上に見えるという、捉えどころのない二人だ。



 ただこうして戻って来なければ、こんな一面もあると知る事はできなかっただろう。


 少し嬉しい。でも、本当に自分がB組に来て良かったのか。偶にそんな罪悪感が募る。薫子さんが学校を休んでいる間に、D組からいつの間にかいなくなって。それはまるで、四之宮の人間と知って避けたみたいにも見えるんじゃないか。そんな後ろめたさが……。





「なに暗い顔してるの? 満点の人がそんなふうだと、反感買うわよ」 


 柿崎の言い方は少し偏屈だ。けど、彼女なりの励まし方だと、ここ数週間で分かるようになった。

 実際、他の女子から冷たい目線を送られる事もしばしばある。


「そーそー。もうお昼の時間だし、一緒に食べよう」

 話の切り替えはおかしい気がするが、天津は素直に嬉しく思った。一緒に食べてくれるクラスメートが当たり前にいる事が。


「はい、喜んで」




 薫子がA組入り、天津がB組に入ってからはめっきり顔を会わせなくなってしまった。春休みまでには薫子と会い、もしあるのなら誤解を解きたい。そしてまた、みんなで出掛けたり談笑したりご飯を食べたり。そんな当たり前だった日々に戻りたい。



 小さく淡い願いだが、今の天津にはそれが大事だった。











 緊張感のある武道場で、サシでの勝負は始まった。


 現在、A組は全員で八人しかいない為、四人ずつが試合を行い。残ったクラスメートはそれを観戦している。



 隣では八戒を贅沢に使った千夜相手に、久我が食らいついている。やはり派手な戦いだ。



 実戦慣れはしている薫子でも、A組に入ってから日も浅く、初めての手合わせとなればそれなりに緊張する。D組とA組で戦った時も、結局、出番はなかった。自分がどれほどやれるのか、試すには良い機会だ。



「女の子と手合わせは苦手だけど、手加減はしないよ」


 相手は巨漢で、酷いかもしれないが知略に優れているとは思えなかった。


 ただ、薫子は直ぐに思い出す。彼は確か、天津と一度、戦った術士。武闘派と見せかけて、やらしい戦い方をする。



「手加減したら貴方が痛い目みるわよ」

「ほう、強気な女の子は嫌いじゃないぜ」



 相手は発で加速した、いきなり拳を振るって来る。いきなり殴りかかってくるあたり、本当に苦手なのかと疑ってしまう。


 それは楽々、護で防いだが、前は縛を仕掛けていた。今回はそのような術式は見えないが、油断はできない。


 薫子は細心の注意を払い、彼の動きを観察する。

 とその時、拳の護は形を変えて薫子を包み込んだ。閉鎖空間に閉じ込めたのだ。



「これで君は動けない。かなり詰んでると思うぞ」


 護封結界。小さな物とはいえ、良くできている。発で無理に壊そうすれば反射し、自殺行為になりかねない。となると……。



「この程度の術式で勝ったつもり?」その時、護封結界の前方が開いた。


 薫子は術式をあっさりと書き替えたのだ。それもA組クラスの。

 見下すような目を向けてくる薫子を見て、彼はにたりと笑う。



 呪術レベルは薫子の方が上でも、呪力量が少ない分どうしても思い切った行動をとれない。それに対して相手は豊富な呪力量を持ち、技術が劣る部分を手数で補っている。


 一進一退の二人の攻防は、相手の裏をかいた薫子が勝利をおさめた。




 疲れと緊張から、汗が分泌される。持参していたタオルで首周りの水滴を拭き取ったところに、目を引く男子が近づいて来た。



「まだうちにこんな逸材がいたなんてね。驚いたよ」


 彼は確か――久我正宗。千夜に次ぐ、力の持ち主だから記憶に残っていた。



 自分の呪術の腕を買われてると解釈し、これは嫌味だと薫子は察した。だからか、口から皮肉が漏れてしまう。「貴方の方がレベルは上だと思うけど。下の人間に突っかかるなんて、自分の力を自慢したいのね。寂しい人」



 普通な嫌な顔をするところ。なのに久我は大きく笑った。「いやぁ、違うよ。こんな可愛い子がいるなんて、驚きってことさ」



 絶句……。とはこの事だ。予想の遥か上を行き過ぎて、薫子でも声が出なかった。




「薫子ちゃんだよね? 俺は久我正宗、良かったら今度――」



 そこで久我の言葉は遮られる。というより、噤まざるを得ない状況になった。突如として起きた発により、後方へ吹き飛ばされたからだ。



「この辺は頻繁にナンパ師が現れるので、気を付けた方がいいです」


 忠告をしてきたのは、最年少四術士の十文字千夜。

 思わず、薫子の口からお礼の言葉が漏れる。格上の相手にあんな形で付きまとわれるのは、彼女といえど戸惑う部分があった。



「慣れっこなので。それより一つ質問いいですか」

「ええ、構わないわ」



 初めに貸しを作っておいてからの質問。これでは薫子も断れない。




「なぜA組に来た?」 表情を変えずに、千夜は更に詳細に言葉を紡ぐ。「十文字の四術士という立場上、薫子の正体を知っている。水無良太郎と誓い合った事も。そして京都での派閥の一件の内容も」


 全てを知り得た上で自分に問いている。



 元々、D組に――水無良太郎に固執していた。恩義もあれば、制約もあった。けれど一緒になるには弱く、離れるにも強くは無かった。だから今のようにその気になれば、簡単に離れる事ができた。


 それがなぜ今なのか……。その答えは既に決まっていた。




「強くなりたいからよ。そうしなきゃ姉とは対等になれない」 


「それが本心だとするなら、愚か。としか形容できません」


 千夜の背は遠ざかり、薫子は広い武道場で一人取り残されたような感覚に囚われる。




 あんな言われ方をするのは当然だった。自分の近くに大きな力を求めた結果、他者を不幸にした人間がいる。それを知りながら自身も同じ道を歩もうとしている。



 迷いが生じた時、D組の面子が脳裏を霞める……。


 ならば――。強さがなければなにができるのだろうか? 自分は良くも悪くも特別だ。それ故に友達を巻き込んでしまう。彼等を守るためには強くならなきゃいけないのだ。


 それから繋がりは絶とう……。



 自分は騙し続けた。四之宮の人間である事を。言い出すタイミングはあったはずだ。それでも変化が怖く、信じ切る事ができなかった。彼等との付き合い方も偶に分からなくなる。


 だって――初めての友達だから。






 愚直な行為の数々、そして自分のせいで迷惑をかけた事実。その責任を取るにはそうするしかない。


 だから私はA組に来たのだ。


 先生の掛け声がかかり、また手合わせが始まる。武道場で高度な呪術が、素早く飛び交った。











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