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妻とメイド  作者: セラフ
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決闘の続き⑵

妻とメイドの拳は互いの顔面を捉えた。



妻はその拳を受けて一瞬意識が飛んだ。

メイドはその拳を受けて膝から崩れ落ちた。


見上げると奥様が鼻血を出しながら笑っている。

メイドは確信した。もし倒れてしまったら死ぬまで殴られ続ける。

今日の闘いは喧嘩ではない。

互いの存在をかけた殺し合いである。

そして、メイドも心の中で笑った。



妻は一瞬意識が飛びそうになったもののなんとか踏ん張った。メイドは膝から崩れ落ちている。

妻は溢れる思いを拳に変えた。

崩れ落ちまいと自分の腰にすがりつくメイドを上から殴り、殴り、殴り、殴り、殴り、殴り続ける。

ただ、顔面を自分の腹に押しつけているため、

後頭部、背中、首しか殴れない。

それでも殴り続けていたら、自分のお腹に痛みを感じた。




メイドは自分が殴られつつも妻の腰に手を回し、

必死に耐え続けた。顔面以外の上半身を殴られ、殴られ、殴られ、殴られ、殴られ続けても必死に耐えた。

そして、耐え続けて拳の勢いが弱った瞬間に妻のお腹に思い切り噛みついた。

自分の犬歯が妻のお腹に刺さる。妻から流れる血を飲み込み、殺し合いを実感する。やはり妻もまた殺す気で闘いに身を投じている。心が満たされる。

そして、今日はどちらかが死ぬことを確信する。妻は自分の髪を両手で掴み剥がそうとする。




メイドが噛み付いてきたのを感じ、髪を両手で掴み剥がそうとするフリをする。しかし、実際にはメイドの腹に膝を思い切り入れた。メイドが飲みこんだ血を吐き、背中を地面につけるように倒れそうになるが、それこそが罠だった。



メイドは案の定、膝を土手っ腹に入れられたが、予想できなかったわけではない。しっかりと腹筋に力を入れていたので呼吸ができなくなることはなかった。今この瞬間に後ろに倒れずに踏ん張ることさえできれば形勢逆転できる。

そう思いメイドは足に思い切り力を入れて地面を蹴って妻に向かってタックルを仕掛けた。そして、さっきまで殴り続けていた妻の両足を抱え込んで地面に思い切り倒した。




メイドに完全にマウントをとられてしまった。

顔面をガードしようと思ったがやめる。ここで防御に徹してしまえば攻撃の芽がなくなってしまう。幸い腕を抑えられているわけではない。マウントを取られて不利な体制になろうともメイドの顔面を狙うことを決意する。



メイドはここで妻が防御に徹してくれれば楽になるのにと思いつつも顔には出さないが嬉しさがこみあげてこた。逃げに徹しない妻の姿を見て「トコトンやりましょう」という言葉が本物であったことを確信する。

もちろん自分もトコトンやってやるそう決意し、

妻の右頬、左頬を殴り、殴り、殴り、殴り、殴り、殴り、殴り、殴り、殴り、殴り続ける。

たまに妻からの拳が自分の頬に当たってしまうが、殴る手を止めることなく殴り続ける。自分の拳が妻の血で赤く染まる。そんなことは気にすることなく、さらに追い討ちをかける。






















そして、終いには妻の拳が飛んでくることがなくなった。

殴られ続けながらもなお、妻の顔は美しい。

闘う女の顔をしている。

メイドは妻の拳が止まってしまった瞬間に一息入れる。

自分の拳を止めて呼吸を整えるために深呼吸する。

妻はピクリとも動かない。

死んでしまったのではないかと思うが、

死んでいることの確信が持てない以上やることは一つしかない。

これから、生者の世界に戻ってこれないように殴り続けて、

最後に自分の口で首を噛み切るのだ。

それが命をかけた闘いを演じた相手への礼儀、否、冒涜だ。

そして、再び拳を振りかぶった瞬間に血のようなものが自分の目に入ってしまった。

痛い。目が開かない。

これは血だけではなく胃液も混じっている。

確信する。まだ相手が生きていると。




妻はまさかこんな手が最期に通じるとは思わなかった。

目を開けることもできない拳の嵐で意識は何度も途切れた。

まさか、最後に意識が回復したその瞬間に自然に出てきそうになった血反吐を相手の顔めがけて飛ばしたら、

それが相手の攻撃を緩めることになるとは思わなかった。

今を逃してしまったら死ぬだけだと確信して

マウントを取られながらも最後に一番力を込めた拳を握る。

その拳を痛がるメイドの顎先に向けて放つ。

その瞬間全てを感じ取れた。

メイドが意識を手放してしまったことも、

これからメイドを好きなだけ殴り続けられることも。



メイドは意識を失い仰向けに倒れた。



妻はダメージのせいで立ち上がることも、

力を入れることもできなかったが這いつくばって、

メイドの身体を伝った自分の顔がなんとかメイドの顔に到達した。

もう拳に力を入れることは叶わない。

腰から下の感覚もほとんど感じない。

残っているのは首の力だけだ。

ならできることは一つしかない。

死ぬまで、相手の脳に大きな損傷を与えるまで頭突きをすることだ。首を持ち上げたらもう重力に頼ることしかできないが十分だ。























メイドは頭にズキズキと痛みを覚える。

視界が暗い。

ここは死後の世界なのかと思い

自分の負けを悟る。

最後に妻を殴り続けられたのは最高の幸せだったが、負けてしまった悔しさ、憎しみを思い出してしまう。

できることならもう一度チャンスが欲しい。

与えられれば必ず殺し切る。

そうどこにいるとも知れない神に祈りを続けたら

閉じたまぶたの隙間から月明かりと月明金色の髪の美しい顔が憎しみのまなこで迫ってきているのを捉えた。

まだ生きているのならただ壊すのみ。



何発とも知れない妻の頭突きに応えるかのように

メイドも同じ形相、勢いで頭突きを返した。



互いの顔の近さ、鬼の形相、にも関わらない美しさに驚き、

まだ二人とも生きていることを実感する。

まだ、殺し合えることを実感する。


互いの生に敬意を払うかのように唇を重ね合わせ、

そして二人はもたれ合うように、支え合うように、蹴落とし合うように起き上がる。



闘いはまだ続く。


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