解決
昼休みになると足早に職員室に向かった。
扉を開ける。一番手前の席に仁先生は座っている。
俺の顔を見ると呑気な声で言ってきた。
「修行かい? まだ放課後じゃないよ」
この人は自分の生徒が被害にあったというのに、いつもとなにも変わっていない。軽傷で済んだからか……。
「ちょっと来てください」
そのまま仁先生を連れて、面談室に入る。ここくらいしか、人が来ない場所を知らない。
仁先生が呟く。
「まだ昼ご飯食べてなかったんだけど……」
「単刀直入に訊きます。仁先生は吸血鬼について調べてたんですよね。なら天津はなんであんな目にあったんですか」
仁先生ほどの人なら犯人を突き止めるくらいできそうだ。かなりの確率で学校内の人物なのだから。だが、仁先生の評価が買い被りだった場合は仕方ない。解決に至らなかったというのであれば、責める事はできない。
「いやぁ、中々時間がとれなくてね」
と、仁先生は笑みを浮かべた。
お世話になった。沢山の事を教えて貰った。だから多少の事では怒らないつもりだった。
けど、我慢の限界だ。
「先生なら生徒を守ってやるべきでしょ。天津が傷つく前に、解決してやるべきだった」
「うん、君は正しいと思うよ」
なにを言っても無駄らしい。
やっぱり大人は最低だ。一瞬でも良い人だと思った俺が間違っていた。
「犯人は俺が捕まえます」
言い放って踵を返そうとした時、仁先生に声をかけられた。
「薫子ちゃんも、水無君と同じ事を言っていたよ」
足を止めずに部屋から出た。
頼りがいのない先生よりも、疎遠中の薫子の方がましだ。
放課後になると、俺は覚悟を決めて薫子のところに行った。今日も早く帰ろうとしている彼女の腕を掴む。
「話がある」
意外にあっさりと薫子は付いて来てくれた。天津が襲われた事に憤ってるのかもしれない。
図書室に付いた俺達は、個室に入った。うちの図書室には集中して本が読めるように、いくつかの個室スペースがある。一人用なので狭いが、今は言ってられない。
犯人が生徒であるなら、話を聞かれる可能性もあるからだ。慎重派の俺は念には念を入れないと気が済まない。
「ここまでする必要あるからしら?」
薫子は狭い空間に居心地悪そうにしている。
これだからお嬢様は狭い場所の良さを分かってらっしゃらない。
「そこはいいだろ」
「それもそうね」
俺達の話題は、吸血鬼の正体へと移り変わる。薫子も調べていたらしく、いくつかの話をしてくれた。
「先ず、吸血鬼は身長二メートルくらいらしいわ。襲われた子の証言なんだけど。どれくらい信憑性があるかは知らない」
人に訊いておいてのこの突き放しよう。だが他の襲われた生徒の証言と共照らし合わせれば、本当かどうか分かるだろう。
問題は二メートルなんて長身が知り合いにいない事。学校中になら、それに近い身長のやつもいるだろうが、いきなり犯人扱いもできない。
そこで呪術に詳しい薫子に質問する。
「二メートルに装うとかはできないのか、呪術で。七戒は幻というじゃないか。幻を見せれば、可能なんじゃないか?」
十文字千夜の一戦の後に、仁先生に教えてもらった知識を使って質問する。
考えるような素振りを見せてから、薫子は答える。
「できない事はないわ。難易度は高いけど。――でも問題がある」
問題。姿を吸血鬼に変えられるというのなら、他にどんな問題があるのだろうか。
「傷跡よ。姿を変えても、直接的な干渉はできない」
なるほど。確かに、二本の傷跡はそれではどうにもならない。傷をつけるのが狙いだとするなら、適当な物で偽装できるだろう。しかしそれでは、本当に異常者の犯行じゃないか。
「歯形を傷跡にしてまで、偽装する理由か……」
二人で考えたがでてこない。
このままだと時間だけが過ぎていきそうなので、犯人について考える事にした。
生徒の名前を何人かだしたが、どれも条件に合わない。その中にはA組の生徒や、白井。それに十文字千夜の名もでてきた。しかし十文字家のものがするにはリスクがでかすぎる、それに身長が……。
そこで薫子がこんな発言をした。
「生徒に絞るのは安易かもしれないわね。放課後の学校には護で侵入されないようにしているし」
確かに、先生という確率は大いにある。
つか放課後の学校が侵入できないってどういう事だよ。それじゃあ夜に忍び込めないじゃないか。今日はそのつもりだったのに。
それを薫子に言うと、あっさりと問題ないと言った。
「日役先生が一部を開けておいてくれるそうよ」
仁先生が……。
協力的なのか、違うのかはっきりしない。
まあできるのであればいい。
犯人捜しは埒が明かないと分かり、薫子は個室から出た。
「どうせ夜になれば分かるわ」
それもそうだ。最終下校も近いし、俺も後に続く。
二人で帰るのは久しぶりに感じた。だから隣にいていいのか、気がかりだった。だが薫子はなにも言って来ない。
全て解決したら、ちゃんと説明して謝ろう……。




