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居所






 時間も残り少なく、全員での攻めに切り替えて、ようやくチャンスができた。大枝の持っているボールは俺に渡り、ドリブルで切り込む。朝陽が上手くフェイントを掛けてくれたおかげで、問題の榎野はやり過ごせた。


 俺がシュートで決めようとした瞬間、白井が凄いいきおいでこちらに迫ってきていた。白井も速攻を止めて、ディフェンスに参加したようだ。だが、その距離では間に合わない。


 刹那、俺の身体は吹き飛んだ。


 周りもなにが起こったかは分からないという様子だった。俺も最初はそうだったが、感覚で分かる。今のは発だ。





 そこで笛が鳴る。

「プッシング! 黒4番!」

 今回は呪術のあからさまな使用が禁じられている。つまりこれはファウルだ。白井が手を挙げて触れていないアピールをしているが、そういう問題ではない。



「白井選手、呪術を使ってファウルを取られてしまいましたね。これによってツースローが与えられました。痛恨のミス」


「勝ちたいという気持ちが裏目に出たのでしょう」

 発動する気なんてなかったのだろうが、このチャンスはきっちり使わせてもらう。


 与えられたツースローをきっちりと決めて二点を取り返す。そこでブザーが鳴り、前半が終了した。

 




 前半 D 7-13 C








「最後に決めたのは大きいですね。なんとか繋ぎ止めたという感じでしょうか?」

「そうですね。後半も期待したいですわ」


 前半を終えたみんなの息遣いは明らかに荒かった。それもそうだ。10分間だけとはいえ、速攻で走りまわされたのだ。


 汗を拭いている大枝が呟く。

「まずいな。どうにか打開策を考えないと」


 それに朝陽が返答する。

「打開策かぁ……。まるで思いつかないな」


 そんな二人を見て、今度は天津が発言した。

「きっとなんとかなるよ」

 まるで根拠の無い自信。


 だがそれでいい。周りを元気づけられれば、コンディションを落とさない。それが大事だ。それに天津の体操着姿は男達には良い薬だ。 








 さて、その根拠のある作戦は俺と薫子で考案しなければならないわけだが、薫子がいつまで経ってもあの調子では話にならない。今も、小枝子さんの方をチラ見している。


 呪術合戦の時のように、頼りになる薫子にさえなってくれればな……。



「大丈夫、薫子ちゃん?」

 さすがに天津も異変に気づいてるらしく、声をかけている。


 そこで朝陽が呟いた。

「あの位置に母親がいるのは辛いよな。せめて見えなければいいのによ」



 見えなければ――。そうか、その通りだ。

「でかした朝陽!」


 突如そんな事を言ってしまい、朝陽は面食らった顔でこちらを見ている。


 問題は小枝子さんが見えてしまう事、聞こえてしまう事なのだ。ならば方法はある。打開策はある。


「なあ、天津」

 俺は天津に一つお願いをした。


 それから早速、作戦は実行に移される事となる。










「薫子ちゃん、わたしの目を見て」

 最初は驚いていたが、薫子も言う通りにする。時間はやはり多少かかったが、直ぐに薫子に変化が生まれる。


「――見えない。コートの中しか……」

 それを聞いて、天津が胸を撫でおろしている。


「天津に幻をかけてもらって、コートの外の情報を全てシャットアウトした」

 それを聞いて、薫子は心底、驚いた顔をしている。

「天津さん、いつの間に幻を習得したの……」


 ニッコリと天津は微笑んだ。

「わたしもみんなに負けてられないから」

 このチームの支えは天津だと、改めて感じる瞬間だった。薫子から、今日初めての笑顔が垣間見えた。





「いいか。小枝子さんが見たくないなら見るな。聞きたくないならなにも聞くな。だが、俺達の声はちゃんと聞け。お前は司令塔だ。指示を出して、勝利に導く。それは薫子にしかできない事だ。やれるな?」 


「水無君に励まされるなんて、あの時を思い出すわね」


 薫子がなにを思い出しているかはピンと来ない。ただ、こんな一瞬が前にもあったという事だろう。なぜか嬉しくなる。


「なになに? なんの話?」

 朝陽が目くじらを立てているが、構わずに話を進める事にした。なにしろ、後半開始までの時間が無い。










「始まりました後半戦! 試合はD組ボールからです!」


「前半で差を付けられましたからね。もう後がありません」

 薫子も加わり、攻撃はスムーズに行えた。しかし、肝心の榎野に阻まれてしまう。また白井が起点となってのカウンター。 



 ただ、今回は薫子の指示で早めに戻っていた。おかげで対応が早い。

 しかし、ゴール前のマッチアップは白井と天津だった。普通ならば天津のヘルプに行く場面だが、薫子の判断は違った。



「みんな、前に出て!」

 ボールも奪えていないタイミングでのカウンターの指示。これには白井も面食らっている。



「いかれてんな。コイツは俺を一度も止められてないんだぜ」

 薫子は余裕の表情で言い返す。

「お言葉を返すようだけど、うちのセンターをなめてもらっては困るわ。バスケは高さが全てじゃない」




 白井はドライブで切り返す。圧倒的なスピード……。

「高さだけじゃねえよ! 全部、俺が勝ってる!」



 天津を抜いた白井。そのはずだったのだが、ボールは天津の手に収められていた。突如、白井が転んだのだ。今までならあり得ないミス。



 予定通りボールを奪い返し、カウンターへと移る。ボールは大枝がキープしている。今はマークも振り払っている。つまり、シュートが打てる。



 大枝が腰を落とし、スリーを打とうとした瞬間――榎野が大枝の目の前まで来ていた。あの長身ではブロックされてしまう。


 そのまま打てばの話だが。




 前半にスリーを見せた時点で、相手が大枝を警戒する事は分かっていた。やすやすとスリーを打たせてくれない事も。だから、大枝は囮。






 それはシュートから空中でのパスに切り替えられる。そしてボールはドフリーの俺の手に渡った。


 ダンクなんて派手なプレイはできないが、薫子の策、みんなで繋いだこのボール。俺がしっかりと決める。



 レイアップシュートは、ゴールポストに当たることなく、すっぽりと網を通過した。







「ゴール! チーム全員での怒涛の追加点!」

 振り返り、薫子に親指を立てる。


 復活した瞬間にこれか……。やっぱり、俺達をまとめるのはアイツしかいないな。





D 9-13 C







 それからも、C組は攻めきれずにいた。天津を前にすると、誰もが転んでしまうのだ。そしてその隙をついて、今度は大枝がスリーで得点。パスかシュートか揺さぶりをかける事で、大枝も打ちやすくなっているようだ。



「後半から天津選手を前にすると、C組は足がもつれるようになりました。まるでアンクルブレイクみたいです」


「ドリブラーがするならまだしも、ディフェンスが起こすなんて。オカルトですね」




 勿論、そんな事はありえない。オカルトなどではなく、種も仕掛けもある。


 なぜ薫子が天津をセンターに起用したかといえば、呪術コントロールに長けているからだ。

 今回の試合のルールでは、呪術自体の使用を禁止されているわけではない。ようは呪術での直接的な妨害を禁止している。もっと正確にいえば、審判に発覚してしまう呪術の使用だ。


 ばれなければ犯罪ではないのだ。




 天津なら相手の足下に、しかも審判の目を盗んで発をする事くらい容易だ。

 これが、アンクルブレイクの正体である。



 前半の最後に敵は呪術を使って失敗している。それは偶々だが、相手の歯止めになっているようだ。これまで呪術をまるで使っていない。




 そしてここで朝陽がドリブルで切り込み、レイアップと見せかけて榎野さえも躱し、最後にレイバックシュートで得点した。


 この瞬間、いっきに会場がヒートアップする。


「D組がなんと三連続得点! これでついに逆転だ!」

「後半から明らかに動きが変わりましたね……。一人の選手の」







D 14-13 C








「残り時間は一分! このままお互い得点なしで終わってしまうのか!?」


 実況の言葉通り、硬直状態が続いていた。こちらは榎野に阻まれ、相手は天津に阻まれる。センターの意地の張り合いだ。


 そして今回も白井からボールを奪う。――そのはずだった。



 体制を崩した白井だったのだが、腕の動きだけで後方にパスをしたのだ。薫子が指示を飛ばしているが、カットもできず、ボールは卯月に渡ってしまった。 



 素早いフォームに追いつけず、放ったスリーポイントシュートは何度もゴールポストに当たりながら、中を通過した。


 残り時間が少ない中の、三ポイントが加算される事になる。






「これは決定的な一発が入りました!」

「時間も時間ですからね。C組は守備に徹するのではないでしょうか」


 認めたくはないが解説と実況の言う通りだ。相手はみな自陣へと下がっている。そんな中でシュートを決めるなんて不可能に近い。それに、スリーでなければ逆転はできない。長期戦になれば、こちらの作戦に対応しただしているC組に理がある。








 全員攻撃でボールを回し、相手陣内へと切り込む。薫子の指揮で上手くボールは回っている。そしてドリブルの得意な朝陽がシュートを決める。とみせかけての大枝のスリー。


 完璧な算段だった。

 しかし一つ頭の中から抜けていた。


 スリーでなければ逆転できないのを相手も知っている。このパスは……取られる。


 嫌な予感がして、俺はUターンをした。そして予想通り、白井にカットされてしまう。


「圧倒的に倒す!」


「みんな、戻って!」

 薫子の指示は一瞬遅かった。みな、白井のドリブルスピードに追い付けないでいる。一番、早く戻った俺でさえも……。


「最後は派手にぶちかますぜ!」

 その瞬間、白井は高く跳び上がった。最後はダンクで決めるつもりだ。絶対に止められないタイミング。



 しかし、俺は考える事を止めて、飛んでいた。ジャンプ。跳躍。そんな言葉では片づけられない程の距離を。 


 発をしたのだ。




 ゴールの金具が揺れる音ではなく、ボールが弾き出される音が体育館に響いた。ボールはラインを割る。




 地面に足を付けてから、白井が振り返ってこちらを見て来た。


「水無良太郎……!」


「俺らだって、負けるわけにはいかないんだよ」


 会場が盛り上がる中、一部からは疑心の声が漏れている。


 仁先生もすかさず実況をする。


「今のはいったい……?」

「今のは――天賦の跳躍力って事でいいんじゃないかしら?」

 小枝子さんがこちらを見て、笑いかけて来た。おそらく全てを知っての発言だったのだろう。いったいなにを考えているのか。








 ――とはいえ、一安心だ。


「では目くじらを立てるのは止めましょうか。……ん? おっとここでD組もタイムアウトです」


ブザーが鳴り、一度、体育館の隅に行って水分補給をする。とはいっても大した時間も無いが。


 顎に手を置いた薫子が呟く。

「先ずは、ボールを確実に奪う。そこからね」 


 俺がボールを最後に触ってラインを割った為、相手のスローインから始まる。そこからボールを取らなければ始まらない。始まらなければ時間制限で負ける。


 しかもスリーポイントを決めなければ逆転は無い。







「速攻しかないな」

 俺はそう言うと、周りも頷いている。

 無茶な作戦だが、これしか方法は無い。


「でも……」

 天津の声だった。

「――10秒しかないよ」 


 画面を見ると本当に10と書いてある。残り時間をちゃんと見ていなかった。10秒以内にボールを奪って、しかも速攻でスリーを決めるとか、無茶とか無謀とかじゃなくて、無理だろ。そんな気がしてくる。



 けど、薫子の為に勝たねばならない。それに、C組に負けるのは腹が立つ。




 不意に、朝陽が手を前に出した。

「こういう時は掛け声だろ」


 運動部に入っていなかった俺には直ぐに分からなく、反応に困ったがそういう事か。


「たかが、学校の授業だぞ」

 とはいったものの、俺も朝陽の上に手を置いた。


「勝ちたいもんは勝ちたいだろ。つか、良太郎、手置いてるし」


「俺は天邪鬼なんだよ」


 そこで天津も手置く。

「うん、絶対に勝とうね」


 続き、大枝も。しかし薫子だけはぽかんとそれを見ている。

「なんの儀式かしら?」


 さすがは田舎のお嬢様。円陣なんて知っているわけがなかった。


「勝つための儀式だよ」


「論理的ではないわね」

 と苦笑しながらも、薫子も手置いてくれた。全員で顔を見合わせる。



 なんだか、一致団結といった感じがする。



 朝陽がいきおいよく息を吸い込んだ。

「絶対に勝つぞー!」

 その掛け声に、疎らなオーという声で答える。突然で一体感はないが、これくらいが俺達らしい。









 ブザーが鳴り、試合が再開した。

 

 バスケのいいところは、ボールがコートに無い時間は全て時間を止める事。しかも公開してのだ。これならフェアにプレーできるし、スローインで時間を取ろうなんて事もできない。


 つまり、負けても言い訳の一つもできないわけだ。


 卯月のスローインはまた卯月へと渡った。だがすぐさま、朝陽がそこからボールを奪った。しかし、元から相手は逃げ切りが目的だったようで、後ろで陣取っている。






「良太郎!」

 朝陽からパスが来て、すぐさまドリブルをする。だが、相手の守備が堅い。あきらかにこちらが人数で負けている。それに取る事から始めた為、前線に味方がいないのだ。やはり10秒でゴールなんて無理な話だったのかもしれない。



 それに、俺は一度もスリーを打った事がないのだ。逆転する為に必要な武器が俺には無い。大枝も走っているし、パスをする手もある。だが、マークが付いていて残り時間で外せるかは微妙なラインだ。


 一番の安パイは俺が決める事か。





「水無君!」


 その声は、タイムアウトでは予定にないものだった。振り向くまで俺も誰に呼ばれたか分からなかった。


 薫子が、こちらにパスをしろと要求している。ゴールの傍にいるアイツがだ。


 ただ、無理だと投げやりになっている俺よりは、薫子の方が信じられる気がした。目に火が灯っていたからだ。




 そう思ってしまっては仕方ない。俺は薫子へとパスをした。鋭いボールはぴったりと薫子の手に収まった。 


 このタイミングでのバックパスなんて普通じゃない。しかもゴール前にいるやつに。


 薫子にマークをしているやつがいるはずもなく、C組は胸を撫でおろしている者までいる。卯月兄弟はハイタッチをして喜んでいる。




 そんな中、薫子だけは集中していた。






 正直、俺にだってなにをするか分からない。ただ諦めていないやつがいる限り、落ち込むわけにはいかない。


 その瞬間、薫子は身体を屈めてシュートフォームに入った。


 28メートル先のゴールをそこから狙う。ようやく俺は理解した。あそこでパスを貰おうとした時点で、それしかないはずだったのだろうが。あまりに突拍子がなくて選択肢にすら入れていなかった。

 恐らく、試合が始まってから考え付いたのだろう。




「行け! 薫子!」


 無理な応援ではない。無茶で無謀な応援だ。だったらまだ、可能性はある。






 薫子が放ったボールは28メートル先、高さ305センチ、たった45センチの隙間に、すっぽりと入った。まるで針の穴を通すようなコントロールだ。いや、そんな諺で片づけていいもんじゃない。



 その瞬間、大きなブザーが鳴った。


 得点は――。





 D 17 16 C





「決着! ブザービートで逆転したD組の勝利!」


 勝った。誰かに言葉にされて初めて感覚が湧いた。気づけば走り出し、薫子へ飛び込んでいた。


「やったな、薫子」

 よく顔は見えなかった。多分、笑っていたと思う。


 ――いや、これはエゴだな。自分の嬉しい事は相手も嬉しいだろうという。


 それに続き、朝陽達も飛び込んで来た。天津にかんしては泣いて喜んでいる。それからみんなが口々に感想を漏らしている。


 ただ、俺の一番の感想は……。

「重いんだよ!」

 上から飛び込んで来たせいで、下敷きにされていたのだ。



「あの……。一番、重いのは私なんだけど」

 あ……。そういえば、薫子が一番下にいた。










 みんなが上から退いた後、薫子は笑った。


「でも、勝てた事は嬉しいわ。素直に」


 健闘を称える中、俺は実況と解説の話に耳を傾けていた。勝つことが最終目的ではない俺にとっては、こちらの方が大事なのだ。


「今回の試合どうでしたか?」

 仁先生が気の利いた質問をしている。


「そうですね。……良いチームですねD組」

「僕の受け持っているクラスですから」

「日役先生は教えがお上手なのね」

 などと二人は笑いあっている。


 仁先生は自己主張までしているし、もはや実況かも怪しくなってきたな。

 けど今の言葉、薫子に聞かせてやりたかった……。
















勝利の余韻を残しながら、体育館で解散となった。

C組とD組で話している者いたりする。二度の激闘で仲も深まったのだろう。会話の内容は挑発したり、煽ったりだが。


 その薫子も、他の女子達と話している。最後のシュートはやはり、話の話題となるようだ。



 おそらくだが、あれは呪術のいっかんだろう。あれほどの筋力やバスケの腕があるとは思えない。どんな呪術を使ったかは分からないが、あのコントロールは容易なものではないはずだ。


 俺は仁先生へと目を戻す。

「小枝子さんは帰ったんですか?」

 いつの間にか小枝子さんはいなかった。俺達が盛り上がっていた間に、帰ったのだろう。


「ああ、みたいだね」

 本当に適当だな。


 それにしたって、一番、おかしかったのは仁先生だ。実況とかやる人ではないだろうに。

「なんで実況なんてしたんですか。柄でもない」

「いやぁ、生徒達が頑張っている姿はいいね」


 説明になってないだろう、それ。 

 捉えどころのない人だ。







 そこで振り向くと、今度は薫子が消えていた。体育館全体を何度も見回したがやはりいない。

 俺は考えずに、体育館から飛び出した。


 自分が言い出した事だ。結果がどうなるか、自分で見届けたい。


 先ずは下駄箱に行く。すると、外履きが無くなっていたので、外に出たのだと推測できる。

 根拠はこれしかないので、正門までの道を駆けだした。慌て過ぎて、体育館履きのままだが、今は気にしている場合ではない。







 そして正門を出ようとしたところで、ギリギリで足を止めた。門の裏に隠れ、外の様子を窺う。  

 なぜなら、神妙な顔をした薫子と小枝子さんが向かいあっていたからだ。





「私はやっぱり、ここに残りたい……」

 二人の視界から消えた為、表情は分からないが、声のトーンで緊迫した空気なのは伝わってくる。


 あんだけやって、ダメっていうなら俺がガツんと言ってやろう。


「絶対にダメ。……本当はそう言うつもりだったのよ」

 小枝子さんの声は、鋭いものから温和に変わった。


「けど、娘のあんな頑張りを見せられたら、引き止められないじゃない」


「それじゃあ……」

 思わず、俺は小枝子さんの顔を窺ってしまった。すると小枝子さんは、俺が見た事の無い、母親の顔をしていた。


「好きにしなさい」

 慌てて隠れた為、薫子の顔は見えなかったが、喜んでいる事であろう。


 ほっとした瞬間、小枝子さんの声が鋭いものに変わった。

「それになにかあっても、良太郎君が守ってくれるものね? ね?」


 なぜか二回言われた。それにこちらに向かって言っている気がする。ばれているのだろうか……。






 おそるおそる姿を現すと、思った通りに二人はこちらを見ていた。


 その後、特に俺になにも言わず小枝子さんは去った。やっぱり、四之宮家の女の人は怖い。勿論、薫子も含めて。




 一人、正門の外にいる薫子の手を取る。

「良かったな。明日からも、ここはお前の居場所だ」

 すると、薫子は自らの足で正門を潜った。嬉しそうな笑顔と共に。 














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