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大阪





 気づけば、目的地である新大阪へ辿り着いていた。新幹線で走る事、二時間。長く険しい旅だった。

 まだ少し気持ちが悪い。




 駅を見渡すと、やはり人が多い。それになにより関西弁が聞こえる。加えて声がデカい。

 とてつもなく、大阪に来たのだという実感をくれる。



 意外にも駅は殺風景だが、お好み焼きのお土産にたこ焼き。期待を裏切らないラインナップだ。


 ヒョウ柄のおばさんまでいる。テレビで見た通りの光景がここにはある。なぜかちょっと嬉しい。




 朝陽は俺と喜びを共有するでもなく。近代兵器と呼ばれる携帯を見て、ひたすらニヤニヤしている。

「なんだよ、気色悪い」


「いやぁ~、ええもん撮れたわ」


 早速、大阪に毒されている。


 したって、撮れたとはなんの事だろう。

「おい、見せてみろ」


 俺は半ば無理やりに覗き込み、携帯の画面を見た。なんとそこには――。


 薫子の肩で寝ている俺が映っていた。

「お前……。その携帯、直ぐに破棄しろ」


 薫子も携帯を持っていない。その為、撮られている事に気づかなかったんだろう。


「破棄ってなんだよ。落ち着けって……」


 小喧嘩となり、俺と朝陽は仁先生に叱られた。

 絶対に俺は悪くない……。





 新大阪駅からはバスで移動し、宿舎まで行く。駅で適当に昼飯を済ませ、バスに乗り込んだ。こちらも貸し切りだったが、三十分程で辿り着いた。




 生徒達を宿舎の前に並ばせ、今回の合同合宿で一番、年配の先生が前に立つ。


「先ずは宿舎に荷物を移動させる。時間の都合で、京都に行くのは二日目からだ」


 なんでも、京都の学校とかみ合わない部分があったらしい。まあ大阪で遊べるのであれば好都合だ。


「そしてまたも時間の都合で、観光はできない」


 生徒達が明らかに凍り付く。

 それはそうだ。だって、観光が目的みたいなところもある。田舎者にとって、大阪、東京、名古屋は未知の領域なのだから。



「今から二十分後にまたここに集合だ。以上、解散」


 気を落としながら、俺は荷物を運び入れる。


 そういえば、ここからの予定をあまり把握していない。しおりには夕飯づくりと書いてあったが、こんなに早く作ったら腹に入らないだろう。一体、なにをさせるつもりなのか。

 生憎、見当も付かない。





 荷物を適当に部屋に入れると、ジャージに着替える。動きやすい恰好と指示があった為だ。


 外に出て全員が集まると、特に説明もされず、歩き出す。宿舎の敷地は広く、色々なスペースがあるらしい。だがどこに行くかは分からないし、なにがあるかもしらない。


 辿り着いた場所には、木のテーブルや、薪で温める古いタイプの調理器具などがある。


 こういうのはなんといったか……。


 自然教室? なにか違う気がするが、まあいいか。拘るような事でもない。




 仁先生が手を叩くと、みなが注目する。

「みんなにはカレーライスを作って貰う。勿論、呪術を駆使してね」


 どこの学校でもやるような事を、呪術を使って行うのか。細かい動きは苦手だが、料理は得意だ。これなら自信がある。


 班はD組の四人、A組は人数が少ないため、全員で一班。B組は三班に分かれた構成となっている。


 A組は千夜がいるし、警戒するべきだ。B組は気にする必要はないだろう。


 テーブルの前にD組の四人が集まる。


「料理といったら良太郎。任せたぜ」

「よし、任された。いいか、美味い料理は良い食材からだ」


 予め、学校側が食材は用意してくれて――いない。

 普通だったら食材が置いてあるだろうに、一向に見つからない。



「食材も現地調達なんだね」

 天津が呟く。


 どんだけ自然教室なんだよ。まあ、一から作るとはまさにこの事だ。



 調達できるという事は、言わばどんなカレーかは指定が無いという事。近くに川もあったし、魚介系もありだが……。


 変化球は投げない。俺は王道のカレーで勝負をする。


「食材は人参、玉ねぎ、ジャガイモ、牛肉。最小限で勝負する」


 提案に薫子が目くじらを立てて来る。

「やけにシンプルね。それで他と差を付けられるかしら?」


「シンプルイズベストだ」


 三人は食材を調達に行き、残った俺は準備をする。調理器具を揃えたり、洗浄したりだ。


 カレーのルーだけは用意してくれて助かった。中辛と誰でも食べやすい。






 大体の準備が終わった頃、玉ねぎを持った朝陽が現れる。ベストタイミングだ。


「お待たせ」

 持っていた玉ねぎを見て、確認する。


 これは――。「全然だめだ! 形が悪い、重みも無い。言っただろ。良い料理は良い食材からだと! ……やり直し」


 朝陽はしゅんとしてしまう。少し言い過ぎただろうか。



 次に現れたのは人参を持ってきた天津。

「持ってきたよ、人参」


 その人参を確認する。

「色が薄い。そして硬い。言っただろ。良い料理は良い食材からだと! ……やり直しだ」


 天津もしゅんとしてしまう。言い過ぎたかもしれない。



 ただ、言った事は事実であって、食材選びを間違えてはいかんのだ。こればかりは譲れない。




 最後に現れたのは薫子。手にはジャガイモだ。

「さっさとカレー作りましょ」


「その前に確認だ」


 ジャガイモを取る。そして一瞬で分かった。


 これは論外だ。

「おい、ジャガイモが緑がかってる! これは料理以前の問題だ! いいか、良い料理は良い食材か――」


 俺の言葉は途中で遮られる。薫子が俺の髪の毛を掴んだせいだ。


「先ずは料理長を取り替えた方がいいんじゃないかしら。もっと良い材料に」


 笑っているが、目が怖い。


 負けじと、薫子の胸ぐらを掴む。

「安心しろ、水無科はどれも優れているんだ」



 それからも俺と薫子の言い合いは続く。収集が付かなくなった頃、横から聞き覚えのある女の人の声がした。


「相変わらず、騒がしいわね」

 横目に確認すると、そこには柿崎さんがいた。気づかないうちに、結構、大きな声を出してしまったいたようだ。




 柿崎さんの後ろから、ひょっこりと霧島さんが姿を見せる。

「やあ、久しぶり」


 天津がぺこりと頭を下げる。俺もそれに習った。


 文化祭以降は、良い関係性を築けている。とはいえ、柿崎さん相手は少し気張ってしまう。




「他の生徒の事も考えて、少し静かにしなさい」


 生徒会長、直々のおしかりだ。俺はすいませんと口にして、頭を下げる。一方の薫子はむすっとしている。自分は悪くないと言いたげだ。



「じゃあ、美味しいカレーを作ってくれたまえよ」

 それだけ残して霧島さんは去った。柿崎さんはその後、天津と少し雑談を交わしていた。文化祭の後、二人のいざこざを解消したらしい。


 昨日の敵は今日の友というやつだ。




 それから、無事に食材も集まり調理が始まった。天津と俺は野菜のカット。人参は大きめに丸みを残し、食感を大事に。玉ねぎも薄すぎず。ジャガイモは火が通りやすいように大きすぎず。



 薫子と朝陽は火のかかりなのだが、一向に戻ってくる気配が無い。



「ちょっと二人の様子を見て来る」

 天津に調理を任せて、二人のところに向かう。ガスなどは通っていない為、自分達で火を起こすらしいが、まさか木の枝の摩擦で起こすとか、そんな原始的な方法じゃ……。



 そのまさかだった。薫子と朝陽。そしてB組のメンバーは木を手の平で回している。仁先生は呪術を駆使するといっていたのに、野生の本能を駆使している。



 そこにA組のメンバーが現れると、一瞬で火を起こした。神級の八戒だ。それができるのは――。


 千夜は座って火を起こしている生徒達を見下す。

「人を見下ろす快感。凄まじいです」



 あまりここに居たくない。苦行だろうが、二人に任せよう。




 俺はばれないように踵を返し、もう一度、包丁を握った。


 野菜を切り終えた頃、火を付けた事に浮かれている朝陽と薫子の姿が見えた。


「俺、初めて自力で火をつけた」

「自然のありがたみね」



 会話もそこそこに、二人は駆け足でこちらに近付いてくる。


 歓迎の前に、俺は大きな声を出してしまう。

「あんまり急ぐな」



 その言葉に気づく前に、木の枝から出ていた火は風の影響で消え去ってしまう。




 四人は同じタイミングで、あっと声を漏らす。二人の落胆は今まで一番かもしれない。


 結局、あの後にお情けで千夜に火を付けてもらった。その代償として、俺は辱めを受けた。


 しかし美味しいカレーを作る為ならば、已むを得ない。



 カレーを煮込み、具材を投入する。本当だったら一日は煮込みたい。隠し味も入れたい。ただ、ここにはそんな調味料も時間も無い。しかし最前は尽くした。後は天命を待つというやつだ。



 夕暮れ時、カレーができあがった。スパイスの香りが広がり、グツグツと煮込んでる時の音が心地良い。



 他のクラスは既にできあがっているようで、俺達が最後だ。学校という事もあって、みんなで一斉に食べる。だから待たせる時間が辛かった。



 カレーを盛り入れ、テーブルに付く。



 先生の一人が前に立ち、合図をする。すると、生徒達は一斉にいただきますと口にした。俺も小さな声で。



 真っ先に口の中に頬張ったのは朝陽だった。

「うめぇー。家で食べるのより断然、美味い」


 家庭料理を下にしてから褒めているので、素直に喜べない。


 考えすぎの俺とは真反対に、天津は頷いた。

「やっぱり、自分達で作った料理は格別だね」

「天津さん、分かってる」


 素直に美味しいと口にできる人は、やっぱり凄い。俺はこっぱずかしくて言えない。多分、目の前に座ってる愛想の無い女も同じだろう。


「お味はどうですか、お嬢様」

 わざと低姿勢で薫子に訊いてみた。


「なにを言わせたいのかしら」


 その言い方はなんだ。まるで俺が薫子の言葉を待ちわびているようではないか。あくまで実験であってだな。


 なんも。

 小さくそう言ってはみたが、三人ともスプーンは良く進んでいた。それがどことなく嬉しい。


「水無君も、早く食べないと冷めるよ」

 声をかけてきたのは、仁先生だった。手にはカレー。



「それ、うちのですよね」


 あのまろやかな感じ。匂い。色見。どれをとってもD組で作ったカレーだ。


「君達のが一番、美味しそうだったから貰ったよ。隣いいかな」


 天津と少し距離を空けて、隣どうしで座っている今の状態。長椅子には四人分くらいのスペースがあるから余裕なのだが。ここで俺はいらぬお節介を思いついた。


 一度、立ち上がる。

「先生なんですから、端っこじゃなくて真ん中で食べて下さいよ」


「真ん中は苦手だな。誕生日でも上手じゃなくて、端っこに座るタイプなんだけど」 


 仁先生らしい。とはいえ、ほぼ無理やりの形だったが、真ん中に座ってくれた。


 さりげなく天津の顔を確認すると、沸騰するかのように紅い。やはり、仁先生に好意をもっている説は、通説となりそうだ。




 固まっていた天津は、最初の位置と距離を変えなかった為、三人にしては椅子が狭い。おかげで二人の距離はミリ単位だろう。


 天使のキューピットの才能が芽生えた瞬間であった。



「なにニヤニヤしているの、気色悪い」

 まさかの言葉を薫子から浴びる。そんなに変な顔をしていただろうか。平常心、平常心。


「僕みたいなおじさんとこんなに近いの嫌でしょ。距離、空けていいんだよ」


 ついに、仁先生がそこに触れてしまった。天津、上手くやれよ。


「ぜ、全然! 嫌じゃないですよ。わたしっておじさん好きなんですよ、髪ぼさぼさでちょっと汚い人とか。世話をしたくなるというか。だからその……。このままがいいです」


「変わってるね。天津君が構わないなら、無理にとは言わないよ」


 グッジョブだ。なんだか誤解を招くような言い回しだったが、結果良ければ全て良し。



 カレーも直ぐになくなってしまい、一日目の行事は終わった。宿舎に帰り、自由時間が設けられた後、十時には就寝となった。



 今日は息抜きが多かったが、明日からは本格的な呪術の修行だ。気を引き締めねば。











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