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エジ




栃木の一件以来、己を恥じていた。あれだけ守ると豪語していながら、詠唱の本もろくに開かず、学外での修行も大してしていなかった。


 ただ今は違う。朝陽の事を知った以上、怠けてなどいられない。いち早く、誰よりも強くなる。その為に詠唱の本を熟読した。


 しかし、夏休みの間は学校に立ち入れない為、課題である呪力コントロールの修行はできていなかった。


 だが今日は待ちに待った登校日だ。








 ちゃちゃっと制服に着替えて、外へと繰り出す。


「よっしゃあ、張り切ってくぜ」

 テンションが上がり過ぎて、心の声が漏れてしまった。ついでにいえば、ほぼ同時に薫子も部屋から出ていた。


「気持ちわる」

 蔑んだ目で見られ、上がってたそれはぐんぐんと急降下した。






 夏休みを挟んでいたせいで道がうろ覚えの為、薫子が先導してくれた。都会の道には慣れない


 そして見慣れたD組の教室に入り、いつもの席に座った。


「おっーす」


 隣の朝陽と軽い挨拶を交わす。


 そして直ぐに、日役先生は姿を現した。ついに待ちに待った授業だ。

「夏休みは有意義に過ごせたかな。ああ、ところで、今日の授業は予定した時間より短縮する事になった」


 短縮……。


 楽しみにしていたのに。


 前だったら絶対、喜んでいるところだが……。


 何てタイミングが悪いんだ。狙ってるだろこれ。俺を貶める罠だろ。










 結局、日役先生はこれといった説明をしてくれなかったので、隣に座っている朝陽に理由を訊いてみた。あまり期待なんかできないが。


「あー、東京で色々あるんだってさ。大我兄≪にい≫が言ってた」


 あっさりと答えを出してくれた。予想外でなにも言い返せず、感心する一方だ。








 それから日役先生が教室を出ていき、講師がやってくる。一限目の授業が始まった。  

 いつもの七時間の授業と比べれば、それはあっという間で、どこか物足りなかった。


 学校が終わると、朝陽に一緒に帰ろうと誘われた。しかし考えあぐねる……。俺は一つ調べたい事があったからだ。


「悪い、ちょっと用事が」


「そっか。俺は早く帰れって言われてるし、もう行くわ」


 じゃあな。と残して、朝陽は教室から去った。








 それから薫子に近付く。周りには婚約者と思われているし、それに誓いをした俺は彼女を守らなければならない。その為、一緒に帰るのも日課になっていた。しかし今日ばかりは無理そうだ。


「悪い、薫子。今日は用事があってだな」


 薫子は表情を変えずに、本を閉じた。


「問題ないわ。私の事は気にしなくていい。――それに、一人の方が安全かもしれないし」


 相変わらず一言多い。


 まあ薫子なりに、俺を気遣ってくれてるのであろう。








 俺は一人で図書室に向かった。詠唱の本を手に入れる為に。一度行ったことがあったが、それでもたどり着くまでに数十分掛かってしまった。そして図書室の中には、俺と図書委員の人以外誰もいない。早期帰宅を促されたからだろう。これは好機だ。ゆっくりじっくり時間をかけて探せる。


 図書室にもう一度やって来た理由は一つ。修行効率を上げる為だ。やみくもに本を漁り、自己流で修行をしてもダメだ。そこで俺は、四之宮家の四術士、誠司さんの言葉を思い出した。


 百瀬という先生に個人指導をしてもらった。


 彼はそう言っていた。


 だから俺は態々、昔の烏枢沙摩高校の名簿を探しに来たのだ。さすがに図書室ならば置いてあるはずだ。


 ここで一つ、そんなのは担任にでも聞けば良いと思われるかもしれないが、少し前に溯ると、こんな事があった。

 









 ――いつの日か。


 俺は日役先生と二人きりで話す機会があった。それは二者面談だ。その時に気になってた訊いてみたのだ。


 百瀬先生について。名家の先生ならそれなりに有名だろうし、あの誠司さんの師匠となれば尚更だ。


「百瀬。いるね、確かに」


 あっさりと見つかり、心底、嬉しかった。


「あの四之宮誠司さんを育てた百瀬先生が! いるんですか!?」

 この時は期待の眼差しを向けていたと思う。しかし返って来た言葉はあっさりとしていて、なにより残酷だった。


「うちの学園長だね。でも、誠司君を育てたのとは違うと思うよ」


 学園長……。初耳だった。


 それになりよりあっさりと違うと言われてしまったのが、納得いかなかった。それにまだ断言はされていない。


「なぜそう思うんですか。日役先生が知らないだけで、そうかも――」


「いや、僕はあの人の事をよく知ってるけど、人に進んで教えたりしない。行動理念が一貫してるからね。なんなら直接訊いてみればいい」


 不敵な笑顔を浮かべられ、俺はなにも返せずにいた……。

 









 そんな事があり、俺は今ここにいる。


 直接聞くとか、おこがまし過ぎだろ。ほんと、あの先生は性格悪い。とはいえ、こうやって自分で調べて真実に辿り着くというのはワクワクする。








 俺達が五十期生だから、誠司さんは……。そもそも幾つなのだろう、あの人。見た目は凄く若そうだから――25くらい?


 そして順番に名簿を確認すると、四十四期生の卒業名簿に誠司さんの名はあった。


 高校生の若かりし誠司さんの姿がそこにあった。今となんら変わらないが、少し幼くも見える。


 こんなに若く四術士とか、本当に才能の塊だな。それに十戒とやらが使える唯一の人物だというし。恐ろしい。







 しかし百瀬という名前を探したが、どこにも見つからない。誠司さんは烏枢沙摩高校の先生だと言っていたのに。どういう事だろうか。


 それにしても昔の名簿って面白いな。なんだか見ちゃいけないものを覗き見してるみたいで。もしかしたら桜子さんとか、他の人見つかったりして――。








 俺はそれから時間も忘れて名簿をひたすら読み進めた。


「あ、水無君」


 不意に声をかけてきたのは、意外にも天津だった。真面目な彼女がまだ残ってるとは。


「なにしてるんだ?」


「えっと……」


 言葉が煮詰まっている理由がなんとなくわかった気がする。手に持っている本に『精神力を鍛える』だとか、『血への恐怖心を無くす』と書いてあるからだ。


 栃木の一件を気にしているのだろう。








「泊りの事なら、あまり気に病むなよ」


 天津は即座に首を横に振る。

「ダメだよ。わたし、みんなに迷惑をかけたから。今度はちゃんと力になりたいの」


 思わず息が漏れる。

 なんだか、俺なんかよりみんな、努力しているんだな。自分も頑張らなければ。そんな気持ちにさせられる。







「水無君はなにしてたの」

 訊かれたので、ここまでの経緯を話した。


 すると、天津も興味が湧いたらしく、二人で調べる事になったのだが、それは――三十九期生の名簿。なぜか俺達の目を引いた。


 天津が感想を漏らす。

「この年だけ、主席が二人いるんだね」


言葉の通り、本来は一人である主席卒業者が二人いた。一人は七瀬桐蔭≪ななせとういん≫。そしてもう一人は――百瀬。








 ついに見つけた。


 しかしその時、普段は歴史の講師をしてくれている、白髪の堅物先生が現れた。扉を大きな音をたてて開けたので、瞬時にそちらを見てしまう。


「お前達!今日は早く帰れと言われているだろ!」


 天津が瞬時に頭を下げて謝り、俺もそれに習った。そして先生に急かされ、そのまま図書室から追い出されてしまった。


 百瀬の名前は見えなかったし、顔写真も記憶に残っていない。なんともむずむずする。だが明日も学校はあるし、また確認すればいい。








 流れで俺と天津で一緒に下校する事になった。早く帰れと言われているし、もしかしたら危険もあるかもしれない。女の子を一人で帰すのもあれだ。


 そういえば――薫子は無事に帰れただろうか。


「もしかして薫子ちゃんの事、心配してる?」

 不意に天津が虚をつく質問をしてきた。


「してないしてない」


「嘘だ。だって、俺の愛しのマイハニーが。みたいな顔してたよ」

 無邪気に笑う天津。


 なんだかせこいな、この笑顔は。薫子のものより断然いい。アイツも笑えばましなのだから、天津を見習えばいいのに。





「はいはい、茶化すの禁止」

 咎めると、天津はえーと可愛らしい声を漏らした。


こうして二人で話す機会も中々無かったので、天津とは話が弾んだ。なにより彼女は物知りだった。呪術の事から、東京の事まで多岐に渡り。


 そういえば、前に朝陽が元はBクラスだと言っていた。その事についても訊きたいが、踏み込んでいいものか……。








 ふと、目の前に不審な人間を見つけた。白いパーカーの帽子を深く被っていて、足下がふらついている。千鳥足とはいかないが、どこか危ない感じだ。関わらないようにしよう。


 そう決めたのだが、すれ違いざまに急にこちら側に向かってきて、俺が突き飛ばす形になってしまっあ。


 さすがに突き飛ばしてしまって、無視もできない。


「大丈夫ですか」

 声をかけると、白いパーカーはぶつかったときの衝撃で頭から離れていて、彼の容貌があらわになった。


 一際大きく、まるで吸い込まれるような目をしていて、髪の毛は白一色だった。しかし顔はあどけなく、まだ若い。俺達と同じくらいか、もうちょい下。





 俺が声をかけてもなにも返ってこず、更に天津が声をかけた。


「あの怪我ないですか?」


「痛みは無い……」 

 なんで天津には反応するんだよ。男女差別か。








 したって、なんか変わった子だ。それに目も死んだように据わっていて、昔の薫子を連想させた。いや、ここまで酷くは無かったか。


 だが、同じくらいの年のやつにこんな顔をされると、凄く弱い。お節介焼きなわけじゃないが、放っておけなくなる。


「君、どこから来たんだ?」

 つい訊いてしまう。

 足取りも不安定だし、何か事情があるのかもしれない。







「京都」

 ぽつりと、彼はそう答えた。


 京都から東京まで。まさかそれで迷子になって路頭に迷っている。絶対そうだ。今日は冴えている。

 天津と目を合わせる。


「放ってはおけないよね」

 天津も同じ意見のようだった。







 まだ東京に来てから数か月だが、それなりに道にも詳しくなった。俺がどんと案内してやろうじゃないか。

「迷子なら、俺が案内してやる。水無良太郎だ、宜しくな」


 死んだ目でこちらを見据えて、水無……。と呟かれた。


 本当になんなんだこの子






「わたしは天津明。君の名前はなにかな?」

 まるで年下男子に語りかけるような言葉使いと、言い方。天津は中学生とでも判断したのだろうか。


「俺は――エジ」



 日本人にしては変な名前出し、外国っぽくもない名前だと思った。でも白髪だし、やっぱり外国かどこかなのかもしれない。いやでも、それにしては日本語が流暢過ぎるか。


 それにしたってエジって、どこかで聞いた名前のような気がするんだよなぁ。


 考えてみるが、答えは出ないまま、一陣の風が吹いた。











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