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友飯





 授業が終わると、俺と朝陽で昼飯を共にする事になった。教室の外で良い場所があるとの事らしい。



 席を立った時、「どうせなら薫子ちゃんも誘えよ」と提案してきた。

 それは四之宮が美人だからでもなくて、ただ純粋に四之宮を心配しての発言だったのだろう。なぜなら今も一人で席についているからだ。

 肯定して、二人で四之宮へと歩み寄る。




 俺よりも先に、朝陽が話しかけた。「これから一緒に飯でもどう? 学校の事も教えてあげたいし」

 自然な誘いに、四之宮は頷いた。

「お言葉に甘えさせていただくわ」


「なんか堅いなぁ。さんきゅー、とか軽い感じでいいから」

 爽やかな笑顔を向け、四之宮はどこか戸惑っている様子だった。







 ともあれ教室を出て俺達は、外のベンチとテーブルのある場所へと移動した。丁度、木陰の下でベストスポットといえるだろう。まだ強い日差しも、上手く避けられている

 俺と朝陽が隣り通しで、四之宮が向かいに座る。夫婦なら隣に座れよと茶化されたが、適当にかわした。




 そして質素な弁当を出した俺と、菓子パンを齧っている朝陽に対して、四之宮の弁当は豪勢なものだった。

 二段の重箱のそれの中身は、俺が名前を言ったら噛んでしまうようなお洒落なものばかりだった。


「うっひゃー、薫子ちゃんの弁当すげぇ」


「お母様に無理やりに持たされて」

 長野に居た頃も、昼飯になると四之宮はいつも消えていたので、弁当は初めて見た。今思えばその時も、呪術の鍛錬に静を出していたのだろう。


 因みに四之宮のいうお母さまとは、従者の人達の事だろう。その頑張りに敬礼だ。





「でも、良太郎も弁当なんだな。確か、元は長野にいたって?」

 そういえば長野学校から転校してきたと言ってしまった。四之宮の設定ではお母さんがいる事になっているから、東京に住んでるって事なのか? ああ、こんなんなら予め設定を練っておけばよかった。


 矛盾の生まれない為にはどうすればいい……。




「ああ。それで東京に住んでる薫子のところまで追っかけたんだよ。一人駆け落ち的な?」

 なにかを失った気がするが、完璧な切り替えしだ。我ながら自分を褒めたくなる。


「おおー、愛っていいなぁ」

 まるで小学生のような感想を、何度も首を振って口にされた。




「にしたら、その弁当は自分で作ったのか?」

 よくぞ聞いてくれた。俺のアピールポイントの一つ、手料理!


「勿論だ。このご飯なんかは笊で二時間寝かせて、卵焼きは隠し味に昆布茶なんかを入れて――」

 そんな大事な語りを、四之宮は手の平で制止してきた。「要領の得ない話はいいわ。それよりも学校の事を教えてくれる?」

 大事な夫を無視して、朝陽君とお話ですか。俺、妬いちゃうよ。とか心にも無い事を思ってみたり。







 学校の話かぁ。考えあぐねる朝陽は数秒の間を置いてから、あっと声を発した。

「二人は四術士ってわかる?」

 なんだよそれ。四天王的なあれかよ。

「ええ知ってるわ」 

 まさかの四之宮は肯定してしまった。このままでは俺が分からないまま話が進んでしまう。それはかなり困る。もう蚊帳の外はごめんだ。

「悪い、俺は初耳だ」


「なら一から説明するよ」

 あまり面倒がらずに朝陽はそう言ってくれた。四之宮はどこか不服そうだが。





「四術士ってのは、マントラの家系に属するもっとも優れた呪術士の人達の総称」

 なるほど、つまりはめっちゃ強い人達か。


 付けたしのように、薫子が言う。「その歴史は古くて、元々戦争が起こさない為の抑止力が狙いだったそうよ」

 戦争か。そういえば授業で一度だけ大規模な抗争があったと言っていた気がする。とはいえあんな力で戦ったら、さぞかし大変な事になるだろう。



「んで、その四術士の一人目が十文字千夜≪じゅうもんじちよ≫さん。現役高校生にして、四術士に選ばれた神童って言われているんだ」

 高校生でとか、そんな話を聞くと自分の才能が微かなものに見えてしまい、テンションが下がる。まあ知ってはいた事だが。



「二人目は六車大我≪むぐるまたいが≫。召喚と憑依の二つだけで四術士に入った人で、自らの拳を憑代にする武闘派、呪術士だ」

 武闘派なんているのか。それはもう術士といえるのか? そんな疑問が生まれてくるが、朝陽は話を続けるので思考は止めた。



「三人目は四之宮誠司≪しのみやせいじ≫さん。現代にいる呪術士の中で唯一、十戒を統べた人」

 また四之宮の名前を聞いた。今度は凄く大物の名を。




「そして四人目は百瀬――あー、この人だけは名前が分からないんだよなぁ」

 細かい事は置いといて、ここまで聞いて未だに四術士と学校の関係性が見えてこない。




「その四天王と学校の関係性は?」


「鈍いなぁ、良太郎」

 心外なものいいだ。ここまでで理解できるというなら、教えて貰いたい。俺は四之宮を見てから言った。


「ならお前は分かったのかよ?」


「ええ。……いるんでしょ? うちの学校に十文字千夜さんが」

 その瞬間、朝陽が指を鳴らした。

「ビンゴ!」


 確か、現役高校生と言っていた。少し考えれば辿り着けたはずだった。四之宮に先を越されたみたいでむかむかする。





「とはいっても、いるってだけでこれといった話もないんだけどな」

 それから、朝陽は一人で笑いだす。

 なんだろうこの計画性の無さは。三年間通ってなにを培ったんだよ。


「そういえば、朝陽。お前の苗字、六車だよな? 話聞かせろよ」

 マントラの家系の一つ、六車。その名を堂々と名乗っているものが目の前にいるのだ。少しくらい話を聞きたい。

 けどアイツは呪力量もさほどでなかったし、こういっちゃなんだが凄いヤツには見えない。





「あー、やっぱり聞くよな」

 頭の後ろに手を置いて、朝陽は苦笑いを浮かべた。

 もしかしたら、地雷だったのかもしれない。

「あ、無理にとは言わない」

 慌てて弁明したが、大丈夫だと言われてしまった。優しいやつに付け込んでるみたいで居た堪れない気持ちになる。

「俺は本家の人間で、現六車家当主の実子だけど、才能なくて一人でここに通ってるんだ。従者もいない。まあ半ば家出みたいな感じかな」


 凄く重い話をさせてしまった気がする……。

 大した返答もできないまま時間だけが過ぎる。それから朝陽は笑ってみせた。

「なんてな。ま、父親を見返したいだけだよ」


 今日知り合ったばかりのやつに凄く気を遣わせてしまった。それからはなんとかなにげない談笑になったが、次はこのような事をないように心がけよう。










 昼休みが終わり、授業に戻った。午後の三時間の授業を終えて、一日目の学校生活は幕を閉じた。

 俺と四之宮は歩いて、寮まで向かう。


 学校から渡された案内図の通り進み、迷うことなく辿り着けた。

 都心とは少し離れた人気の少ない場所に寮はあった。ま新しくも無くぼろくもない。そんな寮だった。吹き出しの階段を上がり、鍵で207号室の扉を開けた。因みに四之宮は208号室だ。


 部屋の床は木製で、2LK。一人で住むには大きすぎるくらいだ。四之宮家の計らいにこればかりは感謝する。







 荷物は既に入れてあるので、片づけるような事はしなくていい。荷物だけ置いて、部屋の外にでる。先ほど、落ち着いてから話したいと言っていたので、外では四之宮が待っていた。

 やはり年頃の男女が部屋で談笑はまずい。






「話ってなにかしら?」

「えっと、幾つか質問とか、照らし合わせたりだとか」

 無言だったが、四之宮は少ししてから口を開いた。

「そうね。それは大事」


「最初に聞いておきたいのは。養子についてだ。前に呪力を持つものを養子として迎え入れると説明していたが……」

 そこで息を吐き、考えをもう一度まとめる。


「なのに周りの学生にマントラの名を持つものがまるでいない。それはどういうわけだ? みんな隠してるのか?」


「確かに養子に迎え入れる。けど名乗る自由くらいはあるわ。あくまで形式的なものだから。そしてマントラの家系の苗字を持つものは殆ど実子ね。それかさっき言っていた四術士。この人達だけはマントラ家計の名を名乗れる。そういう点では、名乗りたくても名乗れない意味合いの方が強いわね」


 その解答で一つの疑問が解けた。


「だから六車は家系の人間を属するなんて言い方したんだな。まるで組織みたいだから」


「そういう取り方もする人もいるわね。質問はそれだけ?」

 考えたが、今のところは出てこない。




 頷いてから、だが、と言って帰らせないようにする。「設定を練り直す必要性があるだろ」


「確かに、あんな杜撰なのはまずいわね。夫婦だなんて、今でも受け入れがたいわ」


「それは全般的にお前らが悪い!」

 と睨みを聞かせると、それ以上の顔で睨まれた。やっぱりおっかない。一歩退いて、部屋に退散しようとした時だった。





「あれ? 良太郎に薫子ちゃん!」

 階段の下から、朝陽が手を振っていた。

「部屋の前で痴話喧嘩とか、仲良過ぎかよ」

 いつもの茶化しも加えて来た。




 それから駆け足で階段を上がってきて、今日からこの寮で暮らす事になったと説明すると嬉しそうな顔をされた。

 なんだか照れてしまう。

「んじゃ、これから歓迎会でもしない? 俺の部屋さ、101でちょっと広めなんだよ。六車の名前もあってさ」

 その提案に俺は四之宮を見る。

 賛成……。したい、けどできない。そんな感情がその横顔から伝わってくる。なんでこう交友関係が苦手なやつは好意にも躊躇するのか。






「ほら、友達作るんだろ?」

 さりげなく肘で押す。

「あの――有難く受けさせてもらうわ」

 小さくガッツポーズする俺に対し、朝陽は喜びを体全体で表現している。


「じゃあ、早速、みんな呼ぶかぁ!」

 みんなというのは寮の人間の事らしい。さすがに顔が広い。しかしそれを聞いて、四之宮は顔色が悪くなった。





「人が多いのは苦手」

 それを聞いて朝陽が焦り出す。








 結局、三人で鍋パーティーを行ったのだが、一日目から騒がしい夜になった。

 俺はこんな青春も悪くないと密かに思い始めていた――。











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