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~キスから始まるダークファンタジー~(仮)  作者: リノ
七章 呪術選抜試験編
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家族





 彼女はマントラから要注意人物として名を馳せるようになった。元から名は知れていたが、近頃では呪術界の中で知らない者はいない程に。


 その為、一般家庭ならまだしも、マントラ家系に侵入する事など不可能に近かった。更に四之宮家となれば尚更だ。なのに彼女はあっさりと侵入に成功した。警備や、使いの人間。腕の立つ術士がいたのにも関わらず。

 いつも通りに帰宅するかのように、ごく自然に現れた彼女の事を誰も気を留めず、あっさりと侵入を許してしまったのだ。





 長野の山奥にあり人目に付かない四之宮邸だが、自然なふるまいでは隣人がいても侵入成功率の変動は無いだろう。それだけ卓越された方法だった。


 あっという間に彼女は、当主である四之宮光茂の部屋に付く。



 丁度、盆栽を部屋に入れ手入れをしている最中で、窓からは微かな冬風が注いでいる。光茂の姿は気品あふれていて、初対面では話かけるのに緊張しそうな佇まいだが、臆す事無く光茂に向け一言。



「お父様、お久しぶり」


 それは家族であっても気圧される程で、事実、薫子は光茂と接する際、緊張状態にある。桜子はあっさりとその空気を破った。


 光茂は彼女の登場に驚きもせず、盆栽を切る。




 娘が帰って来て驚かないのは当然だが、要注意人物として扱われているなら話は別。複雑な表情をしてもいいものだが、顔色は変わらない。


「随分と長い家出だったな」

 光茂は低い声で言い、桜子は微笑を浮かべた。



 ある日を境に、桜子は一カ月以上、家に帰って来ていなかった。だがそれは偶にある事であったし、術士からも報告が来ていた。桜子も成人とあっては、光茂も凝った捜索はしていなかった。





「意外と冷静なのね。もうちょっと動揺してくれると思ったのに……ざーんねん」

「四之宮家の当主をしている以上、覚悟はしていた。ただ実の娘が反逆とはさすがに予想外だ」


 予想の範疇に無い事は、桜子も分っていた。自分の周りは常に術士が付いていて、まくのに毎度苦労した。ただそれは親バカの心配性から来るもので、本当に怪しんでなどいない。



 だから大胆な行動もできたし、光茂の裏もかきやすかった。親である以上、自分の娘がそういった事に加担する可能性は、胸の隅にも置きたくないのだろう。




 桜子は手を合わせる。「反逆だなんて物騒な。これは反抗期よ、可愛い愛娘の。だから大目に見ては――くれないわよね」


 その時、光茂の縛が桜子に襲い掛かる。



「意外と大胆」


 完全に捉えたはずだった。しかし桜子の姿は消え、すぐ隣にまた姿を現した。光茂も知らない、桜子の呪術だった。



 尚も座したまま、光茂は告げる。

「人を化かす呪術だけは一丁前だな」

「そんな人を妖怪みたいに」

 と、今度は窓が開き、一人の青年が姿を現す。



「俺も、桜子さんの怖さは妖怪並みだと思うよ。なんでも見透かしているし」

「誠司君……。そこ、窓なんだけど」


「あ、間違えた」

 頭を掻いて笑う誠司だが、彼は偶に天然を装った策略を用いる事がある。簡単にいえば、窓。という一つ退路を塞いだのだ。



 廊下は今頃、他の術士達に抑えられているだろう。

 さすがは四術士、食わせ物だ。桜子は心中で評価する。




「四術士になって桜子さんと初めて会った時、お姉ちゃんが出来たみたいで嬉しかったんだよ。年は俺の方が上だけど、いじらしくてお姉ちゃんがいたらこんな感じなんだろうなーって」


「なになに、誠司君そんなふうに思ってたの? 嬉しいなぁ」


「うん、本心から。だからこんな事になって本当に残念だよ。今でも信じられない。でも俺は――」

 温和だった誠司の顔つきが変わる。


「四之宮家の為に戦うと決めた」



 それに反発して、桜子も笑みを浮かべる。「好きよ、誠司君のそういうところ」


 ただ、知恵を技術でねじ伏せてしまいそうな、彼の危うさばかりは好きになれない。




 もう完全に捕らえたと思ったのか、余裕を残しながら光茂は問いかける。「危ないと知りながら、なぜ戻って来た」


 唇に指を当て、桜子は考えた素振りを見せる。しかしそれは振りだけで言う事は決まっている。彼女なりの会話術だ。


「家族の顔が見たくて。薫子がいないのは残念だけど、最後の挨拶」


 一瞬、光茂の顔が緩む。


 すかさず、誠司が横やりを入れた。「油断させようとしても無駄だ。俺が本気を出せばダイヤモンドで構成された檻を創るのも容易い。そうなれば呪術でも壊すのは不可能だ」


「わーお♪ さすがは家≪うち≫の四術士、頼りになる。でもね。姿が無ければ閉じ込めるのは不可能なの」


 なにを感じたのか、誠司はすぐさま桜子に近付き、触れようとした。しかし身体はすり抜け、そこに人の肌の温もりは感じ取れなかった。


 最初から、桜子はここに存在しなかったのだ。


 どんな呪術を使ったかは不明だが、人を騙す呪術は彼女の得意としている事。それに気づかなかったのはやはり、玄関から現れた事、顔が見たかったという言葉。


 それらが合わさり、頭のどこかで桜子が本物だと勘違いしてしまっていたのだ。

 直ぐさま、誠司は命令を下し捜索に術士を向かわせるが、こうなった以上、彼女が捕まらないのを光茂はわかっていた。



 開いた窓から曇り空を見て、哀しむ事しか今は出来ない……。














 あれから数日が過ぎた。今日もいつも通りに朝飯を作り、食べ始めるのだが時間が迫り、少し残して家を出る。


 一人で家を出て、見慣れた風景を感慨深く思いながら歩く。十二月も終わりに近づき、冷え込む一方だ。コートにマフラーはかかせない。そうして表向きは就活を勉強する高校。本来は呪術の勉強をする烏枢沙摩高校に辿り着いた。


 途中、知り合いと誰とも遭遇しなかったが、寒さで周りが見えていなかったせいだろう。けっしてぼっちではない。





 寮というだけあって、数分で学校に着くのはいいのだが、教室の扉を開けるのは少しだけ重苦しい。


 ここには……D組にはもう、アイツ等はいないから。





 覚悟を決めてから扉を開け、席に付く。直ぐにチャイムは鳴り、仁先生が雑談の後に出席を取り始めた。


 それに適当に返事をし、机に体を預ける。よく眠れているはずなのに、身体が怠い。これはきっと、不治の病だ。




「冬休み明けには呪術選抜試験があるからね、今日はいきなり実践練習だ。道着に着替えて武道場まで来て」


 こういう時に限って身体を動かす。不運な人生だ。

 そんなふうに憂いてもどうにもならないので、とりあえず服を着替える事にした。





 呪術の危険性はマントラ会議とやらで論じ合いをしたらしいが、結論的にいえば安全となったらしい。


 あくまで今、現在の話だ。人間が今まで通りに贅沢な暮らしをし続ければ、地球温暖化で壊れるし、呪術もずっと続けて行けば壊れるかもしれない。あくまでかもを通説にする事は出来ず、今は問題無し。それが有力のようだ。



 学校の方針も存続。今まで通りに学校生活を送り、修行をする。それには仁先生も賛同らしい。このまま呪術を禁止と呼びかけても、滅びる事に確たる証拠が無い以上、隠密に使用する者はいる。



 だから今の俺達が未来に助かる方法を探せるよう、今の内に磨く。というのが今のところの決定だ。



 正直、あの後に使うのは抵抗もあったが、一度、使ってしまえば今まで通りに戻った。慣れとは怖い。


 だからせめて、もっとましな方法で世界を救いたい。滅亡なんて全部、お伽噺でした。となるのが俺の理想だが。







 ぱっぱっと着替えてから移動すると、仁先生は早速、前回のおさらいから新たな戦闘技術を伝授してくれる。


 それの練習をする為に二人組になり実践。俺はまだ出番じゃなかったので、近くにいた奴と話しながら暇を潰した。数分経った頃に俺の番は来た。



 相手は発で牽制してきたが、護で止めてから強力な発をして勝利。新しい技を実践でいかすのをすっかり忘れていたのは、勝利の余韻に浸り終わった後だった。



 負けた奴は俺に近付いてくる。あまり話した事のない奴だったから、名前までは覚えてない。


「やっぱ強いね、水無君。あの三人みたいに上に行けば良かったのに」


 俺は確かに、呪力量が異常に多いせいで強いと評される事もある。ただそれは才能に頼っているだけであって、上がろうと思っても無理なのだ。


「俺は技術も拙いし、筆記もまだまだ。だから無理なんだよ」

「そーなの? 俺から見たら凄いと思うけどなぁ」


 段々とそいつの話が耳に入って来なくなる……。



 薫子と毒を吐き合って無理に恋人のふりをして、朝陽と馬鹿な話をして夕陽に手を焼いて、天津の器用さに助けられて、癒されて……。


 アイツ等はもう、D組にいない。鎖とは重要なものらしく、めっきり会う回数も減った。

 そんな日々が名残惜しいのか、俺は今の生活に物足りなさを感じる。 









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