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姉ちゃんは同級生 ~井の頭の青い空~  作者: 山崎空語
第3章 中学校の頃の俺達 ~特別な卒業生~
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3-6 江の島に行った日(その1)~ミッションB~

 2年の夏休みになって最初の土日に新人戦があった。もちろん庭球部の新人戦だ。新人戦は個人戦だけだ。個人戦と言っても、ダブルスだから正確には『ペア戦』と言ったらいいだろうか。俺達男子はどのペアも優勝できなかった。俺と順平は3位決定戦でなぜかやる気が失せて4位入賞に終わった。女子はさすがだ。ナツ(清田夏子)とサチ(原田佐知子)のペアが優勝で、姉ちゃんとユミ(島崎由美)のペアが3位だった。男子は静かに反省会をした。隣の女子の部室からは何度か歓声が聞こえた。


 その日の夜の事だ。俺は姉ちゃんの部屋に行った。


「おめでとう姉ちゃん。女子は大活躍だったね。」

「うん。ちょっとね、実力プラスα(アルファ)出ちゃった。」

「アルファって?」

「さあなんだろうね。」

「ま、何でもいいけど・・・今日も暑かったねぇ!」

「そうね。男子の敗因は暑さじゃあ無いみたいだったけど。」

「うん。最後の試合はなんかやる気が出なかった。」

「どうしちゃったの?」

「わからない。」

「きっと、忘れちゃったのね。」

「何を?」

「レギュラーの条件。」


庭球部では2年の初めにペアが決まる。そして、新人戦で3位以内になると自動的にレギュラーに推挙される。


「そっか。姉ちゃん達はレギュラー決定だね。」

「かな?」

「おめでとう!」

「ちょっと早いけど、ありがとう。」

「確定だと思うよ!」

「そうね。・・・男子はこれからバトルになるね。」

「だね。でも俺達入賞だから、アドバンテージある。」

「あら、そううまくいくかしら?」

「こういうの『アドバンテージ』って言うんじゃない?」

「そうならいいね。」

「・・・ところで、しばらく練習無いね。」

「うん。天使の休息よ!」


姉ちゃんは『ニッコリ』わざとらしく微笑んで俺を見詰めた。

ものすごく嫌な予感が俺の頭を右上から左下に貫いた。きっと何かを企んでいる。


「ふふっ、翔ちゃん! 私達の勝ちだよ!」

「えっ? どういう事? なんか勝負してたっけ?」

「・・・順位が上の方が勝ちって約束なんだけど。」

「えっ?・・・ああぁっ!そうだ。忘れてた。」

「自信たっぷりで『やる気出た』って言ってたの誰だっけ?」

「思い出した。今! あぁーしまった!」

「半日遅かったね。」

「そうだったー!」


*****


 先々週の木曜の事だ。練習の休憩中に俺は順平とレギュラーの件を話していた。


「なあ順平、俺達優勝すれば文句なしでレギュラーだよな。」

「それがそうでもないんだ。」

「2年でもう一度バトルするって事か?」

「いや、そうじゃ無くて、結局のところ、そういうの先生と先輩が決めるんだ。」

「戦績はあんま関係無くて、日ごろの『おこない』ってわけか。」

「ただ、新人戦で3位以内なら、レギュラーに推挙されるってことらしい。」

「推挙って、なんか相撲みたいじゃん。」

「まあな。でも、過去に3位以内でもサブになった人も居るらしいぜ。」


サブと云うのは補欠の事だ。レギュラーが病気や故障したときに試合に出る。サブが下手とか弱いとかいう訳じゃない。こういうピンチヒッター的なのが向いている人も居る。


「つまり、俺達2年はデュースで横並びの状態ってわけだ。」

「なんだそれ?」

「新人戦で3位以内になればアドバンテージゲットてな。」

「まあな。」

「で、もうひと押しはなんだろね?」


そこへユミと姉ちゃんが来て、ユミが言った。

「へー、順平・翔太ペアもレギュラー狙ってんだ。」

順平が待ってましたとばかり、

「あったぼーよ!そのためにこれまで苦しい練習をしてきた。ゆず。」

一瞬訪れた沈黙の中で、ちょっと前の曲が脳裏を横切った。

俺は順平の発言を無視した。

「と言うことは、姉ちゃん達も狙ってるんだ。」

「狙ってないよ。自然にそうなる予定。」とユミ。

「うわっ!すっげー自信。」


と言った時、順平が何かを思いついた。


「それじゃあ勝負しないか?」

「どんな?」

「試合さ。ハンデなしで。」

「男子とじゃ勝てないよ。ねえハルちゃん。」

「そっかなぁ、翔ちゃんと順平君となら案外勝てるかも。」

「おい、翔太。お前の姉ちゃん結構言うよな。負かしてやろうぜ!」

「おぉ!」


 練習終了後、俺達4人は試合をした。先輩も含め、男女の部員の半数位が冷やかしでコートサイドに残った。


第1セットはラブでゲットした。女子を相手にする時は最初が肝心だ。1度なめられると口で負ける。だいいち、ギャラリーの大多数が姉ちゃん達の味方だ。

ちょっと余裕が出た俺は良いことを思いついた。

「タイム。順平ちょっと。」

俺は順平に耳打ちした。

「え? ミッション発動?・・・そうだな。」

「じゃあ、ミッションBオールで。」


結局、姉ちゃんの予言は的中する。大差ではなかったが、第2第3セットを取られた。

順平と俺は負けた。実をいうと、この試合はかなり良いトレーニングになった。

『できるだけ正確に相手が打ち返しやすいところに返す。』

それがミッションBだ。

それに、第1セットを取った時、勝ってもなんかカッコ良くない気がした。


・・・・・・・・・・

 蛇足だが、俺たちの基本ミッションコードはAからFまで6つあって、試合中に頻繁にミッションを切り替える。少し専門的な説明になるから興味がなかったら読み飛ばしてくれて構わない。

(A)は相手の前衛が意味も無くチョロチョロ動く時発動する。後衛がサイドスルーアタックをかける。『トーリャ』とかいう掛け声でアタックするから、前衛は下がってボレーに備える。

(B)は前述の通りだ、相手の実力を調べる時にちょっとやってみる。不利なミッションなので、普通2ポイント程度でやめる。今回はサブコードが『オール』なので、最後まで続けた。

(C)は相手の前衛の動きが悪い時に使う。後衛は小細工なしにラリーを続ける。それを前衛がボレーでカットするのだ。

(D)は相手が強敵の時発動する。根気よく相手の苦手そうなポイント、つまり、基本バックハンドポジションに返球して相手のミスかアタックチャンスを待つ。ディフェンス優先だ。

(E)は相手が意気込んでいる時に使う。エンドラインぎりぎりに深いショットやロブを返す。そして相手のミスを誘うのだ。こっちが弱そうな演技を加える事もある。

(F)は相手がエンドライン付近に下がって守備的な動きをする時に使う。大きなテイクバックやスマッシュの格好で威圧しつつ、ネット際にドロップショットを落とす。フェイントってやつだ。

 ミッションはいつも単独で発動すると云う訳ではない。たとえば、ミッションEFだと相手をエンドライン付近にくぎ付けにしておいて、ネット際にドロップショットを落とすし、ミッションAFだと、アタックに見せかけたドロップショットを打つという事になる。

 もちろん、テニスの醍醐味というか面白さは、『エースを取る』って事だ。サーブにしろスマッシュにしろダウンザラインへのアタックにしろ、決まった時のギャラリーの拍手が一番嬉しい。これが欲しくて、病み付きになって、結局失敗する・・・つまり試合に負けるって事も多いが、エースさえ何度か取っておけば、負けても気持ち的に復活が早いのだ。

・・・・・・・・・・


「翔ちゃん。勝たせてくれてありがとう。」

「いや。こんなもんだよ俺達。な順平」

「まあな。」

「ねえ、オフどこかに行かない?」

「え?それデートのお誘い?」

「うん。まあね。ただし、新人戦で上位になった方が行先を決める権利ゲットってどぉ?」

「おお、それ面白い。なんか新人戦、やる気出る。」

こうして、新人戦の順位が上になったペアの行きたいところへ行くという約束をした。

もっとも、オフには同学年の仲良しでどこかに遊びに行くってのは、この頃にはもうお決まりになっていた。


*****


 そして今に戻る。


「えへん。約束通り行き先は私達が決めるね。」

「ぜひ、ランドを期待します。」

「だぁーめ。私達、行きたいところがあるの。」

「日帰りできないとダメだと思うよ。」

「ふふん。江の島よ!」

「え、江の島!?・・・なんか渋い。」

「だって、行った事ないから、湘南。」

「子供の頃行かなかったっけ?」

「かも知れないけど、いいじゃん。だいいち覚えてないし。」

「じゃあ、明日行く?」

「そんなの無理よ、早くて明後日ね。」

「なんで?」

「女子は色々準備が必要なの!」

「そんなもんすか?」

「ええ、そうよ。」

何を準備するのか見当もつかない。なんかサプライズがあるのだろうか?

「ところで、泳ぐの?」

「うふふ、明日みんなで色々買いに行くよ。水着も。・・・付き合う?」

「おお、・・・でもまあ、え、遠慮しとくよ!」

「そうね。その方が賢いと思うわ。」

なるほど。準備ってそれか。俺はかなり妄想を掻き立てられた。

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