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京都




 ある日、仁先生が教室に入って来て、こう告げた。


「今年から京都の呪術学校と合同合宿をする事になったんだ、その対象はA組とB組。だけど、このクラスから四人だけ参加が認められた生徒がいる」


 D組は誰もが心を躍らせた事であろう。A組とB組と肩を並べられるのだ。ただ、俺には罪悪感しか募らない。


 仁先生が指名した四人は、薫子、天津、朝陽。そして――俺だ。


 この選択に驚いたりはしない。全て、知っていたからだ。


 周りも納得といった雰囲気で助かったが、特別扱いされるのは少し居心地が悪い。


 思い返せば、数週間前の出来事――。







 俺、薫子、朝陽、天津は仁先生に呼び出されていた。後に続き、廊下を歩く。四人まとめてというのは珍しい。


「どこに行くんですか」

 天津が問う。



「学園長室とか? どうせ、良太郎がなんかしたんだろ」 

 朝陽の決め手けて来る態度、少しイラッと来る。


「俺程、真面目で向上心のある人間はいないぞ」


「そうゆうのいいから、自白しなさい」

 薫子から横やりを入れられる。


 どいつもこいつも、俺を不良だと思いやがって。



 仁先生が小さく笑う。

「朝陽君の憶測はあってるよ」


 朝陽は得意気な顔する。そしてなぜか薫子は目を細める。


「やっぱりなにかしたのね」

「だからしてない」

 食い気味に返答すると、先頭を歩いていた仁先生が足を止めた。学園長室と、記されたプレートがある。 


 本当にそのようだ。



 扉は他の教室よりも豪勢なもので、気品にあふれている。茶色の落ち着いた色合いに、取っ手だけは金だ。金に物を言わしているのかもしれない。


 その金の取っ手に手をかけ、仁先生は扉を開けた。緊張の一瞬だ。





 目に入る学園長室は意外にシンプルだった。高そうな木製の机。その後ろには本棚。机には時計のように針のある円盤が置いてある。柄は良く見えないが、どことなく文化祭で貰った賞品に似ている気がする。


 だが、正面に腰かけている学園長は、どう考えても普通じゃない。なんというか、放っているオーラが違う。


「緊張しなくていいよ。ああ見えて、優しいからね」

 仁先生の言葉に、学園長は眉をしかめた。


「こうして向かいあって喋るのは初めてだが、君達の事はよく知っている。……紹介が遅れた。学園長で百瀬家現当主、百瀬聡士≪ももせそうし≫だ」


 厳格のある声に、恐縮してしまう。



 そんな中、薫子は臆さず質問をする。

「私達四人を、なぜ呼び出したんでしょうか」

 その問いに答えたのは、学園長ではなく仁先生。



「みんな、京都の呪術学校との合同合宿は知ってるね」

 その話は前に聞いた。ただ対象はA組とB組で俺達には関係ない。だからみな、気に留めていなかったし、俺も気にしていなかった。



 朝陽が首を傾げる。

「それは知ってますけど、なにか関係が……」


 不意に、学園長の声が耳に入る。

「合同合宿に、君達も参加してもらいたい」


 え……。


 更に学園長は話を続ける。「D組としてはずば抜けた成績を残している。それを考慮してだ」


 合同合宿の参加だけではない。四人での参加。これには確実になにか裏がある。成績を残しているいうが、朝陽は残していない。潜在能力でいえば一番だが……。


 マントラ家系である百瀬家のトップなら、夕陽の存在を知っていても不思議ではないが。


 だからといって、完全に納得はできない。気づけば、口が動いていた。


「どうして俺達なんですか。それに態々、呼び出して」


「そこに関しては、前情報があった方が話しやすいな。百瀬家の星読みを知っているか」 


 初耳だ。

 だが天津だけは、はいと返事をする。


「百瀬家に伝わる、未来予知の術式ですよね」



 未来予知って。これまた突拍子もない。


 黙って学園長は頷く。

「術とは少し違うがな。正確には、万物照応の原理。星を読むことで、人を知る」



 半分以上、なにを言っているか分からない。今更、こんな事を言っても信用してもらえないかもしれないが、占いを俺は信じない。


「そんな簡単に未来読めたら、百瀬家って最強っすね」

 小学生のような感想を朝陽が漏らす。


「完全な未来を知れるわけではない」


 あっさりと否定されてしまう。ついで、仁先生が発言する。


「それと、百瀬家でも星読みをできるのは学園長だけ。代々、星読みができる人が当主になるんだけど、次期候補に困っているんだ」



「仁、家庭の事情を口にするな」

 嘆く仁先生を、学園長が一括。


 家庭の事情と言いのけるあたり、さすがだ。



 本題に戻すとばかりに、学園長が咳ばらいをする。


「星読みによって、二週間後、京都で大きな事件が起きる事が分った。今、東京は派閥の一件でなにかと人手が必要だ」



 つまり人員不足でやむなく、俺達だと。



 だが先生が生徒を危険な場所に送り込むなんて、やはり違和感だ。大人を贔屓目で見ている俺だが、ここは公平にジャッジした。


 星読みでどこまで見えているかも分からないし。


「危険が伴うかもしれない。ただ、君達の事を評価して、お願いしたい」


 そう言われると弱い。 

 朝陽と天津は弱気な顔をしている。薫子に関してはこちらをじっと見ている。


 俺が決める流れなのか、これは。


 後押しの様に、仁先生は言った。

「安心したまえ、僕が生徒を守る」


 頼りになるような、ならないような……。 








 こうして俺は判断を下し、今に至る。もはやあれは誘導尋問だ。選択の余地なんてなかった。


 最後に、薫子を呼び止めて学園長が話をしていたが、これは今回の事とは関係なさそうなので省いた。


 D組の生徒達は頑張ってとか声をかけてくれたが、あまり良い気はしない。


 学園長は危険が伴うと口にした。星読みで見て、態々、俺達にお願いしてきたという事は――。







 ホームルームが終わると、朝陽が近づいて来た。


「まっ、決まったからにはベストを尽くそうぜ。良太郎」

 この前向きなところは、素直に関心する。


 朝陽の肩に手を置き、俺は一言。

「お互い、怪我しないようにな」















 一週間後という事もあり、その日はあっという間に来た。仁先生との修行によって、必殺技と呼ぶべきものは未完成ながらも、形にはなったので時期的には良かった。


 その面から見ればだが。




 今は十一月も終わりに近付いた頃。つまりはほぼ冬。寒い。今日も気温が低めで十度を下回っている。

 マフラーにコートとフル装備で身体を震わせている。守り切れていない。



 一度、学校に集合してから、みなで新幹線に乗り込む。その流れの為、隣には一緒に通学する薫子がいる。



 最近では帰るのも別々で、行くときも朝陽がいたりして、こうして二人で歩くのは珍しくなりつつある。


「生まれたての小鹿みたいね。男らしくない」

 マフラーにコートと同じ条件なのに、薫子は身体を震わせるどころか、口を動かして罵倒してきた。


「寒がりと男らしさはイコールじゃないだろ」


 足下に目をやる。

 生足なのに平然としている。


「お前こそ、少しも震えないなんて女らしくない」


「水無君は寒そうにして、上目遣いしてくるあざとい子が好きだもんね。ごめんなさい、期待には沿えないわ。軟弱ではないから」


 よくもまあつらつらと言葉が出て来る。


 それに――。「そこまでは言っていない」



 俺と薫子の言い合いは、学校に辿り着いた事で終幕となった。助けられたかもしれない。



 学校ではなぜか寒い外で点呼をし、全員、集まっているのが分かると、みなで移動を始めた。バスに、電車と重ねて、ようやく新幹線が通る駅に辿り着いた。



 平日の朝という事もあり、駅は中々の込み具合だった。ただ新幹線に乗る人は少ない。更には予約席の為、いたってスムーズに乗る事ができた。四人席で二人が向き合う形の席に、D組の四人組は腰かけている。



 俺の隣は朝陽。正面には天津。斜めには薫子だ。


 外の景色を見ながら天津が感嘆する。

「綺麗だね、景色。ほら、海!」


 指を差して高揚しているが、それは川だ。気を落としてしまっては悪いので黙っている事にした。


 薫子はいたって真面目で常識人なので、一緒に景色を見ている以上、天津があまり変な事を言っても軌道修正してくれる事だろう。


「新幹線がこんなに早いなんて驚き」


 ダメだこれは。初めての新幹線でテンションが上がっている中学生みたいな反応だ。さすがは田舎者。箱入り娘。



 かくいう俺も、初めての新幹線にテンションが少しばかり上がっている



 ただ――乗り物酔いには勝てない。段々と気分が悪くなってきた。


「おい、良太郎。顔色悪いけど、大丈夫か? 吐く?」


「吐かん」 

 そんな会話を聞いていた薫子は、なぜかごみを見るような目を向けて来る。吐かないと言っているのに。


 修学旅行の時にみんなの前で吐くとか、良い笑いもんだ。在学中、一生ネタにされる。俺はそんなやつを見て来た。だから意地でも吐かない。



 外の景色でも見て落ち着こう。


 窓の外には木々やら、川やら。落ち着ける自然が存在した。しかし、それは時速四百キロの前ではただのぶれぶれの緑と青。逆効果のようだ。



「本当に大丈夫かよ。肩貸すぜ」

 朝陽の言葉に甘え、肩をかりて目を瞑る。


 ……少し落ち着いて来た。

 そんな時に、天津が小さく口にする。「二人、なんだか夫婦みたい」


 朝陽は頭を掻く。

「照れるなぁ」

 いや、照れるな。



 そして夫婦と口にすると、反応する輩がいる――。


 どこからか聞きつけたのか、B組の知り合いの生徒が煽るような調子で言って来た。

「水無には一生添い遂げると決めた相手がいるだろ」


 文化祭の一件やらで知り合いの人も増えたのはいいのだが……。学校全体でこの弄りは止めてほしい。




 そこで朝陽は手を叩く。するとなぜか立ち上がり、薫子の手を引いた。


 まさか、気を遣っているのか朝陽。それは大きな間違いだ。普段、無神経なくせになぜこういう時だけ、気を遣ってしまうんだ。しかも逆方向に。


「ちょっと、六車君」


 薫子は半ば無理やり、俺の隣におしやられる。



 仕方ないので、姿勢を正して眠りにつく事にした。肩枕なんてするものか。


 薫子は機嫌を損ねていると思ったのだが、意外と平然としている。そして俺にしか聞こえない様な声で呟く。


「烏枢沙摩高校にクラスの隔たりが無くなったのは、貴方のおかげかもしれないわね」


 褒めているのだろうか。


 ただ、自分のおかげなどと胸を張る気は無い。変わったのは俺ではないのだから。




 眠気と気持ち悪さがまし、身体が段々という事を効かなくなってくる。頭に柔らかいものがぶつかり、身体が楽になった。


 なんだ、凄く寝やすい。

 そのフィット感に任せ、俺は眠りついた。深い眠りに……。











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