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姉ちゃんは同級生 ~井の頭の青い空~  作者: 山崎空語
第3章 中学校の頃の俺達 ~特別な卒業生~
30/125

3-14 順平が進路を決めた日(その2)~ハッピー・オーラ~

 正月早々彩香が大金を拾うというめでたい事件があって、俺達姉弟妹は初めて拾得物を正式に届け出るという経験をした。そのせいで、約束の時間より少し遅れて12時半過ぎに花火の広場前に到着した。そこは相変わらず大勢の人でごった返している。俺達3人はその人混みを縫うようにして入口に向かった。これじゃ落ち合えないかも知れないと思いながら広場に入ると、意外にもすぐに順平の声がした。


「あけおめ翔太!」

「おお、あけおめ順平、ナッちゃん。」


順平は紺のジャケットが似合っている。そして、俺の目はナッちゃんにくぎ付けだ。


「おめでとう、翔太君、ハルちゃん、それからぁ・・サヤちゃん。」

「おめでとうナツ姉ちゃん、順平兄ちゃん。」

「彩ちゃん、今日は特別に可愛いわね。」

「えへへ、ありがとう。」

「ナツ姉ちゃん綺麗。」

「うーん・ありがとぉー、彩ちゃん。」

ナツはそう言って彩香の頭を撫でた。

彩香は照れながら、

「順平兄ちゃんも恰好良いよ!」

「おおぉ、有難う彩ちゃん。お年玉あげよっか!」

「ううん。気にしなくていいよ!もう沢山もらったから。」

「そうかい? 嬉しいことを言ってくれるね彩ちゃんは、陽平とはえらい違いだ!」

「えへへ!」

「おめでとう順平君、ナッちゃん。今年もよろしくお願いします。」

「あ、こちらこそ!よろしくお願いします。」

「ハルちゃん、いいねその振袖。」

「ナッちゃんこそ、良く似合ってるわ!」

「5時に美容院だったわ!」

「私は少しましね。でも5時起きだったわ。」

「翔太、これからどこへ行く?」

「ナッちゃんコトヨロ・・・き、綺麗だ。」

「ありがとう翔太君、ハルちゃんもじゃない?」

「あ、ああ。」

「翔太君もカッコ良いよそのスーツ。」

「あ、ありがとう。」


順平が少しイラついている。


「翔太、僕がさ、今なんて言ったか判ってる?」

「何?」

「駄目だ。完全に見とれてる。」

「お前もだろ?」

「まあね。」

「この人混みじゃあ何処に行っても駄目だぜきっと。」

「だよな。・・・じゃあメックに行きますか。」

「あのなあ、晴着の2人を連れてメックは・・・」

「だな。」

俺は少し考えて、提案した。

「なあ、ちょっと歩くけど、茶房ってのは?」

「なにそれ?、知らん。ナッちゃん知ってる?」

「うん。知ってる。いいね。行こか!」

姉ちゃんが少し心配そうに、

「翔ちゃん、そこ高くない?」

「任せとけって!」

俺はスーツの左側を少し広げて、内ポケットを姉ちゃんに見せた。

「ああ、父さんの?」

「うん。それ。」

「じゃ、お任せ。」

「よし決まり。じゃあ出発ぅー!」


俺たち5人は花火の広場を出て、人混みをかき分けて、またサンロードに向かった。


「お兄ちゃん、戻るの?」

「ああ、少しな。新道まで。」

「もうひとつ落ちてないかなあ?」

「落とし玉か?」

「うん。」

彩香は俺の手を引っ張るようにして『落とし玉』を探しながら歩いた。

「サヤちゃんどうしたの?何か落としたの?」

とナツが聞いた。

「財布探してるの!」

「財布落としたの?」

「さっきね、彩ちゃんが大金が入った財布を拾ったの。」

と姉ちゃんが解説した。俺はスーツの内ポケットから預かり証を出して見せた。

「拾得物の届け出を交番でしたんだ。で、遅くなった。」

「へー、そんなの初めて見たわ!」

「茶房に着いたら詳しく!」

「お願い。」

「茶房って何処よ?・・・何だか僕だけ田舎者じゃん。」と順平。

「そんな事ないって、俺もつい最近知ったんだ。」

「へー!」


 茶房には、普通なら5分もあれば十分な距離だが、人混みの中、晴着の2人を気遣いながら10分程かかって到着した。店の入り口には既に3人ほど待っている人達が居たが、俺達がその後ろに並んで数分すると、なんか時間が無いとかで何処かへ行ってしまった。それで、タイミング良く店に入ることができた。しかも奥の窓際の席だった。今年はなんか元旦からついている。


 俺は入口で結構時間があったので、ショーケースを見て何を注文するか決めていた。

・・・・・はずだったのだが、

「見て見て、ここからお寺の境内が見えるよ!」

という姉ちゃんの言葉につられて外の景色を見て、

「本当だ!お墓も見えるね。」

と感想を述べたせいで、食べたい物の名前が『パフェ』以外記憶から蒸発した。

でも、そうなったのはどうやら、俺だけではない様だ。

店員さんが水を持って来てくれる頃には皆メニューにかじりついていた。


そして、いつもの様に順平が最初に決めた。

「僕は『抹茶のわらびもちパフェ』にする。」

そして俺が続く。

「俺は『黒ごまのわらびもちパフェ』だね。これ、絶品の予感がする。」

「じゃあ、私もそれにするわ!」と姉ちゃん。

「サヤは『クリームのスイートポテト』がいい!」

「おお、それも良さげだな。今度来た時はお兄ちゃんもそれにしよう。ナッちゃんはどれにする?」

「みんなと同じじゃなんか悔しいから『ココナツミルクの抹茶かけケーキセット』にするわ。」

茶房(ココ)はスイーツだけじゃなくて軽食もOKみたいだけど、ナッちゃん達はお昼はどうする?」

「私はこれ着てるし、翔ちゃんと彩ちゃんは御節たくさん食べたから、私達あんまり食べたくないの。」

と姉ちゃんがフォローすると、ナッちゃんも、

「私達もなの。さっき、順平君と、『お昼食べるのキツイね』って言ってたんだ。」

「じゃあ決まり!」

俺は手を挙げて店員さんに合図した。そして、みんなそれぞれに注文した。


 注文したスイーツが出てくるまでは、さっきの『落とし玉』届け出の件で話が弾んだ。


「へえー、金額じゃなくて、何が何枚って書くんだ。」

「そうなんだ。初めてだったから、俺も驚いたよ。」

「調書ってほんと、きっちり細かい事まで書いてあるのね。・・・お守り1つか。」

「拾った場所も住所だもんね。」

「ナツ姉ちゃん、彩が拾ったって書いてある?」

「うん。一番最初に書いてあるよ。ここ、『拾得者は中西彩香4歳』。」

「えへへ。」


 そこへ、注文したスイーツが出来てきた。

出てきたスイーツを食べながら、しばらくそれらの美味しさについて話がはずんだ。

この店に初めて来たという順平も満足していた。


「お姉ちゃん、サヤにも・・・」

「はいはい。サヤちゃんのも少しね。」

この俺の隣に座っている2人は平気で食べさせ合っているいるが、さすがに順平とナッちゃんは今はまだ無理だろう。気が付くと、ナッちゃんも彩香と姉ちゃんをにこやかに見つめていた。


・・・そして本題に入った。


順平はまだ進路をどの学校にするか迷っているようだった。俺が口火を切った。

「順平はナッちゃんと同じ高校にするんだろ?」

「いや、ナッちゃんも俺も推薦がもらえるところにする事になりそうなんだ。」

「それで同じ学校ならいいじゃん。」

「それが・・・違うのよ。」

「て事は、ナッちゃんか順平かどっちかが一般で受けるの?」

「実力があればな。僕はその自信が無い。」

「私も。親が推薦貰えって言うし。」

「そっか。まあ、魔界の学校じゃないから別の学校でも会えないって訳じゃないよね。」

「うん。だから、それでも良いかと思う。・・・翔太とハルちゃんは何処に決めたんだ?」

「近場で、久我山。同じ学校ならまあ何処でもいいかと思う。」

「推薦か?」

「いや、一般受験で。」

「すごいなあ。まあ、2人共成績良いし、実力あるもんな。」

「そんな事無いわ、不安で仕方がないの。」

ちょっと沈黙が流れた。

「それで、ナッちゃんは何処の推薦もらうんだ?」と俺。

「今のところ武蔵野か調布。休み明けの三者面談までに第1志望を決めないといけないの。」

「武蔵野の方が近いわね。三鷹か吉祥寺からバスね。」と姉ちゃん。

「どっちが近いかは微妙だわ。でも内申が大丈夫かどうか先生がはっきり言ってくれないの。」

「きっとどっちも大丈夫って事よ。三者面談で聞いてみたら良いわ。」

「そうね。」

「それに、武蔵野だったらテニス都大会入賞がきっとアドバンテージになるわ!」

「そうかしら?」

「山田先輩がそうだもの!」

「そうね。だと良いんだけど。」

全員が同時にスイーツを食べた。俺はそれを飲み込んで、

「順平はどうするんだ?」

「この前まで三鷹南って言われてたんだけど、年末に久我山に空きが出たとかで。」

「じゃあ、俺達と一緒じゃないか。」

「ひょっとして久我山の推薦辞退したの翔太じゃないか?」

「俺は最初から一般のつもりだったから、俺じゃない。でも、もしそうだとしても、順平に譲ることが出来てめでたしめでたしだね。」

「ありがとう、翔太。」

「いや、俺じゃないって。順平の実力だよ。」

彩香が困ったような顔で割り込んできた。

「お姉ちゃん。サヤ・・・」

「ん?、・・・彩ちゃん偉い。早めに言えるようになったね。」

そう言うと姉ちゃんは彩香を連れてトイレに向かった。

「あ、私も」

そう言ってナッちゃんも席を立った。


俺は女子3人の後姿を見送りながら、

「なあ、順平。お前なら武蔵野大丈夫なんじゃないか?一般でも。」

「かも知れんけど、親が久我山卒だからなんか拘ってんだ。久我山無理なら仕方ないんだけど。」

「そっか。」

「ナッちゃんは久我山無理なのか?」

「微妙なんだ。推薦がもらえないのは明らかだし。」

「そっか。でもさ、高校別だとなんか心配じゃないか?」

「そうなんだよ!」

「ナッちゃんに限ってはそんな心配必要無いと思うけどね。」

「僕、もう一度はっきりナッちゃんに気持ちを伝えようと思う。」

「そうだね。言わないと伝わらないし、伝わらないと壊れ易いからね。」

「翔太、そういうの良く知ってんだな。」

「ああ、俺達姉弟妹(キョウダイ)は何でも何度でも口に出して確認してる。それが一番確実だって思う。」

「でも、僕はこういうの、なんかうまく言えないんだ。」

「俺も最初からうまく言えた事は一度も無いと思う。色々と言い直している間になんか伝わるみたいだ。」

「そうか、そうだな。まずは言う事か。・・・なんか決心ついた。言うよ。」

「うん。それが良い。」

「ありがとう、翔太。」

「俺、いつもお前に背中押されてっから、お返しだ。」

「そうか?」

「ああ、ウザい奴だ。」

「それはお互い様だろ!」

「だね。」


そこへ女子3人が帰ってきた。

俺達は残っているスイーツと飲み物を平らげて茶房を出た。俺が会計をした。


「彩ちゃん、美味しかったねー!」とナツ。

「うん。美味しかった。また来たい。」

「そうね。また来ようね。お兄ちゃんは、きっとまだお釣り余ってるからね。」と姉ちゃん。

「そんなに期待するほど残ってないぜ!」

「本当?」

「まあ、もう1回くらいなら何とか。」

「翔太、本当にゴチでいいのか?」

「ああ、気にするなって、親父から今日の小遣い貰ってっから。」

「ご馳走様、翔太君。」とナツ。

「どういたしまして。」

「ねえ、これからどうする?」と姉ちゃん。

「寒いけど、公園に行ってみる?」と順平。

「うん。サヤ行きたい!」

「よぉし、じゃあ彩ちゃん、行こう。」


 井の頭公園へ続く道は、吉祥寺駅南口のデパートの前あたりから既に物凄い人混みで、人の流れに身を任せる以外に方法が無かった。道の両側の店も超満員で、寄り道すらできなかった。ようやく公園に入っても、人波で埋め尽くされていて、スワンはもちろんボートもいつ乗れるのか見当もつかない状態だった。彩香は人の群れの中に埋没してしまってさっぱり景色が見えない様だ。晴着の2人も自由がきかなくて、しんどいみたいだ。


「姉ちゃん、ナッちゃん、大丈夫?」

「今のところ。でも凄いね。」とナツ。

「サヤ、お兄ちゃんの手を離すなよ。」

「うん。」

「ナッちゃん達は、弁天様には行きたくないよね。」

「もちろん。」

「翔太、これは失敗だ。退散しないか?」

「だな。吉祥寺に戻るのは無理そうだから、公園駅に行こう。」

「彩ちゃん、ごめんな!」

「いいよ、サヤも早く出たい。」


 俺達は結局、池を周回する道を人の流れに身を任せながら右回りに歩いて井の頭公園駅に向かった。そして、そこから1駅乗って三鷹台に帰った。普通の格好なら三鷹台まで歩いても知れているのだが、晴着の2人に1駅歩かせるのはちょっと酷だ。公園駅で乗った渋谷行きの電車も各停だと云うのに結構混んでいた。元旦は電車の本数が少ないからかも知れない。


俺達は三鷹台の改札を出たところで立ち止まった。姉ちゃんが彩香の頭を撫でながら、

「凄かったね。彩ちゃん。」

「何が何だか判らなかった。」

「そうね。彩ちゃんは肩車でもしないとね。」

「この服じゃ肩車してもらったら恥ずかしい事になる。きっと。」

「そうね。」

「順平、これからどうする?」

「もう特に行くところもないし、ここで解散すっか?」

「そうだな、俺達、なんか進路の事が気になって楽しめないような!」

「じゃぁ、解散で良いか?」

「うん、そうね。そうしよ。」

とナツも同意した。そして何か想い付いた。

「ねえ、記念写真撮ったっけ?」

「おお、そうだ。」

そう言って、順平が手提げからデジカメを取り出した。


 俺達の様子を年配の駅員さんが改札の横の事務室で微笑ましそうに見ていた。

その駅員さんに姉ちゃんが『お願いします』視線を飛ばしたらしい。

その親切な駅員さんはとっても察しが良い人で、券売機の前に出てきてくれて、

「じゃあ、私がシャッターを押しましょう。」

こうして俺達5人は三鷹台駅の券売機の前で2011年元旦と刻印されたスナップに納まった。

『ありがとうございました。』

俺達ハモった。駅員さんはにっこりと微笑んで、

「どういたしまして。今年も井の頭線をよろしくお願いします。」

そう言って事務室に戻っていった。


「今日はありがとう。僕、色々気持ちが決まったような気がする。」

と順平が言った。

「こっちこそありがとう。おかげで、追い込みに集中できそうな気がするよ。」

「ほんとのこと言うと、早く帰って着替えたいわ!」と姉ちゃん。

「ほんとだね。」とナツ。

「さよなら、ナツ姉ちゃん、順平兄ちゃん。」

『さよなら彩ちゃん。』・・・順平とナッちゃんが珍しくハモった。


 俺達は駅の階段を降りて左の雑貨店を過ぎた所で小さく手を振って解散した。

俺達3人は雑貨店を過ぎたところで更に左に曲がる。ナツと順平はまっすぐだらだら坂を登って行く。

その時、順平がナッちゃんに話しかける声が聞こえた。それが気になって立ち止まった俺を感じて、姉ちゃんも立ち止まった。


「なあ、ナッちゃん。もう少し付き合ってくれないか?」

「いいけど、なあに?」

「うん。ちょっと・・・」


そこで二人の声が聞こえなくなった。並んで歩く2人の後ろ姿がとてもお似合いに見えた。姉ちゃんと俺はいつもに増して仲良く見える順平とナッちゃんを微笑ましく見送った。

その時の姉ちゃんと俺を彩香から見ると、立ち止まってボォーっとしているので、変に感じたのだと思う。


「お姉ちゃん、お兄ちゃんどうしたの?」

「え?・・・うん。何でもない。」

「そうかなあ?」

「順平君とナッちゃん、なんかハッピーオーラ出てるね。」

「うん。なんかいい感じだ。」

「オーラって?」

「体を包むような『輝き』みたいな。」

「お姉ちゃんとお兄ちゃんとサヤからも出てる?」

「うん。そうね。たぶん出てるわ!」

「お姉ちゃんには見えるの?」

「見えないけど感じるのよ。」

「どうしてオーラが出るの?」

「そうだな、俺達が仲良しで、彩香が良い子で可愛いから・・・かな!」

「うん、そうだね。」

「えへへ!」

「さ、俺達も帰ろうぜ!」

「ねぇ翔ちゃん、何か買ってく?」

「そうだね。ケーキでも買うか。残金あるし。」

「ワーイ!」


俺達は道を渡った所にあるコンビニで5人分のショートケーキとカフェラテをを買った。


そして家に向かった。

「姉ちゃん、そう言えばユミちゃんから何か連絡あった?」

「特に無いよ!」

「どこ受けるんだろう?」

「あ、それなら先月の中頃に『浜田山』とか言ってたわ!」

「そうなんだ。じゃあやっぱりマサちゃんと一緒にしたんだね。」

「マサ君のためだけじゃ無いと思うよ!」

「どうして?」

「推薦もらえそうだし、チアリーディングしたいとか言ってたわ。」

「へー、なるほど。ユミちゃんらしいね。」

「マサ君も推薦かなあ?」

「いや、推薦じゃ無いかも。2年の初め頃から受験決めてたみたいだ。」

「どうして?」

吹奏楽部(スイブ)で都大会だか全国大会だかに行きたいんだって。」

「浜田山の吹奏楽部って有名よね。」

「でも、レギュラーになるのなかなか大変なんじゃないかなぁ。」

「マサ君ならきっと大丈夫だわ!」

「だね。ユミちゃんの応援も期待できるだろうし。小悪魔的な!」

「どういうこと?。」

「ユミちゃんってそんな感じじゃない?」

「そんな事無いと思うけど、可愛いよね。・・・2人とも結局同じ学校になって良かったわ。」

「お姉ちゃん達はどうしてみんな同じ学校に行かないの?」

「そうね。そうしたいんだけど、成績とかしたい事とか色々あって、同じ高校には行けないの。」

「そうなの? なんか友達が少なくなって悲しいね。」

「そうだね。でも、学校は別々になっても友達には変わり無いの。いつでもまた会えるわ! 近所に住んでるんだし。」

「それに、学校が始まったら、新しい友達ができるんだ。」

「じゃあ、幼稚園に行ったら、サヤにも友達できるかなあ?」

「ああ、できるさ。」

「いっぱいできるといいなぁ!」

「そうね。」


 俺達は、商店や家々の正月飾りでいつもより少し華やかな通りを彩香を真ん中にして歩いた。少し寒いけど愉快な気持ちだった。姉ちゃんも俺も彩香もみんな今年は進学だ。彩香もやがて出会いの嬉しさや別れの辛さや、新しい環境の不安と期待を覚えたり、悲しい事があって泣いてもいつの間にか乗り越えたり、忘れたりして行くんだろう。なんか俺、彩香の親みたいな気持ちだ。彩香とつないだ手に少し力が入った。それを感じたのか、俺を見上げた彩香は本当に可愛いかった。

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