表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/97

温泉




 案内された部屋は畳で、四人で使うにはかなり大きい方だ。客室だからか、中身こそ殺風景だが、気にしない。

 さすがは名家。


 何畳あるかと数えていたが、途中で飽きて止めた。






 荷物を置いたところで、朝陽が何をしたいか訊いてくる。

 思ったよりも着くのに時間がかかって、微妙な時間だ。それにこんな山奥じゃな。呪術の特訓とかはいいかもしれないが。






「そうね、お湯に浸かりたいわ」

 これまた、近年あまり聞かないような言い回し。

 汗を掻いたからか、女子達はお風呂ムードなので、俺も賛成し、賛成多数で可決となった。







 本家とは少し離れたところに、源泉があるらしく、そこに四人で向かう。

 源泉は凄いな。とか、肝試しみたいでワクワクしますね。とか話をしているうちに、辿り着いた。因みに、この時四時くらい。


「女子はそっちで男子がこっちね」

 朝陽が指示をし、二組に分かれた。きちんと決まっている訳では無いらしく、朝陽がその場で決めた感じだ。










 脱衣所で服をさっさと脱ぎ、源泉の湯とやらを拝みに行く。安い旅館の入浴剤で作ったような温泉しか浸かった事のない俺にとっては、楽しみな一瞬だ。

 扉を開けると、湯気で前が見えないくらいの温泉があった。

 手を当てると、良い感じの温度だと分かる。










「おらっ!」

 その掛け声と共に、俺は背を蹴られて水面に落ちた。

「てめぇなにすんだ!」


「言葉使いが乱暴だぞ、田舎のヤンキー」

 朝陽が笑っている隙に、手を引いて落とす。

 大きな水しぶきが舞った。


「んにゃろ」

 その間にシャワーを持ち、温度を下げてから朝陽に向けて放つ。


「あ、ちょっ、冷たい!」


「ははっ、俺を貶めようなんて百年早い」

 次の瞬間、朝陽は水中に潜った。

 これには驚きを禁じ得ない。






「温泉の中なら、君の水なんか気持ちいいね」

 大きな声を出して笑う朝陽。 


 思わず歯ぎしりをする。 









 それから二人の間に長い沈黙がやってきた。風で鳴る林の音が聞こえるくらいの。


「虚しいな」


「そうだな、止めよう」


 それから二人で静かに温泉に入った。人の家の温泉で少しやり過ぎたと反省しながら。

 二人で浸かると、やはり恒例のあの話になろうとしていた。





「なーなー、良太郎。薫子ちゃんと風呂とか入った事あんの?」

 突然の話題だった。温泉からそれは関係があるようで、飛躍している気がする。

「あるわけねえだろ。誘われても嫌だね」

 誘われないだろうが。


「なら女子の方も気になるわけだな」

 朝陽が女子側をチラ見する。


 確かに、ここはいわゆる露天風呂だ。こんな山奥にあれば、まあそうなるだろう。イベントタイミングとしては絶秒だ。だが、俺はのらない。これから気まずくなるし、それに呪力でまじで殺されそうだ。一日目からそれは本当に簡便してほしい。


「ならん」


「またまたー、男の子だろ?」


 本当にしつこいやつだ。俺がアイツの魅力の無さを力説しなければいけないようだな。

 ま、それなら言葉が次々出てきそうだ。


「見る価値が無い理由一。先ずは口が悪い。それと胸が無い。愛想も無い。可愛げも無い。何も無い。ないない尽くしなんだよアイツは」


 あまりの激しさに、朝陽が引いている。これはまずい。


 その時、反対側か女子の声が聞こえてきた。

「さっきから、貴方達の不毛な言い合いは全て聞こえているのですが」 

 間違いなく、薫子の声だった。


 よく考えなくとも、露天なんだから聞こえていて当たり前じゃないか。それくらい計算するべきだっただ

ろ。


 あー、最悪だ。怒られる。

 俺と朝陽が二人で震えだす。

 やはり薫子には敵わない……。  

 











 先に湯から出て、さっさと着替えた。用意してもらった浴衣だ。黒くておじさんくさい。俺にはあまり似合わない。


 部屋に戻って薫子達に会わないようにしないと。

 体重を測るとか、扇風機に当たるとか、ミルクを飲むなどの一連の流れを無視して、俺は一人で外に出た。









 一本道だったので、本家への道を間違うはずがない。はずだった――。


 どこだここ。周りが木ばかりでなにも分らない。もしかしたらスタートから間違えていたのかも。

 踵を返そうとした時、焼け焦げた古家を見つけた。少し距離があるが、暗がりでも分かるくらいに。幽霊屋敷かなにかか? そんな事を考えると急に怖くなってきた。








 走り出して数分経った頃には、目の前に六車本家があった。

 安堵から息が漏れる。


 玄関の前では朝陽が待ってくれていた。

「どこほっつき歩いてたんだよ。心配したんだぞ」

 と少し怒り気味に言われた。


「悪い、道に迷って」


「良太郎は絶対、携帯を持った方が良い」

 よく言われるが、俺には電子機器は扱えない。操作が難しいからだ。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ