表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/97

思惑






 謎の少年エジと出会った俺と天津は、彼に東京の案内をしていた。

 買ってあげたクレープをエジは頬張った。口には生クリームが付いている。



「これ……美味い」

 ずっと無口だったエジの口からそんな言葉が聞けて、感動してしまう。頑張ったかいがあったもんだ。経済的な面で。


 天津は口に付いた生クリームはハンカチで拭う。それにエジはどこか驚いた表情をしていた。


「なんて言えばいいんだ……こういう時は」


 優しい口調で天津は「ありがとう。だよ」と笑ってみせた。


「明……ありがとう」


「どういたしまして」


 俺にはなしかい。


 まあクレープを自分から奢って、お礼を言って貰おうなんて恩着せがましいな。良い死に方できなくなってしまう。







 クレープを食べ終えた頃に、俺は質問を投げかけた。


「そういえば、なんで東京に来たんだ。家族は?」


 するとなぜか、エジは頭を抑えて唸りだした。


「家族――」


 その言葉だけを何度も小さな声で連呼する。天津も俺も心配になり声をかけたが、まるで反応を示さない。


 それは急に已み、平然とした顔に変わった。二人でほっと一息する。


「俺には行く場所がある」


 唐突にそんな事を言いだして、エジは俺達に背を向け歩き出した。


 追いかけたのだが、人込みの中に入ってしまい見失ってしまう。








「どこにいったんだろう……」 


 憂慮の気持ちをのぞかせる天津に、「きっと家族の所にいったんじゃないか?」と言ってみた。


 なにも安心させる為にでたらめを吹き込んだわけじゃない。初めて会った時のような不安定な歩き方をせず、ちゃんと真っすぐ歩いていたからだ。あれは迷いがあるやつの足取りじゃない。


「それならいいんだけど」


 少し捜索をした後、エジが近くにいない事が分って、俺達は帰る事にした。


 送って行こうかと提案したが、大丈夫だと言われてしまった。それでも途中の同じ道までは歩くことになった。


 それにしたって、変わったやつと会ったな。改めてそう感じた。












 

 東京の街に放たれた式神は七体。その排除に大我以外の四術士と従士が当てられた。

 一般市民に、勘づかれないように倒すのは難易度の高い技だったが、誠司はそれを一早く倒し、携帯で報告をしている最中だった。


「三体目倒しました」


 報告を受けた十文字の従士が、了解しました。と短く応答した。 


 電話を切った直後に、千夜が姿を現した。


「さすがは四之宮の四術士ですね。感服します。呪術士としての腕だけは」


 いきなり褒められ、誠司は苦笑いを浮かべる。最後に貶された事には気づきもしないで。


「同じ四術士の君に褒められるのは、複雑な気分だな」

 しかし直ぐに真剣な表情に変わる。「早く次の式神を倒さないと」



「その必要は無いです。既に七匹全てを倒したようです」


 千夜に指摘され、誠司はきょとんとした表情になる。

「さすが、みんな仕事が早いね」


「一番多くの式神を倒しておいて、よくいいますね」













 彼らが倒した式神は、下級を大量に放ったものではなくて、一体一体が中級以上の力を持っていた。しかも、ちりじりになった式神を数十分で三体押さえた誠司は、相当の腕なのが伺えた。同じ四術士が目を見張る程に。


 考え込むように、誠司は顎に手を当てる。「しっかし、あのレベルを七体同時に召喚するなんて……」


「ただものではないです。もしかしたら四術士レベルかもしれませんね」


 一人の術士から召喚された証拠はどこにもないのだが、二人は経験則からものを語っていた。式神から感じる呪力の質などだ。













 その頃、会議室では重い空気が流れていた。だがそれも、最後の式神を倒したとの報告を受け、和らいだ。

 従士の一人が、「さすがは四術士、仕事が早い」と感服する。


 式神に付いての会議、派閥の動き。そんな話し合いの元、最終的に決まった事が一つ。



 十文字の従士がまとめる。「東京での、派閥の活動が活発になっている事に辺り、東京には二人の四術士の配置をする。厳密には千夜様が烏枢沙摩高校に通っている為、一人の四術士ですが」




 そこで大我が百瀬を見た。


「それに関しては異論ねえが、百瀬の四術士は今どこでなにをしているんだ? 三人で回せってのは幾ら何でも酷い話だろ」


「百瀬の四術士は動ける状況じゃなくてな。だが、問題は無い」


「問題はねえってどういう事だよ」問い詰める大我。


「我が烏枢沙摩高校には優秀な先生がいるからな」

 










 隣どうしで天津と歩きながら、俺は百瀬について考えていた。なぜだか急に気になってしょうがないのだ。


 図書室で話して俺と天津は情報を共有しているので、誠司さんを育てた先生を探している事も知っている。だから俺は、博識で頭の回転も早い天津に、訊いてみる事にした。


 そして訊いた結果、天津にも見当が付かないと言われた。

 うん、参考にならない。







 しかしこうも言った。


「意外と身近なところにいたりして」


 身近なところか。だが俺の知り合いで誠司さんより、年上で強い呪術士なんて限られてくる。いや、年上というのがミスリードかもしれない。



 でも百瀬って苗字の知り合いなんて、そもそもいないしな。


 先生といえば日役先生とか――。


 ん? なんだ今の違和感。




「どうしたの?」


 気づけば天津にそんな質問をされていた。


「いや、日役先生がなぜか俺の中で引っ掛かって」


「日役先生?」と天津が首を傾げる。


 日役先生の名を二人で何度も連呼する。


「日役――ひゃく……百」


 二人であっ! と同時に声をあげた。


 もしかするともしかして。







 俺達が考えただした事はこうだ。ひやくと百が似ている。つまり、日役先生が百瀬の名前を隠す為に作った偽名。


 あまりに子供っぽい考えなのだが、なぜかそんな気がした。


 だが段々と馬鹿らしいと思うようになり、二人にして笑いだす。



 まさかな……。















 式神が東京の街に召喚される事件も、四術士の協力で迅速に解決された。全てが終わってから日は沈み、ビルの屋上から見える夜景は、まるでなにもなかったかのように綺麗に輝いている。


 しかしビルの屋上に立つ長髪の男は、そんな景色には目も暮れていなかった。


「どうだ、現代の実力は」

 その男が話しかけ相手は、白いフードを深く被っていた。


「……大した事はない」


 不意に風が吹き、フードが頭から外れる。 

 白髪の少年の黒目が金色に変わり、その中に五芒星が浮かび上がる。

 今見ている世界を、全て吸い込んでしまいそうな程に、少年の目は独特の魅を放っていた。

 

 




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ