会議
廊下は豪勢な飾り付けがされていて、絨毯も綺麗に清掃されている。そんな高級なホテルの一階を貸し切りにし、彼等は集まっていた。
先頭に立つのは和服に身を包み、気品に溢れる姿で歩を進める、四之宮光茂。後ろからその背に付いて行くのは、左から四之宮誠司。四之宮桜子だった。
誠司は額に汗を浮かべた。
「あー、やばい緊張する」
それを見て桜子は愉快に笑う。
「みんなで会議なんて楽しそうじゃない」
「桜子さんは緊張感無さすぎなんですよ」
「誠司君は緊張しすぎ。スーツ後ろ表逆よ」
指摘通り、前に背の部分があった。なんで教えてくれなかったんですか。と慌てながら正す誠司。
誠司と光茂は正装をしているが、桜子だけは暑いとう単純明快な理由から、女子大生らしいラフな格好をしている。
「静かにしろ」
光茂は低い声で言ったあと、重い扉を開けた。
四角いテーブルの前に座っている顔ぶれ、錚々たるものだった。正面から左に座すは――十文字家当主、十文字彩芽≪じゅうもんじあやめ≫。
二子の母とは思えない美貌を保っており、しっかりとメイクをし、目の下には青いアイラインを引いている。未だに長く伸ばした髪は盛大に盛られている。
そして身体には小さな女の子を抱いていた。140センチほどしかないその子は、幼い顔立ちをしていて、銀色の髪はふさふさとしている。しかしそんな彼女は四術士の一人、十文字千夜≪じゅうもんじちよ≫である。
後ろには一人、女の従士がついている。
正面から右に座るは――六車家の四術士、六車大我≪むぐるまたいが≫。後ろには二人の従士を付けている。
そして最後に、上座に座るのは百瀬家当主――百瀬聡士≪ももせそうし≫。
まるで時代劇の将軍のように凛々しい顔しているが、この中では一番の年上だった。だが髪はいまだに黒く、十歳くらい若く言われても分からないくらいだ。
聡士だけは、後ろに誰も従士を付けていなかった。
だがそんな顔ぶれにも引けを取らないのが、光茂、誠司、桜子だった。
四之宮家が入ってくるのを見て、最初に反応を示したのは大我だった。
「おーう、誠司。久しぶりだな」
誠司は苦笑いを返す。
「お久しぶりです、大我さん」
そんな会話を聞いていた十文字家当主、彩芽は、誠司を見て目を輝かせた。「あら誠司君、また格好良くなって。貴方みたいに誠実で強い人なら、うちにも欲しいわ。ね、千代」
千夜はぶっきらぼうに拒絶する。
「イケメンに興味は無いのです」
つれない返事が返ってきても彩芽は顔色を変えなかった。
終始苦笑いをしている誠司に対して、桜子は強気だった。
「うちの誠司君は、彩芽さんみたいなおばさまにはお渡しできませんわ」とにっこり笑う。
これにはさすがの彩芽も顔色が変わる。
「大学生のガキには大人の魅力が分からないのよ」
それを聞いて、桜子は大袈裟に笑う。「浮き出たほうれい線とか、たるんだ脂肪は、確かにおばさまの魅力ね」
みるみるうちに、彩芽の顔が真っ赤になる。
それを見ていた大我が、仲裁に入った。
「おいおい、いきなり喧嘩とか勘弁してくれよ」
しかし喧嘩腰の会話は止まない。
――場を沈めたのは、百瀬の呪術だった。
全体に強い呪力を誇示し、周りの会話はすぐさま止んだ。
誰もが口を開けずにいる中、光茂が口火を切った。
「百瀬殿の手を煩わせてしまい、深くお詫びします」
百瀬は鼻を鳴らし、別に良いと一言。
大我は頭を掻いてから、「それにしたって、百瀬さんよお。従士も無しにここに来ていいのかよ?」
周りと比べれば確かにおかしかった。他の三家には四術士が付いている。だが百瀬にはそれどころか、従士もいない。
しかし顔色を変えなかった。「ここには頼もしい術士が多くいる。なにも問題は無い」
「信用しすぎだろうよ」
そんな質問をした六車大我だったが、彼等六車家にも不審な点はあった。それを付くのは彩芽。
「六車家こそ、当主が来ないで大我君を寄こすなんてどういう事?」
「うちの当主様は病気が悪化してな。出て来れるような状態じゃねえんだ。だから今日の俺の言葉は、六車五典のもんだと思ってくれて構わねえぜ」
「そっちのが気楽ね。あの男、裏でこそこそやってて信用ならなかったし」
十文字と六車の話が終わった頃に、光茂が咳ばらいをする。
「腹の探り合いはこの辺にして、本題に入りましょう」
マントラの家系が集まった理由。それは派閥についての会議だった。当主どうしが同じ日時に同じ場所に集まる事は困難で、決定から実現までに時間がかかった。協力体制は優れているとはいえない。
彩芽はそうね、と同意してから、まとめた資料を読むように、従士に促す。
「はい。先ず、東京で派閥の動きが活発化しているとの事でしたが、そのうちの三人の顔と身元が割れました。一人は六車家の――」
名前を聞き、大我が苦い顔する。
「そして四之宮家――」
光茂は顔色を変えず、頷く。
「最後は恐縮ですが、十文字家――」
その証言を聞いて、百瀬が口を開く。
「驚く事ではない。最初から我々の中に裏切者が出ている事は分かっていた」
言葉を拾い、光茂が続ける。「それの対策をどうするかですね」
百瀬が頷ずく。
十文字家の従士が資料に目を向け、更に続けた。
「そして他に一名の派閥のものを捕縛したのですが……。我は正しき行いをしている。悪の根源を絶つために神の元、行動を起こしたのだ。――とわけの分からない言葉を口にした後、自死の呪術で命を落としました」
「敵の狙いはなんなんでしょうか」誠司がぽつりと漏らす。
そこで大我が手を上げる。
「参考になるか分からねえが。……この前うちの弟が、帽子を被った派閥のやつに襲われた。四之宮家の娘さんもそうだったな?」
「ええ。娘の証言では殺す気は無く、捕らえる事を目的にしているようだと」
光茂と大我の会話の後に、更に会議の雰囲気は重くなる。
そんな沈黙を破ったのは、彩芽だった。
「敵の狙いは次期当主を人質にして、私達から政権を奪う事よ! そうに違いないわ」
安直な考えだったが、光茂はそれに頷いた。
実際、シンプルだが的は得ていると思えた。
だが狙いが分ってもその対策が大事。何度か街を襲う案件も出ているし、野放しにはできない。根絶するにも敵の隠れ家などはいまだに見つかっていない。
そんな時、一人の男が慌ただしく部屋に入って来た。
「なんの騒ぎだ」
百瀬に問われ、緊張した面持ちで男は言葉を発する。「街に式神が多数出現しました」
場が騒然とする。大我の指示で、室内のテレビを付けさせた。
情報番組では突如、原因不明の発火事件が起きた。など、他にも色々な現象が同時に起きていると報道していた。律儀に結界をはり、式神の姿を消しているらしい。
迅速に当主達が指示を飛ばす中、桜子だけは笑っていた。
「――やっと面白くなってきた」




