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奪ってくれてありがとう。結果的に、感謝しています。  作者: ごろごろみかん。
3.殺しても死ななそう

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4話:反撃開始


息を呑んだ。

流石にそんな、非人道的な真似はしないでしょう!?……とは、言えなかった。


何せ、王は私を誘き出すためだけに無実の人間(ローガン)を処刑しようとしている人だ。


言葉の出ない私に、リュンガー伯爵が眉を寄せる。

そして、気まずそうに彼は言った。


「……失礼。言葉が酷かった」


「い、え……」


乾いた声で、否定する。

リュンガー伯爵は淡々と言葉を続けた。


「陛下も、いたずらに他者を攻撃する人ではない。魔法使いの存在が世に知らしめられ、かつ、現代の魔法使いがあなただと知られた以上、陛下もそう簡単にキルシュネライトに手出しはできないでしょう。ただ……手出し可能であれば、彼は間違いなくカードの一枚として切ってくる」


ようやく、理解する。


(彼が強く『やめた方がいい』と言って来る理由……)


陛下には、倫理観が欠如しているのだろう。

為政者というのは、皆こうなのだろうか。

そうは思いたくない。


陛下は、一般的な感覚の物差しで測ってはいけない、とそういうことなのだろう。


愕然としていると、リュンガー伯爵が呟くように言った。


「あなたが陛下との対峙を選択するのであれば、知っておいた方がいい。現在の王が、どれほど残忍で、非道なことができる人間なのか、ということを」


そして突然、彼は話を変えた。


「そしてこれは、今だからお話する事なのですが」


「……何でしょう」


警戒しながら、尋ねる。


この状況で『今だから話す』など、十中八九、九分九厘、良い話なはずがない。


悪い予感ほど的中するものだ。

そして、私の予想通り、リュンガー伯爵はとんでもないことを口にした。


「あの日。ローゼンハイムから帰宅するあなたを襲撃するよう命じたのは──恐らく、陛下です」


「な……!?」


思わず、衝動的に立ち上がりかける。

絶句する私に、リュンガー伯爵が眉を寄せた。


「確証はありません。私がそう考えるに至った理由も、先程と同じ理由でお伝えできません。ですが……それなら辻褄が合います」


「陛下が……私を、狙った、と?何の、ために……」


カラカラの喉で、何とか声を絞り出す。


何のため?そんなの、決まっている。


そうよ。だって、陛下は私を探している。

魔法使いの失踪で、一番焦るのは間違いなく、王家だ。

確かに、王家が私を追うというのは理にかなっている。


……あら?

そこで私は、矛盾に気が付いた。


「それは、おかしいですわ。だって、あの時はまだ、私は家を出る予定ではありませんでした」


「予定では、ね」


意味深長に彼は微笑んだ。

リュンガー伯爵が皮肉げな表情を浮かべるのは、珍しいことだ。

彼をそうさせるだけの何かが、あるのだろうか。


「……何が──」


おかしいのですか?と言おうとして、気付く。


予定は、確かにもう少し先だった。


だけど、準備(・・)ならしていた。


「まさか……」


その可能性に辿り着いて、言葉を失う。

私の推測を、彼は肯定した。


「そのまさか、です。王家はキルシュネライトに、子飼いのペットを放り込んでいる。魔力封じをしているといっても、あの人が魔法使いを放任するはずがありませんから」


「キルシュネライトに、裏切り者が……?」


それは一体誰?

もしかして、1人ではない?


いつから?……最初から?


信じられない思いだった。

ザァッと血の気が引く。


震える声で、言葉を続けた。


「私が……家を出るより先に、捕まえようと、そういうことですか?」


「……恐らくは」


言いにくそうにしながらも、リュンガー伯爵が頷いて答えた。


彼の言葉を、まるきり信じたわけではない。


だけど、彼の推論なら辻褄が合う。


なぜ、襲撃を受けた?

なぜ、あの時間に私があの場所を通ることを知っていた?


(……あ、れ)


でも。だって。

それなら、リュンガー伯爵だって──。


そこまで考えて、強く否定する。

親身になってくれる彼まで裏切り者だったら、もう、私は誰を信じていいかいよいよ分からなくなる。

人間不信まっしぐらだわ。


黙り込んでいると、リュンガー伯爵は順序だてて説明した。


「陛下は、あなたを捕まえたかった。だから、死人を出す訳にはいかなかった。あなたに恨まれたら、やりにくいと考えたからです」


「……射掛けられた矢に、毒は塗られてませんでした」


おかしいと思ったのだ。


「彼らは殺し屋のような格好をしていたのに、御者や護衛たちを殺さなかった。あくまで、気絶に留めた」


「それも、同じ理由です。魔法使いを飼い殺しにしようとしてるのに、反感を買うのは悪手すぎる」


「飼い殺し……」


もはや、笑うしかない。


「……王家の方は、魔法使いをなんだと思っているのでしょうね。人権など存在しないと思っているのではなくて?」


馬鹿にしてくれる。

魔力量を常に調節され、管理されるなど──まるで、家畜だ。


「さながら私は、牛舎に繋がれた牛ってところだったのかしらね」


ヤケっぱちで、そんなことを口にする。


(もし、もしもよ?)


リュンガー伯爵の推測が正しくて、本当に王家が私を飼い殺しにしようとしていて。

そのために、私を捕まえて、ローガンを人質にとっているなら──


(最低、最悪だわ……!!)


怒りなのか屈辱なのか分からない熱が声にこもる。


ひとり怒りに燃えていると、冷静な声が飛び込んできて、頭に冷水をかけられた気持ちになった。


「王家が最低なのは、今に始まったことではありません」


「あら……」


意外な思いで顔を上げた。

どうやら、リュンガー伯爵は陛下と確執があるようだ。

だけどまさか、こうもハッキリ王家を批判するとは思わなかった。

王家を批判するとは、すなわち反逆者になることを意味している。


リュンガー伯爵は私を見つめると、静かに言った。


「……私も、いつまでもこうしている場合ではありませんね。覚悟を決めなければ」


その瞳の薄緑はいつもと同じ色合いだけど──しかしゾッとするくらい冷たかった。

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