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姉ちゃんは同級生 ~井の頭の青い空~  作者: 山崎空語
第6章 高校生の俺達 ~卒業に向かって~
119/125

6-8 部活を引退した日(その3)~す、凄いなみんな~

 昼休み、順平と待ち合わせて唐揚弁当を買って久しぶりに放送室に行った。しかし、調整室とスタジオの入り口のドアに『3年生は立ち入り禁止!』という紙が貼ってあって入れて貰えなかった。仕方なく旧棟2階にある写真部の部室に行った。新棟(教室棟)と旧棟(講義棟)は2階以上が連絡通路で繋がっている。順平が声をかけてドアを開けた。

「入って良いか?」

「いらっしゃい。噂をすればね。」と緑ちゃん。

長細い部室に向い合せにした会議テーブルが2組、つまり4つ縦長に置いてあり、1番奥の誕生席に窓を背にして緑ちゃん、その右側に姉ちゃん、左側に加代ちゃんが座っていた。

「そろそろ来る頃じゃないかって言ってたの。」と姉ちゃん。

「閉め出されたんだろ。」と加代ちゃん。

「その通り。」と俺。

順平と俺はテーブルの前で左右に別れて奥に進み、加代ちゃんの隣に順平、姉ちゃんの隣に俺が座った。姉ちゃんが俺の顔を見て、

「談話室に行くかもって思ったけど、やっぱこっちに来たね。」

「写真部と放送部の1年と2年が全員集まって何か画策してるみたい。」と緑ちゃん。

「やっぱそうか。つまり、宮内さんも1度は放送室に行ったんだね。」と順平。

「そうよ。あ、高野君、私の事『緑』で良いから。今更だけど。」

「わかった。じゃあ僕は『順平』で頼む。」

「うん。」

「ところで、明莉ちゃんと円ちゃんの動向は?」と俺。

「円ちゃんと雫ちゃんに双方のメアド教えたから、何とかなるでしょ。」と加代ちゃん。

「今日はなんか凄い事になりそうね。」と姉ちゃん。

「まあ、後輩達に任せましょう。」と加代ちゃん。

「そうだ、写真部と加代ちゃんは阿部君に金一封を渡したのよ。」と姉ちゃん。

「そっか。幾ら?」と俺。

「1人2千円。」

「それはまた張りこんだね。順平、俺等どうする?」

「まあ、出すっきゃないな。」

「じゃあハイ、祝儀袋。」と緑ちゃん。

「おお、流石。ありがとう。」

俺がその祝儀袋を受け取ろうと身を乗り出すと、緑ちゃんも身を乗り出してそれを差し出した。がしかし、袋から手を離さず、俺を見つめた。軽い綱引き状態になった。

「なに?」

「50円の所、100円にまけとくわ!」

「えぇ~・・・この、ちゃっかり者!」

俺は緑ちゃんに作り笑顔で代金を支払って、その祝儀袋に2千円を添えて順平に差し出した。

「え~と、あと頼む。」

「お、おお、了解。」

その様子を加代ちゃんが苦笑しながら見ていた。

「なんか緑ちゃんと翔ちゃんって、案外仲良しなんじゃ無い?」

「ああ、仲良しだぜ! ある意味。」

「こら、紛らわしい事、言わないでよ!」

「俺を何度スクープした? このチクリ・パパラッチ!」

「全部あんたが悪いんジャン! 逆恨み、す・ん・な!」

「それはそれは、どうもありがとう。今後は全身全霊で愛して差し上げます。」

「何ですって?」

「まあまあ、お前等、相互依存関係だって事は解ってっから。」と順平。

『激しく否定!』

「おおぉ、息ぴったり!」と加代ちゃん。

すると、姉ちゃんが苦笑しながら立ち上がって、

「お茶を入れるわ!」

写真部には過去の遺産で暗室がある。暗室には独特の臭気が漂っている。臭気の主成分はおそらく酢酸だ。酢酸は写真焼付の中間停止液だから、その蒸気が長年コンクリートの壁に染着いたのだろう。暗室の1番奥には古い冷蔵庫がある。本来はまとめ買いしたフィルムロール、印画紙、現像液を低温保管するための物らしいが、今はジュースや生食品を冷やす普通の冷蔵庫になっている。元々は引き伸ばし機という投影装置、現像液や定着液をいれたパッドを温めるホットプレートそしてフェロ板乾燥機という印画紙の光沢処理をする機材があった所の壁際に、鍋とフライパンと鶴首の湯沸しポットとセラミック包丁等の調理器具や塩、胡椒、砂糖、醤油等の調味料を置く棚があり、その前に1口のIHコンロが置いてある。コンロはOBの寄付の様だ。その反対側には、氷酢酸を水で戻したり、現像したフィルムや印画紙を流水で洗っていたと思われる、頑丈そうな流し台がある。要するに、写真がデジタルになった結果、余程の物理化学実験でもない限り、銀板フィルムを取り扱う特殊設備と技能は完全に必要無くなったのだが、暗室そのものは写真部員が便利に転用しているという訳だ。

「そうだ、お釣り代わりにお味噌汁もあるけど要る?」と緑ちゃん。

「緑ちゃんの手製?」と順平。

「まさか、インスタに決まってんじゃん。」

「じゃあ、貰うよ!」と俺。

「翔ちゃん、それどういう意味?」

「えっ?・・・緑ちゃんの愛情で、インスタントでも美味しくなると思いまぁす。」

「愛情ならお姉さんに注いで貰いな!」

「うん。じゃあ姉ちゃん頼んだ。」

「もう、バカね!『じゃあ』って言わなきゃ良いのに。」

「はい。そうでした。大変失礼いたしました。」

「あんた達、やってらんないわ!」と加代ちゃん。

「順平君も飲むよね。」と緑ちゃん。

「もちろん。」

「皆も?」

「いただくわ!」

結局全員飲むんだから、味噌汁位なら最初から全員に出せばいいのにと思いつつ、俺は緑ちゃんと姉ちゃんが暗室に入って行くのを見送った。こうして、放送室からシャットアウトされた3年生5人は写真部の会議テーブルに弁当を広げて談笑しながら昼食を食べた。


・・・・・


 雨がいっこうに小降りにならないまま時間が経過した放課後の5時半頃、放送部9人、写真部7人、そしてアカマの3人の合計19人がエコサの4階に集合した。マスターお父さんの計らいもあって、レッスンフロアの中央に置かれた会議テーブルには、食べきれそうもない位の食べ物や飲み物が置かれている。もちろん1年生8人が雨の中を濡れながら買って来てくれた物もある様だった。フロアの入り口側の壁際には商店会から借りたと思われるスクリーンが置かれ、プロジェクターで写真が投影されている。どうやら、これまで写真部が撮り貯めた写真の様だ。俺達が入学した頃から最近までの学校の風景がほぼランダムに投影される。ほぼと言うのは、たぶんフォルダ選択がランダムなだけで、同じフォルダの関連した写真が連続して表示されるからだ。写真には撮影年月日と簡単な解説も書いてある。集まった皆はそれを見て思い出話をしながら、追い出し会が始まるのを待った。

「あ、これ1年の時の臨海学校ね。」と姉ちゃん。

「この辺は全部私の作品よ!」と緑ちゃん。

「つまり、緑ちゃんは泳がなかったの?」と俺。

「緑ちゃんは水中撮影の防水ツールを持ってたのよ。」

「ミラーレス買ったばっかで、もう、写しまくり。」

「臨海学校って8月なんですね。」と明莉ちゃん。

「そう。夏休みの終わりだから宿題持参。」と緑ちゃん。

「宿題なんかする前に寝ちゃうけどね。」と加代ちゃん。

「おお、この余裕の表情は初日の2キロ遠泳トライアルから帰ってきたところだね。」と俺。

「翔太は2キロ止まりだっけ?」と順平。

「いや、初日で自信がついて、2日目は6キロ泳いだ。」

「僕はハルちゃんと一緒の4キロだった。いきなり3倍は無いだろ!」

「あの時はありがとうございました。」と姉ちゃん。

「そう言えば、あの日姉ちゃんは足がつったんだっけ?」

「そうなの。救護船が来るまで順平君が傍に居てくれたのよ。」

「負んぶとかして貰えばよかったのに!」

「あのねえ、挫いたんじゃないから。」

「僕もいっぱいイッパイだったから、負んぶとかしたら沈んじゃうよ!」

「4キロだろ?」

「あのなあ、距離と体力消耗は比例しないし。」

「まあそうかもな。」

「ところで、どうして臨海学校は1年か知ってるか?」

「お、来た来た、順平の豆知識。」

「2年が林間学校だから?」と加代ちゃん。

「正解は、全員スクミズ着れるのが1年だけだかららしい。」

「そう言えば2年からは体育はスクミズじゃない奴が居るな。」

「ああ、特に女子はいろんな所が急に大きくなるからナ!」

「なぁ~るほど!」

「翔ちゃん、妄想禁止!」と姉ちゃん。

「へいヘイ。」

「お、後ろの方に居るの加代ちゃんでは?」と順平。

「確かに。スクミズでもナイスバディーだ。」と俺。

「お、お前そんな目で私を見てたのか?」

「俺だけじゃない。それに、過去形じゃないし。」

「タレントには必要必須条件だと思うけど!」と順平。

「ドスケベ共!」

「あのぉ、師匠は1年生でもうかなり大きかったんですね。」と明莉ちゃん。

「うん。でもまだ170台前半だったと思う。」

「今は何センチですかぁ?」と円ちゃん。

「183です。」

「すごーい。」

「中学では30センチ以上伸びたのに、高校は15センチも伸びなかったって事だね。」

「凄いですぅ。つまり、中学になった頃は140センチだったんですかぁ?」

「そう。俺は姉ちゃんよりチビで、皆からいじめられてたんだ。」

「いやいや、女子からは『翔ちゃん』とか言われて、可愛がられてたよな。」と順平。

「ありがとう、順平もこうやって、良くからかってくれたものだ。」

「おいおい、誤解しないでくれ。羨ましく思ったものだぜ!」

「私もまだ伸びますかねえ?」と円ちゃん。

「ちょっと頭撫でて良いか?」

「はい。」

俺は円ちゃんの頭を撫でた。

「うん、伸びそうだね。」

「解るんですかぁ?」

「うん。なんとなく頭が尖ってると伸びるらしい。」

「そうですかぁ。延びたいですぅ! いろんなところ。」

「えっ? 何処と何処?」

「あ、そんなに見ないでくださぁい!」

「翔ちゃん!」

「へいへい。」


 窓際のベンチソファーの前に立ったユウ君(戸上裕也:放送部2年)の司会で会が始まった。

「えーっと、先輩の皆様は鏡側に移動してください。」

順平を先頭にして、3年生5人が鏡の壁の前に移動して横1列に並んだ。

「これから、放送部の高野順平先輩、中西翔太先輩、写真部の中西春香先輩、宮内緑先輩、それからスワイプ・イン・ドリームの田中加代先輩の合同追い出し会を始めまぁす。」

俺達3年は名前を呼ばれると少し照れくさい微笑みで手をあげてから皆にお辞儀をした。ただし、最後の加代ちゃんについては、明莉ちゃんが補足した。

「加代ちゃんについては追い出したりはしませんからぁ、誤解しないでくださぁい!」

「まあ、タレント活動に専念するって事だな。」と加代ちゃん。

「あ、私達3人は上下関係無しって事で、互いに『ちゃん』で呼び合う事にしましたぁ!」

と円ちゃんが解説。加代ちゃんは首を縦に振って納得の笑顔だった。

「えっと、進めても良いですか?」

ユウが円ちゃんを見て間合いを確認した。

「ハイですぅ。」と円ちゃん。

「それでは、会を始める前に、今日が初対面の人も居ますので、下級生は自己紹介をしたいと思います。」

ユウは皆を見わたして同意のアイコンタクトを集めた。みんなそれに応じて同意した。

「では、まず放送部の1年生からお願いします。」

ユウがマコトに目配せした。マコトは1歩前に出て右手を挙げた。

「北島誠、通称もマコトと言います。今はミキサーしてますが、シナリオライター志望です。暗いイメージですが、人物観察の癖があるので・・・確かに暗いかもです。僕の方から話し掛ける事はめったにないと思いますが、怖がらずに話しかけて下さい。よろしくお願いします。」

続いてミヒロが同じ様にして、

「三戸浩志、通称ミヒロです。ちなみに中学までは『ヒロ』でしたが、高野部長に『ミ』を付けられました。アナウンサー志望でしたが、翔太先輩の影響で、マニュプレも面白くなりました。」

「徳田加奈子、愛称カナです。アナウンサーです。ヲタな兄のせいでヲタ嫌いになりました。でも、放送部のヲタな人達はなんかかっこ良いかなって思う事が時々あります。幻想だと思いますけど。・・・今日はよろしくお願いします。」

  『お兄さんはどんなヲタクさんなんですかぁ?』と円しゃん。

「アニヲタでカメコです。」

  『去年まで写真部だったんですよー』と緑ちゃん。

「すみません、兄の事はそれ位で!」

  『はーい!』と円ちゃん。

「天野詩織、愛称シオリです。アナウンサーですが、将来は声優になりたいと思ってます。先輩達は声が可愛いって言ってくれますが、容姿も可愛いって言って欲しいです。よろしくお願いします。」

  『充分可愛いと思います。』とヤス君。

「あ、ありがとうございまぁーす。」

  『ヤス君に気を許しちゃダメです!』とミキちゃん。

「あ、はい。そうします。」

  『あのねえ!』

「えーっと、ここからは2年です。僕は再登場ですが、戸上裕也、通称ユウです。放送機材全般のエンジニアです。」

「下田佳子、愛称ケイです。メカ好きなので今はミキサーですけど、ユニットの録音が結構面白いので、ミヒロ君が言った様に、マニュプレーターも良いかなって思います。あ、アナウンスもします。よろしくお願いします。」

「茅野雫、愛称シズクです。アナウンサー1筋です。アナウンサー以外のスキルは、雑用係りかな! よろしくお願いします。」

ユウは阿部君に目配せして、バトンを写真部に渡した。

「えーっと、写真部2年の阿部です。それでは写真部も1年から順番に!」

「ハイ! 山廣保志、通称ヤスです。人物を撮りたいと思ってます。誤解されると困りますが、可愛いJKじゃなくて、JKを可愛く撮りたいです。よろしくお願いします。」

  『なぁーんだ。そうだったんですかぁ!』とシオリちゃん。

「いえ、いえ、詩織さんは充分可愛いJKです。」

  『それじゃあ、撮らないでください。」

「うっ・・・また誤解が拡大している様な・・・」

  『次行こっか』と阿部君。

富山とみやま剛、通称ツヨシです。え~っと、車、レーシングカー、消防車、救急車、パトカー、電車、航空機、タンカー、豪華客船等など、乗り物とかのメカ大好きです。あと、カンタムとかのメカフィギアも撮りたいです。よろしくお願いします。」

「金井凛、愛称リンです。プチ旅行好きです。だから、色々景色とか人々とか、それから、野良猫とか撮りたいです。よろしくお願いします。」

  『私もネコ大好きですぅ!』と円ちゃん。

「はい。癒されますよねぇ!」

  『はいィ!』

「山根美紀、愛称ミキです。中学ではフラワーアレンジしてました。なので、生花の写真撮れるようになりたいです。よろしくお願いします。」

  『流派とかあるんですかぁ?』と雫ちゃん。

「あ、ごめんなさい。そういう立派なんじゃないです。発祥はイギリスだそうです。」

  『そうですか、イギリスの生花ですかぁ・・・』

「えっと、唯一2年、阿部雅人です。通称はなぜか普通にアベです。大自然の驚異みたいな写真撮りたいと思ってます。深海から宇宙まで。今年は林間学校に参加して萌える山々の色彩を撮る予定です。よろしくお願いします。」

  『阿部さんはショウさんみたくモデルさんしないんですかぁ?』と明莉ちゃん。

「ムリっす。その気も無いし。撮られるより撮る方ですから。」

  『そうですかぁ!』

阿部君が円ちゃんに目配せした。円ちゃんはいつもの順番のつもりで油断していたと思う。なので、あわてて明莉ちゃんをつっついた。

「あ、植田明莉です。愛称アカリです。ナタプロのスワイプ・イン・ドリームのメンバーしてます。池越学園高等部芸能科2年です。よろしくお願いしまぁす。あ、そうだ。私、ショウさんとは師弟関係です。詳しくは後程。今日は久々のオフの会合なので楽しみです。よろしくお願いします。」

  『モデルしてくれますか?』とヤス君。

「すみません。ナタプロの小泉さんの許可が要ります。」

  『ですよねぇ~』

「米田円、愛称マドカですぅ。明莉ちゃんと同じ、スワイプ・イン・ドリームのメンバーで、池越学園高等部芸能科2年でぇす。私もショウさんとは師弟関係ですう。よろしくお願いしますぅ・・・えぇーっと、次はどうしますかぁ?」

円ちゃんが辺りを見渡したのを見て、ユウが司会進行を続けた。

「それじゃあ、乾杯をします。みんな適当に飲み物を持って下さい。」

ユウは全員が紙コップを持ったのを見て、乾杯の号令をかけた。そして合同追い出し会が始まった。


 最初は皆、テーブルの上の食べ物を食べながら談笑していた。だが、30分程したころ、ケイちゃんの号令で、下級生の女子全員による今流行りの電気街のグループの曲やアニメのスクールアイドル物の何曲かが披露された。もちろん振付ダンス付きでだ。最後はスワイプ・イン・ドリームのデビュー曲だった。加代ちゃんを除く3年と男子達はかなり興奮した。たぶん加代ちゃんは知っていたのだろう。練習に付き合ったのかも知れない。それにしてもいつの間に練習したのだろう。JK8人が制服でしかも間近で踊ると凄い迫力だった。特に、放送部のJK達が結構可愛い振付を踊るなんて想像したことも無かったから、凄いインパクトを感じた。

「なんか、後輩女子達、凄くないか?」と順平。

「ああ、凄いね。なんか可愛いね。」と俺。

「翔ちゃんは何処を見てるのかなあ!」と姉ちゃん。

見ると、ユウもマコトもミヒロも見惚れていた。写真部の男子3人は流石だ、シャッター切りまくりだった。だが、驚愕の出し物がそれに続いた。なんと、後輩男子6人も人気イケメングループの曲を歌って踊ったからだ。女子達は大喝采だった。俺達3年男子も・・・呆気にとられた。まあ、女子に比べればクオリティーは落ちるが、大したものだ。

「す、すごいな、皆。」と加代ちゃん。

「皆、かっこ良いわねぇ!」とねえちゃん。

「姉ちゃんは何処を見てるかなあ!」と俺。

「この練習してたんだな。放送室で。」と緑ちゃん。

「たぶんね。」と順平。

曲の最中は、姉ちゃんは紅いミラーレスを構えたまま、夢中になっていた。俺が話しかけても上の空だった。やがて曲が終わると、ケイちゃんが前に出て来た。

「先輩、どうでした?」

順平以下5人は思いっきり拍手した。

「皆、良かったよー!」と姉ちゃん。

「一緒に踊ったの、さっきが初めてだったんです。」と円ちゃん。

「先輩の追い出し会だから、頑張りました。」とリンちゃん。

『僕達もです。』と男子達。

「皆、凄いね。デビューできるんじゃない?」と緑ちゃん。

「それじゃあ、お返しに、3年生で演奏でもしますか!」と俺。

「あ、お願いしまーす。」とケイちゃん。

姉ちゃんと俺は、レッスン室の入り口横のカラオケセットの前に出したキーボードとギターの所へ行って演奏の準備をした。順平と加代ちゃんと緑ちゃんも姉ちゃんと俺のすぐ前に来た。そして、魅感のレパートリーや加代ちゃんの好みの曲を演奏して歌った。緑ちゃんも歌が結構上手なので驚いたりした。順平はマイペースで、期待通りに音を外していた。

 こうして、7時半頃まで久しぶりに皆で弾けた。そして、送る言葉を後輩達からもらって、1人ずつ花束を贈呈されて、送られる言葉を言って、少しシンミリして、そして解散という流れになった。これまでは少人数だった部活の追い出し会が、大人数で大騒ぎが出来るようになって、これもこれで良いかなと思う。これからも、放送部と写真部が仲良くやってくれるのが伝統になれば嬉しい。最後の最後に皆で円陣を組んだ。肩を組んで、送る側と送られる側でエールを交換した。


・・・・・


 姉ちゃんと俺は8時前に帰宅した。雨は小降りになっていた。そして、10時半頃、俺は明日の準備を済ませた後、姉ちゃんの部屋に行った。いつもの儀式のためだが、この頃は儀式と言う感覚より習慣になっている。俺は姉ちゃんの隣に寝そべって、右腕で姉ちゃんを腕枕した。

「追い出されちゃったね。」

「うん。もう気軽に部室には行けないね。」

「私、連休明けからあんまり行って無いわ。」

「俺も。SDカードを借りに1回位行ったかな。」

みんなすごかったね。」

「ああ、かなり練習したんだろうね。」

「私達の為にね。」

「案外楽しかったかも。」

「そうね。」

しばらく沈黙が流れた。

「ねえ、スワイプ・イン・ドリームは有名になるよね。」

「ああ、なるよ。今でもカウントダウンで30位以内だし、夏には新曲も出るらしい。」

「そっか・・・でも翔ちゃん詳しいのね。」

「明莉ちゃん情報。」

「大丈夫?」

「何が?」

「スキャンダルにならない様にしないと。」

「物理的な接近はしてないから。」

「なら良いけど、気を付けてね。」

「うん。物理的に異常接近できるのは姉ちゃんだけだから。」

俺は姉ちゃんの大きな瞳を見詰めた。俺の顔が映っていた。

「・・・ばかね。」

いつもの習慣のキスをした。それから腕枕を外して、タオルケットの中で手を繋いだ。

「おやすみ姉ちゃん。」

「おやすみ翔ちゃん。」

そう言うと姉ちゃんは枕元のスタンドのスイッチを切って、俺の肩に頭を置く様に凭れかかって目をつぶった。俺も目をつぶった。姉ちゃんのコンディショナーの香りに包れた。

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