表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

魔王を倒した。

「お前を....っ!今ここで!倒す!」


 ある日、異世界から召喚された勇者は、仲間の僧侶と共に魔王と対峙していた。


「来い!勇者よ!」


 その気高く神聖な戦いは、長くも短く、勇者の勝利で幕を下ろした──


◇ ◇ ◇


 勇者は、魔王の死体の傍に座り込む。


「なぁ、エリシア...ついに、終わったんだな...」


 勇者は3年近くにも及ぶ長い長い戦いが終わったことに、強い達成感と疲労を感じていた。


「はい。勇者様。」


 エリシアと呼ばれる金髪の女性は、ボロボロの服で勇者に回復魔法を施している。その手は驚くほど冷静で、いつも通りだった。


「終わったよ...アイク...ベル...」


 勇者は、アイクとベルという戦死した仲間へ終わりを告げて、その場に倒れ込んだ。


◇ ◇ ◇


 その15日後。勇者は魔王を倒したことを報告するために、王国の城へと向かっていた。


「ぼくも...そろそろ君とお別れだな...」


 その隣では、エリシアが寂しそうな顔をしながら無言で頷いていた。


「それにしても、この国も随分と静かになったな...」


 勇者は、至って普通の男子高校生だった。

唐突に異世界へと召喚され、「魔王討伐」を命じられる。この国、『シルア王国』は魔王の魔力により占拠され、危険な状態にある──そう聞かされた。


 『魔王を討伐したならば元の世界へ返す』という約束を信じて、勇者は戦い続けた。


 城門をくぐる。

衛兵たちの視線が妙に重い。

勇者は王室の扉を開ける。


「王様...やっと...やっと終わりましたよ...」


 ずっと言いたかった、終わりを告げるその言葉を発した。

シルア王国の国王、『サルマーズ・ソルベ』もすっかり疲れていたようで、顔にしわが増えていた。

ソルベがゆっくりと口を開く。


──最初に飛んできたのは、英雄に対するものとは思えない罵詈雑言だった。


「貴様!よくもやってくれたな!」


 その場面と不釣り合いな単語に、勇者は唖然とした。


「貴様が魔王を倒したせいで、我が国は大損失じゃ!どうしてくれるんだ!」


 勇者は何を言われているのか分からなかった。

魔王を「倒したせいで」?「大損失」?

エリシアも、勇者の横で口を開けて呆然としていた。


「まさか、魔王の魔力で我が国が悪から守られていたとは...考えもしなかったぞ...」


 ソルベは舌打ちをしながら机の上の書類を見ていた。

どうやら、シルア王国が魔王に占拠されていた頃、その強大すぎる魔力により知らず知らずの内に外敵から国を守っていたそうなのだ。


「盗賊は急増し、テロは多発...!周辺国からは威圧され、交通路は崩壊...!」


「貴様が...魔王を討伐なんてしなければ...!」


 ソルベは憎き敵を見るように勇者を見つめる。

勇者は困惑した。

ぼくは戦った。

自分のためじゃなく、この国の為に。国に住んでいる人達の為に。3年も。

魔王を倒せと言ったのはお前なのに。

その結果が『魔王を討伐しなければ』?


「出ていけ!貴様の顔なんか二度と見たくもない!国外追放じゃ!」


 勇者は、ただただ疲れを感じながら城を出た。

怒りも、怒る気力もなかった。

「魔王を倒したら現世に返す」という約束も守られず、報酬もなく、挙句の果てにはまるで罪人のように責め立てられた。


「ゆ、勇者様...」


 エリシアが心配そうに勇者に声をかける。

彼女は不思議と冷静で、勇者を励ましてくれた。

エリシアは、勇者が召喚された時からずっと着いて来てくれた健気な僧侶だった。

いつどんな時でも、勇者の為に魔法を放ち、言葉をかけてきた。

いつでも嫌な顔ひとつせず、これが私の任務だと言わんばかりに手伝ってくれた。


「わ、私たちで...違う国に行きましょう。

魔王を倒した勇者だと言えば...きっと他の国なら迎え入れてくれるはずです。」


 そのエリシアの提案に、勇者は何も言わず従った。

"きっと"という言葉が、やけに軽く聞こえた。


***


 シルア王国とは少し離れた場所、『リベランド王国』。

魔王からの影響はあまり受けておらず、今でも活気溢れた国。


 ──しかし勇者は違和感を感じていた。

なぜか周りの人々は勇者から離れ、ヒソヒソと何かを話している。


「わ、私たち...避けられていますね。新参者だからでしょうか。」


 エリシアが心配そうにそう言った時、怒号にも近い声が勇者の耳に響く。


「勇者!きさまを拘束させてもらう!」


 途端に武装した数人の兵士が集まってきて、勇者を囲んだ。

エリシアが驚きながら後ずさる。


「...は?」


 勇者は状況を理解できず声を漏らす。

その時、近くの掲示板に貼ってある1枚の紙が目に飛び込んできた。


 『勇者は悪である』『地位を利用し、シルア王国を滅ぼした大罪人だ』


 そこには、魔王を倒した勇者を賞賛するように。

多くの罵詈雑言と虚偽の情報が綴られていた。

それは、悪意のこもった最低最悪の嫌がらせだった。


「ま、待てよ...なん...のことだ...?」


「きさまは今、シルア王国の王ソルベ様より、国滅亡の罪で法に背きし逆徒として扱われている!大人しく身を捧げろ!」


 兵士の発言の中に、信じられない単語が混じっていた。『シルア王国の王ソルベ様より』。

これは全て、あの国王のせいなのだ。

奴は勇者を追い出した挙句、大罪人として逆恨みをしてきたのだ。

言葉が、出ない。


「ゆ、勇者様...!逃げて...!」


 エリシアの悲痛な叫びで勇者は我に返る。

エリシアは包囲されておらず、どうやら罪なきものとして扱われているようだった。


「エリ...シア...」


 勇者は1人の兵士を跳ね除けて街の門へと走り出した。


「あっ、待て!捕らえろ!」


 勇者は涙を流しながら走る。


「ねぇ、あれって勇者じゃないの?」

「確か、魔王を倒したのをいいことに、国を操って滅ぼしたんだろ?」

「魔王を倒してくれるのはありがたいけど、性格が悪くちゃ最悪よね。早く捕えられて欲しいわ」

「早く死んでくれればいいのに」


 人々が『魔王を倒した英雄』に、鋭い言葉と石を投げ始める。

民衆のその言葉は、勇者の耳には届いていなかった。


***


 数日後。

雨の森で、勇者は孤独に歩いていた。

その横にエリシアの姿はない。

追っ手もいない。

「勇者が大罪人である」という情報は既に広範囲に広まっていて、覆すことはできなかった。

怒りと困惑が爆発することはなかった。

その代わりに、冷たい意思が勇者の中にゆっくりと伝わっていく。


「...決めた。」


 勇者は驚くほど静かな声で呟く。


「殺してやる」


 それは悪であり、正義の宣告だった。

笑ってる奴から先に殺す。幸せな奴から不幸にする。

自分を突き放した人々への、


──『苦痛』を祈る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ