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particle19:最後の、七罪(2)

 飛澤から連絡を受け、運動場に向かった。扉を開けると、同志がすでに整列していた。その目の前に立つ男が二人。一人は飛澤だったが、もう一人の男は知らない男だった。

「東裏か。すまないが、お前の部隊を招集していた。良い部隊ではないか」

 男が私に気づき、声を掛けてくる。

「貴方は?」

 聞くと、傍らの飛澤が口を開く。

「こちらは七罪のスペル様でございます、東裏様」

 眼鏡をした理知的な瞳をした男。背は高いが、どちらかといえば、細いと言う印象を受ける。漂う雰囲気は少し尖ったものがあった。

「スペル様。上陸されたのですね」

「ああ。他の七罪はすでに倒されたことは知っている。お前も、災難だったな」

 船瀬のことだろう。何も言わず、頷いて見せた。

 船瀬の件については、どう考えても飛澤が何かしら関わっているとしか言いようがない。部下の詳しい報告を見てみると、違うとも思える。だが、周到に事実を書き換えるというようなことは飛澤ならやりそうな気がする。スペル殿が上陸したタイミングと言い、少し出来過ぎているのも、引っかかる。

 私の力を削ぐために、船瀬を消した。今の状況を見ると、そうとしか考えられなくなってくる。それをここで問い詰めてもいいが、もう遅いと言う気もした。なにより、肉体を持った船瀬は帰っては来ないのだ。

「我らは、我らの目的を果たすために、団結しなければならない」

 スペル殿が手を差し出してくる。

「はい、もちろんです」

 その手を握る。

「そのために、東裏の力が必要なのだ」

「わかっています」

「これだけの輩を集め、纏めている。今、その部隊が生きる」

「ありがたいお言葉です」

 表面上は協力の姿勢を見せておいた方が良い。警戒は怠らないが。

「私はずっと粒子体ではあったが、私の部下の飛澤が私の研究を進めていた。そして、これが研究の成果だ」

 スぺル殿がそう言うと、飛澤が白衣のポケットから何かを取り出す。手の中。銃弾の形をした黒い物体があった。

「これは?」

「飛澤は、エビルシードと名付けた。私は、まあ、そんな名前でもいいと思っている。名前など、この際重要なことでは無い。肝心なのは…」

 別の部下の一人が人を一人連れてくる。格好を見るに、如月教の信者の一人だろうか。どこにでもいる普通の人間の男だった。

「成果だ」

 スペルが飛澤から黒い銃弾のようなものを受け取ると、連れてこられた男の腕に押し当てる。黒い物体は、溶けるように男の体に潜りこんでいく。

「!? うわあああああ、や、やめてくれえええええぇぇッ!」

 不意に、男が叫びをあげた。虚空を見て、狂乱している。

「!? これは、どういうことですか?」

「見ての通りさ。この男に、エビルシードを打ち込んだ。そして、このエビルシードの元は、純度99.6%以上の、人間の純粋な悪意で出来ている」

「ころして、ころしてくれえええええええぇぇぇッ!」

「この男の脳の中では、過去に見たどんなつらい体験よりも悍ましい悪意がフラッシュバックしている。それが、延々と繰り返される」

 狂った男は、何かに逃げるように夢中でもがいていたが、不意に勢いよく床に頭を撃ちつけると、脳しょうをぶちまけながら息絶えた。

「ふむ。初めて目にしたが、効果は十分のようだな。お前の言った通りだ」

 スペルが飛澤に言う。恭しくお辞儀しながら飛澤が語り出す。

「このエビルシードは人間の悪意の塊でございます。一粒当てれば、その人間は絶え間ない悍ましき悪意の連続に、発狂し遠からず死に至る。二粒当ててしまえば、その時点でショック死致します」

「ふむ、やはり、一粒が適量か。殺してしまっては、悪意は煽れん。殺したい場合は、二粒。しかし、少し効果が強いように思うぞ。そこのところはどうなのだ、飛澤?」

「はい。何せ、人間には個体差があり、弱すぎる悪意では、反応しない人間も存在致します。ですから、強い方に合わせると言う形にいたしました」

「悪意に慣れきった人間、もしくは、そもそも悪意などあまり持たぬ人間、ということか。厄介なものだな。それで今、エビルシードはどれほどある?」

「一万粒ほどしか。一日で、いくつも作れませんので」

「どうやって作っている?」

 気になって、思わず、聞いてしまっていた。

「はい。まず、如月教の信者の中から、その命を神に奉げていいという人間を、地下の深くに一人ずつ監禁します。そして、拷問し、徐々に体と心を奪って行きます。奪い方は、人それぞれでありますので、これとはっきりとは言えませんが」

 何か、嫌なことを聞いてしまった。そんな私に構わず、飛澤が続ける。

「奪い、まず壊します。けれども、完全には壊しません。完全に壊してしまえば、それは、悪意すら生み出さない、ただのモノになってしまいますから。壊れる限界、そこで初めて、純粋な悪意が生まれます。後は、東裏様が悪意を取り出す術と似た仕組みの技術を使い、その者の脳から、悪意を取り出します。これは、一日二回だけです。そうした家畜が、およそ百人。一日で二百粒ほど作れる計算ですが、壊れてしまったり、壊す途中の人間もいますので、それを含めると一日百粒が限界かと」

「もう少し、施設を広げろ。総統には、早く上陸していただきたい。総統さえ上陸してしまえば、我らの勝利は揺るがないのだからな」

「かしこまりました」

 この二人の話を聞きながら、はっきりと吐き気を感じた。

「それで、東裏」

「はい」

 それを気取られないようにしながら、スペル殿に答える。

「お前の部隊を使って、エビルシードの試験戦闘をしたい。人間の悪意を煽る戦闘だ」

「アルズ達は、必ず出てくると思います」

「わかっている。それに対する対処も、考えている。アルズ達は、我らの敵だ。遅かれ早かれ、倒さなければならない」

「はい」

「現場の指揮は任せたぞ。大まかな場所と作戦は飛澤が立てる。どんな成果があがるか、私は楽しみにしている」

 そう言うと、スペル殿が笑う。その笑みに、はっきりと嫌悪感が浮かんだ。



 小春と久しぶりに組打ちをしていると、ゆかりさんに呼ばれた。

「どうかしましたか?」

「初陽さんに電話が来ました」

 そう言うゆかりさんには少し、戸惑っているような気配があった。

 電話を受け取る。

「柊初陽ですが、誰ですか?」

(東裏だ。お前に、一つ伝えておきたいことがある)

「!?」

 意外な声の主に驚く。

 何故、敵の隊長が私に連絡をしてきたのか。

「伝えておきたいこと? それは何だ?」

 逆探知は、しているのだろう。ゆかりさんが続けてと身振りで促した。この会話も、聞こえているはずだ。

(船瀬が、死んだ)

「!? 嘘だッ!」

 反射的に、叫んでしまった。

(本当だ。自殺したとみられているが、私が見る限り、殺された。身内にな)

「馬鹿なッ! そんなことが、あるか! 私を動揺させるために、嘘を言っているのだろう!」

(私も、嘘ならどれだけ良かったかと思っている。しかし、事実だ。決して、お前を揺さぶるために、このような電話をかけているわけではない)

 確かに、そうだ。私の知る東裏という敵は、そんな回りくどい策を弄するような者では無い。

「なら、本当に、船瀬はッ!」

(ああ、死んだ。船瀬は、お前のことを憎からず思っていた。だから、お前に船瀬の死を伝えないのは、船瀬に申し訳ないと思った。だから、私がこうしてお前に伝えた)

「…本当、なのか?」

(ああ。これは、言っていいのかわからないのだが)

「言え」

 思わず、口に出た。

(…そうか。船瀬は、苦い顔をしていた。恐らく、お前のことが心残りだったのだと思う。他に、心残りなど、なさそうなヤツだった)

「…そうか」

(…ではな。切るぞ)

 そう言うと、通話は切れた。周りは慌ただしく動いている。逆探知は、出来たのだろう。本来ならば真っ先に私が現場に行かなければいけないのだろうが、どうしても、足が動かなかった。

「…初陽さん」

 ゆかりさんに声を掛けられ、我に返る。それでも、足は動かなかった。

「連れて行きたいところがあるんです。一緒に行きませんか?」

 ゆかりさんにそう言われ、連れられるままに車に乗った。そこからは、あまりよく覚えていない。気づくと、静さんのお店のカウンターに座っていた。店内を見回すが、ゆかりさんはおろか、静さんすらいない。私一人だけだった。

「私は、どうしたら良いんだろうな、シノ」

 話しかけるまで、何も言わずにいてくれた。

 私のパートナーは、私に遠慮しすぎているのかもしれない。

(最後まで、初陽さんを想っていた。苦しみながらでも、幸せだったと、私は思います…)

「ありがとう。…おかしいんだ。こんなことになった今、ようやく本気であの男のことを考えている」

(初陽さんは、どう思っていたんですか?)

「好きだったんだ、今なら、はっきりとそう言える。あの男の馬鹿なところも、軽いところも、時々見せる強引なところも、好きだった」

(初陽さん…)

「遅いのだがな。ああ、遅すぎた。おかげで、この様だ。笑ってくれ、シノ。不甲斐ない、この私を。好きだった男に、まともに好きだなどと一度も言えなかった私に」

(…)

「シノ?」

(…あっはははははは! …わ、笑いました。だから、初陽さんも、笑って下さい…)

「私が?」

(はい…。私は、初陽さんの笑い声が聴きたいです…)

「だが…」

(笑って、下さい。駄目、ですか…?)

「いや。わかった。笑う、笑おう」

 息を吸い込む。何かが、溢れてくる。

「あっはっはっはっは!」

 それをごまかすように、笑い声でかき消した。

「あっはっはっはっは!」

(あっはっはっはっは!)

 シノと、笑い続けた。二人とも、乾いた笑い声だった。それでも良い。それしか、今は出せない。

 ひとしきり笑い声を上げると、シノが言った。

(出来るだけ、前を向きます。前を向いて、歩きます。後ろの景色が遠くなっても、もっと素晴らしい景色が、きっと、前にはあります。それを、信じます。初陽さんと二人なら、私、信じられるんです。だから…)

「もういいんだ、シノ」

(え?)

「シノがいる。私は、本当に一人ではないのだな。それがどうしようもなく、嬉しい。ありがとう、シノ」

(初陽さん…)

「私も、信じるよ。だから、前へ。ただ、前へ。仇は、必ず取る。これで、良いか?」

(はい。必ず…)

 傍に、紅茶の入ったカップが置かれる。眼を向けると、エプロンをしたかなりが立っていた。

「…静の、奢り」

「すまないな、頂こう」

 紅茶を一気に飲み干す。

 少しだけ、苦く感じられる。

「…ミルクティーの方が、良かった?」

 そんな様子を感じたのか、かなりが聞く。

「いや、今の私に、甘さはいらない。ちょうどいい、苦さだった」

 中が空になった食器を片づけるかなり。

「…ゆかりは、帰った。静は、ゆかりと一緒。私は、もう眠る。店は、閉店。でも、初陽には、貸切」

 そう言うと、二階に上がっていくかなり。

 泣いても良いということなのだろう。

「やれやれ、かなりにまで気を遣われてしまうとはな」

 苦笑しながら、そろそろ溢れ出すものを止められそうにも無かった。

 


 街中は、混乱を極めていた。

 日中の繁華街。人が多いせいで、進みづらい。それを狙っているとも言えた。

「何か、変な空気だね」

 傍らの小春ちゃんの言葉に頷く。

 何かが、おかしい。何人か、混乱を起こしている人がいる。しかし、捕まえてみると、普通の人だった。普通とも言い切れないかもしれない。皆、何かに怯えたように暴れていた。それで、混乱を引き起こしているのだ。

「これは、どういうことでしょうか、美奈さん?」

 インカムで、美奈さんに聞く。

(う~ん、わからないけど、敵に精神操作させられている人とかかな。とりあえず、その人達には気絶して大人しくなってもらうとして、精神操作している人を叩かないとね。このまま混乱が広がっていくだけだし)

「はい、わかりました」

「藍ちゃん、危ないッ!」

 小春ちゃんに押され、地面に倒れる。わたしのいた地面に何か穴が開いている。見ると、黒い弾丸のようなものが刺さっていた。

「ありがとう、小春ちゃん」

「気しないでいいよ。でも、何だろ、コレ?」

「触っちゃ駄目よ、小春!」

 黒い弾丸を拾い上げようとした小春ちゃんに、鈴花さんが上空から呼びかける。

「そいつを撃ってた敵を捕まえて吐かせたわ。その弾丸はエビルシード。人間の悪意を固めて作った悪意の塊よ。それに触れると、絶え間のない悪意が襲い、気が狂ってしまうらしいわ」

「そんな!? なら、この騒ぎは…?」

「エビルシードを、一般市民に見境なく撃ちこんでいるようだな。この辺りに、少なくともエビルシードを撃つ敵が百人ほどいると思う」

 男を地面に投げ捨てた初陽さんが合流する。能力で加速し周囲の索敵を行ってきたのだろう。

「一般市民に紛れ込んでいるのですか?」

「ああ、そうだ。ここにいるもの皆、敵と思っていた方が良い。私はまた索敵に戻る。恐らく、現場指揮官が出てきているはずだ。その者を殺せば、敵も退却するだろう」

 銃声が聞こえた。少し遅れて、もう一度違う銃声が鳴った。わたしのすぐ傍の地面を、二つの銃痕が穿つ。

「かなりが弾をぶつけて弾道を反らしたのね。それにしても、藍狙いとは。敵も、少しは考えてるじゃない」

(鈴花対策もばっちりされてるけどね~)

「え? そうなの、鈴花さん?」

「ええ、忌々しいことにね。近くに複数機、磁力操作が出来る機械があるわ。そのせいで、飛んでもフラフラするし、下手に能力を使うと変なものを引きつけたり体が引き寄せられたりするわ」

(なにそれ鈴花役立たずじゃん!?)

「お前が一番わかってるんだろうが」

「あ、あはは…」

「ま、だからあたしは藍を守ることにする。敵を倒すのは、他の人に任せるわ」

「かなりさんは?」

「多分、次元移動しながら、エビルシードを撃っている敵を探して倒しているんじゃないかしら。さっきみたいに、こっちの戦闘に介入してくることもあるだろうけれど」

「わかりました。それなら、わたしは、このまま囮を続けます」

「ぎゃあああああああッ!」

 声があがる。それもあちこちからだ。

「ちっ、藍への攻撃が無駄だとわかって、群衆に攻撃をし始めたわね」

「助けに行かないと!」

 小春ちゃんが駆けだす。

「待ちなさい、小春ッ! 敵はどこから撃ってくるかわからないのよ! 残念だけれど、かなりと初陽が敵の数を減らすまで、下手に動かないほうがって…、あーもうッ!」

 小春ちゃんは既に遠くまで駆けて行ってしまっている。

「追いかけましょう」

「わかってるわ、急ぐわよ」



(そうか、アルズロートが動いたか)

「はい、スペル様の読み通りでございます」

 ビルの屋上、そこから望遠鏡で状況を確認する。

(東裏、アルズロートの周りの市民に攻撃を集中しろ、今が絶好の機会だ)

 傍に立って部隊に指示を飛ばしていた東裏がスペル様に答える。

「しかし、アルズロートには、物体を粒子に還す能力があります。狙っても、当たりません」

(それは、能力を使っている間だろう? 集中が、そんなに続くはずがない。絶え間なく撃ちこめば、一発ぐらい当てることは出来る。そして、一発当ててしまえば、アルズロートは狂って死ぬ)

「…わかりました。今、指示を出します」

(飛澤、状況は逐一伝えろ。試験戦闘でアルズ達の対策も十分ではないが、アルズの一人ぐらいは倒しておきたい)

「かしこまりました。東裏様-」

「わかっている」

 東裏が部隊に指示を飛ばしている。

「見つけたぞ」

「!?」

 声に振り向く。軍服を纏ったアルズグリューンが、涼しげな、しかし怒りをその眼に宿してナイフを持っていた。

「東裏は後回しだ。まずは、貴様を殺す。今から私が殺す敵は、皆、船瀬の仇だからな」

「知っています、アルズグリューン。いえ、柊初陽。貴方の想い人の船瀬を」

「何ッ!?」

 アルズグリューンが動揺したのがはっきりわかった。おかげで、能力の制御が乱れ、範囲外にぎりぎり逃げることが出来た。

「待てッ!」

 ビルから飛び降りる。眼下には巨大なマットを用意した輩が見えた。



「うおおおおッ!」

 撃たれた銃弾を視認する。そこから私が動ける距離。その範囲に狙われた人がいれば、傍で銃弾を受けた。全身に纏わせた赤い粒子のおかげで、銃弾は当たる前に消滅させられる。

「はあッ、はあッ…」

 最初は私を狙っていたが、銃弾の何発かを能力で防御すると、今度は、私の周囲の人に目標を変えた。それからは、ただひたすら私の近くの人に狙いを定めて撃ってきている。

(小春、もう止めなさい。貴方がここでいくら銃弾を防いでも、銃弾を撃つ敵は無数にいる。貴方一人じゃ、全ての銃弾を防ぐことは出来ないわ)

「はあッ、はあッ…。それでもッ! それでも、私の前で誰かが苦しんでいる姿なんて、私は見たくないッ!」

 銃弾、また見えた。こっちに向かってくる。狙った人の前に立って、代わりに受ける。銃弾が光に溶ける。

「きゃあああああああッ!」

 後ろから、叫び声。

「何で、銃弾は避けたはずじゃ…」

(後ろから、銃弾が来たのよ。これで、わかったわね、小春? 貴方だけでは、守れ切れないわ。だから、ここは一旦引きなさい)

「くッ…!」

 そんな。

 力は、あるのに。

 あるなら、使うんだ。

 それが、例え、焼石に水であっても。

 ここで引くってことは、困っている人を見捨てるということだから。

 そんなこと、私には出来ない。

 また、こちらに向かってくる弾丸。

「うおおおおッー!」

 駆ける。

(小春ッ!)

 いくらフェルミの頼みだって、これだけは聞けない。

 予測より、銃弾の速度が速い。

 これじゃ、間に合わない。

 イメージ。

 それを解いて、肉体の操作に全ての集中力を使う。

(駄目よッ、小春ッ! 集中を切らしては駄目ッ!)

 絶対、助けるんだ。

 そのためなら。

「うあああああ!」

 飛び込む、黒い銃弾。やけにゆっくり見えた。それが、お腹に溶け、吸い込まれていく。

「ぐうッ!? …よ、良かった、間に合った…」

(小春ッ! 大丈夫ッ!?)

「はぁはぁ、うん、大丈夫。全然、何とも無いよ。これ、効果ないんじゃないかな?」

(まさか? エビルシードは小春に当たったはず。でも本当に、何でも無いの? 何か、違和感はない?)

「もう、心配性だなあ、フェルミは。全然、大丈夫だよ」

(…それなら、良いのだけれど)

「よし、じゃあ、また皆を守らないと」

「小春ちゃん!」

「小春ッ!」

 藍ちゃんと鈴花さんが駆け寄ってくる。

「大丈夫、小春ちゃん!? さっき、弾丸が小春ちゃんに当たったのが見えたけど。どこも、怪我はない!?」

「うん、大丈夫」

「はぁ~、小春も無茶するわねえ。いくらなんでも、無謀すぎ。もっと自重なさい」

「うん、ごめんね、鈴花さん。っと-」

 駆けだす。弾丸。この距離なら、容易にたどり着ける。

「小春ちゃん!?」

「ごめん藍ちゃん、でも守るって決めたんだ!」

(ちゃんとイメージしなさい、小春。効かないとわかっていてもね)

「わかってるよ、フェルミ」

 集中。駆けながらでも、集中は出来る。

「? あれ?」

(どうしたの、小春?)

「イメージが、黒い?」

(!? 小春、イメージをッ、早くッ!)

「わ、わかってる。あ、あれ、おかしいな…」

「小春、上ッ!」

 鈴花さんの声で、上を見る。無数の銃弾。明らかに、私を狙って撃ったものだ。

(小春、避けて!)

「駄目だよ! 私が避けたら、周りの人に当たっちゃうかもしれないッ!」

 右手で顔をかばいながら、無数のエビルシードを受ける。

「ぐうううっ…!」

(小春ーッ!)



 無数のエビルシードをその身に受けた小春ちゃんが、よろよろと立ち上がる。

「こ、小春ちゃん…」

「あ、あはは、ごめんね、心配させちゃった」

 頭をかく小春ちゃん。

 見る限り、外傷は無い。

「良かった。何とも、ないんだよね?」

「うん。この通り」

 そう言って体を動かす小春ちゃん。

「待てッ!」

 声のする方。男の人が駆けてくる。初陽さんが、その後ろで駆けていた。

「あの人は、敵、なんだよね?」

「え? うん、多分…」

「そっか」

「? 小春ちゃん?」

 何だろう。

 今感じた、微妙な違和感は。

「セデーレ・マッジョラッツィオーネ!(緑道の重在撃)」

 空間に緑色の粒子が溢れる。体が重い。初陽さんの能力で、一時的に空間の質量が増加しているせいだ。

「くッ!」

 追われた男の人の動きもそれで止まった。初陽さんが、ナイフをかざし、その男の人のすぐ後ろに迫る。

「!?」

 赤い粒子を全身に纏った小春ちゃんが、初陽さんの能力を打消しながら、その男の人の目の前に飛び出す。

「敵なら、死ね」

 小春ちゃんが、赤い粒子を帯びたままの右手で、男の人の顔面をぶち抜いた。血が頭から勢いよく吹き出し、小春ちゃんの全身が血に赤く染まる。

「えッ!? こ、小春ちゃん!?」

 おかしい。

 何かが、おかしい。

 私の知ってる小春ちゃんは、こんなことしない。

「小春ちゃん、ほ、本当に大丈夫なんだよね?」

「え? あはは、全然、大丈夫、だ、よ…」

 小春ちゃんが、力なく膝から崩れ落ちる。

「!? こ、小春ちゃんッ!? 小春ちゃーんッ!!」

七人目の七罪登場、そして小春に異変が。次話は若干暗い展開ですがお許しください。

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