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日曜




 烏枢沙摩高校に通う前から、授業後に自主練習をしていた薫子ではあったが、その薫子でも毎週六日、七時間の授業に加えて、事件に立て続けに巻き込まれれば、疲労も溜まる。


 唯一の休みである日曜日。こんなに嬉しいと思った事は無かった。

 従者に任せっきりだった家事を自分でやるようになり、掃除、洗濯などの練習をしていた。食事だけは健康に気を遣う従者達が作ってもってくるのだが。








 そんな疲れを癒す日曜日に、一本の電話がかかってきた。


 置き電話以外に連絡手段のない薫子にとっては、日曜日の外界との接触は億劫だった。誰からかかってくるか分からないとなれば、電話を取る手も鈍る。


 しかし一人暮らしという建前上、取らないわけにもいかない。


「もしもし……」

 受話器の向こうから聞こえてくる声は、薫子とは真反対のテンションだった。

『ハロー! 久しぶりね、薫子』


 受話器を持つ手が固まる……。

「……姉さん」


 一番、聞きたくなかった声が、受話器からした。そんな心境だった。 












 元々、姉である桜子と薫子は仲が悪いわけではない。だが幼少の頃から悪戯好きな桜子に、苛めに近い事をされてきたせいで苦手意識があった。そして今は、それがクラスメイトにいくのではという、憂慮もある。


 なにより彼女は、警戒するべき相手で、疲れを癒す対象とは言い難いのだ。


 そのせいで自然と声は冷たくなってしまう。

「なにかしら?」


『電話越しとはいえ、久しぶりにお姉ちゃんの声を聞いたのにそんな言い方ないんじゃない』


 薫子はおもむろにため息をする。

「茶化しなら切るわ」


『妹思いで、こんなにも愛がある姉を切るなんて、ホント無慈悲ねー』

 言葉とは裏腹に、口調は軽やかだ。まるで思っていない事が窺える。


「姉さんの歪んだ愛は要らない」

『あちゃー振られちゃった。あ、振られたといえば、良太郎君とはどうなったのかな?』


 すぐさま切りたい思いでいっぱいだった。だが、なぜかそうできない……。

「本当に切るわよ?」

 今もこんな確認をとってしまっている。


『じょーだん。本当に良いことを教えてあげる為に、電話したのよ』


 全く信じられはしなかったが、一応、最早して訊いてみると、あっさりと答えてくれた。悪戯が好きな人だから、そうもいかないと思っていた。


『母さんが帰って来たのよ。今日、そっち行くらしいわよ』

 言葉がでなかった。


 なぜなら薫子にとって、もっとも恐怖するべき対象は桜子ではなく、母親だからだ。そんな母親が来るとなれば、身構えずにはいられない。


 そして桜子から次に言った言葉で、絶望の淵に突き落とされた。


『勿論、連れ戻しにね。それじゃ、頑張ってねー』


 受話器からはプツーという、悲壮感溢れる音が永遠と流れ続けた。頭が真っ白になり、何も考えられない……。 










 大事な日曜日、さすがに修行をする気にはなれない。あれから仁先生とちゃんとしているし、体力も残っていないからだ。筋肉痛になった事もあった。家事もろくにできておらず、服も溜まっている。


 だから今日は洗濯機がフル稼働しているのだ。


 そして今は、朝十時と遅めに起きて料理をしている。最近は趣味の料理もろくにできていなかったので、ストレス発散もかねてだ。それになにより、栄養に偏りがでてしまう。


 そうやってできた朝ごはんが、秋刀魚と味噌汁。納豆にご飯。キュウリと大根の漬物。温かいお茶。なんとも見本のような日本の朝食であろうか。


 軽々、平らげてテレビを付けた。この時間は好きな番組がやっているからだ。







 最中のチャイムだった。


 日曜日にインターフォンが押されるなど珍しい。いや、年がら年中珍しい。しかも悪戯かと思うくらいに、連打されている。


 うるさい。


 足早に玄関まで行き、扉を開けた。


 本当は怒ってやるつもりだった。だが、扉の前にはこの世の終わりを知らせに来たような顔をしている、薫子がいた。



 これでは怒りの前に、親切心が前に出てしまう。


「ど、どうしたんだ?」

 あまりに見かけない光景のせいで、戸惑ってしまっているらしい。噛んでしまった。


「お願い。……入れて。……早く入れて。――時間が無いの」












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