決闘⑵
私はメイドである。また、妻でもある。
奥様は私の5歳ぐらい下の20歳前半だ。金髪を一括りにしたポニーテールにしていて、顔立ちも見惚れるくらい綺麗だ。背丈も私より少し低い160前半ぐらいで、胸も大きく、同じ女としてどうしても嫉妬心を抱いてしまう。
奥様を裏切ったのは自分だ。奥様に対しての罪悪感は大きく、罰を受けるべきは自分だと言ったのだが、奥様にはやんわりと断られた。後腐れを残さない様に、わだかまりを解消するために対等に喧嘩をしたいと言われた。私はそれに従うつもりはなかったが、奥様に頬を本気で殴られたら、そんな気持ちは吹っ飛んだ。
それからは互いに本気で喧嘩をしている。殴ったら殴り返され、蹴ったら蹴り返され、髪の毛を掴めば掴み返される。意地の張り合いだ。お互いにここまで意地を張るのはなぜなのかと思う。奥様が意地を張る理由はわからないが自分が意地を張る理由はわかる。いや、たぶん奥様も私といっしょだ。目の前のもう一人の妻に勝ちたいのだ。
喧嘩を始めてから、2時間が経ったが未だにお互いの勢いは衰えない。奥様のお腹を思い切り、力を込め殴ろうとする。逃げられないようにもう片方の左腕は髪の毛を掴む。バチンと音が鳴る。互いに衣服が破れ、半裸のような状態であるため、生肌に直に殴っているのですごい音が鳴る。今度は逆に私の腹が殴られる。また、すごい音が鳴る。互いに少しよろめいたが、心を奮いたたせた。今が好機だと考え、意表を突く頭突きを食らわそうとしたら、奥様も狙いは同じだった様で、互いの頭がすごい音でぶつかる。目と目、鼻と鼻、口と口がすぐ近くにある。互いの血が互いの顔に飛ぶ。怒りの形相というほどの表情ではないが、奥様の瞳には闘志がみなぎっている。私もたぶん同じ瞳をしているだろう。
奥様も私も引くことを知らない性分らしい。互いに触れ合っていない瞬間が存在しないほどに常に密着して組み合っている。互いの首に手を回し、締め付けあっている。
この喧嘩において、タチが悪いのは腕力が互角であるという点だ。奥様は元貴族の令嬢で、喧嘩も知らないお嬢様だと思っていた。実際に闘うと、元護衛の私と遜色ないほどの力を持っているとわかる。実力が拮抗しているために、決着がつかない。私にはこの喧嘩が未来永劫続くのではないかという気さえしてくる。
首を絞めあっている状態なので、自然と頬が相手の頬にぶつかる。頬同士の押し合いすら、互いに引くことを知らない。しかし、それにより私の眼鏡は地面に落ちてしまった。その一瞬の油断を見逃さず、奥様は私を思いっきり押し倒した。馬乗りになり、左右交互に私の顔面を殴る。足をばたつかせるが、体勢は変えられない。一方的に殴られ続ける。一瞬敗北の文字がよぎったが、その瞬間に信じられないほどのエネルギーが身体にみなぎった。どうやら自分は相当な負けず嫌いらしい。腹筋を使い、身体を持ち上げて、相手の胴に腕を回して抱きついた。互いにお尻を地面に付けて抱き合っている状態だ。奥様の汗と自分の汗が絡みつく。これだけ密着していると互いにどう動けばもわからず、攻撃も仕掛けられない。ひとまず小休憩か、20分ぐらい互いに動き出さなかった。
しかし、私たちの喧嘩はまだ終わらなかった。