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初戦





 俺、天津、飯田は別行動で玉を探し、六車は一人で玉を守る。それが作戦だった。

 白井以外の二人は六車を追いかける。

 となれば白井一人で探索する事になる。確実に取れる一つに狙いを定めたのかもしれないが、数的有利があるのは有難い。






 さっさと校舎の中に入り、探索を始める事にした。

 一番、近くの教室に狙いを定めて発の指紋を描く。

 今のところ発と護を少しだけしかできない。ただ呪力量が異常な俺なら、それだけでも……。


「発!」

 教室の全ての椅子が吹き飛び、成功はした。校内は置いてある物一つ一つに、律儀に結界と呼ばれる防禦壁がはってある。だから、なにも損害はないが――。

 どうも調節ができない。






 ともあれ。ここに玉は無かった。次の場所へ向かおう。

 一階の教室を片っ端から調べていく。そして俺は廊下の途中でつまずいた。

 

 いてっ。

 振り向くと、何もない。流石に何もないところで転ぶほど、俺も老いてはいない。まさここは……。

 手探りで何度も転んだ場所を探す。すると一つの玉を掴んだ。




 ――あった。これで一つ目。

 このままいけば作戦通りに勝てるはずだ。

 とその時、硝子が割れて一人の男が目の前に現れた。







「態々、見つけてくれてありがとよ」

 憎たらしい白井の顔がそこにはあった。

「結界で物は壊れないはずだろ」


「呪術ではな。ただ俺の木刀、『龍虎』なら話は別だ」

 打撃攻撃には干渉なしってわけか。つか龍虎って、龍か虎どっちかにしろよ。





 俺は硝子が割れた時に、思わず尻もちをついてしまった。つまりは見下されてる形。だからこのまま戦

闘になれば圧倒的に不利。呪術ではなく話術で時間を稼ぐか。


「いいのか? 硝子なんか壊して。先生に怒られちゃうよ?」


「先生にビビってたら、木刀なんて振るえねえよ!」

 その瞬間、白井は木刀を振り下ろした。後ろに飛び、間一髪でそれを避ける事ができた。

 アイツ、容赦ねえな。







 間合いに入って木刀を振られたら相手のペースだ。先ずは距離を取る。

 だが、その考えは甘かった。白井もまた発を使っての加速をしたのだ。

 途中の教室の扉を無理やり壊して、俺は中に入る。武器を持ってるやつ相手には、なにか持って戦わないと心もとない。



「お前だってぶっ壊してんじゃねぇかよ」

 振り向くと、白井も教室に入ってきていた。

「田舎のヤンキーなもんで」

 笑ってはみたが、苦笑いにしかならない。武器に使えそうなものがなかったからだ。仕方なく、玉をポケットに入れてから椅子を持って構える。

「んだそれ。田舎のヤンキーは椅子が武器なのか?」

「なんでも使える柔軟性があるんだよ。そんなのいいから、かかって来いよ」








 白井が後ろ手に指紋を始めた。

「そういう事なら!」

 発で加速して、こっちまで一直線。

 木刀を振るタイミングに合わせて、俺も椅子を振るう。その瞬間、手にじんとした痛みが奔った。

 何回か打ち合ったところで白井が距離を取った。

「腰入ってんじゃねぇか、田舎のヤンキー。……けどよお」







 木刀に俺の見たことの無い指紋をする。「我が血 代価とし 我が剣 呪とする 憑!」

 唱え終えた瞬間、木刀にオーラのようなものがかかる。これがデータにあった憑か。

 その木刀を振って来たので、俺も反射的に椅子で応戦する。しかし先ほどのように打ち合えず、あっけなく椅子は飛んだ。

 さっきとは比べものにならないほどに、腕がじりじりと痛む。手先が麻痺して、思うように動きさえしない。







「憑依した龍虎を、なんの細工もしていない椅子で防げっかよ。D組の落ちこぼれには特にな」

 白井は大きく笑った。







 まったくその通りだよ。俺には、んな技術ねえ。

 剣速も上がってるし、さっきみたいに見切れない。……結構辛いなこれは。

 そしてもう一度、白井が木刀で横切りをする。それもなんとか下がって避ける事ができた。アドレナリンが出ている気がする。

 意外に何とかなるかも、そう思った時。白井の顔には笑みがあった。

「かかったな」

 木刀の先に指紋が出現し光出す。


 これはやばい――。

 次の瞬間、そこから衝撃波が起こり、俺の身体は教室の一番、奥まで吹っ飛んだ。壁に当たると口から血が出た。






「あらかじめ呪術を創っておけば、呪力を籠めるだけで発動できる。特にこの龍虎とは相性が良い」


「そんなの授業で習ってねえよ……」

 息が荒くなる。まずいところを打ったかもしれない。







「じゃあ先生を恨んで、さっさと死ね!」そう言いながら、白井は俺のところへと向かってくる。

 大人なんか恨む前に、期待もしてねぇよ。

「つか言葉使いが乱暴なんだよ。都会人!」

 指紋を描いて、発を発動させる。部屋全体を包むような大きさだった。これならダメージくらい与えれるはずだ。





「てぇなぁ……」

 端まで吹き飛んだ白井はそう言っているが、目に見える損傷はない。まさか防がれたのか。

「水無良太郎。D組の呪力おばけだって噂を聞いてたが、本当にすげえな」


 おいおい、俺の呪力が凄いのばれてたのかよ。知らないと思って使わずにとっておいたのに。それと、そのダサい二つな付けたの誰だよ。俺ならもっと格好いいの思いつくぞ。今は出てこないけど。


 格下の相手とはいえ多少の情報はあるのか。じゃあ大した呪術を使えない事もばれてるかもな。全くやり難い。




「だがな。こんな広範囲に暴発させてたら、せっかくの呪力が宝の持ち腐れだぜ?」

 言い終えるが早いか、裏口から教室を出る。

 範囲を絞っての発動。それで威力を上げられるってわけか。

 けど知った事を一朝一できるほどの才能もない。ならば今の少ない手数でアイツを倒す方法は――。







 答えを導き出す前に、裏口から白井が姿を現した。

「よお、男なら逃げんなよ」

「戦術的撤退ってやつだよ」

 言葉と同時に発を発動する。


 しかし木刀を前に突き出したままの姿で、白井は立っている。防がれたらしい。


「あんま難しい言葉使うなよ。頭痛くなる」

 どうやら本当にヤンキーらしい。いや、ヤンキーだからって頭が悪いというのは偏見か。俺のような別種も存在する。とか思ってみたり。








「なあ、白井先輩!」

 データに三年と書いてあったので、白井は一つ上だった。


「その憑ってのは、武器の周りに呪力をまとわすんですか?」

 構わず走ってくる白井に、俺はまた発を放った。

 今度は切り裂かれてしまう。

「なんで教える必要があんだよ」

 警戒心も持ち合わせているようだ。


 距離をとってから、俺はもう一度訊く。「俺だけ知らないのフェアじゃなくないですか? 真剣勝負ならお互い隠し事は無しにしましょうよ」

 ま、木刀と素手の時点で真剣勝負じゃないけど。


「そういう言い方されると弱えな」

 よし、釣れた。




 俺を追いかけるのは止めないが、白井は気怠そうに説明してくれた。

「その通り。憑ってのは憑代の周りに呪力を籠める。その間、呪力は使用者か吸われ続けるから、長時間の戦いには向かねえ。ま、てめぇを倒すのには十分な時間使えるけどな!」

 白井が木刀を振るうと、そこから発が飛んできた。

 それを不格好な護で防ぐ。 

 プラスであらかじめ仕込んでおいた呪術を発動させられるわけか。厄介だ。

 確か、人を選ぶ呪術だと先生が言っていたな。憑代となる物に深い愛着心がないとだめだとか。白井にとってあの木刀は大切なもんってわけだ。








 廊下の角を曲がったところで、膝に手を置く。横目で白井の位置を確認しながら、息を整える。

 くそ、逃げるために発を使い過ぎて身体が怠くなってきた。暴発させると、いくら呪力量があってもダメだ。

 だがおかげで発の指紋は早くなった。









 また逃げようと距離を取ろうとした時、眼前に白井の木刀が現れた。倒れ込み、間一髪で躱す。

 白井のやつ、今のが当たってたらまじで死んでたぞ。それだったら、どんな目に合わせても恨みっこなしだなこれ。






 俺を見下ろしている白井は、感心した表情をしている。

「あれ当たらねぇのか。やるな。……けど、追い詰めたぜ。発の使い過ぎて、もうやべぇんじゃねえの?」

 返す言葉が無いくらい適格だ。






「ちっ、ここまでかよ……」

「わかったらさっさと玉渡せ。無駄な殺生は好きじゃねえ」

 律儀なヤンキーだ。


「俺にもう手が無いとか思ってんのか? 本番だったら隙を付かれて、お前死んでるかもよ?」


「威勢だけはいいな」そこで白井は木刀を振り上げた。「だったら一思いに――」

 振り下ろした時、俺はその木刀に発を発動した。


 ぶつかり合う衝撃で咄嗟に目を瞑ってしまったが、痛みは無い……。どうやら成功したらしい。

 目を開けると、大の字に倒れた白井の姿があった。






 よし、作戦成功だ。

 なぜこうなったか。薫子風に言うなら――簡単な事だ。







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