授業
俺が戻るとほぼ同時に授業は始まった。
一時限目の授業は歴史だ。普通の歴史なら今頃、どっかの国のカースト制度とかを学んでいるところだが。
ここでは勿論、そんな歴史はやらない。
現れた先生は白髪で年配のいかにも、歴史の先生らしい人だ。
転入生がいるという事で、振り返りもかねての授業となった。
マイクを持った先生は低い声で説明を始める。「そもそもの呪術は四之宮家が創ったと伝承されていて、その祖である四之宮恵慈≪しのみやえじ≫が……」
いきなりの驚きだ。四之宮ってそんな凄い家系だったのか。なら狙われたり名を隠すのも頷けるかもしれない。
ノートを取るのを忘れていたので、急ぎでメモをした。
「そしてこの学校も四之宮術式を採用していて――」
話を聞く限り、四之宮の術式以外にも幾つかあるらしい。まあ一番メジャーなやつってわけだ。
「そして呪術を使う家系は、江戸末期には四つに増えていて、それらを総称してマントラと呼ぶ。これらは今でも呪術界においての四大家系として名を馳せている。四之宮、六車、十文字、百瀬。これはテストに出るからな」
やはりテストはあるのか。
つか、六車って――六車朝陽。
意外に近くにいるもんだ。それなのにDクラスなんだな。まあ事情があるのかもしれない。
呪術にも色々、歴史があるんだなと感心しているうちに、やはりノートを取るのを忘れてしまっていた。
もう手遅れなのでペン回しに移行し、誰かに見せて貰う事にした。
そして次の授業はSPIだ。就活に役立つ授業ではあるが俺には関係無い。正直、半分は寝ていたと思う。
いつの間にか終わり、次は呪術理論という小難しそうな授業だ。
眼鏡をかけたいかにもな先生が現れ、大きな画面を出しての授業だった。これもまた復習から入ってくれるらしい。
「先ず、呪術には難易度がある。分かりやすいのがこの表だ」
縦一列に数字が書かれたグラフが映し出された。俺にはなにがなんだかさっぱり。
「これが十戒表だ。一戒が発。呪術を衝撃波として、飛ばす初歩的な術でもっとも簡単だ」
あの帽子男にやられたのか。そういえば、四之宮達も前に喫茶店でそんな話をしてた気がする。
「次が二戒、護。これは周りに呪術で小さな盾を創る。発より形成が難しいので難易度も高い。三戒は縛。相手の動きを止める。複数の呪術を同時に発動しなければ効果が薄く、精巧さが求められる」
縛っていったら、四之宮があの時使っていた鎖のやつだろうか。
「四戒は封。呪術を封じたり、解放したりする術だ。相手の呪力をコントロールしなければいけないのが鬼門だね。五戒は憑。なにかに憑りつき、動かしたりそれを強化したりする。これは憑代とする物がなければいけないから、難易度というよりも使える人が限られてくる」
それから先生は順番に説明をし、最後には呪術でどんな事ができるかを説明し始める。
「今のは大雑把な呪術の説明だけど。例えば、この本に――」
次の瞬間、先生は紙を破いて撒いた。
小さな髪は何度も回転して空を舞った。しかし次の瞬間、それは本へと戻り、元の状態へと戻した。
俺も唖然とその様子を見守っていた。
「理論を駆使すれば、このような複雑で役に立たない呪術も使えるようになります」
そこで授業は終わった。
理系が苦手な俺でも、今のは正直、興味が湧いた。
次の授業は演習だった。即ち呪術を実際に試すのだ。俺はこれを待っていたといってもいい。
現れた先生は日役先生だった。今もやる気の無い素振りで教壇の前に立つ。
「今日は水無君達の為に、指紋を復習しようか」
開口一番からなにを言ってるか分からない。
それから日役先生は二本の指を突き出して、それを動かした。
これは知っている。薫子も帽子男もこれをした後に、呪術を発動していた。
「上、右斜め下、その逆。これが発。これをしないと基本的な呪術は唱えられないからね。それじゃ、練習してみて」
よし、やってみるか。
俺は早速、上、右斜め下、左斜め上に指を動かした。
――しかしなにも起こらない。
「なんでだよ。完璧だっただろ」
「おい、良太郎下手過ぎ」
からかってきたのは、朝陽だった。
「まず指先に呪力を籠めないと」
籠めるってなんだよ。全然、分かんねえよ。
「それと、指紋が雑すぎる。もっと角度はこう!」
朝陽のスパルタ指導により、俺はいたるところを直された。しかしあまり結果には結びつかなかった。
才能がないのかもしれない。
何度も口にする俺を朝陽は優しく励ましてくれた。良いヤツ過ぎて泣けてくる……。
「んじゃ、次は財布から小銭を出して」
言われるがままにみな、小銭を出して机に置いた。俺はなんとなく十円。貧乏性がここに来て発揮される。
「これは呪力量を測るテスト。うちの学校には全体に結界がはってあるから……」
日役先生は床に置いた小銭に、指を一本近づける。
「触ってから、呪力を籠めると――」
その小銭は、立ち上がっている日役先生が手で軽くキャッチできる位置まで飛んできた。
「このように多ければ多い程、高く飛び上がる。結界がはってある事により、呪術が跳ね返って起きる現象だね。みんな、やってみて」
よし、これくらいなら力任せって感じだしやれそうだ。
なにげなく周りを見てみると、五センチとかそれくらいの奴が多く、机の位置から頭を飛び越えるような者は極少数だった。
そして隣の朝陽はというと……。
「んっ!」
大きな掛け声を出したがいいが、一センチ程浮いただけだった。
その意外な結果に俺は大笑いしてしまう。
「笑うなよ良太郎!」
「だってしょぼすぎだろ……!」
ダメだ。笑いが止まらない。
朝陽は仕返しとばかりに、お前のも見てやるからやってみろと言ってくる。どうせしょぼいだろうけどな。という煽り付きで。
十円に指を当て、その後で呪力を籠める。
……気づいた時には机に十円は無かった。朝陽を見ると上を向いていたので、合わせて見てみるとその十円は――天井に突き刺さっていた。
しかもここはただの教室では無い。大学の講義室のような作りなっていて、天井までの高さは体育館くらいある。それが異常な距離だというのは俺にも理解できる。
そしてその後に、周りからの拍手が起き、視線が俺に集まる。
「ねえ、水無君。どうやったの!?」
「凄い、格好いいー!」
「素質はA組異常じゃない? 今のうちにサイン書いてよ!」
そんな周りの盛り上がり、俺は頭を掻く。
「あ、あはは、あははははははは」




