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ビギナーズラック

「これは、その、ですね…………恩寵(ギフト)です、一応」


 軽蔑の眼差しを受ける事を覚悟し、正直に言う。


 しかし、祈凛の反応は俺の予想と百八十度違っていた。


「ぎ、恩寵(ギフト)!?龍之介さん、恩寵保持者(ギフトホルダー)だったんですか!?」


 その瞳はキラキラと輝き、期待の色が浮かぶ。


 恩寵保持者(ギフトホルダー)?言葉通りに受け取るなら恩寵(ギフト)を持っている人間という事か。


「そ、そんなに凄いのか?」


「凄いですよ!龍之介さんはダンジョンに潜り始めてまだ一週間も経ってないんですよね、それなのにもう恩寵保持者(ギフトホルダー)なんて!」


 凄い勢いで捲し立てられる。


 やばい、気分が良いぞ。


 頬がひくひくと緩む。抑えようと顔に手を当てるが、体が言う事を聞いてくれない。


「この恩寵(ギフト)にはどんな能力があるんですか?」


「それはな…………」


 笑顔のまま、俺の表情が固まる。


 能力はパチンコを打てることです!なんて言ったらどうなるだろう。


 この眩しいぐらいの瞳を見て、正直に説明する事など俺には出来なかった。


「ま、魔石を消費して一定確率で新たな能力を手に入れる恩寵(ギフト)です……」


「新たな能力!凄いです!」


 嘘は、言っていない。


 でも何でだろう、凄く胸が痛いです。


「あの、その、失礼かもしれないんですけど、使っている所を見せてもらってもいいですか?」


 もじもじと、こちらの機嫌を伺いながら期待した様子の祈凛。


「こ、ここじゃ目立つから帰ってから見せるよ」


「本当ですか!」


 どうしよう、どうやって誤魔化せばいいんだ。


 ダンジョンの中で必死に考えたが、何一つ思い付かず、時間だけが過ぎていった。




「これがね、俺の恩寵(ギフト)何だけどね……」


 ダンジョン探索を終えて祈凛と共に帰宅し、自室の中で台を呼び出した。


 改めて考えてもふざけた恩寵(ギフト)だ。もっと格好良ければいいものを。


 いや、別にパチンコは好きだよ?大好きといっていいけどさ、もっと別の形があったよね?よりにもよってこんな形にする必要無かったよね?


 なんて、恩寵(ギフト)への愚痴を心の中で唱える。


「改めて見ると、なんだかヘンテコな機械みたいですね」


 近くで観察する祈凛から純粋な感想が溢れる。


 ん……?


「もしかして、見た事ない……?」


「何がですか?」


 祈凛の反応から理解する。


 驚いた事に、彼女はパチンコを見た事がないのだ。


 つまり、言い様によっては好きなように誤魔化せる!


「そう、そうなんだよ!滅茶苦茶変だよね、この恩寵(ギフト)。俺も最初はどうしたらいいか分からなくてさ!こんなの見たことも触った事もないから!」


「はぁ」


 捲し立て、勢いで嘘を並べていく。


「調べてみて使い方はわかったけどね。調べるまでは分からなかったよ、本当に!」


「……どうしたんですか?さっきからなんだか様子が変な気が……」


「べ、べべべ、別に普通ですよ?そ、そんな事より実際に使っている所見たくない?見たいよね。よし、使ってみよう!」


 返事も聞かず、ダンジョンから持ち帰った魔石を台に入れる。


 いつも通り液晶に表示される球数がゼロから百になり、遊戯が可能となる。


 慣れた手つきでハンドルを握り、球を打ち出した。


 球はすぐにスタートチェッカーに入り、液晶に浮かぶ数字が回り出す。


「何だかゲーム機みたいですね。ゲームセンターに置いてありそうです」


「そ、そうっすね」


 実際、パチンコ台はゲームセンターの隅っこに置いてあったりする。


 回し始めて一分足らずで、当たるどころか熱い演出も無く球が無くなった。


 ま、いつも通りだな。


「っぱり駄目だな」


「駄目だったんですか?」


「数字が揃わないと駄目なんだよ」


「へぇ~」


「……やってみる?」


「え、出来るんですか?」


 確かに、俺以外にこの台って動かせるのか?わかんねぇな。


「取り合えずやってみるか」


 ポケットからもう一つ魔石を取り出して台に入れる。


 横に居た祈凛を台の前に座らせ、遊技方法を教える。


 教えると言っても、ハンドルを捻って後は祈るだけなのだが。


「何だか緊張してきました」


 冷静に考えて未成年にパチンコを教えてるこの光景ってヤバいな。大家さんに見つかったら問答無用で殺されそうだ。


 祈凛が恐る恐るハンドルを握り、球を弾く。


 球は釘に当たり乱反射し、吸い込まれる様にスタートチェッカーに入った。


 瞬間───ビヴョンッ!


 台の振動と共に、脳を揺さぶる爆音が台から放たれる。


 あ、あ、あ。


 音を聞いただけで、脳から快楽物質が溢れ出す。


 先バレだ。


 激熱の演出というわけでは無いが、不意打ち気味に爆音を響かせる気持ちの良い演出だ。


「え、な、なんですか!?」


 わたわたと慌てる祈凛を宥める事も出来ず、液晶に目を奪われる。


 前に当たった時と同じように、探索者らしき男が魔物と戦っている。


 ゴブリンでは無い。探索者よりも背丈が高く、丸太の様に太いこん棒を持った巨人だ。


 見るからに強そうだが探索者も前回と違い一人では無く、仲間らしき少女が居る。


 チャンスアップか?


 演出も佳境になり、探索者が巨人に飛び掛かる。


 ───ボタンを押せ!!


「なな、何が起こってるんです!?」


「押すんだ!」


 祈凛の手を取り重ねてボタンを押す。


 ───キュインキュインキュイン!!


 ファンファーレにも似た耳を貫く祝福の音がなる。


 大当たりだ。


「どういう事なんですか!?」


 完全に混乱状態にある祈凛にハンドルを強く捻るように言い、俺は溢れる脳内物質にどっぷり浸かる。


 久々の大当たりは、俺の体に深く染み渡った。


「わわ!何か出ました!」


 大当たりの報酬である水晶が出てきたようだ。


 前回は手にして瞬間体に溶け込んだが、祈凛が手にしても水晶は何の変化もない。


 今回は手にしただけでは何もないのか、それとも俺以外が触れても効果がないのか。


「その水晶貰ってもいいか?」


「はい」


 水晶をもらった瞬間、ぐにゃりと形を崩し体の中に溶け込んでいく。


 どうやら俺以外では意味がない、という事らしい。


「わ、わ!」


 祈凛が驚きの声を上げる。


「大丈夫。これで新しい能力が手に入るんだ」


 ─────『再生』。


 それが新たに手に入れた能力だった。


 負傷を治す能力のようだが、どの程度まで再生できるのかは分からなかった。


 別に試そうとも思わなかった。痛いの嫌いだし。


 混乱したままの祈凛に大当たりした事への感謝を言い、新たに『再生』という能力を手に入れたことを伝える。


「よ、良かったです。壊したんじゃないかと不安になりましたよ……」


 確かにあの爆音は慣れていないと吃驚するか。


 そう思いながらも、混乱した祈凛の反応を思い出して笑う。


「何笑ってるんですか!本当に怖かったんですよ!」


 二人で戯れあっていると、バンっと勢いよく扉が開いた。


「うるさいぞ!外まで音を響かせやがって!ご近所トラブルになるだろうが!」


 小さい背丈とプリン頭の大家さんだ。


 ビクッと祈凛は驚いたが、俺にとって大家さんに怒られるには日常茶飯事だったので特に驚きはなかった。


「ああ、大家さん。すんません、ちょっと盛り上がっちゃって」


「…………」


「大家さん?」


 大家さんの顔つきが、鋭い。


 眉が中央に寄り、歯を噛み締め、まるでブチ切れたチワワの様な表情だった。


 気づく。


 今、部屋の中にはパチンコ台。ハンドルを持つ未成年の少女。


 いたいけな少女を部屋に連れ込み、趣味のギャンブルに誘う悪どい男の姿がそこにはあった。


「ち、違いますよぉ!マジで違うんです!」


 俺は流れるように体を畳み頭を下げた。


「こんのぉクソ野郎がァ……!」


「ひぃぃ!」


 大家さん、ブチギレである。


 修羅の如き表情で近づいてくる。


「助けて祈凛!」


 素早く祈凛の影に隠れる。


「ええ!?」


「テメェは私がここで殺す!」


 その後、荒れ狂う大家さんに対しての命懸けの説得は一時間にも及んだ。





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