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卓球




 それからは予定通り、合同での授業が行われた。残念ながらD組の俺達は、エジとは別々。彼の呪術が気になっていただけに、残念だ。




 今回は、普通科との合同の授業。しかし、あちらは完全にこちらを舐めている様子だった。京都にまで、D組の噂は知れているのだろう。


 女子生徒がこちらを見ながら、ひそひそ話をしている。しかし、あまりに大きな声で聞きたくなくとも耳に入ってしまう。



「うち烏枢沙摩のアイドル、久我さんに会える思っとったのに」


 どうやら、久我さんが来ると期待していたらしい。しかし、残念ながら忙しくてあの人は休みだ。十文字千夜は学園長のお願いで、無理に来てもらったらしい。


 こんなところまで名が轟いている久我さんは、やはり口だけではないようだ。





 普通科、約十五人。D組四人。明らかに人数に偏りがあるが、関係無く合同授業は始まる。受け持つのは小碇先生で、東京とほぼ同じの教室内で。


 こちらとは変わった理論や、戦略。考え方などを知り、二時間の長い授業だったが為になった。なにより、小碇先生は授業が上手い。人に教えるのが上手な人だ。そのせいか、京都の生徒からも人気が高いのが窺える。





 数分の休憩を挟んだ後、次は武道場に移動した。先ほどとは違う場所の。


 小碇先生が手を叩き、音を鳴らす。


「次は実戦練習。未知数の相手との実戦は、大事な経験や。この機を逃すんやないで」

 言っている事はごもっとも。ただ――向こうの生徒はあまり乗り気じゃないらしい。



 京都の生徒の一人が手をあげる。


「あの、先生。D組ってゆうたら、東京の落ちこぼれですよね? 正直、時間の無駄だと思います」


 普通科っていったら、京都の特徴のない生徒の集まりですよね? 正直、時間の無駄だと思います。

 そう言い返してやりたい。


 あまり腹を立てない朝陽も、これには少し苛ついているようで、小さな声で愚痴って来た。

「なんだよアイツ、態度悪いな」


 確かに、態度が悪い。それに顔も少しムカつく。怒って良い要素は満載なのだが、初めての合同合宿という事で、いざこざはさけてほしいと言われていた。だからここは目を瞑る。穏便に済ませるのは大事な事だ。



 なのに、それなのに、できないやつが一人いるのを忘れていた。


 D組の中から一人、前に出る。

「お言葉を返すようだけれど……。なんの取りえもない、普通科のみなさんの相手くらいは務まると思うわ。……あ、でも特別科にも入れない人達は自己主張が苦手で、みんなの前で闘うのは恥ずかしい。というのなら、止めにしましょう。抱き着く母親くらいいないと、可哀想だしね」 



 俺の思っている三倍くらいの憎まれ口を叩いてきやがった。――もう知らないぞ。



「D組のくせに言うてくれるやないか」

 相手も完全に挑戦状を受け取った様で、青筋を立てて反論してきている。


 突然の罵り合いに、小碇先生は少し困った表情をしている。


「なんやまあ、やる気になったんやったらええわ。早速、ヒートアップしてるお二人さんから頼むで」



 そんな流れで、熱い熱い京都交流が始まったのだ。


 D組と普通科は少し離れた場所に移動する。やはりチームで分けるとなると、立ち位置も変えた方が身が入る。理由はそれだけだ。


 俺と朝陽は腹が立っていた為、すっきりしているのだが、天津だけは戸惑っている。


「薫子ちゃん、言い過ぎだよ。初対面の人なのに」


「言いたい事を言っただけよ。そこに初めても二度目も関係ないわ」

「そうかもしれないけど……」


 天津の言い分も分かる。しかし、今回は薫子の肩を持つことにしよう。


 そこで朝陽が腕まくりする。

「ようはぎゃふんと言わせて、認めさせてやりゃいいんだって」


 それに関しては朝陽に同意だ。


 準備運動も兼ねて、クロスして腕を伸ばす。


「おしゃれぶってる京都に、東京の実力、みせてやろうぜ」


 実戦練習は始まった。正直、京都のレベルはエジのせいで相当、高いものだという認識があった。だから少し身構えていたが……。


 憎まれ口を叩いていた京都の男は、あっという間に薫子に熨された。


 相手が弱かったのか、薫子が強すぎたのか。まあどちらにせよ、これでD組の実力をみせる事はできた。




 しかし、薫子はそれでも収まらない様で、気絶しているであろう相手に向けて、罵倒していた。


 引きずられるような形で普通科が退場した後は、向こうが完全にびびってしまって、試合にすらならなかった。次に出たのは天津で、勝利をおさめる。そして朝陽は負けた。




 最後に俺が試合に出て、無難に勝利。そこで、チャイムが響いた。


「もうこんな時間か。ほな、今日の合同授業は終わりや。お疲れさん。んで最後に、お前等はちょいと来なさい」


 お前等とは普通科の事だった。


 おそらく、いきなり相手を煽った事を叱るのだろう。これこそ完全勝利。なんとも清々しい。





 武道場から出ると、先生が一人待ってくれていた。生徒が集まってから、京都の宿舎に行くらしい。とはいえ、ただの寮。なんでも入居者が少なく、全員分の部屋があるらしい。



 遅れていたA組の生徒が来てから、歩いて移動する。みな、疲れているのか足取りは重いが、それでも十分たらずでついてしまった。かなりの好物件だ。


 外観もホテルの様で、立派とはいえないが、申し分無いほどだ。


 大きな玄関に、少し廊下を歩くと大食堂。かなりの人数が住めそうだ。



 予め、部屋割と番号は伝えられていた為、階段で真っ先に向かう。荷物の重さなど顧みずに。


 俺と朝陽は自分達の部屋に入る。すると、合宿何度目かの驚愕をした。和室のその部屋は、大きな居間。ぷらすでベランダ。そこからの眺めは京都の昔ながらの街並みを堪能できる。二人部屋にしては申し分ない。



 更にもう一つ、しおりには温泉があると書いてあった。飯を食った後は、お待ちかねの入浴タイムだ。


 手を大きく上げ、俺と朝陽は大きな音を立て、手を合わせた。



 夕飯を食べ終えた後、温泉に浸かった。大きな風呂に入ると、朝陽の実家を思い出した。そのせいか二人ではしゃいでしまい、先生に怒られる羽目になったが。まあ修学旅行らしい。




 温泉から出ると浴衣に着替えた。京都の寮にはこんなものまで置いてあるらしい。


「見ろよ、卓球台がある」


 朝陽の言葉通り、卓球台があった。温泉の次に卓球。これもまた定番か。誰もいないの確認して、台の一つの前に付いた。


「お、やる気」


 呪術の勝負なら朝陽に負ける気はしないが、運動で勝った事はほぼない。だからその腹いせと、自己満足も兼ねている。



 しかし――結果は惨敗に終わった。


「よっしゃー、良い汗掻いたし戻ろうぜ」

「待てよ。勝ち逃げは許さないぞ」

「子供っぽいぞ、良太郎」


 子供っぽいだと。一番。舐めていた朝陽にこんな事を言われるなんて……。屈辱だ。


 仕方なく部屋に戻ろうと思った時、風呂からあがった生徒をみかけた。しかも知り合い。これは良い機会だ。


 二人に近付き、無理やり卓球台の前に連れて来る。


「友達なら、ダブルスの試合受けてくれるよな?」


「十文字先輩に、エジ君……。なんて強力な助っ人」


 なぜこの二人が一緒にいたかはわからないが。おそらくはA組と特別科は一緒に授業をしたので、その名残だろう。



 ラケットを手に取り、エジは眺めている。もしかして、卓球を知らないんじゃないかと危惧したが、そんな事は無かった。


「卓球は偶にやるから、得意だ」


 なんでもエジはこの寮に住んでるらしく、暇な時にやるのだそうだ。


 一方の千夜も……。


「先輩を巻き込んだ罪は重い」

 やる気満々みたいだ。



 試合の流れになったのはいいのだが、正面には千夜とエジがいる。当初の予定と違う。


「おい、俺は朝陽を倒すつもりだったんだ。なのに、隣には呆けた顔の朝陽。メンバーチェンジを要求する」


「下位の者が組めると思わないでほしいです」

「その通りだ」

 エジまで悪態をついている。あの二人を一緒にいさせるのは悪い影響しかない。




 それからは酷いありさまで、エジの高速サーブ、千代のカットサーブに翻弄され終わった。悲惨な結果である。



「話にならないです」


 なにも言い返せない……。


 朝陽との連戦という事もあって、息が荒い。卓球は意外に体力を使うようだ。


 もう一度、温泉に浸かりたい。そんな考えに思いを馳せていると、千夜とエジの会話が耳に入って来た。


「明日は手合わせ、願いたいです」 


 A組と特別科は実戦練習を主にやっているのだろう。その相手をしてほしい。そういう申し出だ。千夜から誘うなんて、やっぱり相当の腕のようだ。


「……千夜は強いが、ダメだ」  

「どうしてです。他の生徒では相手にならないはず」


 本当にどうしてだ。四術士に相手してもらえるなんて、滅多に無い機会だぞ。


 不意に朝陽が話しかけて来た。

「なんか、妙な雰囲気だな」


 俺は頷いてから、また耳を傾けたが。その後にこれといった情報は得られなかった。

 なんだか、この合宿には違和感を感じる。色々な策謀が重なって、それが複雑に絡み合っているような――。







 温泉から上がると、薫子は直で部屋に戻って来た。修学旅行の経験が無い薫子には、温泉の後に卓球をしたり、友達と遊んだりするという思考は無い。


 同居人の天津はまだ温泉にはいってないようで、浴衣姿の薫子に対して、私服のままだ。


 奇妙なのはテーブルをじっと見つめているという事


「温泉、いかないの」

 薫子が声をかけると、天津はあっさりと振り返った。


「もう少ししたら行くね。これに、夢中になっちゃって……」


 これを差している物が気になり、テーブルの上に目を通す。そこにあったのは時計のように針のある円盤だ。十二星座をモチーフにした、金具が取り付けてある。


 記憶を辿ると、これは学園長の机にもあった物だ。


「もしかして星読みの道具?」

 半信半疑で訊いてみると、天津は頷いた。


「文化祭の優勝賞品で貰ったの。紫微斗数の命盤≪しびとすうのめいばん≫っていうんだけど。水無君が意味わからないからあげるって」



 水無良太郎にはこんな高尚なものは似合わないだろうと、薫子は納得する。


 他にも解説本などが付属してあったらしいが、百瀬聡士しかできない星読みを個人の力でできるようになるものか。不思議だった。



「この本ね、学園長の直筆なの。かなり古いけど、分かりやすいんだ。先生に相談したら、先ずは一人で努力してみろって言われて。だから釣り合わないけど、暇な時にコツコツと……」


 その放任主義。日役仁だと薫子は当てを付ける。



 薫子は、天津の隣に敷いてあった座布団へと腰を下ろす。

「私にはいまいち、星読みというのが理解できないんだけど」


 率直な疑問だった。この道具で未来視など可能なのか。


 考える素振りを見せるかと思いきや、天津は命盤に目を向ける。


「占いに似てるのかな。統計学とかそっち方面の。――星の声を聞くんだ。そうして指示した先を、未来っていうんじゃないかな」


 彼女の言葉に、妙に感心し、薫子は黙ってしまった。

「あ、違うよ。これは受け売りだから。本に書いてあったんだ」


「そんなに取り乱さなくても……。大丈夫、不釣り合いなんて思わなくて。少なくともあんな男よりは持っていても意味あるわ」




 あんな男を直ぐに線で結び、天津は吹き出した。


「二人って本当に仲良いよね」

 仲が良いといわれるのには抵抗があった。


 あくまで複雑な家庭の事情での付き合いだと、薫子は考えていたからだ。しかし同時に、それだと今までの付き合い方に違和感を感じた。


 家庭の事情。それ以外の気持ちが入る隙がないのなら、もっと割り切った付き合い方ができたのではないかと。


「水無君とはなにしたの。手を繋いだりとかは勿論、してるよね」



 その言葉を聞いた途端、薫子の顔が段々と赤くなる。それに気づかず、天津は続けていく。


「あ、でも婚約者だもんね。わたしの恋愛観じゃ質問にもならないか……ってあれ。なんか顔赤いよ。のぼせた?」


「いえ、そういうわけじゃないけど」

 少しでも隠そうと、薫子は窓の方に目を向ける。


「もしかすると、手繋いだ事……」


 核心を突かれ、薫子の口から変な声が漏れる。

 とはいえ、キスならした事があるのだが。


「別にそれが不必要なだけで、意味の無い行為をしてないだけよ」


 天津は小首をかしげる。

「そうかな? 好きな人に触れてると安心するよ。必要とか意味とか、損得でする事じゃないと思うな、恋って」



 恋……。


 薫子の頭の中で、その言葉が何度も跳ねた。そして段々と、好奇心へと変わっていく。恋を知りたいという欲求に。


 しかし、問題がある。婚約者という建前だ。その肩書きには良いところも悪いとこもあったが、今は凄く邪魔だった。



「実は――」

 その言葉の続きを数秒考え、薫子はこう続けた。


「分からないの。……恋愛が。わけあって、水無君とは婚約する事になったけど、未だに理解できない。どういうものが恋って感覚なのか」



 その時だった。開くはずの無い扉が開いたのは。


 薫子に天津と、住居人は揃っているし、なにより点呼の時間でもない。


「話は聞かせてもろたで」


 関西弁に、長い金色の髪。大威徳高校の生徒会長――涼風京花。




「あ、生徒会長さん。始めまして。というかどうしてここに」


「細かい事は気にしたらあかんで」

 勝手に入って来て、堂々としている京花に感銘と苛つきを同時に覚える。



「細かい事じゃないわ。他人にあれこれ言われる問題じゃないもの」


 薫子の反論にも一切、姿勢を崩さず、京花は続けた。

「新天地に来たら、その場の習いに従う。大阪人は目が合えば友達や。友達の前で細かい事は気にせん。そして悩みがあったら助ける」


「ここ、京都なんだけど」


「薫子ちゃん、あんまり言ってあげないでよ」


 細かい事を気にしない京花にとって、同じ関西である時点で変わりはないらしい。


「ようは薫子ちゃんは、良太郎君に恋をしてるんやな。そんで手を繋ぎたく、あわよくば告白。あー、なんて青春なんや。うちがばっちし、協力したるから安心してや!」



 なんだか大きな勘違いをしている気がした。しかし、この暴走列車を止められる気はしないと、薫子も天津も諦めて肩を落とした。



 明日は観光がある。一波乱ありそうだ……。











 








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