終章 β
2人の騒動は私が目を覚ましても終わらないらしい。ゆっくりと体を起こしながら手元に目をやると、やはり傍らに小さな花が咲いていた。太陽に凛と背を伸ばし、雨の少ないこの大地に生きる姿。
手荒な起こされ方をしたが……どうやら目覚めは至極良さそうだ。
- 旅路 -
「そこのお二方。……少し黙れませんか」
頭を抑えながら、ゆっくりと体を起こす。まだ手足に力が入らない。声を出すのも力がいる。不自由な体に呆れながらも、私は2人を見た。鬼の形相で追いかけるフレイさんと、必死に逃げ回るクリフさんの姿。私はまた呆れた。
私の様子に気づいたのはクリフさんが先だった。
「サーシャさん!だ、大丈夫ですか?」
私の側まで駆け寄ってくると、背中に手を回して支える。気怠い体で息を吐くと、力が全て吐き出されていくかのようだった。
「視界が戻ってきました。……まだ立つことは出来ませんが」
今の状態を言葉にするならば、疲労困憊という四文字が最適だろう。こんなに疲れたことはない。身体的にも、精神的にも。しかし近くに集落はなく、辺りに広がるのは果てない砂漠のみ。地平線に浮かぶ陽炎が、私の気力までも吸い上げるように揺らめいている。
私と同じように辺りを見回していたフレイさんは、小さく舌打ちをして呟いた。
「ったく、どうすんだよ、これから。行き先なんざ決めてねぇぞ」
それは私も同感だ。全く……此処で終わるはずの旅路の終点が、果てない荒野の先へと延長されてしまった。何処を通るのかも分からない。何を目的に行くのかも分からない。
そして、いつ終わるのかも分からない。
「ま、まぁまぁ。とりあえず、行けるだけ行ってみましょう。……サーシャさん、背負います」
クリフさんが肩を支えながらそう言った。しかし私は首を横に振る。
「いえ、大丈夫です。片腕のないクリフさんに背負っていただくほど鬼ではありませんから。……フレイさん」
「魔術師の俺に背負わせるお前は悪魔だ」
フレイさんはそう言ったが、仕方なく腰を下ろす。どうせすぐ音を上げると思うが、それでもここに立ち往生するよりはマシだろう。少なくともフレイさんが歩いている間に、体力も戻ってくるはず。
私は魔術師のローブの肩越しに前を見つめた。クリフさんは私達の荷物をかき集めると、フレイさんと並んで歩き始める。
「でも、サーシャさんが元気になって本当によかったです」
「口だけな」
「倒れてたときはどうしようって焦ったんですけど……」
「お前は一体いつから見てた」
日常のやり取りが繰り返される。クリフさんはフレイさんに怯えながらも何処か嬉しそうに、そしてフレイさんはクリフさんを脅しながらも何処か満足そうに他愛ない会話を続ける。
本当に仕方のない人たちですね、と私は呟いた。この旅の報酬などはなから無い。彼らが手に入れたのは、自己の満足か、しがらみとの決着か……勿論、私には知る由もない。
私は目を細め、そして砂風の吹き荒ぶ荒野を見る。終着点のない旅路を行くのも一興、そうゆうことにしておこうか。
旅路は此処で終わり、そして新たな時間が動き出す。
「……行きましょうか、共に」
すべてのものに終わりはおとずれ、そしてまた、何かが始まっていく。
FIN.
初めての方は初めまして、何度目かの方はこんにちは。『過去の予言書』作者の由城 要と申します。
『過去の予言書』いかがでしたでしょうか。この物語はサイトに載せていた長編で、紆余曲折しながらも最初の目的を果たす、そうゆうストーリーをめざして書きました。
サイトからコピペしてしまうのは申し訳ないので、ラストの終章のみ書き直しをしました。サイトではフレイ視点、なろうさんではサーシャ視点となっております。内容はあまり変わっていませんが……。あ、クリフはないです。ごめんなさい(ぇ)
この『過去の予言書』は、現在シリーズ化して続編を執筆している途中です。なろうさんにもUPしていく予定ですが、サイトの更新に追いついてしまったので、ここからは亀更新になります。
それでもよろしければ、お暇な時にでもお立ち寄り下さいませ。
感想、意見などありましたら、どうぞお気軽に書き込みいただけると嬉しいです。それでは、失礼いたします。