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奪ってくれてありがとう。結果的に、感謝しています。  作者: ごろごろみかん。
3.殺しても死ななそう

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2話:選択の時

朝食の後、私は中庭に出た。

出された料理を残すのは申し訳なかったので、あの後何とか胃に詰め込んだのだが、全く味が分からなかった。


(苦しい……)


お腹に手を当てて思う。

先程の話を聞いたために、胃も重たく感じていた。

決して、朝食の食べ合わせが悪かったためではない。



中庭では、グレースが微睡んでいた。

ライオンの姿だった。彼女は私に気がつくと、「ヴァオッ」と鳴いた。

猫で言う「にゃん!」のようなものだと思っている。

つまりこれは、挨拶。


昨日までの私なら


『可愛いわねぇ~~!!』


と文字通り猫可愛がりしていただろう。

だけどさすがに今は、そんなに呑気にしていられなかった。


「こんにちは、グレース。お昼寝?」


「ヴォオ……」


これも威嚇ではない。

威嚇ではない……はず。


少し自信がなくなってくるが、いえ、グレースの目に敵意はないもの!

唸るような声でもなかったし。

私は自分に言い聞かせるようにしながら、彼女の背に体を預けた。


グレースが、ぺろ、と私の頬を舐めた。


「っ……!!」


ザラザラしてる!ザラザラしてる!!

(大事なことなので二回)


やっぱり猫科……!!


思わず、歓喜に頬を抑えそうになった。

いけない、過剰に反応すると動物に嫌われてしまう。

以前──前世、友人に指摘されたことだった。


『あまり構いすぎると、猫に嫌われるわよ』


そういう彼女は、猫に好かれていた。

クールな友人だった。


そのまま、私はグレースにもたれた。

ふわふわしていて、ポカポカしていて、とても暖かい。


(まるで、ひだまりだわ……)


例えるなら、芝生の上で日向ぼっこでもしているかのような、幸福感……。

今の私は間違いなく幸福度が高い。


目を閉じてしばらく考え込んでいたが、すぐにぱちりと目を開けた。

そして、自問自答するように呟いた。


「やっぱり私、このままじゃいけないと思うの」


このままだと、ローガンは殺されることだろう。

それは止めたいと思うし、無実の罪で処刑なんて、あってはならないことだ。


「ヴオオ……」


相槌を打つようにグレースが答えた。


(可愛い……)


癒される。

ふさふさの毛を後頭部に感じながら、私は首を傾げた。


視線を向ければ、グレースは私を見ていた。

まだ、ライオンに触れることには慣れない。

グレースを見る度に『ラ、ライオン!!』と衝撃を覚えてしまう。

それくらい、人間はライオンに馴染みがない。




「でもねぇ?──じゃない」


「ヴヴ……」


「だからね、私思うのよ。──で、──って」


「ヴー……」




……と、私はこんな風にグレースに相談(という名の、一方的な会話)をし、答えを決めた。


「ええ、ありがとう。グレース。とても頼りになったわ!心強かった」


何より、背中に感じる逞しい筋肉と、それに覆われた毛皮。

それに、ポカポカとした体温が私を励ました。


笑みを向けると、心做しかグレースも喜んでくれているようだった。とてもラブリーだ。


猫もとっても可愛いけど、ライオンも可愛い。


(……やっぱり猫科は最強だわ!!)


もちろん犬も可愛いのだけど。

狼も可愛いと思う。


そんなことを考えながら、私はベランダから室内に戻った。最後にちらりと見ると、グレースはふたたび目を閉じて、日向ぼっこに戻っていた。

しかし、耳はこっちを向いていた。



部屋に戻って、執事長のジェラルドに尋ねる。


「伯爵は今どちらにいらっしゃいますか?」


「旦那様でしたら、執務室に」


「ありがとう。では、時間がある時にお話がしたいと、お伝えいただけますか?都合は伯爵に合わせます」


伝言をお願いして、私は自室に向かう。


そして、宛てがわれた部屋に戻ると、スツールに腰を下ろした。

手に持つのは、かぎ針と刺繍糸だ。


昨日、ふたたびリュンガー伯爵に頼まれたのだった。

今度は、刺繍糸を使った手編みコースターを作って欲しい、と。


昨日、孤児院から帰ってすぐのことだ。

子供たちが喜ぶからと、リュンガー伯爵に手編みコースターを頼まれたのだった。


刺繍は高価なものなので、子供たちにはあまり馴染みがない。

そのため、彼らに贈ってあげたいとリュンガー伯爵は言った。


(……そんなふうに言われたら、俄然やる気が出るって言うものよね!!)


何より、昨日のリディアの反応。

あんなに、刺繍を喜ばれたのは人生で初めてだ。


私の刺繍は可もなく不可もなくと言った出来だけど、喜んでくれる人がいるなら──


昨日会って、一緒に遊んだ子供たちの顔を思い出す。

彼らの顔を思い出しながら、私はゆっくりとかぎ針を動かした。


これも、夏の庭園会では、刺繍入りのハンカチと同じくらい、出す人間が多い。

私も、他の令嬢同様今まで練習してきた。


(まあ!手編みコースターよりハンカチに指す方がまだ出来が良いかしら?という具合だったから、ハンカチ(そっち)を出展したんだけどね……!!ほぼ誤差のようなものだけど!)


でも、ハンカチに刺すのと同じくらい、練習してきた。

そのため、こちらも手が動きを覚えている。


既に、心の整理は終わっている。

選択さえしてしまえば、後はそのためにどう動くか……つまり、作戦会議だ。


そして、匿ってもらっている立場上、私一人独断で動く訳にはいかない。


昼過ぎになると、ジェラルドが私を呼びに来た。


「旦那様がお待ちです」


彼の案内で執務室に向かうと、リュンガー伯爵が顔を上げた。


「こんにちは、レディ・キャロライン」


「こんにちは、リュンガー伯爵」


彼はいつも、顔を合わせるとまず挨拶をする。聖職者だった時の名残りだろうか。


(あるいは、彼本来の癖かしら?)


そんなことを考えながら、私は単刀直入に本題に入った。


「今朝の件ですが、私は陛下に会ってこようと思います」


宣言に近い私の発言に、リュンガー伯爵は目を見開いた。

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