無職戦隊ニートレンジャー 次回予告集
本編はありません。
父。49歳。
半年ほど前に会社をリストラされ、現在は再就職のあてを探して動き回るが
今のご時勢、何の資格も持たない彼を雇ってくれる会社は無く
今現在は、失業保険に頼る毎日。
しかしその失業保険も、後1週間ほどで切れてしまう。
残された道は、もう家を手放すしかないのか!?
しかし、父にはとある秘策があった。
無職でも、簡単に手持ちのお金を増やせるその魔法に
人は彼を、白銀の錬金術師。と、呼べたら、その店に並ぶ誰もが
錬金術師ですよね。ってゆーか、換金術師?
何はともあれ、その秘策を手に、彼はその店の前にと並ぶ。
次回、無職戦隊ニートレンジャー。
新装の角台だったのに…。に、レッツニート!
母。45歳。専業主婦である事を誇りにしてきた彼女。
父のリストラを機に、どうか働きに出てくれないか?と父からも提案されてしまうが
彼女は頑として、自分が働きに出る事を良しとしなかった。
家での家事の全般をこなし、さらには働きにまで出るだなどと
母からすれば、絶対に受けられない提案である。
なので、彼女は今日も家事に勤しむ。
洗濯をしている間に掃除機をかけつつ。
そうだ。今日は布団のシーツの天日干しもしようかしら。
なんて、そう考えていた矢先の雨。
母は悲しみの縁に立ちながら、空を見上げた。
どうして、何もかもが上手くは行かないのだろう?
どうすれば、誰もが幸せになれるのだろう?
どうすれば、自分は働かなくてもすむのだろう?
迷いの中、見上げる空は今の彼女の心模様のように、薄暗く濁っていた。
次回、無職戦隊ニートレンジャー。
お金が無ければ、借りればいいじゃない。の巻に、レッツニート!
妹。現在で言う所の大学5年生…と言うのは仮称であり。
実際は既に大学を卒業し、就職出来ないままに
自宅の近くのコンビニでバイトをしている23歳。
今のこの姿は、彼女が本来望むべき姿などではなかった。
彼女の心の中では、今の今頃ならば、ちゃんと就職を果たして
自宅からも距離を置く生活をしていたのである。
しかし、現実はそんなとはかけ離れた生活。
大学生活1年目2年目。と、彼女はその時間を思う存分に楽しみ、謳歌していた。
勉強にスポーツにそして恋に。
何もかもが順風満帆に見えた。
しかし、楽しかった大学生活も、そうは長くは続かない。
就職氷河期の煽りをもろに受け、もはや大学の授業を受けるよりも
就職活動にとかける時間の方が長くなってゆく。
それでも、それでも就職できない現実。
時が迫ってくる。大学を卒業しなければならない。と言う現実が。
その焦燥はやがて。自分の苦労なども知らないで
家の中でのんべんだらりと過ごすだけの兄に対する苛立ちにと変わり
つい、八つ当たりに近い形で、その怒りを兄にぶつけてしまった時もある。
そして、喧嘩の後は自己嫌悪に苛まされもしながら。
彼女は結局。大学を卒業するまでに、自分の居場所を見つける事が出来なかった。
就職出来ない理由は簡単だった、自分よりも優秀な人たちが、この世界には沢山居て
その人たちが自分よりも長い時間をかけて就職活動をしても
それでも、就職できないこの現実を前にして
何処に、自分の居場所があると言うのだろう?
分かっていた。でも、それを分かっていても諦めるわけにはいかなかった。
彼女は自分の居場所を得る為、その運命に抗い続ける。
次回、無職戦隊ニートレンジャー。
次回予告が長すぎる!に、レッツニート!
兄。26歳。プロのニート。
彼がこうなってしまった原因の大半は、大学生活の頃にあった。
基本、彼は人見知りな性格で、自分から話しかけるようなタイプの人間ではない。
友達は出来ずに、まるで馴染めない大学生活。
それでも、一年目は何とかやり過ごす事が出来た。
しかし、二年目の春。そんな彼がネットゲームにはまる。
その頃は実家を出ての一人暮らしでもあったので、誰の干渉も受ける事は無かった。
それが、兄にとっては良くなかった。
睡眠時間を削っての生活は、彼に快楽を与える代わりに
実生活に対しての多大なる影響を与えた。
ついていけない授業内容。未だ出来ない友達。必然、授業には全く出なくなる。
彼にとっては、むしろそれで良かった。
例え現実世界に友達は無くとも。
ネットの世界を介すれば、いつだってそこに友の姿があった。
まだ、彼は気がつかない。
自分が、もう戻れない道にまで足を踏み入れているその現実になど。
次回、無職戦隊ニートレンジャー。
1人じゃねぇよ。に、レッツニート!
ポッポ(犬)6歳。オス。
家族全員が無職?一家離散の危機?
でも、そんなの犬には関係ねぇ!
今日も彼は吠える。
飯を食わせろ。散歩に連れてゆけ、と。
餌の量が少なくても吠えるし、気が済むまで散歩できなくとも吠える。
今、新垣家がどんな状況にあるかを理解出来ていたならば。
その鳴き声も、少しは自重したものになったかもしれない。
しかし、彼がこの状況を理解する事はない。
犬だもの。吠えたい時に吠え、走りたい時に走る。
あんたら人間も、自分と同じようにして生きる事ができれば
どれほど気楽か、分からないぜ?と、その生き方をせめて兄にだけでも伝えるべく
ポッポは今日も、この世界を自由に走り回る。
兄がそんなポッポの気持ちに気づく事は、たぶん一生無い。
次回、無職戦隊ニートレンジャー。
ハウリングヴォイス。に、レッツニート!
日本人のサラリーマンの生涯年金は約二億。
それが多くのサラリーマンの平均と言われた時代は、もはや過去のものだ。
定年まで働ければ御の字。その手前で人員削減の憂き目にあってしまえば
二億など夢のまた夢。しかし―。
そんなサラリーマンらにとっての、夢の選択肢がある。
それが、宝くじ。
1等前後賞合わせて、3億もの金額を手にできれば
就職だなどと言うしがらみからも解放され
それどころか、一生を遊んで暮らせて行ける程度の額を手に入れる事が出来る。
彼は買った。今ある最大限の余力でもって、その宝くじを。
10万円。と言う金額は、今の家族の状況を鑑みれば
決して大した金額などではなく、むしろ、一家の運命を大きく左右するほどの
大金ではあるのだろうが、しかし、父はその夢にかけた。
10万円も使ったんだから、きっと当たるに違いない。
気合をこめて買った宝くじが、どのような結果をもたらすかは
そのくじを購入した本人以外の誰もが、良く理解していた。
誰かが言った。人の夢と書いて、儚い、と。
次回、無職戦隊ニートレンジャー。
7500円。に、レッツニート。
いい加減、バイトでもいいから働いてよね。
じゃないと、家に友達呼べないじゃん。
と、兄はその台詞を何度言われたかも分からない。
お前に……お前に、何が分かる!と思った兄が、何故妹を刺し殺さなかったかは
口ではこう言いながら、時折妹が兄の部屋の前に
コンビニのバイトの差し入れを置いていく。と言うツンデレな性格だったからだろう。
兄の存在を多少なりとも疎ましく思いながら、でもやはり妹として
彼が兄だからこそ、何とかして普通の生活に戻って欲しいとも思っていたのだ。
例え今がどうであれ。まだ幼い頃。毎日を一緒に遊んだ記憶だけは
今も彼女の胸の奥深くに、色鮮やかに残っているのだから。
そんな彼女の気持ちに、まだ兄が気づく事は無い……
次回、無職戦隊ニートレンジャー。
べ、別にあんたの為にカラアゲ君買ってきたんじゃないからね。にレッツニート!
新垣家の居間。父も母も妹も。
沈痛な面持ちで、悲壮感たっぷりに何かを話し合っている。
父のリストラ。兄の終わらないモラトリアム。
妹の先の見えない就職活動。母の働きたくないでござる。
何処からどう見ようとしても、先の展望などまるで見えない新垣家にて
一家離散。無理心中。などと言った言葉飛び交う家族会議の内容とは…?
ちなみに、リーダーである兄はこの家族会議をボイコットしました。
次回、無職戦隊ニートレンジャー。
兄貴の価値は。に、レッツニート!
ネットゲームを終え、布団に横になったのが午前の5時。
午後の1時に目を覚ました兄が、いつもの通りに
階段を降りて、居間にと向かい。
テレビを見ている母にと声をかけて、今日のご飯は?と、声投げかける。
それは、いつもの彼にとっての日常。
そうする事で、母は愚痴の一つや二つを零しこそすれ
食卓には、自分の為にと作られたお昼ご飯が並べられるはずだった。
しかし、今日に限っては、その勝手が違った。
母は無言のままに、怒りの表情を兄にと向けて。
そして、彼女はその言葉を口にする。
今を無防備に生きてきた彼からするならば、余りにも残酷にすぎる言葉を。
次回、無職戦隊ニートレンジャー。
働かざる者、食うべからず。に、レッツニート!
地球の平和を守っている暇などない!
家族の平和が、今この瞬間にも崩壊しようとしている!
向かい合う父と息子。
いい加減働かない息子に痺れを切らしての説教に対して
息子はついに、我慢に我慢の限界を重ねたその拳を振り上げる。
兄はその拳を、父へと振りかざしてしまうのか?
次回、無職戦隊ニートレンジャー。
父さんしか殴った事ないのに。にレッツニート!
終わらない日曜日。
何処まで行っても変わらないと感じる日常。
この日常の終わりは、死だけだとそう感じていた。
まだ、その時じゃない。と思い過ごす毎日。
しかし、そうじゃなかった。
何一つとして変わらない。と感じていたその日常も
ただ自分が目を背けていただけで、刻一刻と世界は変化していたのだ。
父のリストラに端を発したその変化から、妹の苦しみに至るまで。
あれはいつの夜だったか。
就職活動に疲れ果て、それでも家族の前では気丈に振舞っていた妹の
部屋の中から聞こえてくるその音に、隣の部屋耳をすまし、聞こえてくるのは泣き声。
くぐもった声に、涙を殺しているのが分かる。
働きなさいよ。と馬鹿にするように言われ、何度腹を立てたか分からない。
しかしその言葉は、妹なりの努力をした上で置いての言葉ではなかったか?
兄は考える。
考えてはみるが、怠惰な毎日をパソコンとテレビの前で送り続けていたその結果。
何かを考えようとしても、頭の中には白い靄のような物がかかっている。
それはまるで、テレビアニメでのキャラの温泉シーンに出てくる
不自然な白い靄のようでもあった。
考える事をすらも、満足に出来なくなっている自分の身体に絶望し。
それでも、妹の就職にかける毎日の努力と
その努力が報われずに涙を流す彼女の悔しさだけは
実質的には全く分からないが、何となくだけは分かっているつもりだった。
自分自身が、この社会から拒絶された存在の一人でもあるのだから。
しかし、妹と兄とでは決定的に違う部分もある。
挑戦する事を諦めない者と、諦めた者。
諦めた者から励ましの声を受けて、一体それが何の役に立つと言うのだろう。
『お前は良くやってる。だから、泣くなよ』と、そう直接的に伝えて
一体、その言葉がどれほど妹の胸に届くのだろう。
その現実を思い、兄の胸は痛んだ。
努力をしても、こんな社会にあっては無駄だと、そう強く思った。
だから、こうして生きられる限りは、好き勝手に生きてやろうと思ったはずだった。
案の定、この社会は妹の努力をも無碍に扱う。
あいつがあんなに頑張って無理なんだ。俺なんかが頑張っても無理に決まってる。
やっても無駄。やっても……と、やる前からいつもそう、彼は諦めていた。
でも、今。彼の心に、新たな疑問が一つ浮かぶ。
妹のように、涙を流して悔しがれるほどの一生懸命が、自分の中にあっただろうか?
答えは簡単に出る。そんな一生懸命は、全く無かった。
傷つく事を恐れ、失敗する事を恐れた。
だから、今の自分の何も無い人生がある。
彼は、己の右掌をしばらく見つめ、小さく拳を握り締めた。
非生産的な事にしか使われてこなかったその右手に込められた、新たな決意。
変われるだろうか…?
家族の誰に気付かれる事も無く、一人、その決意を胸に秘め。
彼は変わろうとしていたのだった。
次回、無職戦隊ニートレンジャー。
これもはや次回予告じゃなくて、本編だよね?に、レッツニート!
父は面接。妹はバイト。
家には母と、そして兄の二人だけの真昼間。
滅多に部屋から出てくる事の無い、お昼の時間帯。
母は暢気にテレビを見ながら、司会者の言葉に分かる分かる。と
意味も無く同意をしていた、そんな時。
階段を降りてきた兄が、母のそんな姿を見つけ
相談があるんだ。と、その背中に声を投げかけた。
驚き兄に向き直った母の第一声。
「お金か!?そんなの無いわよ!今の家の状況知ってて
良くそんな事言えるなあんたは!」
と、一方的に兄がお金目的で相談投げかけてきたのだと
一ミリも疑わない様子の母に、兄は苦笑してしまう。
その誤解を受けても、彼は苛立ちを感じるどころか、むしろ清清しいとすら感じた。
そう思われるだけの事を、自分はしてきたのだ。
兄は、「そんなじゃないよ」と言いながら、母が座るコタツの隣に座った。
一体、彼の口からどんな相談内容がもたらされるのか。
もしや、先日の家族会議に置いて、兄に保険金をかけて死んでもらおか。と言った
半ば本気の冗談が聞かれていたのではないか?と母は心配していた。
そんな事を微塵も窺い知らぬ兄の口からもたらされる驚くべき相談内容とは―。
次回、無職戦隊ニートレンジャー。
俺、今やってるゲーム終わったら、ハロワに行こうと思うんだ。に、レッツニート!
現実は、甘くない。
その現実に、今、正に直面していた。
溢れかえるハローワーク。
探せども探せども、自分に合いそうな仕事は見つからない。
まずはバイトから。と、始めようとしてみるが、そのバイトを申し込む為の
電話をかける事にすらも躊躇を覚える。
勇気を出して、面接の約束を取り付けた…が。
それは、終わりではなく、ただの始まりでしかなかった。
尋ねられる空白期間。しどろもどろな答え。
面接官の失笑。
そして、バイトをすらも、落とされる現実。
押し寄せるその現実に、彼の翼は今にも折れてしまいそう。
いや、もう既に…折れていたのだろうか。
次回、無職戦隊ニートレンジャー。
では、この履歴書の余白についてお聞かせ願えますか?(苦笑)。に、レッツニート!
父は、疲れ果てていた。
この世界に、最早自分。と言う存在は必要ない。
そんな風にも思える毎日を過ごしながら、それでも歩き、就職の宛を探していた。
疲れはやがて、自身の精神も蝕んでゆく。
正常な思考力を失う中、以前の同僚からかけられる声。
こんなご時勢だからこそ、株で一儲けしないか?と。
急成長している会社の株で、今なら絶対に上がる。とそう豪語する彼の言葉に
普通であったなら、耳を傾けなかったかもしれない。
しかし、今の父は普通の状態では無かった。
尽きてしまうお金を前に、藁にもすがる気持ちで、その株に手を出してしまう。
…藁であったならば、どれほど良かったのだろう。
いつかは元の金額に戻るんじゃないかと
そればかりを考え、父はそのグラフにしがみつく。
しかし、そのグラフが結局、元値から上を行く事は無く
その株の暴落を見つめながら、父は涙を流した。
次回、無職戦隊ニートレンジャー。
デイトレなんて、言わばエゴとエゴとのシーソーゲーム。に、レッツーニート!
失ったお金は、もう戻っては来ない。
それぐらい、理屈では分かっていた。
しかし、感情はそう簡単についてはゆかない。
妻は、「何やってんの!甲斐性無しのくせに、こんな時だけ甲斐性あり!」と父をなじり
娘は、「お父さん最低!こんな時何考えてんのよ!」と、父を罵倒する。
家族、誰一人として味方が居ない。と感じられる中。
息子だけが、父に何を言うでもなしに、缶コーヒーを差し出していた。
何か会話を交わしたわけではなかった。
ただ、しょげている父の寂しそうな背中に、そうせずには居られなかったのだ。
父の背中は、こんなにも小さかったのか。と、見ていて寂しくなった。
兄にとって、父の事は余り好きではなかった。いや、恨んですら居た。
高校の頃は、もっと勉強して、良い大学に入るんだぞ。
それだけを繰り返すような父だった。
一方の父にとっても、最初の頃こそ自慢の息子ではあったものの。
良い大学に入るどころか、中途半端な大学すらも途中で辞めてしまい
あまつさえ今は、働く事をさえもしていない息子には
もはや呆れ果て、かける言葉すらも見つからなかった。
なので、殆ど会話をする事は無かった二人。
一生、自分達の関係はこのままなんだろうなぁ。とさえ思っていた時の
不用意な息子の優しさに、父は泣いた。
すまない…すまない…と、何度も何度も謝りながら。
その謝罪に、息子は胸が苦しくなる。
どうして、父が謝るのだろうか?こんな失敗で謝るぐらいならば
自分は今までどれほどの数を謝らなければならなかった事なのか。
ただ、家族の為に。と働いてきた父に対して、初めて素直に湧き上がる感情は感謝。
そして、父の姿に倣うように、息子も涙を流した。
涙を流してしまえば、不思議と。
今まで言えずに溜めてきた言葉が、すんなりと兄の口から漏れ出ていた。
「今まで頑張ってきたんだから、もっと胸を張ってくれよ親父」
リストラを宣告されて以来。
もう誰からも自分は認められない存在であると、そう思っていた。
なのに突然、息子から自分を認めてもらえる言葉を貰った瞬間。
こんな状況なのに、止め処の無い嬉しさが、涙となって瞼からこぼれ落ちる。
ありがとう。ありがとう…。
失いかけていた自分を、父は今やっと、この時取り戻したのだった。
そんな二人を見ながら、妹も涙ぐんではいたが
その性格のお陰で、涙をハッキリとこぼすまでには至らず。
「気持ち悪いわね、二人とも」
あまつさえ、素直になれない気持ちをつい口に出してしまう。
家族三人がそんな形で、ほんの少し結託する中。
母だけが、この現状を苦々しい表情で見つめるのだった。
次回、無職戦隊ニートレンジャー。
愛なんかじゃ、この現実は変わらない。に、レッツニート!
楽にならない生活。
最初はほんの出来心だった。
妻のエコバッグが、エゴバッグにと形を変えるまでにそうはかからない時間。
私が悪いんじゃない。社会が悪いのよ。
見つからなければ、大丈夫。とそう思っていた。
しかし、彼女がその出来心からエコバッグの中にと入れたある物は
仔細に、私服警備員の目に捉えられ、彼女は事務室にと連れ行かれる事となる。
悪の組織に捕えられた母。
ただ、運ぶだけのつもりだったんです!と泣き叫ぶ悲鳴が事務室内に響き渡る。
彼女は、彼らの(社会的な意味での)制裁から逃れる事が出来るのか。
次回、無職戦隊ニートレンジャー。
お母さん。流石にお米(5kg)はちょっと。に、レッツニート!
新垣家にかかってきた突然の電話。
その電話に出たのは父だった。
電話の内容は、おたくの奥さんが万引きを、云々。
どうしてそんな事を。と、父は問い詰めるまでも無い。
苦しい家庭の状況に、母ものっぴきならない状況であった事は
十分、理解しているつもりだった。
震える声で、迎えに行きます。と、そう伝え。
家を出て、彼はスーパーまでの道のりを、自転車ではなく、歩いて向かった。
スーパーに辿り着き、母の居る場所にまで迎えにゆくと。
事務室の中、涙で瞼を赤く晴らして椅子にと座り
背中を丸めしょげ返った母の姿があった。
家の中に居る時の威勢の良さはまるで成りを潜めたその姿に。
父は、彼女をこんなにさせたのは、自分なんだと悲しくなってしまった。
今回は事情も事情ですし、大目に見ますけどね。と、そう言われ。
何度も何度も店の人にお礼と頭を下げ、店を後にする父と母。
帰り道を二人並び歩きながら。
「ごめんなさい」と、謝る母に、父は微笑えみながら言った。
「謝るのは、こっちだ。結婚する時、君に苦労はさせないからって言ったのに。
こんなになるまで、ずっと忘れていた。
約束を守れなくて本当にすまない」
父から下げられる頭に、母は慌てた。
手をあたふたと動かしながら、しどろもどろに言う。
「ど、どうしてあなたが謝るの!
悪いのは、何もかも私じゃない!
わ、私が…私が、何もしたくないからって、あなたが苦労して…」
父は頭を上げ、ふるふる。と首を振った。
「約束を守れなかったのは、私だよ。
だから君は君の、新たな人生を歩む事を、考慮に入れても良い時期だ。
今ならまだ、間に合うだろう」
突然の父からの言葉を受けて、母が出した答えは―。
次回、無職戦隊ニートレンジャー。
間に合わないだろ、常識的に考えて。に、レッツニート!
運命は残酷だ。どんなに現実に抗おうと。
新垣家では、家族会議が開かれていた。
この家を手放すかどうかの家族会議。
いや。それはそもそも、会議ですらなかったのかもしれない。
もう、それしか道はないのだと…家族の誰もが理解していたからだ。
まだ返すべきローンは10年以上も残っている。
さらに追い討ちをかけるようにしての、父の株の失敗。母の消費者金融での借金。
ただそこに存在するだけが借金である兄の存在。
そんな状況で、まだ10年以上も残る住宅ローンを払い続けられるかを考え。
残された道はただ一つしかない。
それでも、長年住み慣れた家だ。
その現実を前に、誰もが言葉を発しなかった。
一匹を除いて。
ワンワン!と、玄関口で叫ぶ犬。
彼は自分の運命など知る由も無い。
この家を手放した瞬間、自分自身の存在も何処かへと手離される。
最悪、保健所と言う運命も待っているかもしれない。
その現実にも気付かずに、ポッポは吠え立てる。
飯を出せ、散歩に連れてゆけ、と。
次回、無職戦隊ニートレンジャー。
例え世界が形を変えても、俺は俺を変えない、に、レッツニート!
家を手放す事は既に決定事項で、この家を退去するのも残り1ヶ月を切っていた。
そんな中、未だ何も出来ないままに、家でこうしてネトゲに繋いでいたある日の事。
突然、ネトゲで兄がメンバーを組んでいた一人がオンラインに繋がなくなる。
仲間として長きの月日を共にした仲ではあったが、お互いには暗黙の了解があった。
リアルの生活には、干渉しない。と言う暗黙。
だから、彼らの結び付きはネットだけ。
それでいいと、思っていた。
でも、それが3日、4日も続くと話は違ってくる。
引退、したのだろうか?と、考えはみるが。
引退ならば、ちゃんと伝えてくれるはずだ。とそう思い直しつつ
心配な毎日を過ごし、連絡は無いまま。
1週間の時だけが過ぎた日の、オンライン上で。
突然来なくなった相手が、引退したのではなくて
実は死んでいた。と彼女と親しかった別のメンバーからそう伝え聞かされた。
薬を過剰に飲んでの自殺と聞かされても、全くその姿を想像出来ない。
何故なら、兄が知るその人の姿は
ネトゲの借り物のキャラの姿だけでしかないからだ。
全くのリアリティが存在しない仲間の死。
でも、兄はそんな仲間の死を、もしかしたらば
家族の死かそれ以上に、嘆き悲しんでいた。
辛い時や苦しい時に、誰よりも傍に居てくれた相手がもう居ない現実。
どうして、どうしてその苦しみを俺に分けてくれなかったんだ。と言う思いと。
それを伝え聞かせて、俺に何が出来たんだよ。と言う思い。
相反する二つの心に挟まれ、彼は苦悩する。
何もしてやれないとは分かっていても、何かをしてやりたかった。
誰よりも、自分が辛い時に、一緒にしてくれていた仲間であったからこそ―。
次回、無職戦隊ニートレンジャー。
友との約束。に、レッツニート!
マイホームを手放してから、1年の月日が経ち。
新垣家の生活は、以前とは完全に立ち代わっていた。
手放したマイホーム。手元に残された僅かなお金。
それを元手に、家族四人が暮らせる安いマンションを探した。
ただ、ポッポだけはどうしても一緒に暮らせるマンションが見つからなかった。
小型犬であったならば、まだ可能であったのかもしれないのだが
雑種の中型犬ともなると、近隣の迷惑やなども考えなければならない。
それでも、何とか親戚に引き取ってもらう事だけは出来た。
下手をすると保健所行き。の、彼の運命は、こうして難を逃れたのだった。
一匹を失っての、以前とはまるで違う、せせこましい生活。
が、しかし。不思議と、家族4人があの頃よりも充実した毎日を送っていた。
父は弁当屋のバイトとして働いている。
給料が良いとは言えない仕事だが、それ以上に嬉しいのが
売れ残った物を幾つか貰って帰れる事だった。
食費はそのお陰で、大分浮かせられている。
母もお昼のパートで、スーパーに働きに出ている。
あれほど、働きには出たくない。と、そう思っていたのだが
実際に出てみると、それなりに楽しいと感じるものだった。
少なくとも、家の中で何もする事が無いからと、ゴロゴロと横になって
テレビを見つつ、せんべいを感じる生活よりかは。
幾分かマシだと、母はそう感じている。
勿論、その生活に戻りたい気持ちが、無いわけでもなかったのだが。
妹は、彼女自身の努力の甲斐あって。
小さいながらも、ちゃんとした会社にと就職する事が出来た。
そのアパートからだと、電車で30分ほどの距離にある会社なので
朝の弱い彼女としては、引っ越そうかな。とも今は少し考えている。
が、しかし。家族がやっと一つになったと感じるこの空間に
居心地の良さを感じる自分としては、もうしばらく、ここで時を過ごしていたい。と
口にはしなくとも、そう思っているのだった。
別に兄貴が心配だからとか、そんなじゃないわよ。と、思ったりもしながら。
そして、新垣家の長男は―。
「いらっしゃいませーっ」
その掛け声が、店内に元気良く響き渡る。
彼は現在、コンビニのバイトとして、日々を過ごしている。
妹が働いていたコンビニの後釜として、そこで働く事になった。
あれほど苦手だった人間を相手に商売する仕事。
もし、昔の彼であったならば。
出来るわけねーじゃねーか、接客なんて!と、そう叫び
妹の口利きを、速攻で断っていたのかもしれない。
しかし今は、なりふり構っていられなかった。
沢山の人が、就職したくても出来ない状況。
と同時に、バイトであっても、沢山の人があぶれてしまう。
選ばれるべきはより優秀であり、どんどんと人が淘汰されてゆく。
その中で、自分は淘汰されるべき側の人間だと、彼は最初から諦めていた。
しかし、紆余曲折を経て。
本当に悪いのは、この社会なのだろうか?と、彼は少しだけ考えるようになった。
自分が仕事を選べるだけの何かを、今までにしてきただろうか。と、そう考え
出てくる答えは一つ。
自分は何も、やってはこなかった。
そんな自分が、彼ら雇うべき側から選ばれる道理なんて何処にも無かった。
そうと気づいた彼だからこそ。
彼は、自分自身を変える意味でも、今のこのバイトを選んだのだ。
もう、何もしない自分で居るのは嫌だった。
今やっている事が、この先何になるのかを考えるのでなく。
何かをまずは一生懸命にひたすらに、やってみる事から始めたのだった。
妹、そして父の涙。母の苦悩。友の死。
多くのものが、今の彼の背中を押している。
多くの人と触れ合う事は、まだ恐くもあり、慣れない部分もある。
それでも、彼はもうこの現実から目を逸らそうとはしない。
限りのある人生だからこそ。
この、限りのある時間の中で、やれるだけの事をやってみる。
一生懸命に生きたこの毎日が、将来何の意味にも繋がらないわけがない。
そう強く信じ、毎日ではなく、ただこの一日だけを一生懸命に彼は生きていた。
それが、幸せであるかどうかは、彼自身にしか分からない。
しかし、今の彼の表情は。
あの頃、暗い暗い部屋の中で覗かせていた、暗く浮かない表情とは
比べ物にならないほどの、満ち足りた表情がそこには表れている。
「ありがとうございましたーっ!」
―彼らが戦っているのは、悪ではなく、今のこの社会に置いての現実そのもの。
誰もが味方であり、誰もが敵である。とも言えるこの世の中にあって
家族で手を取り合って、一つの目標に向かい合う。
それは、ある意味では戦いであり、その目的に向けての一致団結は
戦隊と呼称して相応しいものではないのだろうか。
地球の平和は守らない。彼らが守るべきもの。
それは、手の内にあるだけの、自分達の微かな幸せだけ。
その幸せを手にする為だけに、彼らは今日も戦い続けるのだ。
最終回、無職戦隊ニートレンジャー。
『明日って今さ』
君の明日に、レッツファイト!
彼は、空を見上げていた。
新たに住居を移しての生活。
新たな家族は皆、自分に優しくしてくれる。
あの頃とは違って、ご飯が少ないだなんて事も無く。
散歩だって、十分に連れて行ってくれる。
なのに、どうしてだろう。
あの家に、もう一度戻りたい。と、そう強く思う。
ただ、そこにあるべきものとして、当たり前にしか感じていなかった。
頼りなくも優しい父。
いつも、元気だけは良かった母。
誰にも見つからない所で、頭を撫でてくれた妹。
そして、いつもの通りに散歩する中にあって。
時折、自分を思い出したようにして、抱き締める兄。
どうして、抱き締めていたのかなんて理解できるはずもない。
ただ、そうして抱き締められたりする事は、別段嫌いでもなかった。
それらの時間が、全て失われ、彼は初めてその事実に気がついていた。
ああ。俺は、みんなが好きだったんだな。と。
ポッポは、空に浮かぶ月目掛けての遠吠えを始めた。
もう二度とは戻れない。と、何となくは分かっていた。
それでも、もし。があるならば。
もう一度、あの場所に戻りたい。と、彼は直接には伝えられぬ言葉でそう思い続ける。