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particle15:そう、何度でも(2)

 ナイフの刃が巨石に弾かれ、腕に鈍い痛みが走った。

 刃を見ると、少し欠けていた。やはり、まだ足りない。傍にある砥石に水辺の水を掛けながら、欠けたナイフを研ぐ。巨石を斬るまではいかないだろうが、刃の入れ方をもっと正確に出来れば、斬れずとも刺すぐらいまでは出来るはずだった。

 まだまだ修行が足りないということだ。

 如月を倒してから、一度研究所に戻ったが、まだ山の中で修業は続けていた。

 またいつ戻るのかは、決めていない。

 戻りたいという気持ちもあったし、如月教ではグラ殿の仇討ちのため、一時復帰したと言う形になっていた。

 しかし戻るためには、まだ、絶対的に私には何かが足りない。

 それが何なのか、薄々気づいてもいた。

 フェルミとパートナーを組んだ。そしてその後、フェルミは小春を見出し、小春のパートナーとなった。

 そういう巡りあわせだったのだ。

 私は、選ばれたが、選ばれなかった。

 ルーオの時も、ルーオは、鈴花を選んだ。当然だと言う気もする。あの二人は、幼いころからの付き合いだったのだ。私が間に入って行けるようなことでは無かったのかもしれない。

 足りないもの。

 しかし、それを言い訳にはしたくなかった。

 でも、やはり思ってしまう。

「どうして、私ではいけないのか…」

 自分に、足りないものとは。

 修行場の片隅に立てた墓に呟く。

「グラ殿ならば、こんな時、何と言うのだろうか」

 小春も鈴花も、私も、ただ一つの命。

 グラ殿は多分、そう言うだろう。

 形が違う。

 色が違う。

 考え方だって、違う。

 それでも、命。

「私は、そこまで思い定められる程、強くない」

 やはり、戻れない。

 親の反対を押し切り、家を出て、自分なりにやってきたつもりだった。しかし、それもうまくいかない。

『貴方が好きなんだ!』

 不意にあの男の顔が何故か浮かんできて、地面に寝転び、無理やり頭の隅に追いやった。

 草の匂いがした。夏の匂いだ。それも、もうすぐ終わる、夏の匂いだ。

 前にも、こんなことがあったような気がする。確か、夢の中だった。

 巨大な樹の葉の上の草原にいた。そこに白いワンピースに葉をあしらった少女。葉の冠をしていたような気もする。その少女が、私に何かを語りかけてきた。あの時、不意に強い風が吹き、私は飛ばされた。そして、その風は自分の心の風なのだと、何故だかわかった。

 あの風は、今も吹いているのだろう。あの時よりも、焦燥は強くなっている。風で、あの大樹の葉を全部落としてはしまわないか、そんなどうでもいい心配をしてしまってもいた。

「夢の話なのにな…」

 何だか申し訳ない気持ちになる。

 それが嫌で、少し眠ろうと思った。

 また、あの夢の中に行けるかもしれない。



 風が、吹いていた。吹き飛ばされそうになる体を地面に押さえつけながら、起き上がる。

 周りを見回す。今回は、以前のような草原では無かった。多くの植物の花が、乱れ咲いている。その花びらが強風に散り、空へと色とりどりの色を塗っていく。散った花はすぐにまた新たな花をつけ、そしてまた風に飛ばされていった。

 綺麗だったが、申し訳ない気持ちになり、眼を閉じて、心を静めた。風が弱くなり、凪になった。

 やはり、風は私の心だった。

 とすれば、ここは、私の夢の中か。

 だとするなら。

 眼を、ゆっくりと開けた。

 目の前。

 葉で編まれた冠を被った、白いワンピースの少女が立っていた。

「また、会えた。名前を、聞きたいと思っていた。前は、貴方の名前を聞くことさえ出来なかったから。私は、柊初陽だ」

 少女に向かって名乗った。少女は、驚いた様子で、何度か眼と口を開いては閉じていたが、一度大きく喉を鳴らして言った。

「シノ、です…」

「シノ。そうか、それが、貴方の名前なのか」

 目の前の少女が、恥ずかしそうに頭の冠で目元を隠そうとしていた。

「知って、いました…」

「え?」

「あなたの名前。知って、いたんです…」

「そうだったのか」

 夢の中なのだ。名前を知っていることぐらい、不思議なことでは無いだろう。

「シノは、どうしてここに?」

「笑わないで、くれませんか…?」

 手に持った葉をいじりながら、シノが言う。草笛か何かだろうか。

「笑わない。シノを笑う資格など、私にはないのだ」

 私の方をちらちらと見ながら、シノが口を開けては閉じた。それを何度か繰り返して、ようやくシノは話し出した。

「隠れて、いたんです…。私、話すのが苦手で、だから、ずっと隠れていたんです…」

「夢の中に?」

「はい…。初陽さんの夢の中に…。すみません…」

「謝ることなど無い。私の夢の中など、好きにいてくれて構わないのだ。だが、参った。私の夢の中では、心安らかにいられなかっただろう。ここ最近、風が強かったと思う」

「はい…とても。ですが、嫌な風ではありませんでした…。激しいけれど、でも、その風には、ひたむきな、想いがあった。願いが、あった…」

 そう言うと、恥ずかしげに、手に持った葉を口に当てた。高い草笛が鳴る。

「恥ずかしいな。そんなことまで知られてしまうとは。自分でも、もうどうしていいかわからない想いだった。決して、他人に漏らすまいとも思っていた。変な想いを聞かせてしまって、すまない」

 これは、夢。夢の中なのだ。だから、自分に正直になることも出来た。

「どうして、シノは私に話しかけてくれたのだろう? 私は、あまり話していて楽しい人間でも無いと思っているのだが」

 両の手の人差し指をしきりに合わせながら、シノが言う。

「似ていると、思いました…」

「似ている?」

「はい。ですから、話してみたいとも思いました…」

「シノが良ければ、聞かせてくれないだろうか。私とシノの、似ているところを」

「面白い話じゃ、ないですよ…?」

「構わない。私の風も、面白いものでは無かったと思う」

「わかりました…。私、恥ずかしがり屋でこんなのですから、親からも友人からも疎まれて、周りの人には誰にも気づいてもらえず、いないことにされたこともあるんです…」

「…」

 風が一度、大きく吹いた。

「でも、私はいる、確かにいるんです…。それを、気づいて欲しくて。でも、気づかれたくもなくて」

 何も言えなかった。

 確かに似ている。

 私も、私が出来ることを探している。

「そうだな。私も、そうだ。そして、どうにもならない自分を、いなかったことにしたいと、何度も思った。そして、その度に、周りの人に止められもした」

「でも、今は違う…。初陽さんは…」

 少女が俯く。その手を取り、優しく話しかけた。

「そうだ。グラ殿との修業で、私は大事なことに気づかされたんだ。生きている限り、存在している限り、自分は嫌でもここにいなければならない。そして、生きている限り、生きて、消えていった者の分まで、叫び続けねばならないのだと」

 風がまた、大きく吹き始める。

 シノの手を、力強く握った。

 決して、離すことのないように。

 この子は、怖がっているのだ。

 一人になる孤独を。

 つながりの曖昧さを。

 そして、わかった。

 この子は―

「だから、シノさえ良ければ、私と一緒に叫んで欲しい。自分がここにいるのだと、確かに、自分はここに生きているのだと。それを、叫ぼう。私と一緒に、叫んで欲しい」

 俯きながら、シノが言った。

「私で、いいんですか…?」

「シノでなければ、駄目なのだ」

 シノ。

 何も言わず、ただ一度、頷いてくれた。

 その返事だけで、十分だった。

「本当かッ!?」

「はい、本当です…」

「本当の本当に?」

「もう。本当の本当ですから。初陽さんの心は側で見ていて、よくわかっていますから…」

「まだ、信じられない。私は、足手まといだったのだ。どうしても、シノの力を貸して欲しいんだ!」

「何だか色々台無しですけど、本当ですから…」

「これは、夢だろうか。いや、夢の中なのだったな。とすると、これもまた夢。一夜のはかなき夢か。ぬか喜びなのが、残念でならない」

「夢ですけど、本当です…。初陽さんって、実はかなり自分に自信が無いですよね…?」

「具体的には?」

「胸、とか…」

「うッ!?」

「ご、ごめんなさいっ…。と、とにかく、本当ですからっ…。夢から覚めても、私は、いつも初陽さんの傍にいます…。頭のかんざし、無くさないで下さいね」

「ううっ…、了解した。そうだ!」

 せっかくの夢の中なのだ。

 シノを小脇に抱き上げ、この気持ちを風にする。

「わ、体が…」

「飛ぶぞッ、シノッ! 一度、鈴花のように飛んでみたいと思っていたのだッ! 夢の中なら、それも容易いッ!」

 足が地面から離れ、体が風の中でこの葉のように飛んだ。



「…ッ!」

 起き上がり、頭のかんざしに触れる。

「そこにいるのか、シノ…」

(…)

 返事は無い。

 やはり、夢だったか。

(夢じゃ、ないです…)

「シノッ!」

 私の心を見透かしたように、頭に直接、シノの声が響いてくる。

(どうしたんですかッ…!? 初陽さん、泣かないで下さいッ…!?)

「え…?」

 知らぬ間に、涙が頬を伝っていた。。

「済まない。もう、私は一人ではないと思って。そう思ったら、自然と涙が溢れだしてきてしまった」

(二人で、叫ぶんですよね…?)

 涙を拭き、立ち上がる。

「ああ、その通りだッ!」

 突然、携帯が鳴る。出ると、ゆかりさんの焦った声が聞こえた。

『初陽さん、大変なんです! 小春さん達と連絡が取れなくて。全員と連絡が取れないと言うのは、いくらなんでもおかしくて。きっと、何かがあった違いありません!』

 いつになく切迫した声だった。

「わかりました。今すぐ現場に向かいます。場所は、小春達の通う中学校ですね?」

『はい。でも気を付けて。敵がどのような者なのか、現時点では、まだ何も掴めていないのです』

「とにかく、急ぎます。小春達にもしものことがあったら、私は小春達に顔向けできません」

『お願いします。私達も、サポートしますので』

「はい。では、これから現場に向かいます」

 携帯の通話を切り、インカムを身に着ける。

「だそうだ。私達の出番だ。もう一度頼みたい。私の、いや、私達のために、力を貸して欲しい、シノ」

(わかりました、初陽さん。私は、貴方のパートナーになります…)

「感謝する。スピンは?」

(ゼロ。全ての、始まりの数です…)

「私達らしい。では…、スピンッ!」

 その場で叫ぶ。かんざしが緑の粒子に変わり、そして同時に服も光り輝きながら粒子に溶け、そして再構成される。

 二度目の、変身。それでも、胸はこれ以上なく、弾んでいる。

 光が溶け、私とシノが一つになり、再構成された服。

(この服は…?)

 袖を翻した緑色の陸軍の軍服に、目深に被った軍帽。

「私の趣味なんだ。忍だが、軍に憧れたこともある」

(軍には、行かなかったんですか…?)

「行かなかったから、シノに出会えた。さあ、行こうッ! 小春達を助けにッ!」

(はいッ…!)

 木から木へと飛び移り、山を凄まじい速さで降りていく。

 間に合ってくれ。

 弾んだ胸の裏側で、焦ってもいた。



 眼の前に横たわる少女達を見た。皆、ぐっすりと眠っている。即効性の、睡眠作用のあるガスだった。無臭で気づきにくく、効いてしまえばすぐに眼ざめることは無い。その間は、やりたい方だった。

「クク、大したことは無いな」

 しかし、それも仕方はないのかもしれない。何しろ、先に上陸してからというもの、ずっと耐えてきたのだ。必要以上に他の同志と関わることなく、ずっと人間の中に潜んで。いた。そして、運良くも、輩に仇なす少女達を指導する立場にもあった。

 これ以上に無い偶然の重なりで、今ここにいる。ならば、こうなるのも必然と言えた。

「クク、さてさて、どうやって楽しもうか…」

 少女達を見ながら、つい顔がにやけてしまう。

 今までも教師という立場を利用して、女生徒に秘密裏に色々としてきた。その全ては、如月がもみ消してくれたので、明るみに出ることは決してなかった。如月は倒され、もうこんなことは出来ないと思った時、潮時を感じた。ならば、敵の少女達を最後にしよう。それしか、考え付かなかった。そして、こうして、わざわざ一斉持ち物検査などということを進言し、綿密に作戦を立て、少女達を捕まえたのだ。

「それにしても…」

 皆、良い体をしている。四人とも、それぞれに魅力があった。

 小春君は、無駄な肉の無い、引き締まった体。

 藍君は、柔らかそうな体だ。

 鈴花君は、しなやかで肌が綺麗。

 かなり君は、弾力のある体をしている。

 ふむ。

 どの子からにしよう。

「矢入先生~!」

 廊下からの声で驚き、部屋から出る。同僚の女の教師だった。二七だが、年が行き過ぎている。ボクの興味では無かった。

「緊急の職員会議だそうです。矢入先生も職員室へ。すぐ終わるそうです」

「わかりました。今行きます」

 適当な返事をすると女教師は帰っていく。軽く舌打ちをしながら、職員室へ向かう。

「また後でくるからね」

 扉を閉め、鍵をかける。普通の職員会議でも、ガスの効き目からして、まだ目覚めるような時間ではない。

 簡単な連絡事項だけ伝えられ、会議は三十分もせずにすぐ終わった。

「チッ、あれだけのことならわざわざ集めるんじゃあないよ!」

 鍵を開け、少女達がいる教室に入る。四人の様子を確認してみるが、よく眠っている。

「よしよし。さて、ではどうしようかな?」

 職員会議を聞きながら、最初は誰にするか考えていた。

 まずは小春君だろう。四人を相手にするには時間がかかる。だから、あまり時間はかけていられない。

「?」

 下を脱がせようとして、違和感を感じた。ボクは、上より、下から脱がせるタイプだ。

 いや、そうじゃない。そんなことでは無かった。

「今、一瞬、体が重くなったような…?」

 少し待ってみるが、特に違和感は感じられない。

「気のせいか」

 そう思い直して、小春君の制服に手を伸ばす。スカートに触れる。

 そう。

 そうだ。

 この感触だ。

 やはり、少女性とこのスカートの重ね合わせは実に良い、奇跡と言っても良い。

 ゆっくりとスカートを脱がせようとする。

 また、違和感があった。

「?」

 また一瞬、体が重くなったような気がする。

「…」

 疲れているのだろうか?

「大事の前に、万全にしておかなくては」

 そう思い、一旦職員室に戻り、自分の机に行き、薬を取り出して飲んだ。

 一応体温計で熱を測ってみるが、平熱だった。悪寒も無いし、咳も出ない。

 まさに健康そのもの。

「やはり、気のせいだったか」

 歳のせいだとは思いたくない。ボクはまだ若いし、輩は、人間よりもずっと丈夫に出来ている。

 四人のいる教室に戻る。

 大分、無駄な時間を過ごしてしまった。

 だが。

「さあ、いよいよ楽しむとするぞッ!」

 もうじれったくなって、小春君のスカートを乱雑に破り、下着をあらわにする。小春君らしい、シンプルなデザインの下着だった。

 その下着を、手でゆっくりと触れようとした。

 その時。

「ッ!?」

 やっぱりだ。

 体が、重い。

 まるで、石像にされたように、体が動かない。

 無理やり動かそうとしたが、かろうじて眼を動かせただけだった。

「…ギリギリ、間に合った。小春達には、指一本触れさせはしない」

 体の硬直。まだ続いている。

 視界に、緑色の粒子を迸らせながら、ゆっくりと、緑の軍服の袖を翻した少女が現れた。

 硬直が不意に解かれる。

「君はッ!? 君は、何者だッ!? どこから入ってきたッ!?」

「窓からだ」

 窓を見ると、確かに窓の一つが空き、カーテンをはためかせていた。

「ここは三階だぞッ!?」

「そんな高さなら、容易いものだ。名乗らぬのは、失礼なのだろうな。こんなクズに名乗るのも気が引けるが、私の名は柊初陽。パートナーはシノ。そして、私達はアルズグリューン。貴様を、殺す者達だッ!」

「まさかッ、五人目だとッ!?」

 切れ長の眼でボクを見据え、ナイフを構えるアルズグリューン。

「もしや、さっきから体が重くなったりしたのもッ!?」

「キュープリック・セデーレ・マッジョラッツィオーネ(緑道の重在撃)。一定範囲の場の質量を増大させた。貴様がどこにいるかわからなかったから、この学校全体を効果範囲にしてな」

(私の、能力です…)

「くっ…!」

 目の前の小春君。掴みかかった。これを人質にして逃げるんだッ!

「へ?」

 掴もうとした小春君の姿が不意に消え、両の手が空を切る。

「人質か。クズの考えそうなことだな」

 アルズグリューン。いつの間にか、小春君を教卓の上に寝かせ、下着の上に軍服を掛けていた。軍服の下には、忍者が着るような忍び装束が顔を覗かせている。

「な、なんだッ、今の動きはッ!?」

 小春君に掴みかかろうとした時に、何か黒い影が目の前を過ぎった気がした。

 あの影はッ!?

「キュープリック・セデーレ・リドゥツィオーネ(緑道の軽在撃)。私の周囲の、ごく限られた範囲の場の質量を減少させた。これで、私は、誰よりも早く動くことが出来る」

「くそおおおおッ! ボクの、ボクの、楽しみがあああああッ!」

「眠っている女性をどうこうするのは楽しみでも何でもない。貴様は、教師以前に、人間として、…いや、存在として、失格だッ!」

(最低な人です。初陽さん、ここは…)

「ああ。思い切り叫ぶぞッ! 私達はここにいるのだとッ! 虚空に芽吹く、若葉わかばの波動ッ! キュープリック・セデーレッ(緑道の在撃)」

 体が動かなくなる。

 目の前のアルズグリューンのナイフ。

 その刃の照り返す光さえ、はっきりと見えた。



 クラッカーの破裂音が研究所に響いた。

「おめでとう、初陽さんっ!」

 小春と握手する。軽く握ったが、予想以上に強く握り返された。その強さに、思わず、涙が出る。

「ありがとう」

「初陽さん?」

 瞳を手で拭う。

「すまない、涙脆くなっているようだ」

「構いません。おめでとうございます」

「ああ、ありがとう」

 小春には、大分心配をかけたと思う。

 七罪だったあのルクスと言う男を倒した後、私と小春達は研究所に戻った。かなりが熟睡していて、運ぶのに少し苦労した。

 無事四人全員が目覚め、特にガスの副作用のようなものは無いらしい。一応、後日また検査を受けるとのことだった。

 そして、かなりの加入と私のパートナーが見つかったということで、祝勝会のようなものが緊急で開かれることになった。

「いや、しかし、かなり君に続いて、初陽君も変身した。めでたいことだ。さあ、どんどん食べてくれ」

 そう言うと、喜平次さんは会議室のテーブルに並べられた料理を皿に取り分けたものを差し出してきた。受け取り、お礼を言う。

「アキちゃんも飲もうよ~!」

「…そうだそうだ~、飲め飲め~」

(へ~い、鈴花、楽しんでる~♪)

「ちょ、貴方達、お酒が入ってるからって、少しは落ち着きなさいよ。ほら、ルーオも何とか言いなさいよ」

(鈴花)

「ん?」

(口うつしで)

「却下だ」

(ひどぅ~い! 最後まで言ってないじゃ~ん!)

 あの五人はあの五人で楽しんでいるようだ。藍も小春の側で料理を食べていた。

 順番を待っていたかのように、ゆかりさんが駆け寄ってくる。

「初陽さん」

「ゆかりさん」

「何か、見つかった?」

「はい。これ以上無いものを」

 かんざしを見せる。それを見ながら、ゆかりさんが挨拶した。

「初陽さんをよろしくお願いしますね、シノさん」

(は、はい…!)

「ふふ。シノさんは恥ずかしがり屋さんなんですね」

「私にはもったいないくらいのパートナーです」

「良かったです。貴方にもパートナーが現れて」

「心配をかけました」

「もう、戻ってくれるんですよね?」

「戻らない理由が、無くなりましたから」

 そう言うと、ゆかりさんにゆっくりと抱きしめられる。

「お帰りなさい。心配したんですよ」

「はい。…ただいまです」



(ルクスは、失敗したか)

(そのようですね。元々、特殊な能力は持っていませんでしたし、仕方の無いことかもしれません)

(それは違うぞ、スペル)

(? と、言いますと?)

(皆、それぞれ何かを持っているのだ。ルクスは、輩の中でも際立った我慢強さを持っていた。それで、私はルクスを七罪に任命したのだ。そしてルクスは今回、敵を追いつめはした。もう少しだったのだ)

(しかし、倒せませんでしたが)

(不意を突かれてはな。目立った能力を持たないルクスにとっては厳しかっただろう。それでも、よくやったと思っている)

(後の七罪は、私も含めて後二人でしたか。私は極力人間とぶつかりたくは無かったのですが、この状況を考えるに、そうもいかなくなってきましたね)

(もうすぐ、ラースが上陸する。単純な力で言えば、最強の七罪だ。ラースならば、敵を倒すことも出来るだろう。ラース)

(…呼んだか、総統)

(お前の出番だ。人類に我らの怖さを教えてやれ。それは、支配への布石となる)

(…了解した。では、地球へと上陸する)

 ラースの気配が消える。

(ところで、ディアとウィデアのことなのですが…)

 スペルが苦い響きを伴いながら言う。

(好きにさせろ。あの二人の考え、それもまた、輩にとっては良いことなのだ)

(しかし…)

(いずれ、ある帰着は見るのだ。それまで、道の数は、多い方が良い)

(総統がそうお考えなのでしたら、私は止めませんが)

(お前は、あまり気が進まないようだな)

(やはり、人間は支配するものだと思っておりますので)

(お前の場合、人間相手に取る実験のデータの方に興味があるように見えるがな)

(総統は、御止めになりません)

(そうだな。全くもって、そうだ)

 眼下の地球を見た。

 まだまだ見たりないような気がする。

(総統も、上陸の準備を。もうすぐ、出来そうです)

(わかった、準備しよう)

 見飽きる前に上陸出来そうだった。それも、何だか少し惜しいという気もする。

 上陸してからじっくり見れば良いのだ、と思った。

初陽再加入、急ぎ足の展開でしたがこれにて終了。作者としては五人が勢揃いし、ようやくここまできたかと感動していたりします。次回から話の終盤に突入します。ですが、次話はまた箸休め回。東裏と優衣の話にも一応の決着がつきます。

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