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天然







 見事にC組を打倒した俺達だったのだが、あまり喜びに浸る時間も無かった。なぜなら烏枢沙摩高校には休みが少なく、あっても予定が合わなかったりとすれ違いが多かったからだ。


 そして時は過ぎて七月も後半。東京の夏の厳しさを思い知る頃に、ようやく俺、薫子、朝陽、天津で集まる事ができた。飯田君は俺達とはあまり仲良くないから、呼んでいない。まあ合うやつどうしでつるめばいい。俺の基本理念だ。








 特に予定は決めていないのだが、東京を詳しくない俺に案内をしてくれる事になっている。

 寮の前で三人集まり、天津とは学校前で合流。それがいつものパターンだった。

 そして昼頃には全員で集まり、駅近くを散歩する流れとなった。







 朝陽と天津が語った東京あるあるとして、駅地下と駅近を間違える事などを上げてくれたが、まるで同意しかねる。なぜなら俺の住んでいた長野の町の駅に、地下なんていう秘密基地的なものはないからだ。あくまで俺の使っている駅はだが。 









 それからお洒落な雑貨屋に入り、天津は一人テンションを上げている。いわゆる可愛い系のストラップやら、人形やらを置いてあるのだが、もう一人の女子、薫子は興味無さそうなので、一人で舞い上がっている天津が可哀そうにも見える。


「見てください。クルネコ! わたしのマイブームなんです」

 天津が見せて来たのは、小ぶりの人形だった。車に乗った赤毛の猫が厳ついサングラスをしているが、どこか不格好で気色が悪く見える。可愛いのだろうか、これは。少なくともこの店から可愛くない商品を選べといわれたら、俺は間違いなくこれを選ぶ気がする。


 それを興味深そうに見たのは、意外にも薫子だった。

「これが女子高生の流行り……」と、メモを取り出す。

 違うと思うぞ。

 態々、指摘するのも面倒なので放っておく事にした。









「天津さん、センスが独特だからなー」

 そういう朝陽に、俺は全編的に同意だ。

 だが真面目な容姿で独特のセンスというのは、ある意味でギャップかもしれない。

 雑貨屋で購入したクルネコを天津はショルダーバッグに早速、付けていた。

 それで雑貨屋とはおさらばし、どこに入るでもなく談笑しながらブラブラする。前の青春と同じような事をしている気がしたが、形容しにくいなにかが違う気がした。まあ目に見えて分かるものがあるとすれば、都会であるとか。


 と、先頭を歩く朝陽が足を止めた。










「なんだろ、あれ」

 指を差した方向には、女子高生が数人溜まっていた。「美男美女カップル! モデルさんとかかなー」

「あーね」

「サインでも貰っちゃう?」

「それな」

 などとの会話をしている。









 半分は俺の理解できない言葉を使っているが、有名人というのは気になる。自慢じゃないが、生まれてこの方、有名人を見たことが無い。東京に来れば会えると噂には聞いていたが、まさか本当だったとは。

 東京パワー恐るべし……。




 女子高生の視線の先から聞こえた声は、まだ若い女性のものだった。声こそ聞こえるが、後姿のため誰かは判断できない。








「あ、誠司君、あれ可愛くない?」

 誠司と呼ばれた男性は、両手に多くの紙袋を持たされている。男女差の激しいカップルだ。


「もう持てませんよ、桜子さん」


 桜子さん……。

 その名前に、俺は自分の耳を疑った。











「男なんだからだらしないこと言わないの」

 その瞬間、桜子と呼ばれた女性は振り向き、俺と目が合った。











「あ、良太郎君、ハロー♪」

 助けを求める目で薫子を見たが、彼女もまた同じ目でこちらを見ていた。


 そして同時にため息をつく。

 最悪だ……。











桜子さんは直ぐにこちらに近づいて来て、挨拶をした。相変わらずのコミュ力である。それと毛先が紫から、茶色に少し赤が混じった髪色に変わっている。お洒落とは可変であるとはこの事か。


「アタシ、水無桜子。大学生だよ、宜しくね」

 

 さすがに桜子さんには事情が話されているらしい。だから今も水無と名乗っている。

 つまりは薫子の元の苗字が水無という事になって、ああもう紛らわしい。

 

 どちらにせよ、自分の苗字を他人に名乗られるのは良い気分じゃない。


 天津さんがぽつりと呟く。

「水無って、どっちのお姉さん……」


「勿論」

 と、俺の背後に周り、なぜか抱きついてきた。

 大きな胸がまた――ってそうじゃない。なんで勘違いさせるような行動をするんだ。







「良太郎君のお姉ちゃんだよ♪」

 え。


 振り向くと満面の笑みでこちらを見ていた。心の奥はどす黒いのだろうが。

 話を合わせないわけにもいかないので、はいとだけ答える。なんでこんな嘘を付くのか理解できないが。


 朝陽が羨ましいと感想を述べたが、まあそれはどうでもいい。






 そして隣にいる男性……。こき使われているこの人は誰なんだろうか。物腰も柔らかいし、従者の人だろうか。


 髪型は綺麗な黒髪で、サラサラヘアー。少し青みがかってる気がしないでもない。絵に描いたような美形で、身長も大きくスリムだ。


「あ、もしかして四之宮誠司さん!?」

 そう言ったのは、朝陽だった。

「四術士で、現代最強の呪術士って謳われる!」






 四術士……。そういえば聞いた事がある気がする。


 その誠司さんは照れた笑いを浮かべている。「あはは、大袈裟な言い方しないで」

 四之宮家の人とは思えない謙虚さ。驚きだ。





 朝陽と天津は瞳を輝かせている。まあ最強なら仕方ないか。言いながら、子供っぽい響きだとか思ったりする。

 とその時、誠司さんが薫子に近付いた。


「あ、薫子ちゃん久しぶり」

 これはまずくないか。


 ふとそう思ったのだが、薫子も焦った表情をしている。桜子さんだけでも辛いだろうに、更にこの追い打ちだ。

 四之宮家の人間と、今は水無の名を持つ薫子が知り合いだとしれたら疑われてしまう。 







「誠司君……」

 これには桜子さんもため息を漏らした。

 キョトんとした顔をしている辺り、誠司さんは天然なのかもしれない。


 さらりと薫子は挨拶し、何気なく終わらせようとしたのだが、そう上手くはいかない。

 朝陽がこんな時に限って勘鋭く訊いてくる。

「そーいや、なんで誠司さんがこんなところに? それに四之宮家の人とどういう知り合い?」


 薫子は明らかに考えあぐねているが、やがてなにか考え付いたのか、自信満々な表情に変わった。

「誠司さんは桜子さんの彼氏なの」

 まるで仕返しができたかのように誇らしげな薫子。その健気さに少し心が痛んだよ。







「そうなの♪ ま、元なんだけど」

 こちらに合わせて来たかと思いきや、桜子さんのまさかの切り返し。

「この人頼りにならないから、私がこの前振ったの」

 攻撃のはずが、最強術士を手玉に取る怖い人に格上げされてしまった。桜子さん恐るべし。







「すげぇー! 桜子さんかっけー!」

 朝陽は一人なぜだか感心している。

 そんな最中も誠司さんだけはキョトンとしていた。




 場が落ち着いたところで、桜子さんの手を引いて少し離れた。表向きの姉弟という関係を利用して、疑われずに済んだ。


「ちょっとどういう事ですか」

 なにから質問していいか分からず、曖昧な言葉になってしまった。


「あ、姉弟なのに良太郎君呼び気に入らないのかな? それにはお姉さんなりの設定があってだねぇ……」


「そうじゃないですよ!」

 この人にはペースを乱される。もっと落ち着いて話そう。







「なんで東京にいるんですか」

「薫子の顔が見たくて、少し心配だったし」

 本当の事を言ってるとは思えなかったが、何度目かの顔合わせでそれを否定するのは如何な事かと思って止めた。






「ま、本当は東京の下見にね」

 下見? なんの事だろう。




 俺に質問する時間を与えず、桜子さんは喋り続ける。

「それにしてもこっちの世界に随分、詳しくなったのねー。四術士も知ってるみたいだし」


「そりゃどうも」


「呪術はどれぐらい使えるの? 薫子より凄かったりして」

 笑みを浮かべているが、心でそんな事を思っていないのは分かる。これで浮かれる程、俺は女性耐性は低くない。

「薫子の実力は一番、桜子さんが知ってるでしょ」


「あれでも足りないけどね」

 冷めた返事が返ってきた。







 そこで話は切り上げられ、二人で合流した。

 朝陽と天津さんがせっかくだから、一緒に昼でも食べようと言い出し、その流れになった。断るのも不自然だったし、いや仕方ない。それに俺も、四術士とやらは気になる。今のところはただの天然の印象しかないし。















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