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はじまりというなのほっとどっく

「それで、この幼女がでかいぬいぐるみを引きずるような体勢の改善を要求したいのだが」

いい加減けつが熱くなってまいりました。

「断る。手を離したら、お主は必ず我と妹に噛み付くであろ? 狂犬には首輪をつけねばな」

「そんなどMな趣味はありませんこって」

「なあに、いつか慣れるさ。存外気持ち良いかもしれんぞ」

そう言ってけらけらと上機嫌に笑うお姫様。

「すいません」

申し訳なさそうに、こちらを見つめてくる少女。

「ああ、大丈夫。こいつに文句言いたいだけだから」

「文句は口で言え。馬鹿者」

妹と違ってこっちの目も見ずに、赤髪はずんずんと前に突き進む。

「そういや、赤髪。さっきのはさみはなんだ? いったいどこから出した」

「ああ、あれか。手品だぞ? 見えない糸でなぴろぴろっと」

「……、まあいいや。そういうことで」

「全く、最初からそういう風に弁えておればよいのにのう」

「というか、ここはどこだ? 日本じゃないとか言わないよな? もしそうなら、外に出せ真っ先に、それでお前らの面倒ごとが消えるはずだから」

「近いが遠いな。ここは異世界であり、異世界でない。日本であり日本ではない。あとホットドッグを作るまでお前の自由は無い」

「どういうことだよ。あとどんだけお前好きなんだよホットドッグ」

赤髪がにやりと笑う。

「何、焦らずとも教えてやるさ。だが、その前に」

まるで、ごみのように投げられる。そのまま受身を取れずに壁へと叩き付けられる。

「まずは、腹ごしらえといこう」

そう言う赤髪の視線を先を見つめると、木製のドアの上に『調理室』と書かれたプレートが飾られていた。


「こちらの食材をどうぞご自由にお使いください」

山盛りになった食材を前に、メイド服を着た銀髪の女性がそういうと、こちらに目線を一切合わせずに壁際へと立つ。

さて、どうするべきか。これでもバイトとはいえ飲食業に携わった身、赤髪に飯を食わすのは癪だが、手抜きをする気は一切無い。が、その前に、いやでもやはり、あれは、そのなんだ、どう考えてもあの人だよな? 見れば見るほど、あの人だよな? 銀髪で、メイドで、ナイフだもん。あの人だよなきっと。

「あの」

「なんでしょうか」

「もしかして」

「ちなみに」

途端、尋常じゃないレベルで、空気が凍る。重くなるとかそんなちゃちなレベルじゃない、凍る。

まるで、少しでも動けばバばらばらにされかねないそんな張り詰めた空気が辺りを覆う。

「東とか、STGとか、PADとか、時が止まる、忠犬メイドなどの、人物に関係する言葉を放った際、貴方の命はここでゲームオーバーです。でご用件は何でしょうか」

「なんでもありません!」

この城に入ってから始めての恐怖。駄目だこの人に逆らっちゃ駄目だ。だから、今後ろでぶつぶつと、

どうして時止められないのじゃないわよ。とか、この胸は本物なんだからとか、そんな言葉は聞こえていないのだ。

たぶんきっとめいびー。


気を取り直して閑話休題。

とりあえず、バンダナとエプロンを付けて、キャベツを水に浸し取り出した後に、キッチンペーパーで水をふき取りざく切りに、その間、フライパンを熱する。

……そういえばあいつらどんだけ食うのかわかんねえなあ。フライパンがかけられている壁の上の古時計をみると時刻は二時半。まあ早いおやつ時というところか。

とりあえず、六本。

まあ、それぐらいでいいだろう。余るのであれば俺が食えばいい話だし。

じゅうと言う音と共に、肉の焼ける良い匂いがする。

ソーセージを炒めている間、縦の切れ目が入ったロールパンに、粒マスタードとマヨネーズを混ぜたものを塗る。

ソーセージを別皿に移し、そのままざく切りに切ったキャベツを軽く炒める。

炒めたキャベツ、ソーセージの順に詰め挟む。

「出来たぞ」

「ご苦労様です。ではこちらに」

そういうと、メイドは蓋付きのトレーに乗せようとして。

「……いや、いい近いんだろ。持って行く」

「そうですか」


「待っておったぞ料理人よ!」

そういうと突然手に持っていたパプリカを齧る赤髪。

「手前はなんで、パプリカを齧る」

「料理人を出迎えるのであればパプリカを齧るのが道理であろう!」

「それは最初の登場でだ。というかこれ対決しないから。アイアンなシェフが出てくることもないだろうし」

「して、例の物は」

「おう、これか」

カタリ、と音を立て、座っている二人のちょうど間に置く。

「た、食べてもいいか?」

「食わせるために作ったんだからとっとと食え」

「では、さっそく」

そう言って、がっつき始める女らしさというより怪物らしさ全開の赤髪のお食事。

ふと、もう片方、妹を見ると、姉を見るばかりで食べようとしない。

「ほら、妹ちゃんも」

突然呼ばれたことに戸惑っている彼女にも呼びかける。

「へ、え? 私もですか?」

「いや、だってそのためにこんな作ったわけだからな」

「は、はい」

なぜか、それを、恐る恐るそれを手に取ると、ぱくりと、啄む様に一口。

「あ、おいしい」

ふわりと、笑う妹に己の中の料理人魂を癒されつつこちらもつられて笑う。

「なら良かった」

「……ふぉむ、ほへはふぉんふぁいふぁふぁりふぁもひれぬ」

「食ってから喋れ」

「……おかわりは」

「あー、あと一本な」

だって、お前二本ももう食ってるし。

「あと、ついでにメイドさん。あんたも」

突然、言われてこちらも驚いたように、しかし冷静に彼女は断ろうとする。

「いえ、私は」

「かまわぬ。これはうまいぞ? 食うが良い」

「……では、失礼して」

そう、赤髪がいうと不承不承という感じで、目を瞑り口を突き出す。

「おいどういうことだこれは」

「餌付けすればいいのではないか?」

「冗談はよそうか」

「っ失礼しました!」

我に返り顔を真っ赤にしながら、ひったくるように俺からホットドッグを受け取る。

そして、一口、噛み締めるように目を閉じて。

「これは、懐かしい味ですね」

「……懐かしい? 懐かしいって一体」

その一言に、疑問を抱いて口を開こうとした瞬間。

「さて、では話そうか。我らのことを、この城の事を」

空気を読まない赤髪は、語り始めた。

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