7.5話:処刑宣告
「お待ちください!!私には覚えがありません!!」
無実を証明するには、この場しかないと思った。
これが最後の機会だ、とも。
吠える俺に、陛下は首を横に振る。
「残念だよ、ローガン・ローゼンハイム。お前には期待していたんだがね……」
「陛下!!証拠もなく、私を犯人に仕立て上げるなど……!!ローゼンハイムをなんだと思われているのか!」
「証拠ならある」
その言葉に、絶句した。
証拠なら、ある、だと?
目を見開いた俺に、陛下が足を組みかえた。
優雅な仕草だが、余裕が見えて、ますます焦りが募った。
ここで彼を納得させなければ、全ての終わりだと直感した。
「ローゼンハイム公爵邸で、とあるものを見つけたんだよ」
「とあるもの……?」
「魔法使いの髪だ」
「──!!」
驚きに息を呑んだ。
魔法使い、それはつまり、キャロラインの髪。
彼女はなぜか、髪を切って俺に押し付けてきた。
気味が悪いし、意味不明だ。
すぐさま焼却処分したかったが、彼女の言った言葉を考えると、捨てることははばかられた。
(彼女は、餞別だと言った)
いずれ、必要になるから、とも。
だから、捨てるに捨てられなかったのだ。
捨てて後悔するよりは、使い道が判明するまではそのままにしておこう、とも。
その結果が、これか。
ギリギリと歯を鳴らす俺に、陛下が笑う。
「その顔を見るに、心当たりがあるみたいだな?」
「それは、彼女が自ら切り取ったものです。決して、私が命じたわけではない」
「さあ、どうかな。一般的に考えて、貴族の娘が自ら髪を切るか?死を目前にした状況でもないのに?」
「それは……!!私も分からないのです!彼女が何を思って、髪を切ったかなど!」
訳の分からない理由で貶められようとしている。
それを理解した俺は、声を荒らげて否定した。
脇に立つ近衛騎士が怒鳴りつけるように言った。
「無礼者!弁えろ!」
剣の柄に手をかける近衛騎士を、陛下が手を挙げて制止する。
それを受けて近衛騎士は、剣から手を離す。
「ローゼンハイム公爵邸から、キャロライン・キルシュネライトと思われる長髪が発見された。その事実がある以上、私はお前を疑わざるを得ない。彼女の死後、髪を切りとったんじゃないか……とね」
陛下の言葉はもっともだった。
貴族の娘の暗殺を命じた際、その証拠に長い髪を切り取って持ってこさせるのは、よくあることだ。
殺しを命じておいて、血なまぐさいものは見たくないという考えかららしい。
王国軍に身を置く俺には分からない感覚だ。
だからこそ、陛下の言葉は正論だった。
正論なのだが……。
陛下は、俺を見下ろして言った。
「分かるかい?ローガン・ローゼンハイム。現時点で、お前以外に犯人は考えられないのだよ」
「──ッ!!」
(ふざけるな!!
俺なはずがないだろう!!)
よっぽどそう言ってやりたかったが、今度こそ不敬罪を適用されかねない。
くちびるを強く噛み締めると、血の味がした。
そのまま俺は、引きずられるようにして謁見の間から退室した。
(デライラは今頃、何をしているだろう)
彼女のことだ。
きっと、泣かせている。
どうしようもできない現実に、歯噛みした。
何も出来ない現状があまりにも情けなく、悔しかった。
(……あの女)
分かったようなことを言って、それらしいことを言って俺を惑わした。
『お幸せに、ローゼンハイム卿』
落ち着いたキャロラインの声を思い出す。
何が幸せに、だ。お前が残したものは俺を追い詰める凶器にしかならなかった。
さながら地獄への招待状だ。
『いずれ、必要になると思うわ』
例の部屋に連れてこられて、頭を抑えた。
頭痛がする。耳鳴りもする。
キャロライン、俺はきみが好きだったんだ。
あんなことさえなければ……。
何も起きなければ、俺はきみと結婚していた。
今更そう言っても、きみは信じないだろうが。
仕方ないだろう。
俺はデライラと結婚するんだ。
ほかの女と結婚する男のことなんか、早くに忘れた方がいい。
キャロラインに冷たくすれば、彼女も熱が冷めるだろう。
未練を断ち切ってやるつもりだった。
「……ただ、俺は」
彼女と幸せになりたかっただけだ。
それなのになぜ、こうなるんだろう。
翌日、俺の処刑が決まったことが、尋問官を通して知らされた。




