壹 雨は止まない;プロローグ
オンラインゲーム物です。別に、脱出不能になったり、ゲーム内で死んだら現実でも死んじゃったり、ゲームに感覚をフルダイブさせたりなんて、全然ないからね。
失踪せずに書けたら良いな。
では、ゆっくりしていってね。
雨だ。
もう何時間も雨が降っている。バケツをひっくり返した……では足りない。滝のような雨だ。おかげで一寸先も見えないような状態である。
かろうじて見えるのは自分の胸元辺りまで、豪雨とともに立ち上る濃霧はさらに視界を狭めていたのである。
ふと、段々濃くなってゆく空の泪を前にして、俺は自分が消えてしまわないかなんてことを考えた。自分の存在、というか見た目というか、そんな物全てを含めていやに霞んでゆくように思えた。
だからなのかはわからないが、俺は無意識に手の得物を握りしめていた。肉のこすれる音が雨の中弱々しく聞こえる。
細く長い金属質の棒に、先端に鋭い刃が付いた得物。
一般的に槍と呼ばれる武器である。
握りしめた紅蓮の槍は、俺自身にその返事をするように固い反発をしてきた。たいして長い間使った訳ではなかったが、一応相棒とも呼べる存在で、俺の命を預ける間柄持っているだけでも安心感を覚える。
まあ、持っていても周りが何も見えなかったら意味が無いんだが。
そう。何も見えない。例外は無く、アイテム欄もレーダーも、地図すら表示されていないため見えない。つまりは帰れないのだ。
せめて草原とかならふらふら歩くことくらいできたろうが、生憎ここは機国旧市街。地面のあらゆる所にトラップが仕掛けてあったはずだから下手にうろつくこともできない。
不思議な点はそれだけではない。敵も姿を現していない。普通三十分も同じ場所にいれば敵の群れが出てもおかしくないのに、未だにエネミー出現のアラートBGMは鳴っていない。視認しようにも雨のせいで辺りは見渡すことができない。
どうしたものか。
このままでは何もできないままログアウトするしかなくなってしまう。正直どうすればいいかわからない。
はあ。
上を見上げても、空は泣き止んではくれなかった。
普通なら、ログアウトして然りの状況。
俺自身、それしか道はなかった。
はずだったがね。