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particle14:想いを、灯して(5)

 見据えていた。

 眼の前にいる、肥った中年の男。

 配下の隊長まで出してきた。

 おそらく、これは、本物の如月。

「…森部が、言っていた。味方にならない私達は、自分達にとって敵なのだと。それは、如月も同じ?」

「まさか。森部が勝手に言ったことですよ」

「…なら、右手に隠し持ったその銃は、誰に向けるために持っているの?」

 如月の顔は変わらない。

「何のことですかな?」

 ライフルを瞬時に構え、如月のすぐ傍の影を撃った。

「…ごまかさないで。お前の企みのためにウィデアが死に、その復讐のために、グラが死んだ。森部や他の隊長だって、死んでいった」

「また、生き返ります。我々とは、そういうものでしょう?」

「…そうだね。なら、お前が生きていていい道理も無いッ!」

 駆けだす。如月。右手を、振り抜く。

「!?」

 地面の窪み。足を取られ、拳が如月に届く前に、倒れた。

「ぐっ…!」

「おやおや、無様ですな。一つ、言っておきましょう。何も、特別な力を持つのは、貴方がた七罪だけではないのですよ。私とて、同じような力は持っている」

 立ち上がる。

「ふふ、聞きたいですかな? ええ、聞きたいでしょうとも。死ぬ前に、お教えいたしましょう。私の力は―」

 ライフルを向け、引き金を引いた。

「…!?」

 ライフルが暴発し、私の目の前で弾ける。弾けた部品が、肩に刺さった。ささった部品を、ゆっくりと体から引き抜いていく。

「最後まで話を聞かぬから、そういうことになるのですよ?」

 引き抜いた部品を地面に投げつけた。傷は再生し始めている。

 しかし、おかしい。

 私のこのライフルが、今まで暴発したことなど無い。整備は宗久に任せてあるが、それもいつも完璧なのだ。

「おやおや、不思議そうな顔を浮かべておられますね。そうです、私の能力は『豪運』。つまりは、私に起きる都合の悪いことを全て回避し、都合のいい結末を自動的に選び取ることが出来る。だから、貴方は私に攻撃しようとした時、穴に躓き、ライフルは暴発した。これがどういうことか、わかりますかな? 決して、貴方は私を倒すことは出来ないということです」

「…おかしいこと、言わないで。その『豪運』とやらがあるのなら、私は今、こうしてお前を追いつめてなどいないはず。その『豪運』とやらは、偽物のはったり」

「そんなことはありませんよ。敵対する勢力を一か所に集め、駆逐する。何とも合理的な展開ではありませんか? こんな風に」

 如月が持っていた拳銃を撃つ。

 当たっても何の問題は無い。

 だが、何か嫌な予感がする。

 躱した。そして、躱した先の空間に、円球状の大きな穴が開いていた。

「…!?」

「驚きましたか? 素粒子には、そのペアとなる反粒子が存在します。そして、その二つは、出会うと両方とも消滅して消える。この銃の中に込められた弾の中身は、あらゆる素粒子の対となる夢の反粒子、それがたっぷりと詰まっております。すなわち、当たれば即、消滅する。それも、ただの消滅ではありませんよ? 文字通り、消滅するのです。人間にとって死が終わりであるならば、我々にとっての終わりが、粒子の消滅。さあ、永遠の命を、私が葬って差し上げましょう。殉教するのだッ!」

 如月がまた反粒子弾を撃った。

「…厄介だけど、そのスピードなら、躱すことは容易い」

「ククク、果たして、そうですかな?」

「…何?」

 避けた弾が、壁を跳弾する。

「…!? 跳ね返った!? これは、反粒子弾では無い!?」

「クク、フェイク。フェイクですよう」

 跳弾した弾が、さらに地面で跳弾し、私の頭に迫る。

 このままだと、当たる。

「…ちっ!」

 次元移動。別の次元に移動し、銃弾が目の前をすり抜けて行った。

「クク、見ましたよッ! 貴方の次元移動をッ! これで、貴方は十秒間、こちらの次元に干渉されない代わりに、干渉することも出来ないッ! そしてッ!」

 向かってくる如月。逃げようとしたが、退路はいつの間にか信者に固められていた。手に鏡を持った信者達。その鏡に移された光景のせいで、正確な出口の位置が分からなくなってしまっている。それでもなんとか進んでいくが、如月との距離は詰められている。

「貴方のその次元移動には、致命的な弱点があるッ! 十秒しか移動できず、十秒経てばこちらの次元に戻らざるを得ないことッ! そして、その後時間を置かなければ再度次元移動出来ないことだッ!」

「くっ…」

 読まれている。

 私の次元移動は、別次元の私自身との整合性から、十秒以上別次元にはいられない。それ以上長くいれば、別次元の私と私自身の誤差が無くなり、同一化してしまう。そして、その存在性の回復に、私の次元で十秒必要とする。さらに、ウィデアと同時に次元移動も出来ない。これも、私とウィデアの誤差が無くなり、二人が一人に合わさってしまうからだ。

 次元移動出来る時間は、後二秒。そこから先は、次の次元移動まで、十秒待たなくちゃいけない。

「…どいてッ!」

 信者を殴り倒し、道を開こうとするも、拳は、空を切った。

 くっ。

 そろそろ時間だった。

「クク、十秒過ぎたッ。時間だッ、天に滅せよッ!」

 如月の持つ銃の銃口から弾が発射される。恐らく、反粒子弾。避けようにも、避けるスペースは信者で埋め尽くされている。再度次元移動するためには、少なくともあと九秒はかかる。

「ディア様ッ…!」

 目の前。何かが覆いかぶさり、眩い光を放ちながら、消えた。

 抱きしめられた感触があったが、それももう感じられない。

「…宗久。宗久、だったの?」

 声は帰ってこない。

「…宗久ーッ! 許さないッ! よくも、宗久を消したなッ!」

「クク、貴方をかばうとは。良い隊長を持ちましたなあ。しかし、それも無駄。まだ、五秒ほど、私の時間が残されている。貴方を消す、私の時間が」

 銃口。こちらを向いている。

 ウィデア。

 グラ。

 宗久。

 こんなにも、私のために生きてくれた。

 でも。

 ごめん。

 私、死ぬかも。

 ううん。

 消えてしまう。

 多分、ウィデアとも、もう二度と会えない。

 聞きたい。

 もう一度でいいから。

「ウィデアの声が、聞きたかったな…」

(~♪)

「…?」

 あれ?

 なんだろう?

 呑気な声だな。

 歌ってる。

 何の歌かな?

(生まれ落ちMonday~♪)

「…遊び過ぎたTuesday~♪」

(離別のWednesday~♪」

「…慟哭のThursday~♪」

(決意のFriday~♪)

「…再会のSaturday~♪」

(撃ち頃Sunday~♪)

(「復讐のtoday~♪」)

 この歌はッ! 

 そして、この声はッ!

「ウィデアッ!」

(正解~ッ! 歌、覚えててくれんたんだね? 姉さんッ!)

「…もちろん、忘れない。だってこれ、私達が作った歌」

(だよね~♪)

「な、ウィデア様の声、だとッ! そんな馬鹿な、ウィデア様は確かに森部が殺したはずだッ!」

(ふっふ~ん♪ アタシが黙って死ぬと思った? 死ぬ前に次元移動して、並行次元に、アタシという存在を分けていたのよッ! そして、この次元のアタシが死んでも、並行次元のアタシという存在をかき集めて、また姉さんのいるこの次元に戻ってこられるようにしていたのよッ!)

「…ウィデア、お帰り」

(うん! ただいまだよッ、姉さんッ!)

「そ、そんな、そんな馬鹿なことがッ!」

(馬鹿なことなんかじゃあない。アタシがこうして姉さんのところに来れたのは、姉さんがアタシを呼んでくれたから。だから、アタシはまた、この次元に戻ってくることが出来たッ!)

「…でも、ウィデア、どこ?」

 見回すが、声はすれど、姿形はどこにも見えない。

(あ、待ってて姉さん。今頑張る。いやね、肉体を持つまでには存在が足りなくてさ~)

 急に目の前が光った。いや、私の体が光っている。光が収まると、かすかな違和感。違和感の正体に触れてみると、右耳に何かが付いていた。

「…ピアス?」

(今のアタシにゃ、これが精いっぱい♪)

「…私は、大事なものを妹に奪われたようです」

(ほほう、それは、何かね?)

「…私の、心です」

(待て~い、姉さ~ん!)

 ああ。

 これだ。

 ウィデアが一度死んだのは、ついこの間のことなのに。

 ひどく、懐かしい。

「…これが、ウィデアなんだね?」

(そう、これが、今のアタシ。そして、違う形で、姉さんに力をあげられるんだッ!)

「…それって、まさか?」

(姉さん、憧れてたでしょ?)

 何が、とは言わない。私もウィデアも、心で通じ合っている。

(じゃあ、姉さん。準備は良い? 右二分の三回転)

「…色々、任せるから」

(OK、ばっちり決めるぜッ!)

「…スピンッ!」

 左足を軸に右回転。

 眩い閃光のような黄色い粒子がピアスからほとばしる。

 静からもらった服が粒子に溶け、再構成された。

「…ふむ」

 右手にはライフル。服は、黄色を基調にした、フリルの付いた短いスカートの制服。

「…これ、喫茶店で見たことある」

(あれ、駄目だった?)

「…ううん、一目ぼれ」

(うん、そうだと思ったよ♪ って、あれ、あーッ!?)

「…どうしたの? ウィデア?」

(いいなあいいなあァ! 姉さん、新しい名前もらってるぅ~! 冬峰かなり、うん、かなり良い響きッ!)

 変身し同質化して、私とウィデアの記憶が共有化されていた。

「…静にもらった」

(ならさ、アタシにも名前つけてよッ! この際、二人で改名しちゃお♪)

「…私が、つけていいの?」

(もっちのろんさ! 姉さん以外、つけて欲しくないよ!)

 静も、名前が大事だと言っていた。

 なら、私が付けたい。

「…じゃあ、ティノ」

(ほほう。冬峰ティノ。何か、カッコいいね!)

「…うん、じゃあ」

 ライフルの銃口を、如月に向ける。

(さあッ!)

「…神に祈る準備は終えたか? 如月ッ!」

「変身して粋がっているんじゃあないぞッ! 私に、攻撃は当てらないッ! そして、この反粒子弾は、貴方がた姉妹を一瞬で消し去ることが出来るのだッ!」

 そう叫ぶと、如月の銃が鳴る。

 左手に集めた金色の粒子。それで、銃弾の軌道を曲げた。

「な、何ィーッ!?」

「…空間を、曲げさせてもらった。重力でな」

(そして、銃弾の軌道を曲げたッ! アタシの力は、重力操作ッ! おはようからおやすみまで、重力のことなら、何でもきやがれッ!)

「…てやんでいッ」

「く、くそッ!? だが、攻撃を当てられないのはそちらも同じことッ!!」

 如月が続けて撃ってくる。全て、反粒子弾のようだった。

(姉さんッ!)

「…うん。次元移動ッ!」

 弾丸を躱すことなく躱し、ライフルを如月に構える。

「クク、無駄無駄ァッ! 次元移動した貴方の攻撃は、別の次元から、こちらの次元に干渉するなど出来ないッ!」

「…いくよ、ティノ」

(うん、派手にやっちゃって、かなり姉さんッ!)

 集中。

 粒子の塊による、ライフルの弾丸。

 その、撃ち出すイメージをッ!

「…口火に灯す、山吹やまぶきの波動。ブレイジング・ブリランテ(黄泉の亡撃)」

 ライフルの口径から、勢いよく放たれた金色の粒子を纏った弾丸。

「クク、無駄だと言ったはずだッ! 別次元から放った攻撃は、この次元には当てられないッ! だがしかし、この次元から放ったところで、私の豪運の前には、全ての攻撃が無意味だがなッ!」

 弾丸が、如月の腹を貫いた。血を吹き出し、如月が膝をつく。

「な!? ば、馬鹿なァーッ!?」

(重力は、あらゆる次元に作用する唯一の力ッ! 例え別次元から撃っても、ちゃんと攻撃は届くッ!)

「…そして、別次元から放たれた攻撃は、当たるようだな。お前に与えられた神の祝福は、この次元だけのようだ」

「お、お許しくださいィーッ!」

 如月が勢いよく土下座する。銃をまだ離していないところが、この男らしかった。

「…いいよ」

(ね、姉さんッ! だって、こいつはッ!)

「さっすが、ディア様はお話がわかるお方ッ!」

 ライフルの銃口を、土下座している如月の頭に当てる。

「えっ!? あの、これはなんですかな?」

「…ウィデアのことは許す。でも、お前は宗久を消した。それは、どうしても許せないッ!」

「く、くそーッ、死ねーッ!」

 銃声。

 一度だけ。

 如月の頭が飛び、顔の無い死体が、一つ出来あがった。



「クソッ!」

 予想以上に迷った。

 途中で奪われた地図を船瀬が見つけたおかげで、ようやく如月の元へ行ける。

 薄暗い道を抜けた。

「!? あ、アレはッ!」

「あー、先に着いてたみたいッスね…」

 アルズ達が何かを囲んで立っていた。

「あ、東裏さん」

 アルズロートが、緊張感の無い声で言う。

「ディア様は無事かッ! 如月はどうしたッ!」

「ディアちゃんなら、ここに。傍に、首の無い死体が一つありました」

「よし、船瀬。お前は、死体の確認をしろ」

 船瀬に指示を出し、囲みに近づく。

 アルズブラウが、ディア様の体を治していた。ディア様は地面に仰向けになったまま、動かない。

「死んでいるのか?」

 アルズブラウに話しかける。

「いいえ。ぐっすり眠っています。多分、疲れていたんだと思います。疲れは取れませんが、怪我をしているところを、治すことは出来ます」

 そう言いながら、アルズブラウの頬から、一筋、涙が落ちた。

「良かった…。ウィデアさんが生きていてくれて」

(今は、ティノって言うのよ。姉さんからもらった名前。あ、東裏久しぶり。あ、藍、そこのところ、もう少し治してあげて)

「ウィデア様ッ!?」

 声は聞こえたが、姿は見えない。

(ここよ、ここ。姉さんの耳。そのピアス)

 見てみると、確かに右の耳に見慣れない宝石のピアスがあった。

「まさか、これがウィデア様…?」

(ティノだってば。ま、そういうことだから)

「え? ああ、はい…。何より、ご無事で安心しました」

(それと、姉さん、これから行くとこあるみたい。だから、先に撤収しといていいから)

「そんな。お運びいたします」

(ん~、今から行くとこにアンタ達が来たら、パニックになるかもしれないでしょ? だから、小春達に運んでもらうことにしたの)

「…そうなのか、アルズロート?」

「あ、あはは。うん、そうみたい」

「…了解しました。その後は、こちらに帰ってきていただけるのですね?」

(それは、姉さん次第だと思う。アタシからは、何も言えない)

「そうですか」

「隊長、近くにあった死体、間違いなく如月のものッス。指紋が一致しましたし、どこか変装しているようなところも見当たりません」

「ご苦労だった。本部に運ぶぞ」

「隊長、持ってもらえないッスか? さすがに、二人も持てないッス」

「やれやれ、仕方ないな」

 顔のない死体を背負いながら、立つ。

「アルズロート」

「はい」

「ディア様とウィデア様を、よろしく頼む」

(だから~、ティノだってば)

「わかりました」

「頼む」

 如月は倒した。

 もう、ここには用は無い。

 去る前に、ディア様をもう一度見た。

 涙を浮かべて、微笑んでいた。



 棺桶。

 中に何が入っているかは、言うまでもない。

 それが、本部の運動場の真中に置かれていた。その前に、同志が全員整列し直立している。

「水トは死んだッ! 私を、かばったのだ! 水トがいなければ、こうして私は今、同志の前には立っていないッ!」

 水トの他に、死傷者は出なかった。全員で攻め込まなかった。その作戦の是非は、帰ってきてから何度も考えていた。

「水トによって、私は生かされた! 生き残った者は、その想いを継いでいかなければならないッ!」

 同志達の眼に、光るものが見えた。それが心を動かしたが、涙は出てこない。

「私は、水トの分まで戦い続ける! そして、水トが再び肉体を持つその日まで、私は水トを待ち続けるッ! そのために、これからも、私は戦いを止めないッ! 水トは我々をいつも見ているのだッ! 決して自らで恥じるようなことはすまい。私は、それをここに誓うッ!」

 静かだった。水トの棺の中に、団子が入ったパックを入れてやる。

「思い思いの物を、入れろ。入れたら、火葬にしてやるのだ。私は、部屋に戻る」

 部下に指示を出し、部屋に戻った。

「隊長、良いッスか?」

 ノックの後、船瀬が部屋に入ってきた。

「火葬してきました。よく焼けたみたいです」

「そうか」

 部屋にあったグラスに、船瀬が透明な液体を注いで、私に出した。

「これは?」

「副隊長が隠してた、お酒ッス」

「何故、お前が知っている?」

「たまに、夜中に呼ばれて、説教がてら、一緒に飲んでたんスよ」

「初耳だ」

「隊長があまりお酒が強くないと聞いていたんで、一緒に飲むのを遠慮してたみたいッス」

 確かに、あまり酒は強い方ではない。下手をすると、前日の記憶がないこともあった。

「そうか。だが、なら何故私に?」

「忘れちゃ、いけないと思います。でも、忘れたい時もある。今は、なんとなく、そんな時じゃないかと思ったんスよ。あとは、オレが飲みたいだけなのかもしれないッスね」

 そう言うと、勝手に私の前で飲み始める。勢いよく飲んでいたが、あまり顔色は変わらない。

 全く、勝手なヤツだ。

「どうなっても、知らんからな?」

「そこのところは、任せて下さい。隊長は、明日休むことになってるッス」

「ふ」

 手回しが良いな。

「元々、そのために、持ってきたのだろう?」

「おや、バレたッスか」

 一気にグラスの中の酒を喉に流し込む。一瞬で体が熱くなり、鼓動が間近で聞こえるようになった。

「もう一杯、どうッスか?」

「もらおう」

 正直、一杯でもう限界だが、今ちょうどよく酔い始めている。このまま飲み続ければ、どこか他のところへ行けるような気さえする。

「船瀬」

「はい、何ッスか?」

「私は、自分が情けない。私をかばって、水トが死んでいった。そんなことをやりそうだと、わかっていたのだ。わかっていたが、止められなかった」

「副隊長は、何より隊長の力になろうとしていた。だから、幸せに死ねたんだと思うんス」

「船瀬」

「はい」

「私は今、笑っているか?」

「いえ、泣いてるッス」

「そうか」

 酔ってよくわからないが、泣いているらしい。

 泣けたのだ、と思った。



 揺れている。ゆっくりとしたテンポで、揺れていた。

 心地いい。

 心地よさの、匂い。

 陽だまりの匂いだ。それに混じって、知っている土の匂いがした。

「…ん」

「あ、ディアちゃん。気が付いた?」

 前から、声がした。みじろくと、それに合わせて、手が体を支えてくれた。

「…小春?」

「うん、そうだよ、ディアちゃん」

「…! ティノはッ!」

(ちゃんと耳にいるよ、姉さん♪)

 一瞬強張った体を、また小春に預けた。

「…夢じゃ、無かった」

 また眠くなったが、ふと気が付いた。

「…行かないと」

 小春の背から飛び降りる。

「? ディアちゃん?」

「…小春、ごめん。私、行かないと」

 小春達を置いて、駆けた。そこにたどり着いた時には、もう陽が落ち、暗闇に包まれていた。

 ドアを開けた。今月のベルが鳴る。

 何かをしている、後姿。

 それが、私の方へ振り向く。

「あら? …お帰り、かなり」

「…うん、ただいま、静」



(さて、弁明を聞こうか、如月。貴様は、同胞を殺した。返答如何によっては、貴様を、輩から除名せねばならない)

(そ、そんなッ、スペル様。私はただただ、輩のことを思ってッ…!)

(それが、何故輩を『消す』などという行動に至れるのか、二光年ほど、語ってもらってもらおうか)

(止めろ、スペル)

(総統、ですがッ…)

(如月)

(はッ!)

(俺は、誰であっても、輩を裁く権利は無いと思う)

(ならば、今回のことは…)

(ああ。俺は、お前を罰さぬ。罰するべきでもないとも思う。だがな)

 この星に辿り着く前に、別れ、消えていった輩を思う。

(存在を否定される前に、そういうことは止めておけ)

(!? はッ…)

(総統、消えた輩のことですが)

(宗久。ディアとウィデアの守役だな。俺が何とかしよう)

(お力を使われるのですか。ならば、本当に、如月はこのままで良いと?)

(お前も、肉体を持てば、変わるかもしれんぞ?)

(それはまあ、そうでしょうが。ディアとウィデアは人間と懇意にしているようですが、他の七罪は?)

(少し昔に、すでに上陸している七罪がいる。先発隊と共にな)

(初耳なのですが)

(秘密であるため、共有化していない)

(やれやれ、総統もお人が悪い)

(ずっと隠れてきた男だ。用心深く、慎重でもある)

(敵を、倒せそうですね)

(やってみなければ、わからないな)

(期待するとしましょう)

かなり加入編終了。いやー、長かった。話の中盤の展開は一区切りしましたが、次話もまだもう一つ大事な話が残っています。ええ、あの人です。

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