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15/17

新しい

 どうしよう、今までかつてない程、自分が恐ろしい。


『キュインキュインッッ!!』


 甲高い少女ボイスと共に、激しく虹色に光り輝く。


 当たりが、止まらない……!


 いつものパチンコが嘘のように、確率の壁を無視したかのように大当たりが継続していく。


 連チャンが続く、終わる気がしない。


 その予感の通り、その後も大当たりは続いていく。


 終わったのはそれから三十分後、終わった後は即座に球を景品に変えて交換所に向かう。


 大量の景品を現金に換え、周囲を警戒しながら札束を握る。


「ふ、ふおぉ……」


 手が震える。


 いそいそとボロ財布に現金を詰め、分厚くなった財布を抱え込んで逃げる様に帰宅する。




 頭が薄っすら熱を持っている。興奮が収まらん。


 三階層に慣れ始めて探索も充実している上に、一週間に一度の休日でのパチンコでも大勝ち。完全にツキが回ってきている。


 部屋で寝っ転がり天井を見ながら呆ける。


 何に使おうか。


 熱に浮かされた頭を回していると、ガチャっ!と玄関扉が鳴る。


「っ!?」


 誰かが、いきなり扉を開けようとしたのだ。


 泥棒か!?


 ばっ、と体を起こし玄関扉を見る。


「ヘイ、ドラゴン!居ないんデスカ!?」


 ガンガンと扉を叩きながら、高いソプラノボイスが扉の先から聞こえる。


 その声と、俺をドラゴンなんてヘンテコなあだ名で呼ぶ人物には心当たりがあった。


 俺はため息を吐きながら、扉を開ける事にする。


 扉を開けた先、そこに居たのは金髪碧眼の女だった。無言で扉を開けたので、その女は驚いて飛び跳ねていた。


「ワオ!居るなら居るって言ってくださいデス!」


「ソフィア、扉を叩くんじゃなくてインターフォンを押してくれ」


「オー、ソーリーソーリー。久しぶりのジャパンで気分がアップアップしてしまったデス!」


「さいですか」


 ハイテンションで所々日本語がおかしい彼女は、俺と同じ柚子樹荘の住人である。


 そして容姿から分かるように、ソフィアは日本人ではない。アメリカ生まれらしい。


 彼女は仕事の都合で定期的に海外を飛び回っている。


 正確に何の仕事をしているかは知らないが、随分と忙しそうだ。


「大家サンから新しいファミリーが増えたって聞きましたデス!どこに居るんデスか?」


 ファミリー。


 おそらく住居人の事だ。つまり、引っ越してきた祈凛に挨拶をしに来たのだ。


「隣の部屋だぞ」


「留守だったらデス!」


「じゃあなんで俺に聞くんだよ」


「大家サンからドラゴンと凄く仲がいいって聞いたデス!もしかしたら一緒に居るかもって思ったデス!どこに居るんデスか!?ワタシと仲良くして欲しいデス!」


 グッと、引っ付きそうな距離感で言い寄ってくる。


「居ない、居ないから。どっか買い物にでもいってるんじゃねーの?」


 ソフィアを押し返しながら伝える。


 予定を直接聞いた訳ではないが、休日は食材の買い出しに行っていると聞いたことがある。


「オゥ、そうデスか……」


 ソフィアは露骨に肩を落として落ち込んでいる。


「そんなに会いたかったのか?」


「実は直ぐに次の予定があるデス。ジャパンに居られるのは今日の夕方までデス」


 成程、だから急いで祈凛に会いたがっているのか。


 というか、来て一日もせずに旅立つとなると、それは最早日本に帰ってきたというか、通りすがっただけな気がする。


「しょうがないデス。今回は縁が無かったと諦めるデス」


「ま、次帰ってきた時にでも挨拶すればいいさ」


「そうデスね。じゃあ───今から遊びに行くデス」


「そうだ……え?」


 ガシっ、と俺の腕が掴まれる。


「ちょ!?」


「ワタシに残された時間は僅かデース!善は急ぐデース!」


 暴走列車のような勢いで、ソフィアは俺を引き摺りながら走り出した。




「ヘイ、ドラゴン!これ凄いデス!」


 引きづられて連れてこられたのは大型ショッピングモールだった。


 その中でソフィアが迷わず入ったのは、俺一人だったら近づくこともしないだろう高級感溢れるジュエリーショップだった。


 ソフィアが見ているのは宝石だ。


 ルビーだろうか。六角形の小さく紅い宝石は、照明の光を反射し輝いている。


 うわ、高そ〜。


 なんて思っても口に出さず、適当に相槌を打つ。


「ルビー、だよな?」


 そんな俺たちの元に、黒いスーツを着こなした、紳士然とした老店員が近づいてくる。


「其方は『ラビリンス・スカーレッド』となっております。迷宮鉱石の一種で、()()()()()()()非常に価値のある物です」


 淀みのない説明、しかし、その説明に少し引っかかる。


「観賞用としても……?」


 口を開こうとした老店員よりも早くソフィアが俺の疑問に答えた。


「?ドラゴン、知らないんデスか?ここにある全ての宝石は迷宮鉱石デスよ?」


「??どういう事だ?」


 意味が分からない。ダンジョンから取れる迷宮鉱石限定のジュエルショップという事には少し驚いたが、だからなんだと言うのだ。


 宝石に観賞用以外の価値があるのか?


「オウ、マジで知らないんデスか……」


 ソフィアの浮かべる瞳、知ってる。常識知らずを見る目だ。最近色んな人にそんな目で見られるから覚えてきちゃった。


 少しだけ悲しい気持ちになる。


「加工方法や迷宮鉱石によって細かい違いはあるデスが、ここにある迷宮鉱石は全て()()()だと考えていいデス」


「…………えぇ?ここ、ジュエリーショップだよな?」


「ジュエリーはジュエリーでも、『ダンジョンジュエリーショップ』デス」


 老店員の方をチラリと見ると、柔和な笑みを浮かべてうなづく。


「なるほど、ね……」


 俺は老店員の視線に耐えきれず、分かったフリをしてうなづいた。


「じゃ、買い物するデス!ドラゴンは気に入った物はあったデスか?」


「え?ソフィア、買うの?」


 話を聞く限りここにある全ての宝石が危険物何ですけど?そんな物騒な物買う予定があるの?


 流石の海外育ちはロックだな、なんて思っていると、ソフィアは呆れた様に首を振る。


「何言ってるんですか、今日買い物するのはドラゴンデス!」


 ビシっ、と指を指してソフィアが言う。


「……マジ?」


「マジマジのマジデス!()()()()()()がそうした方が良いって言ってるデス」


 柚木樹荘の住人の間には、幾つか守った方がいいジンクスがある。


 俺は基本的にジンクスなんて眉唾なオカルト与太話など信じていないが、柚子樹荘のモノだけは別だ。


 そのうちの一つが、ソフィアの直感である。


 当たるのだ、彼女の直感は。


 ソフィアとの付き合いはかれこれ二年程になるが、その中で何度か直感という名の宣託を受けたことがある。


 タイミングも内容も法則性のないその直感は、しかし確実にその後に起きる不幸に関する物だ。


 無視すれば相応の不幸が襲いかり、従えば不幸を回避することが出来る。


 分かっている。自分が馬鹿げた話をしている事は。


 しかし、実体験としてソフィアの直感の威力を知ってしまっているのだ。そんな俺に、無視して帰るという選択はなかった。


 いつもなら、金が無ければ、無理だと諦めることができた。


 しかし何故か都合よく、示し合わせたかのように財布には大金が入っている。


「ぐ、ぐぅ……」


「どうして泣きそうなんデス?」


 無邪気なソフィアの疑問が、俺の心を抉る。


 この金があれば、一体どれだけパチンコを打てると……!


 俺は心を殺し、できる限り強がって言う。


「この店で一番安いヤツを下さい……!」

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