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集合






 明日のホームルームは八時からだ。さすがに朝は早い。弁当を作らねばいけないので、六時には起きて用意を始めた。改めて一人暮らしの大変さに気づかされる。



 夜は遅くまで選択やら掃除やら。テレビを見る時間もなかった。東京の番組が気になっていたのに。残念だ。







 身支度を終えて、部屋を出ると、制服姿の四之宮が待っていた。やはりスーツのような制服はOLにしか見えない。


「待ってたんだな。しの――じゃない。薫子」

 初めて呼んだその響きに違和感を覚える。それに照れくさい。


「対等といったのは水無君よ。だったら家を後ろ盾にはできない」

 俺の名前は呼んでくれないんだな。と若干の未練が残りつつも、学校へと歩き出した。

 道のりは二十分程度で歩けない距離ではない。体力作りもバスは使わない。呪術士といえど、運動も大事らしい。まあ一番は節約のためだ。バイトもしていないし、今は四之宮家の援助金だけで生活しなければならない。仕送りなどを寄越さないのも、親との約束であるから仕方がない。といよりも、そちらの方が気が楽だ。




 教室に入ると、早速、ホームルームが始まった。

 やる気の無さそうな日役先生の声が耳に入ってくる。「えっーと、予告していたクラス別呪術合戦。もう一か月前に迫っているね。その詳細が発表されたんだ」


 聞いてないんですが。





 呪術合戦については知っているが、一か月後なんて知らなかった。今が六月だから、七月の半ばってところか。



「相手はCクラス。対戦形式は呪術でできた五つの玉を先に多く集めた方が勝ち。真っ向勝負じゃないし、格上が相手でも勝ち目はあると思うよ」


 ついで程度に鼓舞をして、詳しくはプリントを見てとほっぽり投げた。本当に先生には見えない。





「次の時間は会議に充てていいからね、それじゃ後は宜しく」

 それだけ言い残して先生は出て行ってしまった。

「本当に勝手だよなぁ、日役先生」

 愚痴の様に溢す朝陽。

 その気持ちは凄く同感だ。






「でも、女子は人気はすげえんだよ。やる気のないのが良いだとか、薄い顔が好みだとか。世の中不条理だよなぁ」

 今流行りの塩顔男子か。俺には違いが分からない。顔に塩を塗りたくってるだとか、それぐらいの違いを出してほしい。

「頑張って人気が無い俺の身にもなってほしいぜ」と、更に朝陽が愚痴をこぼす。




 回って来たプリントを見ると、試合の詳細が書かれていた。

 先ずは五対五だという事。そして日曜日に学校全体を使うという事。

 本当にあの先生はなにも説明していない。






 三十分で試合は終わり、その時点で多くの玉を持っていれば勝ち。一週間前にその玉の一つは所持した状態で始まる。つまりお互い一つは既に持ってる事になる。尚、所持していると玉が光、誰が持っているか分かってしまう。





 残りの三つは呪術で消えていて、微弱でも呪力を当てなければ現れない事になっているらしい。

 まあ試合の説明はざっとこんなもんだ。






 気づけば俺と朝陽の周りにクラスほぼ全員が集まっていた。集団の統率力はかなり高いらしい。

 まあ代表者五人なら四之宮は確実。後、俺も。

 無理やりその四之宮を連れてきて、Dクラスでの会議は始まった。






 最初の発言はクラスの女子。悪いが日にちも浅いので名前と顔は一致しない。「えーと、五人って事は強い人達だよね。だったらぁ」

 その後に小さな声で、「ばか、六車さんを立てろよ」と聞こえて来た。

 それに朝陽は聞こえてないふりをしている。



「六車君はやっぱり指紋上手いし、入った方がいいと思うなー」

 明らかに気を遣っている口調で女子が提案する。それに朝陽は謙遜し、さりげなく断ろうとしている。

 しかし断ってはダメだ。

「俺もその意見に賛成」

 はっとした顔で朝陽は俺を見て来た。

 お前は良いヤツだ。だからこそ俺は……。

「一緒に呪術合戦で勝とう」

 気を遣うだけの人生を変えてやりたい思う。少し大袈裟かもしれないが。






 意図が伝わったのか、朝陽は笑った。「よっし、いっちょやるか」

「なに、水無君。自分も入る前提?」

 一人の女子が茶化してくる。

 うるせぇなと、俺は短く反論した。






 だが俺の呪力量があってか、俺も入る形で話は進んだ。後、薫子もこの前の実習で実力を見せていたので、頭数に数えられている。

 残りは二人なのだが……。






「だったら、天津さんは?」

 初めて聞く名前だった。

 みなの目線がその天津さんにそそがれる事になる。





 その人物は赤い眼鏡をかけていて、前髪をぱっつんにしている女子。つまりはメガネッ子。顔立ちは美人というより、可愛いって感じだ。そして今は照れた笑いを浮かべている。

「わたし……。無理だよ」

 その後に小動物のような小さな素振りをする。





「俺は適任だと思うなぁ」

 朝陽も賛成のようだった。

「天津さんは頭も良いし、呪力もある。それに繊細だしね」

 説明を聞く限り、なんでD組にいるか分からないくらいにハイスペックだ。言葉で聞かされるとどうもそう思ってしまう。ただきょどった姿を見ていると、理想と現実は違うのだと思わされる。

 あまり期待はできないかもしれない。まあ俺がいえた口ではないが。






 それから推薦された男子一人で五人のメンバーが決まった。この五人で次の日曜日、会議をすることにもなった。

 クラスでの行事。俺はこういうのを待っていた。

 胸が高鳴りながら、俺は残りの授業を受けた。














 烏枢沙摩高校は土曜日も授業がある。その為、遊べるのは基本的に日曜日。まあ別に遊ぶ時間がほしいわけじゃないので、それは構わないんだが。




 高校生をやっていると私服のチョイスに困ってしまう。ずっと制服だと着る機会が少なくなるからだ。

 気に入ってるカーキのカーゴパンツを履き、上はしっかりめのジャケットを着た。下がだらんとしているから、上はきっちりと。ファミレスに集まるというのでリュックはいらないだろう。ポケットに財布だけ入れて家を出た。





 同じアパート内に住む、俺、四之宮、朝陽は一緒に集合場所である学校前へと向かう。

 辿り着くとすでに天津さんは来ていた。




「早いね」と早速、朝陽が声をかける。

「待たせるの嫌だったから」

 小さな声で天津さんが言った。 




 この子は四之宮と似ているが違う。礼儀が正しいのはそうだが、謙虚さがまるで違う。

 まったく少しは見習ってほしいものだ。


「二人には挨拶まだだったよね。わたし、天津明≪あまつめい≫宜しくね」

 ぺこりと頭を下げてくる。

 それに習って、俺と薫子も頭を下げて挨拶をした。今まで通っていた高校ではありえないくらいに礼儀を重んじている。

 少しは作法を学ぶべきだろうか。







 そして最後の一人が現れた。名前は飯田。 

 こうして五人が揃ったところでファミレスへと向かった。





 本格派イタリアレストラン『サイゼリアン』それが彼らのファミレスだった。長野ではありえないお洒落さ。東京のファミレスはこんなに凄いのか。

 関心しているのは俺だけではなく、薫子も一緒だった。

 六人掛けの席に通され、女子と男子で別れて座った。

 そして薫子は直ぐにメニュー表を釘付けになって見始める。「ミラノ風ドリア……この値段でこの見た目」  

 などと感想を漏らしている。







 さすがは田舎娘。もしかしたら弁当の中身も理解していないのかもしれない。

 だが実際、リーズナブルでこのお洒落さは目を引く。


「薫子さん、サイゼリアン初めてなんですか?」

 何気ない天津さんの質問。しかしこれはまずい。薫子は東京の人間という事になっている。

 上手くかわしてくれよ。





「ごめんなさい。私、お洒落なモノしか口に入れた事が無くて。庶民はこんなもので満足しているのだと驚いてしまったの」

 周りは唖然としてしまった。

 ダメだよ。最悪の切り返しだ。





「……意外と薫子ちゃんパンチ強いね」朝陽でさえもカバーしきれない発言。


「あはは、でも美味しいよ」天津さんはサイゼリアンのフォローしているし。







 注文した商品はあっという間に出てきた。四之宮、朝陽、俺はドリア。天津さんと飯田君はパスタ。

 このお洒落な学校生活を前の高校の奴らに自慢したい。SNSで発信したい。しかし俺にそんな術はなかった。

 食を終えたところで話は作戦会議へと移行する。

 だがその前に、一つ確認しておきたい事があった。




「こんな大衆食堂で呪術の話をしていいのか?」確かに周りはガヤガヤしているが、それでも絶対聞こえないわけではない。


「大丈夫だろ」

 朝陽は軽い調子で言った。

 正直、俺は不安で仕方ないのだが。



「そうね。話しても周りは理解できないわ」

 意外にも薫子まで同意してしまった。

「不安なら結界をはるけど」


「へー、薫子ちゃん結界まではれるんだ! 本当すげぇな」

 そんな話の流れで結界をはりつつ話す事になった。俺もよく理解はしていないが、結界というのは呪力を持つものと持たざるものを隔てるエリアのようなものだ。



 それにしたって、みんな警戒心が薄くない。最近、目覚めた人間と前から自覚があった人間の差だろうか。慣れとは怖い。






 そこで一つの疑問が浮上した。

「結界をはったら姿が見えなくなるんだろ? ファミレスでそれはまずくないか」万が一にでも他の客が通されたら……。

 その質問に即座に薫子が答える。「消えると同時に、関知しないという意味合いもあるの。つまりこの席に関心が無くなるのよ」


 なんてご都合設定だ。








 そこからは真面目な会議になった。最初にプレゼンしたのは天津さん。

「わたしはC組の情報を調べて来たの。あんまり参考になるか分からないけど……」

 自信なさげに出したが、彼女のデータはよくできていた。試合に参加しそうな生徒をピックアップし、性格、得意な呪術、苦手な呪術などが記されていた。







「おー、天津さんやるなぁ」

 朝陽が褒めると、天津さんは照れた笑いを浮かべた。

 その後で、俺も率直な意見を述べる。

「実際、これは役に立つな。相手はこっちを格下だと思ってるだろうし、狙うならそこだな。このデータがあれば隙をつける」







 周りが頷く中、薫子だけはじっと一人の生徒のデータを見ていた。そこには白井勇作≪しらいゆうさく≫と書かれていた。

「この人、憑の使い手なのね。少し警戒した方がよさそう」


 その意見には賛成だが、なぜその白井というやつだけを引き合いに出すのだろう。それを使えるのはそんなに警戒する事なのか? 他にも広範囲呪術を得意とするやつとか、強そうなのはいるのに。まああくまで素人的な観点での意見だが。






「わたしも薫子さんに賛成かな」小さく天津さんが述べる。


「白井君は木刀を憑代としてて、運動神経抜群なの。珍しいけど武闘派だから、対策が難しいかも」

 出た。武闘派呪術士。


 正直なところ俺も運動には自信がある。もし誰かと直接対決になるなら、そいつと戦ってみたい。

 ま、ろくに呪術も使えないんだが。






「じゃあ、そいつはどうやって抑えればいいんだ」

 一人、朝陽は頭を悩ませる。


 そんな悩みを吹き飛ばすかのように、薫子は言った。

「だったら私に考えがあるわ。この試合のポイントは、先に玉を貰える事よ」

 その言葉にほぼ全員、目を丸くした。













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