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吸血





 気づいた時には保健室のベッドの上。もうこの場所にも慣れた。

 辺りを見回すと、誰もいない。日も沈んでいるし、当然か。身体は多少痛むが、歩けないほどではない。先生がまた治療してくれたのだろう。お礼を言って、さっさと帰ろう。





 ベットから降りようとした時、保健室の扉が開いた。


「目が覚めたんだね」

 姿を現したのは仁先生だった。意外と生徒思いの人だ。


「呪術合戦の度に気絶なんて、君は本当に面白いね」

 俺を見てニヤニヤと笑っている。やっぱり前言撤回。


「笑いに来たんですか」

 問うと、あっさりと頷かれた。やっぱりこの人は変だ。


 それから仁先生は椅子に座った。

「千夜君はどうだった」


 どうだったか――。


 そんなのはあの試合通りだ。俺は感じた事を言葉にした。


「強かったです。呪術も戦術も完敗でした」


 仁先生は真顔だった。

「でも、良い試合はできていたんじゃないのかい?」


 客観的な意見ならばそうだろう。だが仁先生程の人が本心から言っているはずがない。だってあれは……。


「最初から、俺は負けてました」

 そう、最初から。


 十文字千夜の幻覚に陥った。試合の時、その時すでに俺に攻撃できたはずだ。なのにしなかった。同情かなにか分からないが、とにかくその時に負けていたのだ俺は。死角から彼女レベルの呪術を受けきれる術は、俺には無いのだから。


 才能に頼っても、本当の才の前では無意味なのだ。まるで歯が立たない。


「よく自己分析できている。だったら次はもっと上手く行くよ」


 もっと上手く行く。本当にそうだろうか? 明らかなレベルの差があったではないか。それが簡単に埋まるとは思えない。


「気休めならやめてください」


 そこで仁先生はため息をついた。

「君は横暴だね」


 聞き捨てならない。

「俺のどこがですか? 冷静に判断を下しているだけです」


 仁先生は怯みもしなかった。

「そういうところがだよ。まるで自分が正しいとでも思っている。だが君は数週間でまともに四術士と戦えるまでに成長した。そこにあった差は――呪術と戦術。たったそれだけなんだよ」


 たったそれだけ。

 仁先生から見ればその程度なのか。努力と経験で培えるものならば。


 確かに、朝陽が聞いたら起こるかもな。アイツは努力したって、呪力が無いから実らない。でも俺はそうじゃない。


 はぁ……。

 なぜこんな簡単な事に気づかなかったのだ。


「まだ強くなりたいと思うなら、明日も職員室に来なさい」


 先生は席から立ち上がった。 


 俺はただ下を向いていた。そんな時、不意にこんな事を言われた。

「薫子君は来てないんだね。喧嘩でもしたかい?」


 うっ。痛いところを突かれた。


「とはいえ、生徒の痴話げんかに首は突っ込まない主義でね。自分達でなんとかしてくれたまえ」

 それだけ残して、さっさと保健室を出て行った。


 やはり放任主義で、生徒思いではないな、あの先生。だが今まで会って来た大人の中では一番信用できる。そんな気がした。


 きっと、気の迷いだろう。


 




 それから事件は起きたのだ――。







 傷も完治し、A組との死闘が終わってから一週間が経った。いわずどもだが、A組には完敗だった。だがそれから更にキツい修行をした。前よりも仁先生がやる気をだしてくれているし、なにもかもが上手く行っている。正直、上達していくのが楽しくて仕方ない。


 だが、一つだけ問題がある。


 ――薫子だ。


 あれからろくに口もきいていない。このままでいいとも思っていないが、打つ手も思いつかない。話しかけようとしても、どこかに行くし。中学生かよ。


 あれだけ遵守していた誓いを今更になって、破るなんて意外だった。とはいえ誓いとは曖昧なものであって、具体的にこうしろと言われていたわけでもない。もしかした最初から傍で守るなんて必要性が無かったのかもしれない。そんな気さえしてくる。


 しかし守ると約束した半面、はいさよならで済ませるわけにもいかない。


 今日は絶対なんとかしよう。






 学校に付くと、いつも通りの面子がいた。だがいつもと雰囲気が違う。そんな気がした。

 席に着くと、それが間違っていないのが判明する。


 朝陽が深刻な顔をしていた。

「良太郎、実はな……」


 そこで教室の扉が開き、チャイムが鳴った。話は半強制的に打ち切られてしまう。


 続きは、と聞くと朝陽が言った。

「多分、先生から話があると思う」


 仁先生が入ってきたが、暗いムードなのは変わらない。そしていつも通りの雰囲気で、仁先生は出席を取った。


 そこで俺は疑問を覚える。

 ――天津の名前が呼ばれていない。


 これはどういう事だろう。天津は俺が知ってる限りで無遅刻無欠席だ。考えすぎでただ休んでるだけの確率も十分あるが、あの朝陽の深刻そうな顔と、周りの雰囲気からして……。








「今日はみんなに話さなきゃいけない事がある」

 周りがその言葉に機敏に反応する。


「吸血鬼事件だけど、ついにD組からも被害者が出た。――天津明さんだ」

 まさか、吸血鬼事件って前に朝陽が言っていた。鋭い歯で咬まれた後が二本あったから、どうたらとかの……。


 半ば冗談かと思っていたが、本当に。










「でも、軽傷で済んだようでね。一安心だよ」


 すると、周りから安心したような声が漏れる。


 それはよかったのだが、そんな事件が学校で起きていてまだ解決されていないのが問題だ。


 前に仁先生も吸血鬼事件の処理をしていると言っていたのに、天津が被害にあうなんて。

 ちゃんと先生に話を聞かないと。


 だがそれをするのは二人だけでだ。周り人がいては本心を聞き出せないかもしれない。








 それからホームルームは終わり、空いた時間に朝陽と話した。


 みんなは最初から、天津が怪我をしたとの事を携帯で知らされていたらしい。俺は携帯もなければ家族とも殆ど連絡をとらない。寮にも電話機がない。だから連絡が来なかったのだろう。もしかしたら薫子もそうなのかもしれない。


 そして朝陽が同じ寮にいるのに俺に教えなかったのは、真夜中に連絡が来たか、朝に連絡が来たかの二択だろう。


 だが、今はそんな事はどうでもいい。


「いったい、誰が吸血鬼なんて……」

 気づいたら、赤子のように爪を噛んでいた。







 今までは他のクラスの事だから危機感が薄かったし、なにより半分は悪戯か冗談かと思っていた。


 突然、朝陽が俺の腕を掴んで、クラスメイトから離れた。

 それから小声でこんな事を言う。


「俺にだけメール来たんだけどさ、見てくれよ」

 添付された画像には、手紙が映っていた。達筆な文で書かれえたその内容は、23時に校舎に来いというものだった。けどそれは簡潔な言い方で、本来はもっと長く、天津が断れないような書き方をしている。まるで天津の人柄を知っているかのような。


 でなければ、天津ほどの真面目を絵に描いたような女の子が、遅い時間に一人で学校に行くはずがない。


「これ、良太郎と薫子ちゃんにだけ見せたんだけどさ。どう思う?」


 どう思うと言われても、読み取れる事は一つしかない。


「天津の身内か近しい人の犯行」

 だが、この前にB組とC組の生徒がすでに襲われいたらしい。天津も合わせて四人。つまりは他のクラスとも関係のある人物でなければならない。天津は前はB組だと朝陽が言っていたし、候補多く存在するのかもしれない。


 そしてもう一つ、考えられる可能性は――。


「複数犯での犯行」


「さすが、良太郎も薫子ちゃんも頭の回転が速いな。そこでこんなものを手にいれたんだ……」


 朝陽が見せて来たのは手紙だった。先ほどのようなデジタルで撮られたものではなく、実体のある本物。


 促されて開けると、中にはあの手紙だった。文字までまるっきり一緒。そして内容も天津とは違うが、これも断りづらい。


 それと気になるのが、今日の日付だという事。23時に校舎に来いと。


 意図を察したのか、朝陽がその説明をしてくれた。

「実はC組の知り合いが怖くなって俺に渡してきたんだよ。俺、結構頼られるタイプだからさ」


 多分、面倒事を押し付けられたんだと思うぞ。

 とはいえこれはチャンスだ。これにのって自分達で調べればいい。暴くのだ、吸血鬼の正体を。


 そこで朝陽も俺と同じ考えを口にした。

「天津さんを襲ったやつ、俺は許せない。だから捕まえる!」


 しかし朝陽には荷が重いきがする。戦闘能力でいったら俺よりも高いが、あれを校舎ではさすがに使えないだろう。それに六車家の人間になにかあったら、問題になるかもしれない。


 それに大我さんはおっかない。





「いや、俺がやるよ」


「なんだよそれ」

 朝陽も中々、食い下がってくれなかったが、ちゃんと説明すると納得してくれた。さすがに聞き訳が良い。



 そして実行の前に一つ、やっておかなければならない事を忘れていた。











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