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姉ちゃんは同級生 ~井の頭の青い空~  作者: 山崎空語
第5章 高校生の俺達 ~大人への階段~
101/125

5-28 助っ人を頼まれた日(その8)~ライブ~

 11時半頃、小泉さんに吉村さんから電話連絡が入った。ロケバスが大熊キャンパスの駐車場に到着したらしい。小泉さんが部屋を出て行った。残ったビート・ストックとスワイプ・イン・ドリームと姉ちゃんと俺は、振付があるスタート・ダッシュとスノウ・ハレーションの2曲を最後の仕上げで練習した。スワイプ・イン・ドリームの踊りを見ていると、3人が同じように踊る所と、1人だけが歌いながら踊る所と、踊りは同じなのだが1拍ずつズレて踊る所があって、見ているよりかなり難しそうだ。悪くはないのだが、なんか、ほんの僅かだがまとまりが無いというか、ピシッと決まって無い様な気がした。

「少しテンポ落としましょうか?」とヨウタ先輩。

「そうですね。試してもらっても良いですか?」と加代。

ヨウタ先輩はスティックを鳴らしながら、

「今はこれ位。『カッ、カッ、カッ、カッ』それを、次は『カッチ、カッチ、カッチ、カッチ』これ位にしましょうか。」

加代は姉ちゃんと顔を見合わせた後、俺を見た。言いたいことは大体分かった。

「ちょっと遅すぎでは?」と俺。

「そうだね。じゃあ『カチ、カチ、カチ、カチ』でどう?」

「それでお願いします。」と加代。

ドラムスティックが2回鳴って、姉ちゃんのピアノモードのリードで、スタート・ダッシュが始まった。遅れ気味でついて行きます感があった円ちゃんのステップやハンドアクションがぴったり揃った様に見えた。スタート・ダッシュが終わると、すぐ連続して、やはり姉ちゃんのピアノモードのリードで始まるスノウ・ハレーションになる。するとそれが明らかになった。そして何より、円ちゃんの笑顔が輝き始めた。ちょっとした事なのに凄い変化だと思う。間奏で俺のアコースティックの見せ場もあるが、それも楽になった。曲が終わると、木村先輩が拍手しながら、

「うん。振付ダンス最高です。流石スワイプ・イン・ドリームです。」

「有難うございますぅ!」と円。

「ショウ君はどうですか?」

「海に飛び出した小鳥のイメージがほのかに感じられて、最高だと思います。」

「?!?・・・な、なんかショウ君らしくない詩的な表現だね。」

「えっと、アニソンなので・・・解説はしたくないかな。」

「ま、とにかく、これで完成だね。」とヨウタ先輩。

皆、顔を見合わせて満面の笑顔で喜びと満足感を共有した。そして自然に拍手がわいた。そこへ吉村さんと小泉さんと野崎さんと木下さんが昼食の弁当とお茶のペットボトルを持って入って来た。

「おはようございます。スタイルKのメイクの野崎です。」

「同じくスタイリストの木下です。」

「同じく、営業の吉村です。」

「よろしくお願いします。ビート・ストックのマサシです。」

「ヨウタです。」

「シュンです。」

「みなさん、お昼にしましょう。開演2時間前までには食べ終わらないとね。」と野崎さん。

弁当はいつもの焼肉デラだった。姉ちゃんと俺は良く知っているが、ビート・ストックとスワイプ・イン・ドリームの6人は見かけ豪華な弁当に大喜びだった。みんなそれを食べて、少し食休みをして、色々すべきことを済ませた。姉ちゃんと俺はキーボードとアコギをソフトケースに仕舞ってスタンバイした。明莉ちゃんがヘッドセットと受信機を回収して、小泉さんが電池を新品に取り替えた。ビート・ストックの3人は機材を運び出して自分達のワゴン車に積み込んだ。小泉さんと吉村さんと俺はそれを少し手伝った。


 12時過ぎ、吉村さんが号令した。

「それではスワイプ・イン・ドリームの皆さんとスタイルKの2人はロケバスに乗ってください。」

『はーい。』

こうして、12時半前、ビート・ストックはワゴン車で、スワイプ・イン・ドリームとスタイルKの2人はロケバスで吉祥寺駅北口に向かって大熊キャンパスを出発した。ロケバスの運転手は予想通り吉岡さんだ。バスに乗った時、吉岡さんが半身になって左手のグッジョブサインで迎えてくれた。


 吉祥寺駅北口のバスターミナル広場には1時10分頃到着した。サブステージではカラオケ大会『画面見ないで歌い切ったら商品券・それがダメでも福引券』というのをやっていて、その音が北口広場にこだましていた。

「それじゃあ、みんな着替えてください。」と木下さん。

「俺は降りてましょうか?」

「いいよ、翔ちゃんも一緒に着替えよ!」と加代。

「師匠ならぁ」と明莉。

「支障ない。」と円。

苦笑している俺を見て、

「翔ちゃんは女子とすぐ仲良くなれるね。」と野崎さん。

「何故でしょうね? でも、ハズい思いをするのは結局いつも俺の方です。」

「仕方が無いわね、多勢に無勢だから。」と木下さん。

結局、大騒ぎをしながら全員制服の衣装に着替えた。なんとスニーカーも準備されていた。スワイプ・イン・ドリームの3人はパステルピンクの本体にライムの縁取りで赤いストリング。姉ちゃんと俺はスカイブルーの本体にオレンジの縁取りでブルーのストリングだ。俺がそれを履いてロケバスの通路を歩いて足に馴染ませていると、明莉ちゃんが、

「これでーす、師匠!」

そう言ってお尻を向けてスカートをめくった。俺の目に深い緑色の『オーバーショーツ』が飛び込んで来た。

「おおぉお、それですか。」

「そうでーす。」

「かたじけないの極致!」

「こらぁ、2人共、何してるかなあ!」と姉ちゃん。

「師弟関係の再確認をしてまーす。」

「もう、明莉ちゃん、ダメよ、可愛い女子がそんな事したら!」

「はーい。今回限りで~す。」

「そうして頂戴。」

その後、野崎さんにメークをしてもらい始めたころから山内さんがカメラを持って、吉岡さんがハンディのライトを持って乗って来て、撮影を始めた。

「山内さんはライブの間ずっと写すんですか?」と姉ちゃん。

「もちろん。こっそり鼻くそほじったりしないでくれ。」

「もう、嫌だわ!」

「ははは、まあ、そう言うのは採用しないから安心してください。」


 1時40分頃、吉岡さんが入って来て、ステージ上のビート・ストックの準備はほぼ終わったので、ギターとキーボードをセットして下さいと言うマサシ先輩の伝言だった。姉ちゃんと俺はギターとキーボードのソフトケースを背負ってロケバスを降りて、スタッフ通路を抜けてステージに上がった。ステージのドラムセットの前で、シュン先輩、ヨウタ先輩、マサシ先輩が座って実行委員会の差し入れらしい暖かいペットボトルのお茶を飲んで寛いでいた。

「練習の時と同じ配置にしたから。」とヨウタ先輩。

『はい。』

姉ちゃんと俺は少し慌ててキーボードとギターをセットアップした。それから俺は抜け殻になったギターとキーボードのソフトケースを持ってロケバスに戻りそれを自分たちの座席に置いて、明莉ちゃんからヘッドセットと受信機を受け取ってステージに引き返した。受信機のLをベースの右横の俺達のアンプに、Rをリードギターのマサシ先輩のアンプにプラグした。ただし、メインスイッチはまだオフだ。それを確認して、予備のヘッドセット2個をアンプの後ろのケーブルハンガーに引っ掛けて隠した。そして、シュン先輩にポジションスイッチをLにしたヘッドセットを、俺もL、姉ちゃんはC、ヨウタ先輩とマサシ先輩はRにしたヘッドセットを渡した。もちろん何故そうしたかを説明してだ。

「流石、ショウ君は放送部員だね。」とマサシ先輩。

「有難うございます。」

「まだ少し時間があるから車に戻ろう。ここは冷えるから。」

「はい。」

俺は姉ちゃんと一緒にロケバスに戻ってスワイプ・イン・ドリームの3人にCにセットしたヘッドセットを配った。これで準備OKだ。


 時刻は1時50分になろうとしていた。

「いよいよね。」

「うん。」

「師匠! 緊張します。」

「わたしもですぅ!」

「心配ない。俺もだ!」

「それ、なんか変。」と加代。

「翔ちゃん大丈夫?」

「武者震い来てる。もう開き直るしかない。」

と冗談のつもりで言って、ふと見ると、円ちゃんが本当に震えているみたいだ。それなら落ち着かせるには『フラグを立てるしかない。』と思った。俺は座席から立ち上がってロケバスの入り口のステップの少し広い所に移動して、

「円ちゃん、ちょっとこっち来て!」

「なんですかぁ~?」

円ちゃんは訝しげに俺に近付いた。俺は円ちゃんの手を取ってグイと引き寄せ、耳元で呪文を唱えた。

「肩の力抜けろー、ライブ終わるまでぇ~・・・終わったらクリプレあげる。」

「えっ、本当ですかぁ?」

「円ちゃん! これで君はもう大丈夫だ。」

「嬉しいですぅ~ 約束ですからねぇ~」

俺は微笑んで軽くハグするようにして円ちゃんの頭を撫でた。すると明莉ちゃんが、

「ああぁ~、マドカだけずるーい!」

まあ弟子としては当然の反応だ。

「明莉ちゃんもちょっとこっち!」

「はぁ~い、師匠。」

俺は明莉ちゃんにも同じ様にして、ほぼ同じ呪文を唱えた。そして頭を撫でた。2人の表情が明るくなって、少し緊張が解れた様だった。明莉ちゃんと円ちゃんが座ったので、

「加代、姉ちゃん。」

「何だよ、うざい奴だ!」

「何かくれるの?」

「ハグしようぜ!・・・ってか・・・すまない・・・してくれ。」

加代は俺をちらっと見て、俺の異変に気付いたみたいだ。

「ああ、わかった。」

加代と姉ちゃんと俺は3人でハグした。

「翔太、落ち着け!」

「ありがとう。・・・落ち着いて行こう、加代も、姉ちゃんも!」

「ああ。」

「うん。」

すると、そこへ明莉ちゃんと円ちゃんも加わって、結局5人で円陣を組む格好になった。とにかく、これで気合も入って緊張や震えが無くなった。


 1時55分、主催者のスタッフさんがロケバスのドアを開けて、

「スタンバイお願いします。」

スワイプ・イン・ドリームの3人と姉ちゃんと俺はロケバスを降りてスタッフ通路を通ってステージの裏に行った。そこにはビート・ストックの3人とそのメイクをしている野崎さんと、3人にトリコロールのスカーフを巻こうとしている木下さんが居た。そして、1歩離れた所に小泉さんと吉村さんと山内さんと吉岡さんも居た。ビートストックの3人はかなり恐縮してハズそうだ。まさか自分たちがメイクさんにイジられるなんて思って無かった様だ。そこへ俺達が近づくと、ヨウタ先輩が大声で、

「さあ、円陣だ!」

『ハイ!』

山内さんと吉岡さん以外の全員で円陣を組んで、

「ビートストック、スワイプ・イン・ドリーム、スタイルK、最高のパフォーマンスを出し切ろう!」

『オウ!』

そしてすぐ、気合が消えないうちに、観客から見てステージの右袖から、ビートストック、姉ちゃん、俺、スワイプ・イン・ドリームの順でステージに上がった。


『ウオー・・・』

物凄い、うねりの様な歓声が押し寄せて来た。吉祥寺駅北口バスターミナル広場周辺は大勢の人で埋め尽くされていた。さっきまで、たった10分前まではこんなに人は居なかった。そう思ってもう1度少し冷静になって見渡すと、どうやら久我高の生徒と池越学園の生徒がかなり応援に来てくれているようだ。誰かがトイッターか何かで呼び掛けたに違いない。でも、なんか嬉しい。


 俺は受信機のスイッチを入れてストラップを被ってギターを構えた。姉ちゃんもキーボードシンセのスイッチを入れて、たぶんオケサウンドモードをセットした。そして、のキーをリズミカルに『ララララ・ラー』と弾いた。全員がキーを確認する小さくて疎らな音がした。

ヨウタ先輩のドラムスティックが4回鳴って、


  恋人がサンタクロース


が始まった。スローだが大音量のビートが広場に充満した。歓声が沸き上がった。フラッシュが一斉に光って、俺の目の中に残像が流れた。スワイプ・イン・ドリームが練習の通り全力で歌った。

  ☆とにかく音を出して通行人の足を止める☆

どころか、広場が揺れる様な大歓声と大合唱になった。


*******************

(マサシ)

  みなさーんこんにちはー・・・ビート・ストックのマサシです。

  懐かしい曲でした。

    『ウヲー』

  これから約2時間、

  僕達が今日のプレ・クリスマス・コンサートのために練習した曲を演奏します。

  師走で忙しいかもしれませんが無料タダですから遠慮なく聴いて行ってください。


(ショウ)

  スタイルKのショウでーす。

  これからだんだん僕等の時代の歌になりますから、

  買物中の大人の皆さんだけじゃなくて、

  デートに来た中高生の皆さんも小学生以下の君達も聴いて行ってくださーい。

    『はあーい!』拍手。

  おっと、その前に今日のメンバーを紹介します。

  まず、今日の助っ人ボーカル、

  ナタプロのJKユニット、スワイプ・イン・ドリームです。

  左は、明莉ちゃん。

  明莉ちゃんは大きく手を振った。

  「レフトボーカルのアカリでーす。よろしくお願いしまーす。」

    『カワイイー アカリちゃーん!』

  「ありがとうございまーす。」

  真ん中は、加代ちゃん。

  加代は胸の前で小さく両手を振った。

  「センターボーカルのカヨでーす。よろしくお願いしまーす。」

    『カヨちゃーン、まってましたぁー』

  「あ、有難うございます。特に久我高の皆さーん!」

    『ウオー!』

  右は、円ちゃん。

  円ちゃんは大きくみぎ右腕を上に左腕を斜め上に広げて手首から先を振った。

  「ライトボーカルのマドカです~ぅ。よろしくお願いしますぅ。」

    『マドちゃーん。カワイイよー』

  「ありがとうです~ぅ! 池越のみなさん負けないでー」

    『きゃー』笑いと拍手。

  スワイプ・イン・ドリームは来年の春デビューの予定で今準備中でーす。

  3人は手を振ってアピールした。大歓声が巻き起こった。


  次は、高田馬場大学の学生バンド、ビート・ストックでーす。

  左からベースのシュン先輩。

  シュン先輩はベースギターで赤鼻のトナカイの出だしを弾いた。

    『オオー!』という歓声と拍手が巻き起こった。

  ドラムス&パーカッションの陽太先輩。

  ヨウタ先輩はバスドラムとタムタムとクラッシュシンバルをリズミカルに叩いた。

    『オオー』・『スッゲー!』という歓声と拍手だ。

  リードギターのマサシ先輩。

  マサシ先輩はハイテンポでエレキギターを掻き鳴らした。

    『ウオー!』・『カッケー』という歓声と拍手だ。


  最後に、ファッション雑誌スタイルKの

  右がキーボードシンセサイザ担当のハルちゃん。

  姉ちゃんは電子音の和音を3つ鳴らしてお辞儀した。

    『ウオー!』・『ハルちゃーん』という歓声と拍手だ。

  そして左の僕がアコースティック・サイドギター担当のショウでーす。

    俺はCコードをバランと鳴らしてギターのネックを立てた。

    『ウオー!』・『ショウター』という歓声と拍手だ。

  ハルとショウは今日だけの限定でスタイルKの見開きページから抜け出てきました。

  それでは、今日のメインバンド、ビート・ストックの演奏を挨拶代わりに聞いてください。


  ビート・ストックのパフォーマンス曲が大音量で広場に響いた。


(ショウ)

  如何でしたか? ビート・ストックの演奏。凄いでしょう。

    『ウオー!』・『カッケー』という歓声と拍手だ。

  えーっと、どうしてこの3つのユニットがここに集合したかと言いますと、

  まず、ビート・ストックの木村将司先輩が僕の高校の先輩なんです。

  マサシ先輩と俺が手を上げて存在をアピールした。

    『ウオー!』歓声と拍手。

  それから、スワイプ・イン・ドリームの加代ちゃんと

  スタイルKのハルとショウは同級生なんです。

  加代と姉ちゃんも手を上げて存在をアピールした。

    『カヨちゃーん』『ハルちゃーん』歓声と拍手。

  と言う事で、今日は、僕らスタイルKのショウとハルの仲介で

  このセッションをする事になりました。

  これから2時間弱の短い間ですが、

  一生懸命演奏しますから、よろしくお願いします。

    『ウオー!』歓声と拍手。

  それではお待たせしました。

  準備は良いですか? スワイプ・イン・ドリームの皆さん!

  明莉、加代、円は大きく手を振ってOKのサインを繰り出した。

  スワイプ・イン・ドリームが1人ずつ順番に懐かしい冬の歌を歌います。

  雪の華、冬のうた、冬がはじまるよ、3曲続けて歌います。


    明莉の歌で 雪の華


    加代の歌で 冬のうた


    円の歌で 冬がはじまるよ


(加代)

  私達、スワイプ・イン・ドリームが今日の為に練習した冬の歌でした。

  たぶん、お父さんやお母さんが若い頃の歌ですよね。どうでしたか?

  うまく歌えてましたか?

    『カヨちゃーん』『歌えてたー』歓声と拍手。

  有難うございまーす。

  れではスタイルKのショウ君とハルちゃんにも歌って頂きましょう。

  ショウ君があの有名なクリスマスイブ。

  ハルちゃんが神様のいたずら、2曲続けて歌います。


  ショウの歌で クリスマスイブ

  (シャバダの間奏の間)

  有名な曲ですから知ってる方はご一緒に歌ってくださぁ~い!


  ハルの歌で  神様のいたずら

  すみません、下手な歌を聴いて頂いて、ありがとうございました。なので。

    『ハルちゃーん』・『サイコー』歓声と拍手。


(ショウ)

  さてそろそろ若い皆さんにも聞き覚えのある曲を歌います。

  まずは高校時代に先輩達が居た軽音楽部由来のアニソンからです。

  ちょっと声優さんの物まねで歌ってしまうかも知れません。

  天使にふれたよ、冬の日、ビューティフル・ワールド

  スワイプ・イン・ドリームが3曲続けて歌います。


    天使にふれたよ!


    冬の日


    ビューティフル・ワールド


(マサシ)

  次の3曲は僕たち大学生が好きなゲーム音楽です。

  高校生にR18のゲームの歌は悪いかとも思いましたが、

  快く歌ってくれるそうです。

  曲はとても良いので、ゲームしない人も好きになってください。

  スワイプ・イン・ドリームが気持ちを込めて歌ってくれます。


    舞い落ちる雪のように


    POWDER SNOW


    Twinkle Snow


(ショウ)

  ここでビート・ストックのパフォーマンス演奏です。


    インタールードのパフォーマンス演奏


(加代)

   残念ですけど、もうそろそろお別れの時間です。

   最後に私達スワイプ・イン・ドリームが練習しているステップも見て行ってください。

   最近のゲームでアニメにもなった、スクール・アイドルの劇中歌です。

   スタートダッシュとスノウ・ハレーション、

   2曲続けて踊って歌います。振付をご存知の方はご一緒に踊ってください。


     スタート・ダッシュ


     スノウ・ハレーション


(ショウ)

   みなさ~ん、有難うございましたぁ~。

   残念ですけど、これでお別れでーす。

   今日は、高田馬場大学の学生バンド、ビート・ストック

   シュン先輩、ヨウタ先輩、マサシ先輩。

   中野タレントプロモーションのスワイプ・イン・ドリーム

   アカリちゃん、カヨちゃん、マドカちゃん。

   スワイプ・イン・ドリームは来春デビューします。

   応援よろしくお願いしまーす。

   そして最後にスタイルKのショウとハル。

   この3つのユニットのセッションでお楽しみいただきました。

   どうもありがとうございましたー。

********************


 スノウ・ハレーションが終わったのが4時10分だった。俺の最後の紹介と挨拶に合わせてビート・ストックのヨウタ先輩がドラムセットを叩いた。その度に大歓声が沸いた。そして最後に全員がステージの前方に並んで手を繋いで大きく振りかぶってお辞儀をした。大歓声と拍手が沸き上がった。メンバー全員がステージから掃けるとそれが少しずつ小さく疎らになった。そして、サブステージでエレクトーンの演奏が始まった。その曲をBGMにして撤収作業が始まった。オフィシャルのスタッフさんも笑顔で手伝ってくれた。その間も山内さんは吉岡さんを従えてシャッターを押しまくっていた。

 15分後全員がステージ裏に集結した。衣装も私服に着替え、メークも落として。姉ちゃんと俺はギターとキーボードのソフトケースを持って、すぐにでも帰れる状態だ。

みんな、有難うございました。大成功でした。」とマサシ先輩。

『はあ~い。』

「いつかまた近いうちにこのメンバーでセッションしたいね。」

「はぁい。そうしたいですぅー。」

「それでは、これで解散です。」

すると、皆が自然に肩を組んで円陣になった。姉ちゃんと俺も荷物を足元に置いてそれに加わった。ヨウタ先輩が声を出した。

「おつかれさまでしたぁ~!」

『おつかれさまでしたぁ~』

そして皆は円陣を解いて、笑顔で顔を見合わせた。


 円陣の外に居た吉村さんが手を上げて予定を伝えた。

「ロケバスは御殿山スタジオ経由でナタプロに行きますが、どうしますか?」

姉ちゃんと俺は顔を見合わせた。姉ちゃんの表情は『行かない』意思のサインだった。

「えーっと、姉ちゃんと俺はここで解散します。家近いから。」

「私はこれから部活でここのイルミネーションを撮る事になってます。」と姉ちゃん。

「スワイプ・イン・ドリームの皆さんはどうしますか?」

そこへマサシ先輩が来た。

「それでは僕らは高田馬場に帰ります。」

「あ、お疲れ様でした。」と吉村さん。

『お疲れ様でしたぁ~』

みんなビート・ストックのワゴン車を手を振って見送った。

「で、どうしますか?」

「私はショウさんとデートの約束してますぅ~!」と円。

「私もです。」と明莉。

「つまり、ロケバスには乗らないのですね。」

『はい。』

「私もそのデートやらに付き合います。」

加代がスマホをチェックしながらそう言った。小泉さんが俺を睨んだ。

「あ、いや。そのぉ、勢いで約束してしまいまして・・・」

「おお、『茶店話輪』が予約出来たわ。」と加代。

「やった~、打ち上げできますね。」と明莉。

小泉さんは心配顔で、

「いいですか、皆さんはもうステージに上がったのですから、タレントとしての意識を持った行動をしてください。」

『はあ~い!』

「それでは、ロケバスは出ます。忘れ物はありませんか?」と吉村さん。

『ありませ~ん。』

スタイルKのスタッフと小泉さんはロケバスに乗って御殿山スタジオに向かった。スワイプ・イン・ドリームの3人と姉ちゃんと俺はロケバスを見送ってサンロードに向かった。


 サンロードの入り口に写真部の緑ちゃんが居た。姉ちゃんは小走りでみどりちゃんの傍に行って少し話をして、すぐ俺の所に戻って来た。

「今日の部活は終了だって。」

「なんで? これからじゃあなかったの?」

「私達のライブの動画を撮りまくって、メモリが無くなったんだって。」

「へぇー、そっか。」

「だから、私も付き合うね。デート。」

「わぁ~い、嬉しいですぅ。」と円。

「じゃあ、師匠、行きましょ!」と明莉。

円ちゃんと明莉ちゃんが俺の両サイドに来て、俺と腕を組んだ。俺は両腕を固められて逃げれなくなった。

「どこですか?」と明莉。

「すぐそこ。」

「何処へ行くんだ?」と加代。

「あ、加代と姉ちゃんは先に話輪に行っててくれ。」

「嫌よ!」と姉ちゃん。

「えぇ~」

「なんか、怪しい雰囲気だな。私も行く。」と加代。

「予約どうすんの?」

「遅れる連絡入れるよ。」

「へいへい。じゃあ30分遅れます。」

「了解。」

結局サンロードの宝飾店に5人で入る事になった。その店は加代のリングを買った店とは違うが、俺の目にはまあよく似たリングが沢山置いてある。しかも少し安い。

「いらっしゃいませ。」

俺はザックから預かり証を出して店員さんに渡した。

「あ、先日おいでになった方ですね。」

「はい。」

「お掛けになって、しばらくお待ちください。」

俺を真ん中にして右に明莉ちゃんが、左に円ちゃんが座った。姉ちゃんと加代は俺達3人の後ろに立った。店員さんはリングを2個、紫のビロードを敷いたトレイに載せて帰って来た。

「こちらはエメラルド、5月の誕生石です。」

「じゃあ明莉ちゃん。左手を!」

「はい。」

俺は明莉ちゃんにリングを見せた。青緑のエメラルドが5つ埋め込まれるように並んだリングだ。そして、今日の日付と(from S to A)の刻印を確認した。俺は1度明莉ちゃんの瞳を見て、笑顔を確認して、それを薬指に嵌めた。明莉ちゃんは左手をショーケースに翳す様にして、

「ありがとうございまぁす。」

店員さんが微笑んで、解説した。

「エメラルドは幸運と幸福の象徴です。」

「うれしいで~す。師匠!」

「こちらはアメジストです。2月の誕生石です。」

「円ちゃん、左手を。」

「はい。」

俺はそのリングを円ちゃんに見せた。全く同じデザインだが、深い紫色のアメジストだ。イニシャルの刻印は(from S to M)。それを2人で確認して、円ちゃんの薬指に嵌めた。円ちゃんも左手をショーケースに翳して眺めた。

「有難うございますぅ、嬉しいですぅ!」

店員さんが解説を笑顔で加えた。

「アメジストは誠実と心の平穏の象徴です。」

「そうですかぁ~、嬉しいですぅ。」

すると、決まりだろうと思うが、店員さんが具合を確認した。

「お2人共、サイズはよろしいですか?」

『はい。』

そう返事をすると、2人共俺に凭れかかって、俺の頬にキスをした。俺は・・・かなり嬉しかった。

「翔太、高いキスだったな!」

「そんな事無いですぅ~、ショウさんになら何度でもしてあげますぅ。」と円。

「これで、師弟関係が恋人関係に発展するかもでーす。」と明莉。

「私もショウさんに恋していいですかぁ?」

「悪い。2人共、それは無い。」と俺。

「なんでですかぁ?」と明莉。

「西田社長か小泉さんに殺されるよ。」

「そっかぁー」

「でもぉ、好きでいても良いですよね?」と円。

「そ、それはまあ・・・許す。・・・てか、嬉しい。」

「はあーい。そうしまぁーす。」

振り返ると、姉ちゃんが苦笑していた。こうして、俺は身近に居る女子共全員に誕生石のリングを貢がされた結果になった。また1つ溜息だ。


 俺達5人は宝飾店を出て喫茶店『話輪』に行った。そこでスイーツを食べてこの数日の打ち上げをした。女子4人は俺からゲットしたリングを見せ合ってご満悦の様子だった。そのセレモニーが1段落した頃、加代が深刻そうに切り出した。

「4月までにはちょっと早いけど、わたし、今日で魅感を卒業する。」

俺はそれを何となく予感していた。だから、こう答えた。

「それは許さない。」

「そんな事言わないでよ。私、スワイプ・イン・ドリームと魅感と両立は出来そうもないわ!」

俺は1呼吸置いてもう1度繰り返した。

「加代が居ない魅感はあり得ない。加代が居ない魅感は魅感じゃないから。」

「そうよね。だって加代ちゃんMCでボーカルだもの。」

「じゃあ、私はどうしたら良いの?」

「解散しよう。」

「え、解散?」

「うん。潔く。」

「そうね。」

「春香と翔太はそれで良いの?」

「ああ、無名のデュエットに戻るだけさ。」

「そうよね。」

「じゃあ、明日の久我山坂上商店会のステージが解散コンサートって事だ。」

「そうね。それ良いね。」

こうして加代と姉ちゃんと俺は魅感の解散を決めた。加代はタレントの道を歩き始めるのだと思った。加代が言い出さなくても、いつか俺の方から解散を持ち掛けたと思う。そして、結構迷惑だったが、田中加代という大変な女子と・・・こいつと特別な友達になれて嬉しかった。俺は加代を見詰めた。加代も可愛い笑顔で俺を見つめ返した。その10秒位が心地良かった。言葉は交わさなかったが、この時、加代と俺は本当の意味で気持ちに区切りがつけられたと思う。姉ちゃんもそれを感じ取ってくれたと思う。笑顔で加代と俺を見守っていた。

  『加代、ありがとう。加代、頑張れ!』

俺は加代に心の中で少し切ない別れとエールを送った。

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