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姉ちゃんは同級生 ~井の頭の青い空~  作者: 山崎空語
第4章 高校生の俺達 ~赤いミラーレス~
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4-31 ロケに行った日(その7)~タッチ・アンド・ゴー~

 5月5日こどもの日。この日祝って貰えるのは何歳までの子供なんだろうかと思う。少なくともかなり前から俺を祝う日で無くなったのは確実だ。それはともかく、休みだから文句は無い。朝方『ザザー』っと雨が降った。その後は快晴になった。朝食後、ロケバスに乗って、市内の運送業者の集配センターに行って、機材や衣装の荷送りをした。備品持ち出しリストと衣装リストに従って、荷物を一つずつ確認してチェックを入れる作業だ。だが、衣装やアクセは同じ様なものが複数あるから手間取って時間が押してきた。10時前、吉村さんの提案で、役に立たなくてブラブラしていて、どちらかと言うとお邪魔な俺たち、つまり、エッコ先輩と姉ちゃんと俺はタクシーで空港に向かう事になった。

「それではお先に失礼します。」

「気を付けて無事に東京に帰るのよ!」と長谷さん。

「はい、わかりました。皆さんも気を付けて帰ってください。」

俺達は皆それぞれに軽く別れの挨拶をしてタクシーに乗った。空港には10時10分頃到着した。俺達3人は1時間半位掛けて売店でお土産を物色した。

「部活の先輩達にはやっぱりキーホルダーよね。」

「そうだね。まあ無難だね。」

「このゴウヤのキャラのは?」

「それも良いかも。有名だし。」

「彩ちゃんとお母さんには珊瑚のストラップかしら。」

「なるほど、それ、いいねぇ。」

「家には、海ブドウとジマミ豆腐と黒糖ブロックってどう?」

「良いんじゃないか。」

「あのね翔ちゃん、ちゃんと考えてる?」

「もちろん。ほぼ同じ事を俺が言う前に姉ちゃんが言ってくれてるだけだよ。」

「そうかしら。」

「ねえ、珊瑚のストラップは白いのが良いかなあ?」

俺はショウウインドウを覗き込んだ。

「やっぱ赤いのが良いよ。」

「だけど高いわ。」

「左の方にある赤くて小さいのが良いよ。」

「どうして?」

「ストラップだから邪魔にならないのが良いんじゃないかなあ。値段リーズナブルだし。」

「そうね。」

「ちんすこうも買わないとね。」

「そうね。沖縄だものね。」

「親父にはそこの冬の星座の名前のビール送るよ。」

「お父さんにはそれが良いわね。」

「サータアンダギーも買って後で皆で食べよっか。」

「良いわね。」

「ほら、姉ちゃんだって考えて無いみたいだ。」

「たまたま翔ちゃんと同じ事を考えてただけよ。」

エッコ先輩が後ろから突っ込みを入れた。

「姉弟と言うのは面白いものね。」

「え? なんですか? 突然。」

「漫才の様でもあるし、真剣な様でもあるし、楽しそうでもある。」

「何がですか?」

「その、どうってこと無い会話!」

「そうですか?」

「ああ。微笑ましいと言うか。」

「有難うございます。」

「お礼を言われる程じゃないわ。」

「ところで先輩は何を買うんですか? お土産。」

「お前らの会話を最大限参考にさせてもらった。ただ、冬塩ふゆしおは外せんだろ。」

「なるほど。それも買わないとですね。」

こうして、落書きの様なメモを取りながら1通り見て回って、簡単な買い物リストを作った。そしてそれらを買った。丁度約束の12時になったので、不要な荷物をコインロッカーに入れて2階のトロピカルな感じのレストランで中里さんとエリの到着を待った。


「アキ姉、ここだよね。」

エリの声がした方を見ると、エリと中里さんが入って来る所だった。エリと視線が交差した。

「あ、居たいた。」

エリと中里さんがテーブルに加わった。

「待った?」とエリ。

「ううん。私達、さっきまで買い物してたの。」と姉ちゃん。

「じゃあ、予定通りね。」と晶子さん。

「はい。」

そこへウエイトレスさんが水を持って来た。

「みなサん、おそロいですか?」

なんかすごく癒される感じのイントネーションだ。その場がほんわかする様だ。

「はい。先程はすみませんでした。」

実はここに来た時水をもらって注文を聞かれたが、連れがまだ来てないと言って注文しなかったのだ。

「じゃあ、何食べる?」と晶子さん

「私はビーフカレーとオレンジジュースが良いわ!」とエッコ先輩。

「俺はやっぱソーキそば。と、アイスコーヒー。」

「じゃあ宮古そばとオレンジジュース。」と姉ちゃん。

「わたしも同じで。」とエリ。

「私は栄子ちゃんと同じにするわ。」と晶子さん。

ウエイトレスさんはメモを見ながら、

「ビーフカレーが2つ、宮古そばが2つ、ソーキそばが1つ、オレンジジュースが4つ、アイスコーヒーが1つですね。」

姉ちゃんは皆の顔を一通り見渡して、

「はいそうです。」

「わかりました。しばらくおちください。」

姉ちゃんは例によって出て来た料理を写真に撮った。少し物足りない気もしたが、お菓子も買ったし、これで良いかと思っていると、

「翔ちゃん、どうぞ!」

エッコ先輩がビーフカレーを俺の前に滑らすように出して置いた。

「え?」

「残り物で悪いが、整理してくれ。」

「今日は午後の撮影ありませんけど?」

「習慣だから。それに、今日は少し多く食べたわ!」

見ると、あと少ししか残ってない。

「先輩。あとチョットじゃないですかぁ!」

「それが危険なのよ!」

「なんでですか?」

「あと少し。あとちょっとが重なって、ブンブク茶釜なのよ。」

「そんなもんすか。」

「やっぱりモデルさんは大変なんですね。」とエリ。

「気の持ち様ってとこもあるんだけどね。」

「ダイエットって事ならダイバーもよ!」と晶子さん。

「なんで?」とエリ。

「ウエイトとかウエットスーツとか、出費が増えるの馬鹿にできないのよ。」

「へえー」

結局俺はエッコ先輩のビーフカレーを俺の口で3口食べた。

「意外と美味しいでしょ。」

「はい。肉柔らかいです。」

「地元のお肉かしらね。」と晶子さん。

「きっとシマ牛だわ。」と姉ちゃん。

俺の脳裏を横縞模様の牛が歩いた。もちろん白黒だ。きっと乳牛の一種だろう。

「これから行く伊良部島にはシマウマも居るらしいよ。」とエリ。

今度は縦縞模様の馬が登場した。それって普通のゼブラだ。

「そんなまさか。」

「離島では地元の特産物には愛着を込めて『島』を付けるのよ。」と晶子さん。

「『島らっきょ』とかね。」とエッコ先輩。

「ああぁ、そういう事か。」

俺はとんでもない誤解をするところだった。

「何だと思ったんだ?」

エッコ先輩がかなり馬鹿にしたような笑みを浮かべた。

「翔ちゃん得意の妄想だわきっと。」

姉ちゃんの助け舟だ。おれはそれに乗る。

「へいへい、あえて否定はしません。」

晶子さんは苦笑している。まあ、『受けたので良し』としようと思った。

「じゃあ、そろそろ出発しましょうか。」と晶子さん。

『はい。』


 空港の外に出ると、やはり熱気に包まれる。駐車場に止めてあるワゴン車に乗るのだが、まずは車中の空気の入れ替えが必須だ。ドアを全部開けてパタパタと数回あおぐのだ。それから焼けたシートの熱さを手探りしながら静かに乗り込んだ。一番後ろの座席とハッチバックの間のスペースを見ると、パステルカラーのフィンやシュノーケルやゴーグルが入ったバケットが置かれていた。

「アキ姉、せっかくセットしたからナビ点けるよ。」とエリ。

「お願い。」と晶子さん。

  『下地島空港への案内を開始します。』

ワゴン車はエアコンMAXで出発した。俺は最後尾から運転している晶子さんに話し掛けた。

「ウエットスーツは宿ですか?」

「ううん。クラブの乾燥室のロッカーよ。」

「じゃあ、ボンベやレギュレーターもそこですね。」

「あら、良く知ってるのね。」

「ちょっと興味があって、ネットで調べた事があるんです。」

「エアーはクラブのを借りるのよ。・・・そうだ、一式借りられるわよ!」

「幾らくらいですか?」

「ピンキリだけど、1万数千円ね。高校生にはキツイかな。」

「ですね。」

「自分で揃えるとどれ位掛かりますか?」と姉ちゃん。

「それもピンキリだけど、最低でも20万は必要だと思うわ。」

「それはやっぱ無理だわ。」とエッコ先輩。

「そうね。自分で稼ぐようになってからね。」

「エリちゃんは費用はどうしたの?」と姉ちゃん。

「それはもちろん、出世払いって事で、でお父さんのおスネをかじらせて頂きましたわ!」

「優しいお父さんね。」

「どっちかというと、嬉しそうだったわ!」

さすが小悪魔エリだ。


平良港からフェリーで15分の伊良部島の佐良浜港に渡った。フェリーのデッキから一昨日見学した発電所の煙突が見えた。港の北西側の急な坂道を上ってしばらく走ると平坦な伊良部島の外周道路になった。気持ちが良い。エアコンを止めて窓を開けて走った。

  『設定ルートを外れました。ルートを再検索します。』

「なんか、ナビ、意味無くね?」

「そうだね。音声切ろっか。」

エリは手を伸ばして音声ナビをオフにした。

「ねえ、今見えてるのは太平洋じゃないよね。日本海?」と姉ちゃん。

「東シナ海じゃなかったけ?」

「そっか。」

「台湾が見えるんじゃない?」とエッコ先輩。

「まさか、そんなぁ・・・え、見えるんですか?」とエリ。

「知らないわ。」

「えっと、展望台がいくつか有るんだけど、時間が無いから寄らないけど良い?」と晶子さん。

「はい、了解です。今度来る時の楽しみにします。」と俺。

PCの壁紙にしたいような海と海岸線と青い空と低木の緑が拡がった景色が続く。その外周道路をしばらく走ると、『佐和田の浜』という場所を過ぎた辺りから、海岸が幻想的で不思議な景色になる。遠浅の鏡の様な水面に、生えて来たように岩が林立しているのだ。姉ちゃんのシャッター音が一層速くなった。

「す、すごいねー。」

「巨人の指が水面から突き出してるっていう感じだね。」

「孫悟空の世界だわ!」とエッコ先輩。

「なんでですか?」

「お釈迦様の掌の上。」

「なるほど、そう言う事ですか。」

「ここを渡ると、下地島よ。」と晶子さん。

「じゃあもう直ぐですね。」

「そうね。あと5分位かしら。」

やがて、下地島空港の滑走路に沿った直線道路になった。右側にはまだあの幻想的な景色が続いている。そして、滑走路の北端の手前で車が止まった。

「ここで降りて歩きましょ。」

「ワクワクしますね。」

「そうね。」


俺達5人は滑走路の北端で空路を横切る道に立った。金網のフェンスの周辺に既に数人の見物人が居た。海の中に1直線に赤茶色の誘導灯の台座ベースが並んでいる。その台座に波が当たって心地良い波の音と磯の香りがしている。その方向をしばらく眺めていると、遥か北の上空からジェット旅客機が降りて来た。それは滑走路と誘導灯を結んだ軸線上から機体の先端をほんの少し風上に向ける様に斜めに滑って飛んでくるように思えた。

「来るよ、来るよ!」

「動画が良いわね。」

姉ちゃんは動画で飛行機を狙っている。轟音が近付いて来た。どんどん近付いて来た。墜ちて来そうだ。どんどん近付く。さらに近付く。足がスクむ。

『ゴ号! ゴォゴゴゴォー・・・キィーン、キュイーン・・・ブォーン・・・」

巨大な旅客機の機体が頭上をかすめるように通過する。エンジン音がドップラー効果で少し低くなる。旅客機の平らなお腹が真近に見える。車輪ギアがダラリとつま先を持ち上げてランディングの準備をしている。生温かく燃料臭い排気が離島の空気で薄められて俺達の周囲にそよ風の様に吹いてくる。

「す、スゴイ凄い!」

姉ちゃんも俺も感動で手が震える様だ。機体は更に高度を下げて、滑走路に煙が立つ。『キュン』という音がしたような気がする。次の瞬間、エンジン音が高鳴る。

『ギイーン、ギューイーン・・・ゴゴゴゴゴー』

飛行機は一転、加速して、滑走路の南に延びる軸線上を再び空に駆け上がって行く。背中を見せるようにして、どんどん高く上り、やがて右に旋回して南東の空に小さくなる。そして北に向かう。やがて北東の上空で高度を下げながら右旋回して、一周して滑走路の北に延びる軸線に乗るのだ。

「また来るよ。」

「来るね。」

「来る来る。」

「来たー・・・」

『ゴ号! ゴォゴゴゴォー・・・キィーン、キュイーン・・・ブォーン・・・」

周りの皆は感動しているのか怖いのか解らないが、笑顔だ。エッコ先輩も普段の饒舌を失っている。ただ飛行機を見詰めている。その飛行機は3回それを繰り返して4回目に着陸した。

「もう飛ばないのかなあ?」と俺。

「3時が近いからお茶の休憩かもね。」とエッコ先輩。

「そうかしら・・・そうよね、緊張をほぐすのも必要よね。」と晶子さん。

「だけど、こんなすごい訓練本当にやってるのね。」とエリ。

「そうだね。だから日本のパイロットは上手なんだよ。」と俺。

「そうね。上手なキャプテンなら寝てても判らない位だもの。着陸。」と姉ちゃん。

「待っててもしようがないから、次の目的地に行きましょうか!」と晶子さん。

『はい』


 俺達はワゴンに戻って、また空気を入れ替えて、通り池に向かった。10分弱で到着した。駐車場から海岸に向かって樹木のトンネルになっている。向こう側にデカくて可愛い縫いぐるみの妖怪が居そうな雰囲気だ。そのトンネルを抜けると、黒いゴツゴツの岩場に長い木道が作ってあって、比較的楽に目的の池に行ける。途中に休憩場所もあるが、白いパンツで座るのは躊躇する。むしろ座らない方が良いだろう。その池は巨大な丸い池と言うよりクレーターかカルデラ(火口が陥没した所)に水が溜まった様な感じだった。

「ここはね、ダイバーの憧れの場所なの。いつかはここで潜りたいのよ。」

「へー、そうなんですか。」とエッコ先輩。

「水の色はあまり綺麗そうには見えませんけど。」と俺。

「たぶん深いからよ。上級者向けなの。水の中で海にも繋がっているのよ。」

「へー、そうなんですか。」と今度は姉ちゃん。

池をバックにして、皆で記念写真を撮った。実は、それ以外にすることが無かった。

「もう良いかしら?」

『はい』

「じゃあ、最終目的地に行きましょう。」

木道を姉ちゃんが先頭に行って、時々振り向いて写真を撮っている。そのすぐ後にエリが居て、時々姉ちゃんの赤いミラーレスを受け取って写している様だ。どうやらエッコ先輩がメインの被写体になっている。晶子さんと俺は最後尾で、はしゃぐ3人を見ながら木道を歩いた。

「翔太君はエリの話の中によく登場するのよ。」

「そうですか。『バカ翔太』でしょ。」

「そう言う時もあるわね。」

「やっぱり。」

「でも、その彼がお客さんだったとはね。」

「あ、そうだ、中里さんに話し掛けられた時、エリかと思いました。」

「そうなのよ。声だけなら親戚の中でも間違えられる位似てるのよ。」

「やっぱり。」

「エリったら、それを利用して悪戯するの。」

「やっぱり。エリらしい。」

「あら翔太君にも悪戯するの?」

「ええ、なんか小悪魔ですよね。」

「そうね。そうだわね。・・・翔太君達は良い友達なのね。」

「はい。そのつもりです。」

姉ちゃんが赤いミラーレスでこっちを狙ってるので、中里さんを前にして、当然お断りしてからだが、中里さんの肩に手を置いたポーズをとってみたりした。それを見たエリが不満そうにやって来て、結局エッコ先輩も加わって4人でポーズをとった。簡易3脚とリモコンを使って姉ちゃんも加わって全員のポーズも演出してみたりしもした。長い木道はなかなか良い撮影スポットだった。

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