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過去の予言書  作者: 由城 要
第3部 One Road Story
60/112

番外編 1


Extra chapter


サーシャの秘密




 誰にでも弱点はある。しかしそれが『弱点』と認識されるのは、平均的な能力よりも下だと考えられる場合のみである。下には下がおり、上には上がいるのがこの世の摂理。しかし不思議なことに、全てにおいて完璧な人間など一人も存在しない。

 ……というのが、俺、フレイ・リーシェンの持論だ。





  - サーシャの秘密 -





「あっ、ペペロンチーノ!」


 ふと何かを思い出すようにそう言って、ファリーナがパタパタとリビングから出ていった。俺の隣に座るクリフは首を傾げながらその姿を目で追い、オフクロは微笑んでみせる。いつもの通り、俺の向かいに座るサーシャは無表情だ。

 クリフは皿の上のコーンスープとパンを見つめながら呟く。


「ペペロンチーノ……?」


 今日の食事にペペロンチーノは出ていない。ファリーナのやつ、作っといた料理を出し忘れたのか?


「あらあら……ファリーナは忘れっぽいわね」


 クスクスと笑って、オフクロは席を立った。どうやら食事は終わったらしい。慣れた手つきで皿を重ねると、盲目にもかかわらずはっきりとした足取りでキッチンへと向かった。


「……ふう」


 しばらくして、ファリーナが玄関の方から戻ってきた。俺は椅子を後ろへと傾けてファリーナを見上げる。ファリーナの手には皿に載せられたペペロンチーノ……ではなく、植木鉢用の小皿があった。


「それ、何だよ?」

「何って……やだなぁ、坊ちゃん。ペペロンチーノですけど?」


 ファリーナがそう言うと、無言で食事をしていたサーシャが微かに咳払いをした。立ち上がって皿を手にすると、オフクロの後を追ってキッチンへ逃げようとする。

 クリフがまた首を傾げた。


「あれ……?サーシャさん、具合でも悪いんですか?」


 サーシャの皿はまだ半分しか飯が減っていなかった。サーシャは足を止めると、振り返ることなく


「いえ」


 とだけいって、そそくさとその場を後にする。俺とクリフが顔を見合わせると、ファリーナが『ペペロンチーノ』だという小皿を片手に肩を震わせて笑い始めた。

 俺は顔を顰めてファリーナを見上げる。


「……。……お前、何笑ってんだよ」

「い、いえ……ふふっ、なんでもっ……」


 首を振るファリーナに、クリフがふと座ったまま小皿を見上げた。


「そういえば、ペペロンチーノって?」

「ふふっ、これのことですよ」


 ファリーナは目尻の涙を拭うと、小皿を俺たちの目の前に差し出した。そこには、白く柔らかい翼をした一匹の雛の姿。見覚えのある姿に、俺はリビングの窓から外を見る。……そういや、これに似たのがあの『ビルギット』とかいう鳥の巣にいたな。


「はい。巣から落ちてしまったこの雛を、サーシャさんが見つけて……」

「サーシャが?」

「はい、それで巣立つまで私が面倒を見ることになったんですが……。その、エメリナ様が、『サーシャさんが拾ったのだから、サーシャさんに名前を付けていただいたらどうかしら』と」


 いかにもオフクロの言いそうなことだ。小皿の上の雛は見慣れない人間の顔を見て驚いたのか、小さな羽根に顔を隠している。

 クリフは雛の頭を撫でながら、思い出したように顔を上げた。


「それで、名前はどうなったんですか?」

「『ペペロンチーノ』です」

「え?」

「正式名称は『ペペロンチーノ・竜五郎』、だそうです」






 俺とクリフの思考回路が完全停止したのが数秒間。そしてその直後、俺はファリーナの腕を掴んでこう言った。


「ファリーナ。……ちょっとサーシャ捕まえてこい」

「坊ちゃん。これはセンスの問題ですから、どうこういっては可哀想……」

「いーから、さっさと捕まえてこいっ!ペペロンチーノって、どうゆうネーミングセンスしてんだあの女っ!!しかも竜五郎って、コイツ鳥じゃねーかっ!!」


 叫び散らす俺の隣で、未だ信じられない表情でクリフが呟く。


「……さ、サーシャさんにも弱点ってあったんですね……」


 何も知らないペペロンチーノ・竜五郎が、首を傾げてピヨ、と鳴いた。



FIN.


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