Stage of extra
Stage of extra
[第4部予告]
「……ねえ、お兄様。とても楽しい情報が手に入ったわ」
女は薄暗い部屋の中で、男の座る椅子の手すりに腰掛ける。手にしているのは、何かが走り書きされた手紙だった。
男は反対側の手すりに肘をついたまま、何も言わない。眠っているように目を閉じているが、それが癖だということを女は知っていた。
女は漆黒の闇のような黒髪を耳にかけ、手紙を口に出して読み始めた。
「今から4、5年前……レヴィアス氏が母親らしき女性と、妹らしき少女と旅をしている姿を見た者がいるらしいの」
「……それで?」
ふと男が呟く。やはり目は開いていない。女はふふふ、と豊かな赤い唇を微笑んで、続きを読み始めた。
「面白いのはその後よ……母親らしきヒトの行方は分かっていないのだけれど……どうやら妹は、2人の連れと一緒に旅をしているみたいなの。その、名前がね……」
くすくす、と面白いことを見つけたように、女は笑う。その笑い声は品性な笑い方からやがて、見た目とは想像もつかない、狂った笑い声へと変わっていく。
「クスっ、ふふ……あはは……はははははっ!!……聞いてよ、兄さまっ!その妹、どうやら最近、預言書を探す冒険者の間で噂の、あの『サーシャ』とかいう少女らしいわ!」
「……サーシャ?」
「そう、サーシャ・レヴィアス!!嗚呼……運命ってどうしてこんなに素敵なのかしら……」
女はまるで愛おしいものを抱くように、手紙を胸に押しつけた。そして兄の背中に甘えるように腕を伸ばす。そしてその頬に軽くキスをすると、耳元で囁いた。ねっとりとした声で女は言う。
「ねえ、お兄様……可哀想な兄妹だと思わないかしら。互いに敵同士なのよ……?私達のように愛を知らないなんて、悲し過ぎるわ。理も規制もない……それが本当の愛と思わなくて?」
男はまた興味なさそうに目を瞑る。そしてそのまま、静かに口を開いた。
「……我々の庭を壊しに来ると言うのなら、お前の好きなようにしていい。ライラ」
「ふふっ……ありがとう、ラフィタお兄様!」
きっと美しい実験人形になるわ、と呟いて女は去っていく。足取り軽く、扉を開けて去っていく女を見送って、男はゆっくりと椅子から立ち上がった。窓を覆う黒いカーテンを少しだけ開ける。
窓の向こうには、広大な麻薬畑と重労働に励む奴隷達の姿があった。男はそれを見つめながら呟く。
「理なきこの庭に来るつもりか……。ふっ……預言書は、誰にも奪い取らせはしない……」
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[ The world without taboo]
壊れているのは、誰。