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防衛

「来ます……!」


探索者の軍勢、その中でも抜きんでて索敵に長けた祈凛が叫んだ。


ほぼ全ての探索者の顔に緊張が走る。


そして身を固くして数秒、怒号の様な、地鳴りの様な低い音がダンジョンの奥から響いてくる。


「───ガァァッッ!!」


数えるのも馬鹿らしい、視界全てを埋め尽くす魔物の群れが現れた。


その全てが目を血走らせ、互いを押しのけ合いながら我先にと向かってくる。


「ひぅっ!?」


余りの魔物の多さに、探索者達は怯み、恐怖で後ずさる。


だが、禿頭の男が巨大な流れに抗うように前に踏み込む。そして巨大な戦斧を振り上げ吼える。


「『雷神の至撃(ラブリュス・ブロー)』ッ!!」


振り下ろされた戦斧は大地を砕き、眩い雷撃をまき散らして衝撃波と共に魔物達に向かい激突する。


直撃した魔物が吹き飛び、雷にその身を焦がす。


だが、それでも魔物の勢いは止まらない。


目を血走らせ、理性を失った獣の様に魔物だった灰と魔石を踏みつけ向かってくる。


「龍之介!」


名前を呼ばれると同時に、俺は林部を追い抜き魔物達の前に出る。


そして数分前から『恩寵(ギフト)』を行使していた事で、直視するのも厳しい程の極光を放つ『多衝棍』を振る。


───星の一撃ッ!


魔物の群れの中でも飛び切りの巨躯を誇り、向かい来るオークにぶち当てる。


ドガッ、と言う強い衝撃と共に、オークが打ち出された弾丸の様に飛び跳ねた。


巨大な弾丸のとなったオークが駆け寄る魔物達をすり潰して絶命して灰になる。


強力な二撃をもって、魔物達の勢いが目に見えて落ちた。


その時を待ち、林部が叫ぶ。


「行くぞ、魔物どもに俺達の意地を見せてやれッ!!」


その声に呼応するように、探索者たちが吼え、魔物の群れに突撃にしてく。


探索者と魔物による、熾烈な防衛戦が始まった。




防衛において、細かな計画は立てなかった。


理由は色々あるが、そもそも急造で集められた探索者達では大した連携を取ることは難しいからだ。それは能力不足と言うより、お互いを知るための時間が足りない事が原因だった。


故に決めたのは一つ。五人程で構成されるパーティーを複数作り、指定されたエリアを防衛する事だ。


普段から組んでいるパーティーがあればその人間を固め、五人に満たない場合はソロの人間を新たに加える。


この構成ならなば普段の探索で慣れがあり、急造でもあっても多少のカバーは出来る。


そして各パーティーごとにリーダーを決める事で、その指揮の元に最大限の実力を引き出す。


その作戦は、想像以上に機能した。


勢いを失った魔物達が探索者達と激突し、次々と打ち取られていく。


俺はいつも通り祈凛と、そして林部と入曽と宇久井と共にパーティーを組み最前線で魔物の群れに切り込みながら実感する。


───勝てる。


確かな感触と共に、『多衝棍』でゴブリンを打ち抜く。


無限にも思えた魔物の数が確実に減ってきている。


勢いは完全にこちら側だ。


「グルアァァッッ!!」


だがそう思った束の間、またもや奥から魔物の群れが姿を現す。


しかもその数は、先程現れた魔物達より多く思えた。


「なっ!?」


ふざけるな。そう口に出したくなる程馬鹿げた物量により、優勢だった戦況は一瞬でひっくり返る。


個々の戦力は探索者たちが上だが、圧倒的な数的不利により戦場が混迷を極めようとしている。


「さて、そろそろ俺らの番っすかね」


「良いとこ見せておかねートナ」


そう言って、宇久井と入曽が一歩後ろに下がる。


宇久井は手にしていた直剣を鞘に戻して両手を地面につき、入曽は首紐のついた小さな手のひらサイズの、弦のついた木板を取り出し握る。


「『大地の偉大さを知る者(ガイア・テラス)』!」


いきなり大地が蠢き、剣山のようにせり上がり魔物達を貫いていき、戦場の至る所から魔物達の悲鳴が聞こえてくる。


「『愛おしき愛の(オルフェウス)竪琴(ムーシケー)』!」


そして入曽が弦のついた木板を引き鳴らす。


美しい音色を奏で、戦場に見合わぬ厳かな空気を生成する。すると、痺れたように魔物達の動きが停止する。


その隙を逃さず、他の探索者達が魔物を倒していく。


「ひゅー!流石俺っち、天才っすね!」


「ま、オレに掛かればこんなもんダナ!」


一撃の威力は林部に劣るものの、広範囲での殲滅力では二人の『恩寵(ギフト)』は強力だった。二人の『恩寵(ギフト)』により、またもや戦況がひっくり返る。


す、すげぇ……!


流石はこの場所で最も実力のある探索者。まさしく一騎当千の実力者だ。


「油断するな、まだ魔物は残っているぞ!」


林部が魔物を切り伏せながら声を上げる。


「わ、分かってますよ!」


「ナハハ!怒られてやんノ!」


「入曽さんも怒られてるっすよ!」


軽口をたたきながらも、魔物達を倒してく。


防衛戦は、まだ始まったばかりだ。




『ソレ』は見た。


必死に抵抗を続ける人間達を。


そうして『ソレ』は『学び』を得た。


どうすれば、効率的な戦闘を行えるかを。


『ソレ』は『学び』を咀嚼し、指示を出す。魔物達に。自らの力で従えた無知な同胞たちに。




「ぬっ……!?」


最初に気付いたのは、最前線で戦斧を振るう林部だった。


「どうした、何かあったのか!?」


戦斧の勢いが緩んだ為、何事かと疑問を投げかけると林部は答えた。


「魔物共の様子がおかしい!あれは……まさか、隊列を組んでいるのか!?」


奥から現れる、新手の魔物達。その数は前の追加より少なく、いや、初回より少ない程だった。


しかし、今まで通り無作為に、勢い通りに飛び出してくるのではなかった。目を血走らせながらも、明らかに理性的に進んできている。


巨躯でタフなオークを先頭に、その後ろからゴブリン、狼と続いて隊列を組み、脆いゴブリンや狼から各個撃破されないように対策を立てているのだ。


偶然ではない。複数の、まるで俺達のマネをするように小分けにしてパーティーの様な群れをつくっている。


「来るぞ!」


先頭のオークが探索者達に向かい駆け出し、林部が警告を上げる。


だが、他の探索者は目の前の魔物の相手に精一杯で、新手の方に意識が向いていない。


それを見て、俺は魔物の群れに向かい飛び出す。


───星の一撃。


走りながら、『恩寵(ギフト)』により『多衝棍』に力を貯める。


そしてオークに飛び掛かり、小さな光を纏った『多衝棍』をぶち当て吹き飛ばす。


ドン、と衝撃と共に吹っ飛び他の魔物を巻き添えに倒れる。そのおかげで魔物の隊列に罅が入る。


だが、一人先行したせいで、魔物達が四方から飛び掛かってくる。


「『雷神の至撃(ラブリュス・ブロー)』ッ!」


襲い掛かる魔物達に、後方から雷撃を纏った衝撃波が飛び出し、蹴散らしていく。


「林部さん!」


「無茶をする!だが、良くやった!」


魔物達の全ての隊列が崩れたわけでは無いが、俺と林部の攻撃で隊列は崩れ一瞬の停滞を生み、さらに『恩寵(ギフト)』による衝撃と爆音で他の探索者も魔物達の異変に気付いた。


さらに立て続けに宇久井、入曽が『恩寵(ギフト)』をもう一度使用して魔物達を効率的に殲滅する。


「ここが正念場だ!押し返すぞ!!」


腹の奥に響くような林部の叫びに、探索者が呼応していく。




『ソレ』は見た。


見て『学び』、理解した。


強力な、それも複数の人間が居る。今ここに連れてきた手駒では戦力が足りていない。


『ソレ』は自らの『学び』が不足していた事を理解した。


故に、()()()()()()()()()()()()()()


『ソレ』はのっそりと、自らの体を動かした。







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