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姉ちゃんは同級生 ~井の頭の青い空~  作者: 山崎空語
第5章 高校生の俺達 ~大人への階段~
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5-31 入試モードに突入した日(その2)~明日から頑張ろうね~

 YAMABASHIカメラを出てすぐ前の大通りの信号を渡り、新道の横断歩道の所から左に曲ってサンロードに入った。そこは通勤電車並みの人混みで、自然発生の左側通行の人の流れだった。姉ちゃんは晴れ着の裾を気にしながら、俺は喫茶店の看板を捜しながら、彩香はたぶん落し物を捜しながら歩いた。そして12時丁度に喫茶話輪に到着した。1階の和菓子店の左横にあるサンロードの通りに面した階段の入り口から2階に上がって、4、5歩奥に進むと正面に商品見本のショーケースがあって、その右手に喫茶話輪の入り口がある。この4、5歩で、比較的急峻な階段を、姉ちゃんの晴れ着の裾を気にしながら、ちょと緊張して上がって来たことを忘れる仕掛けになっているのかも知れない。俺が鶏なら十分な歩数だ。自動ドアが開いて、入り口を入ると正面にレジがあり、そこを右に曲がって一番奥のパーテの奥の長いレザーソファーの席、つまりサンロードに背凭れが面した席に、たぶんスワイプ・イン・ドリームの3人と思われる晴れ着の女子の姿が有った。3人共晴れ着の体を捻ってガラス窓越しにサンロードを見下ろしている。パーテに近付くと、3人が座っている長いソファーの対面、つまりの店の内側の席にナッちゃんと順平が並んで座っていた。つまり、姉ちゃんと俺と彩香が最後だと言う事だ。俺はパーテ越しに声をかけた。

「あけおめ! 待った?」

スワイプ・イン・ドリーム(SiD)の3人が驚いたように振り返った。

「あれ? いつの間に!」と明莉。

「ずう~と見てたのにぃ!」と円。

「案外判らないもんだね。」と加代。

SiDの3人が立ち上がったので、ナッちゃんと順平も立ち上がって、皆それぞれに新年のあいさつを交わした。ナッちゃんは濃いピンクの生地に無数の赤白黄色の花や蕾がデザインされた振袖で、1昨年と同じだ。明莉ちゃんは肩口は白い生地で裾に行く程濃いピンクになるグラデーションの生地に薔薇の様な大きめのピンクや黄色や赤い花がデザインされていて、なんか可愛い。円ちゃんはオレンジの生地に比較的大きめの牡丹か芍薬かまあ良く判らないが、赤やピンクの大輪の花がデザインされていて、可愛い。加代、いやあえて加代ちゃんと言おう。凄い。紫紺の絞り生地に細かい赤やピンクや白い梅か桜の様な花が浮かんだ感じの川の流れがデザインされ、おまけに錦糸の手毬が転がる様にもデザインされている。天の川の深淵を彷彿とさせる深くて清楚な振袖だ。流石お嬢様だ。

「師匠、どうですか?」

明莉は袖を拡げてくるりと回って見せた。

「いいね。良く似合ってます。可愛い!」

「有難うございまぁす。」

明莉ちゃんはこぼれる様な笑顔だ。

「私はどうですかぁ?」と円。

「似合ってます。可愛い。」

「嬉しいですぅ!」

円ちゃんも満面の笑顔だ。当然だが加代も俺に感想を言えという視線だ。

「加代、ちゃん。凄いねそれ。なんか大人っぽい。」

「惚れ直してくれても良いぜ!」

「姉ちゃんに相談してからな。」

「シスコン!」

「サヤも早く振袖着たい!」

「彩香ちゃんも可愛いよ!」と明莉。

「えへへ!」

「サヤちゃんはこっちおいで!」と円。

彩香は奥の長いソファーの円ちゃんの隣に座って、姉ちゃんがナッちゃんの隣で、姉ちゃんの右隣に俺が座った。


 全員が揃うのを待ってたんだと思う。ウエイターさんが姉ちゃんと俺と彩香に水を持って来て、それをテーブルに置きながら確認した。

  「皆さんお揃いですか?」

「はい。お願いします。」と加代。

  「かしこまりました。」

最初はオニオンとレタスとラディッシュとカイワレのサラダ、プチ玉葱のコンソメスープ、白身魚のマリネ、サイコロステーキのパスタ添え、フランスパン、仕上げに苺ショートとデミタスコーヒー・・・それぞれの量はたいした事は無いってか少ないが、想像以上のハーフコースだった。これで1200円は安いと思った。

「おいしかったですぅ~」と円。

「うん。サヤ全部食べたよ~!」

「サヤちゃん、えらぁい!」

「サイコロステーキ、あと2つ位食べたかったわ。」と明莉。

「私は無理だわ。」と加代。

晴れ着の女子は量的にも少しこたえたみたいで、暫らく食休みになった。

「皆、着付けはどうしたの?」

「たぶん皆、自分では無理よ。でも、翔ちゃんがそんな事気にしてくれるの?」とナツ。

「う、まあ。・・・大変だろうなって。」

「5時でーす。最近に無く早起きでした。」と明莉。

「ほとんど寝て無い。」と加代。

「明莉にたたき起こされましたですぅ。」と円。

「やっぱそうなんだ。」

「そうよ。翔ちゃんは気軽にリクエストしてくれたけどね。」と姉ちゃん。

「すみません。」

「サヤは6時に起きたけど、お姉ちゃんはもう出掛けてたよ。」

「そうね。」

少し間があった。皆水を飲んだりお茶をすすってホッコりした気分だ。俺は(話題の)振りを間違えた事を反省した。

「スタイルKの別冊まだですかねぇ。」と明莉。

「流石にまだだと思うよ。今頃は構成が終わった位かな。」

「せっかく振袖着てっから、皆でスタジオに押しかけないか?」と加代。

「元旦に出勤して残業なんて人、流石に無いと思う。」

「だよね。」

 15分程こんな具合の他愛のない話をして、そろそろ場所を変えたい雰囲気が出て来た。順平が体を後ろに反らして、呼び掛けたので、俺も体を反らせた。

「翔太、しょうた!・・・これからどうする?」

「どこも混んでるだろうし、(井の頭)公園は特にダメだろ!」

「ああ、経験済みだもんな。」

「東伏見とかは?」

「ああ、良いね。皆で初詣だ。」

「じゃあそうしよう。」

俺は反らせた体を元に戻して、

「ねえ、これから東伏見に初詣に行かないか?」

「えぇ~、東伏見って西武線ですよぅ!」と円。

「バスで行けるよ。かかって20分位。」と順平。

「どうする? ナッちゃん!」と姉ちゃん。

「もうそろそろく頃かしらね。」とナツ。

「私、行ってみたい。」と明莉。

「サヤも。」

「じゃあ行くしかないな!」と加代。

「行きましょう。」とナツ。

「その前に準備しないとね。サヤちゃん!」と姉ちゃん。

「うん。」


 結局、それから15分程かかって全員が所用を済ませ、2時過ぎに吉祥寺駅前で西武柳沢行きのバスに乗った。始発だから都合良く全員後ろの方に座った。意外にも元旦の道路は空いていて、2時30分頃神社前に到着した。だた、途中ナッちゃんの学校のすぐ横を通ったが、話に夢中で、見逃した連中が多かった。

 東伏見神社は小高い丘の上に有って、ふもとに結構広い駐車場がある。駐車場になるのは普段の話しで、正月三ヶ日は駐車できない。つまり、ただの広場になる。特に大晦日から元旦の午前中は初詣の参拝客の蛇行した行列で一杯になる。その広場の周囲には縁日と同じ様に露店が並んでいる。俺達が到着した頃には広場の行列はほとんど解消していて、大きな鳥居をくぐって境内に続く広い石段に横8列位の行列が残る程度だった。

「お兄ちゃん、リンゴ飴買って!」

「わかった。でも帰りにな。」

「うん。」

石段の前に来た。

「皆、そこに並んで! 写すから。」と姉ちゃん。

「まず、順平と俺を写してくれ。帰ってからマージするから。」

「ん?・・・わかった。」

「順平、こっち来てくれ。協力頼む。」

「了解。」

順平と俺は石段を背にする位置取りで膝に両手を置く様にして腰を低くした。

「姉ちゃん、ズーム無しで。トンボ(位置合わせ)にするから鳥居を入れてくれ!」

「わかった。・・・写すよ!」

姉ちゃんがシャッターを切ったので、俺は姉ちゃんの周囲に居る女子達に手招きした。

「みんな、俺達の後ろに来て並んでくれ! あ、姉ちゃんはまだ動かないで!」

「うん。わかってる。」

女子達が俺達の後ろに来たので、順平と俺は姉ちゃんの傍に行った。

「じゃあ、今度は俺が写すよ。」

「ありがとう、お願い。」

姉ちゃんは俺に赤いミラーレスを渡すと、女子達の方に移動した。俺は姉ちゃんと入れ替わって、赤いミラーレスのプレイバックで順平と俺の位置を確認した。俺は右手を動かして、

「皆、10センチ右に動いてくれる?」

こうして、石段というか石段を上る人の行列を背にして、振袖の女子5人と彩香が並んだ。壮観だ。俺と順平はそこに並ばず、俺は赤いミラーレス、順平はデジカメのシャッターを押した。これで完璧だ。すると突然背後から誰かに声を掛けられた。

  「シャッター押しましょうか?」

振り向いてその人を見ると、30代のお姉さんに見えた。だが、左手にプロ仕様のカメラを持っている。たぶん、俺達を写した後で、姉ちゃん達を写させろと言うに違いない。俺に緊張が走った。ブログとかに曝されると俺達はちょっと微妙だからだ。

「あ、いえ、大丈夫です。もう撮りましたから。」

  「貴男達も一緒にどうですか?」

「大丈夫です。後でマージしますから。」

  「あら、素人さんじゃ無いんですね。」

「初心者です。」

  「それでは、私に皆さんを撮らせてください。」

そう言うとカメラを構えようとした。俺はその人と皆の間に入って、

「すみません。止めてください。」

  「私が皆さんを撮ることに何か問題でも?」

「はい。写すのは事務所の許可をお願いします。」

  「あ、一般の方では無いのですか?」

「はい。申し訳ありません。」

  「道理でレベル高いと思いました。」

「すみません。レベルはともかく、分かっていただいて有難うございます。」

カメラマンと思われるお姉さんは残念そうに立ち去った。でも、こっそり遠くから写したかも知れない。

「流石は翔太だな。」

「ああ、スワイプ・イン・ドリーム(SiD)はデビュー直前だかんな。」

「だな。」


 石段の行列に30分程並んだ。境内は結構広く、荘厳な構えの神殿の前に大きな臨時賽銭箱が設えてあった。皆それぞれにお願い事をした。SiDはデビューが上手くいく事、姉ちゃんと俺と彩香は学業成就、順平とナッちゃんはたぶん縁結び・・・だろうか。

 神殿の裏手にはお稲荷さんらしい鳥居が並ぶお参りコースがあって、姉ちゃん達は裾を汚さないように気遣いながらそこを巡った。当然だが写真を撮りまくった。神聖な領域だから、写して良かったんだかどうだか判らない。その後、お守りやお札やらを買って、石段と並行している荷車道を通って駐車場に降りて、露店でリンゴ飴やたこ焼きや飴細工やらを買ったり冷やかしたりした。

「翔太、これ被れ!」と加代。

「おい、正気か?」

「似合うから!」

俺は加代にひょっとこのお面を被された。

「本当だわ!」と姉ちゃん。

「師匠、良いです。それ!」

「面白いですぅ!」

「お兄ちゃんじゃないみたい。」

「皆さま、ご満足行きましたでしょうか?」

最初は顔に被っていたが、前が見えないし、息苦しいので頭の後ろにまわした。久しぶりに時間を忘れてけっこうハシャイだ。左右に明莉ちゃんと円ちゃんと腕を組んだ写真も撮った。加代ちゃんとも撮った。女子全員が順平を取り囲んだ写真も撮った。順平は『モテ期到来』と言ってかなり嬉しそうだった。こうして、結局、薄暗くなった4時半過ぎに、青梅街道で田無から来たらしい吉祥寺行きのバスに乗った。意外に空いていて、女子は全員座れた。順平はナッちゃんの席の、俺は彩香の席の背にあるハンドルに摑まって揺れに耐えた。


 5時頃、吉祥寺駅北口の花火の広場で解散した。明莉ちゃんと円ちゃんは加代ちゃんの家にお泊りしているそうで、タクシーで、残りの5人は井の頭線で帰った。三鷹台には5時過ぎに到着した。

「順平、今日は楽しかった。ありがとう。」

「なんだよ、翔太らしくない。」

「うん。でもまあ、明日から冬期講習の後半だから。」

「そうだな。今年1年をどう頑張るかで人生が変わるかもな。僕等。」

「黒田先生みたいじゃん。」

「つい、真似してしまった。」

「『人生ってのはだなあ・・・』てのが今年は何回聴けるか楽しみだ。」

「だな。」

「もう、あなた達何バカな事言ってるの?」と姉ちゃん。

「まあ、あれだ。『先生は今、今日一番良い事言ってるんだ。静かに聴け!』ってね。」

「もう、先生が聴いたら怒るよ!」

「大丈夫サ、つまり伝わってるって事だから。」

「物は言い様ね。」とナツ。

「それじゃあここで。」

「うん。また学校で。」

「ナッ姉ちゃん、また遊んでね。」

「良いよ~!」

姉ちゃんと俺と彩香は順平とナッちゃんを見送った。2人共もうすっかり彼と彼女の距離感で並んで歩いて行った。だだ歩いているだけなのに、順平がナッちゃんを気遣っているのが判った。とても微笑ましく思えた。

「ナツ姉ちゃんからハッピーオーラ出てる?」

「ああ、順平からもね。」

「そうね。幸せそうだわ。」

俺達3人は顔を見合わせて微笑んだ後、左に曲がって家に向かって歩き始めた。もうかなり暗くなって、送電線の上の夜空に白い雲が流れ、少なめの星が輝き始めていた。


 その夜10時頃、俺は机に向かって冬期講習の後半の予定を確認していた。そこへ軽いノックの音に続いて姉ちゃんと彩香が何の遠慮も無く入って来た。俺達3人はいつものお揃のパジャマだ。姉ちゃんはタオルとブラシを持参で俺のベッドに座り彩香は姉ちゃんの奥に寝そべった。

「やっぱりパジャマが1番楽だわ!」

「サヤもぉ~」

「お疲れ様でした。」

姉ちゃんはタオルを首に掛けてから首の後ろに両手を入れて、髪の毛をサラリと背中に出した。サラサラの髪の毛が姉ちゃんの両手からこぼれる様に背中に流れた。俺はその様子をぼんやり眺める様に見ていた。姉ちゃんは大きな瞳でチラリと俺を見て、

「翔ちゃんお願い。」

「あ、ああ。」

姉ちゃんの笑顔が可愛かった。俺は立ち上がって姉ちゃんの隣に行き、ブラシを受け取って、ベッドに腰掛けて、姉ちゃんの後ろ髪を梳いた。コンディショナーの甘い香りが姉弟妹キョウダイを包んだ。姉ちゃんは毛先の枝毛を確認しながら、

「ねえ、写真出来た?」

「マージ?」

「うん、プリントアウトしたのがある。」

俺はブラッシングの手を止めて、ベッドの枕元に置いてあった写真のLサイズの光沢紙プリントアウトを取って渡した。

「あら、一緒に写したみたいね。」

「サヤにも見せて!」

彩香も起き上がって姉ちゃんの手元のプリントアウトを見た。

「本当だ! お兄ちゃん凄い。」

「だろだろ!」

「サヤにも印刷して!」

「ちょっと待ってて、これをあげるから。」

「うん、ありがとう。」

「加代ちゃんの振袖凄かったね。」

「流石はお嬢様だよね。レベルが違うって感じだった。」

「そうなの?」

「サヤちゃんはまだ判らないかな。」

「うん。サヤは姉ちゃんの方が好き。」

「サヤは明るい色が好きだからな。」

「うん。」

「だけど、流石は姉ちゃんのカメラだね。色合いがちゃんと再現されてる。」

「そうね。」

「サヤにも見せて!」

「はいどうぞ。」

彩香は姉ちゃんから写真を受け取ってそれを寝っ転がって観賞し始めた。

「いいなあ。サヤも早く振袖着たい。」

「そうね。」

姉ちゃんは彩香の背中を優しく撫でた。

「俺的には明莉ちゃんのグラデーションのも可愛いと思ったけど。」

「翔ちゃん、まず褒める人が違わない?」

「いや、姉ちゃんは別格ですから。」

「そうかしら。」

「そうだ、パソコンで見るともっと綺麗に見える。」

姉ちゃんはタオルを首から背中にずらせて、腰のあたりでスルリと抜く様に取って、それを畳んで枕元の棚に置いてその上にブラシを置いた。そして立ち上がって、俺と一緒に机に移動した。彩香も来るかと思ったら、眠っていた。俺は写真ホルダを開いて写真を表示した。

「本当だわ。綺麗!」

「拡大すると皆の振袖の模様が細かく見えるんだ。」

俺は円ちゃんの振袖の模様を拡大してみた。

「なるほどね。」

俺は得意満面になった。

「拡大するのは柄だけにしてね。」

「えっ?」

「翔ちゃんはなんか別の所も拡大してそうだわ!」

「あ、鼻毛とか見たくないし!」

「なら良いけど。」

「でも、マージするには境界線の処理で拡大したけどね。」

「それは仕方が無いわね。でも上手だわ!」

「ありがとう。」

「データで頂戴。写メにして皆に送るわ!」

「了解。データをリサイズしたのがあるから。」

「じゃあスマホ取ってくるわ!」

「うん。」

姉ちゃんはブラシとタオルを持って出て行った。しばらくしてノックの音がしたので、姉ちゃんかと思って入り口を見ると、母さんだった。

「あら、彩香知らない?」

「ベッドで寝てる。」

「まあ。じゃあ連れて行くわ!」

「ここで寝かせても良いけど。」

「だぁめ。翔ちゃんは冬期講習があるでしょ。風邪ひかないでよ。」

「はい。」

母さんが彩香を抱き抱えると、彩香は母さんに無意識に抱き着いた。写真を持ったままで。俺は立ち上がってドアを開けた。母さんは重そうに彩香を抱えて出て行った。暫らくして姉ちゃんが入って来た。

「同期ケーブルあるよね。」

「うん。」

姉ちゃんを見ると、スマホとダイヤリーと枕を持っている。お泊りの様だ。同期ケーブルでスマホをパソコンに繋いで、写真データを転送した。姉ちゃんは皆にそれを添付してメールしたみたいだった。俺のベッドに寝そべって。

「あら、ナッちゃんから即レスだわ!」

「何だって?」

「こんな事が出来るのねって。」

「じゃあ俺は順平に送らないと。」

「加代ちゃんには送ったから、明莉ちゃんと円ちゃんには翔ちゃんからお願い。」

「わかった。」

俺はBCCで3人に写真を添付してメールした。数日以内に共有サイトに完全な写真データを上げる事も知らせた。全員からお礼とお褒めの言葉の即レスが返ってきた。

「眠くなったわ!」

「じゃあ寝よっか。」

「うん。」

俺はPCを消して、部屋の電気のリモコンを枕元に置いて、ベッドの姉ちゃんの横に入った。

「お疲れ様でした。翔ちゃん。」

「姉ちゃんもね。」

「ありがとう。」

姉ちゃんと俺は約束の儀式をした。姉ちゃんは俺の腕枕でホッとした表情で俺を見詰めている。まあ、このシチュに慣れたとは言え、男としては紙一重の危険状態だ。

「受験勉強、明日からまた頑張ろうね。」

「うん。」

「流石に眠くなったわ!」

「そうだね。明日は普通に早いね。」

「おやすみ、翔ちゃん。」

「うん。おやすみ、姉ちゃん。」

姉ちゃんが少し頭を上げたので俺は手を抜いて、電気を消してから、いつもの様に姉ちゃんと布団の中で手を繋いだ。明日から1年間と少しの間、いわゆる大学受験という一大イベントを楽しめるって事に、大きな不安と小さな希望で少し興奮していたと思う。そして、優しい姉ちゃんの温もりを感じながら、数分の内に眠った。・・・と思う。

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