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姉ちゃんは同級生 ~井の頭の青い空~  作者: 山崎空語
第6章 高校生の俺達 ~卒業に向かって~
122/125

6-11 国際電話があった日(その2)~最後の撮影~

 3時前、道玄坂のスタジオに入った。吉村さんが入り口のすぐ近くに丸椅子を持って来ていて、いつものように誰かと携帯で話をしていた。吉村さんは見掛け熊のようなおじさんだが、もうすっかり見慣れた。そのせいか、どこかお姉っぽく感じる時もある。スタイルKの営業になる前はトップモデルのマネージャーだったという噂で、ものすごく機転がきく人だ。

『おはようございます。』俺達ハモった。

吉村さんは電話を耳から離して、

「ああ、ショウ君、ハルちゃん。おはようさん。」

吉村さんはたぶんついでに彩香にも微笑みかけたが、彩香は姉ちゃんの腰にしがみ付いた。まあ彩香位の子供なら正常な反応だ。吉村さんは彩香の事は気に留める様子も無くまた電話で話始めた。そこへ、俺達の声が聴こえたのか、メイクの野崎さんがパーテの上に顔を出した。

「おはようございます、ショウ君、ハルちゃん。」

『おはようございます。』

「あら、彩香ちゃんンも一緒なのね。」

「こんにちは。一緒でぇす。」

「相変わらず可愛いわね。後でちょっとメイクしてあげよっか。」

「うん。」

野崎さんは笑顔の余韻を残して首を引っ込めた。ちょうど電話が終わったみたいだったので、

「吉村さん、今日の絵コンテは何処ですか?」と俺。

「無いみたいだ。スポンサーの要望が2転3転したらしい。」

「そうですか。」

すると、野崎さんがまたパーテから顔を出して、

「何してるのハルちゃん、翔ちゃん、早く来て! ベース造りするから。」

『はーい。』

「サクッとやろう!」

「サヤも行って良い?」

「もちろん良いよ!」

野崎さんは左手で『おいでおいで』をした。彩香はホッとした様な笑顔になった。俺、彩香、姉ちゃんの順で3人がパーテに入ると、衣装コーナーの奥でカメラマンの山内さんと助手の吉岡さんが衣装を撮影しているのが見えた。木下さんが衣装のハンガーをブルースクリーンの上のフックに掛けて、揺れを手で押さえて止めると、それに吉岡さんがライトを当てて、ハンガーに掛かった状態の衣装を1着ずつ撮る作業だ。要するに撮影用のカタログ作りだ。木下さんの奥にもう1人の衣装係の女の人が居るが名前を知らない。いつも違う人だ。たぶん、スタイルKの人ではなく、衣装提供のブティックかスポンサーの人だろう。衣装専用の大きな段ボール箱から衣装を取り出して、ビニールカバーを次々に取ってハンガーラックに並べて掛けていた。俺達は仕事中で忙しいだろうとは思ったが、姉ちゃんと目配せして、パーテ越しに一応挨拶の声をかけた。

『おはようございます。今日もよろしくお願いします。』

木下さんはチラット俺達を見て、

「おはようございます。」

山内さんはカメラを構えたまま、振り向く事無く、

「おお、来たか。おはよう!」

吉岡さんと名前を知らない女の人はこちらを向いてペコリと首で挨拶した。もう1人、トムさん(本名知らない)が吉岡さんの後ろで電源ケーブルを持っているが、俺達には興味が無いみたいだった。


 今日は渋谷の小中高ブティックの春物の撮影だそうだ。とは言っても、スタイルKの別冊だから高校生向けのはずだ。おそらくこれが姉ちゃんと俺の読者モデル最後の仕事だ。思い返せば色々な事があった。学校が大騒ぎになったり、ネットでイジられたりした。モデル生命の危機もあった。悪い事ばっかじゃない。ロケに行った。スワイプ・イン・ドリームを応援して吉祥寺の駅前でコンサートもした。スタイルKにスカウトされたお蔭でかなり刺激的で楽しい高校生活だったと思う。

 刺激的と言えば、おやじや母さんとのいわゆる保護者契約で水着や下着の撮影は無いって事になってはいたが、衣装にも色々あった。特に姉ちゃんが着る女子の衣装は大胆な物も多い。インパクトが有るデザインの大半は男子の妄想を掻き立てる。撮影現場は淡々と仕事を進めるからあまり感じないが、実際に写真になると、まあそう言う狙いの一瞬を切り取るから、結構ドキッとする物になる。言うまでもないが、ドキッとかハッとするのは胸や下半身の肌やインナーの露出だけではない。うなじや二の腕や脹脛フクラハギクルブシなどなど、所謂フェチ族が存在する場所を焦点深度や被写界深度を駆使して撮ると、そこだけが強調されて認識されるから、フェチ族で無くてもかなりの衝撃を受ける物になる。それに、モデルとの共同作業にはなるが、ハズそうな表情やポーズ、睨みつける様な視線、片側口角の釣り上げ方、手足の組方や男女つまり姉ちゃんと俺との絡み合ったポーズの取り方なんかも色々なモーションアピールになる。それらの膨大な組み合わせの写真データがハードディスクに記録される。いわゆるローデータだ。姉ちゃんと俺がとったポーズでも、中にはとても未成年には直視できない、てか、見せたくない物もある。かなりハズい。結局、インパクトとエロ、可愛さとキモさの境界を微妙に判断するのが編集さんなのかも知れない。

 実を言うと、エッコ先輩のかなりエロいポーズのショットや姉ちゃんのミニスカートが翻ってパンツが映ってたり、ローライズ過ぎて俺のハズい毛がはみ出して写ってる生データを山内さんにもらった事がある。すぐに消去したけど、絶対秘密だ。DKにとって、カメラマンって、ある意味憧れの仕事だと思う。あ、言い忘れる所だったが、生データのまま採用されることは少ない。たいてい修正や補正が加えられて、狙い通りの画になる。

 俺達は自分でメイクすると、必ずと言って良い程、長谷さんのダメをもらう。だからメイクは野崎さんに任せるしかない。野崎さんは姉ちゃんと俺の間に立ってほぼ交互にメークを進めて行く。普通のモデルさんの場合は1人ずつ仕上げるのだそうだが、姉ちゃんと俺の場合は同時進行でも嫌な顔をしないので、交互にメークするのだそうだ。その方がイメージを表現し易くて、手直しが少なくなるから助かるのだそうだ。

 俺の傍で退屈そうにしていた彩香が隣の姉ちゃんの鏡を覗いた。姉ちゃんはファンデを塗り終わって、アイシャドウにボカシを入れるところの様だった。

「わー、お姉ちゃん綺麗!」

姉ちゃんは野崎さんにアイラインをスマッジして貰っていたので、彩香とはせいぜい視線を合わせる事くらいしかできない。なので、俺が鏡越しに彩香の顔を見て話しかけた。

「お兄ちゃんはどうよ。」

「お兄ちゃんじゃないみたい。」

「おお、最高の賛辞ありがたく頂きました。」

野崎さんが吹き出しそうにして、彩香を見て、

「仲がいいのね3人共。」

「うん。サヤ高学年になったら、お姉ちゃんとお兄ちゃんのマネージャーになるよ!」

「ああ、そうなんだ。」

「あぁあ、ごめんな彩香。この仕事の契約は3月までなんだ。」

「ええー、次の契約は?」

「たぶん無いな。スタイルKは高校生の雑誌だからね。」

「なぁんだー。つまんない。」

「ナタプロはどうするの?」と姉ちゃん。

「あ、そっか、すっかり忘れてた。どうしよっか。」

「ちゃんとお返事考えないとね。」

「あなた達、タレントになるの?」と野崎さん。

「いえいえ、モデル登録ですよ。」

「それ、ウチとの契約のね。」

「そうです。」

「それなら登録するしか無いんじゃないかしら。」

「ですかねぇ。」

「きっと4月以降も飛び入り撮影があると思うよ!」

「まさか。」

「だって、貴方達ほどのモデルさんはそうは居ないから。」

「あ、ありがとうございます。話半分でも嬉しいっす。」

そこへ助手のトムさんが入って来て、

「スタンバイOKです。」

どうやら衣装撮りが終わった様だ。ダメ押しの様に、山内さんがスタジオから大声で、

「じゃあ始めましょう。編集は?」

「まだです。今朝急ぎの仕事が入ったそうで。」と吉村さんの声。

「編集が居ないんじゃあなあ。・・・どうすべきか・・・」

しばらく沈黙が流れた。おそらく、吉村さんが携帯を差し出して沈黙を破った。

「ヤマさん・・・ジュンさん。」

想像だが、山内さんは当然の様に携帯を受け取って皆に聴こえる様な大声で話し始めた。

「おお、ジュンちゃん。編集なしでどうする。」

「・・・・・」長谷さんの声は聞こえない。

「コンテ作る時間が無かったって事だな!」

「・・・・・」

「うん。うん。なるほど。」

「・・・・・」

「そううまく行くかな?」

「・・・・・」

「わかった。その線でイメージを拡げてみる。」

編集の長谷さんは普通は現場に居て、モニターを見ながらコンセプトに合った写真を選んだり、構図や俺達のポーズに注文を出したりする。だが、今日は間に合わないので、長谷さんはたぶんコンセプトを山内さんに口頭で伝えたのだと思う。飛び込み撮影では良くある事だ。結局、山内さんが皆に最初の指示を出した。

「ハルちゃん、翔ちゃん、それから皆さん、今日は・・・え~っと、どう言えば良いかな・・・春のホワーっとした雰囲気で非日常的なのを撮りたいのでよろしく。」

「じゃあ、仕上げはこのブラシで決まりね。」と野崎さん。

「それじゃあ、衣装もこの辺りからね。」と木下さん。

そう言いながら、木下さんがハンガーラックをジャラジャラと押してパーテに入って来た。木下さんが取り出した最初の姉ちゃんの衣装は確かにピンクのパステルカラーのワンピで、輪郭がホワーっとしている。木下さんは俺にはライトグリーンのパステルカラーのパンツとブルーストライプのジャケットを差し出した。2人共かなり現実離れしている。姉ちゃんと俺はそれに着替えてスタジオに出ようとした。すると、

「翔ちゃんちょっと待って!」

野崎さんが俺を呼び止めて頭にワックスを塗って髪を梳いた。スタジオに出ると、山内さんと目が合った。

「何ともホワーとしたご要望ですね。」

  『カメラマンの揚げ足取らなーい。』

山内さんは早速カメラを構えて、ファインダー越しに姉ちゃんを追尾しながら軽快な会話をする。姉ちゃんと俺はひとまずホワイト・スクリーンの前に並んで立った。彩香が山内さんの後ろに来て笑顔でピースサインを繰り出した。姉ちゃんと俺は彩香の笑顔でなんか楽しい気分が増大した。吉岡さんの調整でライトが輝度を上げた。トムさんが姉ちゃんの顔の横に露出計を出して測光した。山内さんはズームしてその数値を確認した。これが撮影開始の前の『初期設定』というセレモニーだ。

  『・・・で・・・春と言えば、恋のシーズンだよね。』

「うへー、それ、1番ムズイっす。」

  『ムズイのをやって見せるのが今日のミッションだよ!』

姉ちゃんと俺は顔を見合わせて、

「ソーシャルっぽく踊ってみますか?」

「そうね。」

姉ちゃんと俺は両手を取って広げたり狭めたり。俺は繋いだ右手を姉ちゃんの頭の上に上げて姉ちゃんをくるりと回してから俺に凭れかかる様なポーズにしてみたりした。吉岡さんがカラー反射板のライトでホワイト・スクリーンを着色した。シャッター音がせわしくスタジオに響いた。

  『それもいいけど、恋の予感どっか落ちてないかなぁ?』

「翔ちゃん、腕組めばいいんじゃない?」

「それもそうだね。じゃあ組んでみようか。」

俺が左肘を出すと姉ちゃんが右腕を絡めた。

  『おおぉ、いいねえ、いい! もっとしっかり組んでみて?』

「こうですか?」

姉ちゃんは俺の左腕を抱き込むように体をくっつけて腕を組んだ。

  『いい、良い、サイコー』

「・・・姉ちゃん、なんかまた大きくなった?」

「ばか。何言ってんの!・・・中身は変わってないから。」

「あ、そういうやつね。」

「スケベ翔ちゃん!」

「へいへい。にしても非日常かぁ!」

「お姫様抱っこは?」

「なるほど。それ、やってみよう。」

俺がしゃがんで右腕で姉ちゃんの太ももを持ち上げると同時に姉ちゃんが両手を俺の首に回した。姉ちゃんと俺は1度見詰め合ってから半カメラ目線を山内さんに向けて繰り出した。

  『おおぉ~、凄いスゴーイ!』

「重っ!」

「ちょっと、落とさないでよ!」

「冗談です。」

「ほんと?」

「お兄ちゃん、サヤも後でして!」

「おぅ。待ってろ!」

こんな会話をしながら、姉ちゃんと俺がポーズを変える度に時間を細切れに切り取る様にシャッター音がスタジオに響いた。

  『よーし。今度は見つめ合って・・・そうそう。それ良いね。』

こうして、ひとしきり撮影が進んだ。


4時を過ぎた頃、長谷さんがやってきた。撮影は小休止でコーヒーブレークになった。長谷さんは山内さんとモニターを見ながら、これまで撮った写真を流し見している。

「さすがね。いいのが撮れてる。」

「ウソだろ! ジュンちゃんが駄目なし?・・・どうした?」

「だって、これなんか、恋の予感の感じ、すごく出てる。うん。いいね。」

「そうなんだ。不思議と中西姉弟は本当に恋しようとしている様に見える。」

「こうなると、やっぱり欲が出るわね。もうひとつ何かあると良いわね。」

姉ちゃんと俺はもう殆ど飲み切ったコーヒーカップを持って、長谷さんと山内さんの背後からモニターを見ていた。長谷さんの『恋』に続く『欲』というキーワードはだいたい次の展開の予想が付く。

「なんか次の台詞が怖い。」

そう言って姉ちゃんを見ると姉ちゃんも苦笑していた。すると、

「なあ、ハルちゃんと翔太君。」

来た来た。これが山内さんが要求をレベルアップする時の決まり文句だ。姉ちゃんを先に言って俺に明確に『君』を付ける。きっぱり断らねば。

「すみません。俺達、『禁断のなんとか』みたいなご期待は無理です。」

「そういう期待、無いと思いますけど。」と姉ちゃん。

「きみたち、勘が良すぎるぞ!」

「もう1つなんだけど、何が良いかしら・・・」

長谷さんが考慮タイムに入った。暫く少し重い沈黙が流れた。山内さんが矢印キーを無造作に押す度にモニターの写真がパラパラと送られていた。そこへ彩香がパーテから出てきた。そして、姉ちゃんに駆け寄ってくるりと回ってから顔を見せた。目鼻がくっきりして、元々大きな瞳が益々大きく可愛くなっている。

「野崎お姉さんがメイクしてくれたの。」

「おおー、彩香、すごい可愛いじゃないか!」

そこに居たみんなが彩香に釘付けになった。同時に長谷さんが何か閃いた。

「ねえ。誰か彩香ちゃんに合う春色の服探してきて!」

すると衣装係のお姉さんが、

「お店にあります。」

「すぐお願い。」

「彩香ちゃん、ちょっとゴメン。」

そう言うと、お姉さんは巻き尺で彩香の身長と肩幅とウエストを測って手の甲にメモしてから、小走りにスタジオを出て行った。

「ジュンちゃん、それ、マズいわ。契約してない。」と山内さん。

「後でなんとかする。いいよね。吉村さん。」

「はい。確認します。」

吉村さんは手帳をポーチから出して、携帯を持ってスタジオの隅の方へ行った。長谷さんは彩香の前にしゃがんで、彩香と目線を合わせて、

「サヤちゃん、写真撮ってもいい?」

「うん。いいよ。」

「中西君。良いよね。後でご両親にはご説明しますから。」

「まあ。良いよね、姉ちゃん。」

「うん。たぶん良いと思うけど、お父さん何か言うかなあ?」

「反対するって事?」

「ううん・・・そうね・・・喜ぶんじゃない?」

「だね。」

スタジオの隅に移動していた吉村さんが戻ってきた。そして、

「中西さんに電話がつながりました。」

「貸して。」

長谷さんは吉村さんの携帯をむしり取るように受け取って、スタジオの出口に歩きながら、

「すみません、中西さんですか? 編集の長谷です。今スタジオに居るのですが、彩香ちゃんに・・・」

と、たぶん親父と話しながら、スタジオの外に出て行った。親父の事だから、長谷さんに押し切られて、たぶん断われないだろう。


 30分後、彩香が妖精フェアリーになった。白いワンピに草色のカーデガンを羽織った姉ちゃんの膝に座って、淡いピンクのワンピを着た彩香が絵本を読んでもらっている構図。今日買ったシートブックが絵本になっている。その構図に、俺も2人の後ろから覗き込む様に参加したりする。そして、ホワイトデニムのパンツとペールライムのスプリングセーターに着替えた俺の胡坐の中がホワイトデニムのサロペットを着た彩香の居場所になる。俺の隣にホワイトデニムのミニスカートで淡いピンクのトレーナーの肩にアイボリーホワイトの荒いニットのショールを羽織った姉ちゃんが俺にちょっと凭れかかる様に座って、天使の様な優しい視線を彩香に注ぐ。衣装は現実離れしているが、俺達姉弟妹の理想形の様な構図だ。

  『タク、回り込んでプラス2!』

  『ラジャー!』

吉岡さんの強めにしたライティングでハレーション気味に輪郭をボカした画になるのだと思う。


 長谷さんの指示で次々に俺達のポーズや衣装が変わった。もちろん制服もあった。彩香の小さい制服がなんともいい感じで、姉ちゃんと2人で久しぶりに彩香の『可愛いパワー』を堪能した。撮影は5時を過ぎても終わらなかったが、軽いスナックとペットボトルの飲み物をトムさんが買ってきてくれたので、お腹は空かなかった。結局、撮影が終わったのは8時過ぎだった。彩香は撮影されるのがよほど嬉しかったらしく、大喜びで、興奮の限界を突破して・・・眠ってしまった。なので、タクシーで帰る事になった。

「今日はほんとありがとう。彩香ちゃんのおかげで、インパクトある絵柄が撮れたわ。」

「いえいえ、こちらこそ、彩香の才能が見えたみたいで、驚きでした。」

「また頼むかも知れないわ! よろしくね。」

「はい。でも、その時は午前中がいいみたいですね。」

そこへトムさんが入って来て、

「タクシー来ました。地下駐車場です。」

「翔太君、これ、サヤちゃんのローデータ。良いのを選んで入れたから、ご両親に見てもらって頂戴。」

「メディアは返送ですか?」

「その必要は無いわ!」

「分かりました。」

「問題があれば長谷か吉村に連絡を頂きたいと言っていたと伝えてください。」

「分かりました。」

「西田社長に彩香ちゃんも候補にしてもらうようにお願いするかも。」

「えっと、俺達まだ返事してないです。」

「あら、是非登録して!」

「私達、スタイルKは3月で卒業なんですよね。」と姉ちゃん。

「まだはっきり言えないけど、ちょっとした計画があって、貴方達にも参加して欲しいの。」

「どんな計画ですか?」

長谷さんは微笑んで、

「そうね、スタイルDかしら。」

「へー。」


俺達はエレベータで地下へ降りてタクシーに乗った。彩香は姉ちゃんに抱かれたまま熟睡している。

「どちらまで?」と運転手さん。

「三鷹台駅の・・・」と俺。

「できれば住所でお願いします。」

俺が住所を告げると、ナビがセットされた。タクシーが動き始めてしばらくして、

「翔ちゃん。今日は午後からすっごい楽しかった。」

「俺も。」

「サヤちゃんのおかげだね。」

「そうだね。可愛い探偵くんのおかげだ。」

「サヤちゃんはやっぱり特別だね。」

「そうだね。彩香は特別だ。」

家に着いたのは9時前だった。軽く夕飯を食べてお風呂で温まって、リビングで妖精フェアリー彩香の写真を鑑賞した。母さんは嬉しそうで、親父はかなり安心した様子だった。最初は興奮気味にはしゃいでいた彩香はもちろん母さんの腕の中で眠ってしまった。そして、その夜は流石に疲れたので、姉ちゃんも俺も自分のベットで眠った。もちろんいつもの儀式の後でだ。

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