水
やかんが沸騰する。熱された蒸気が隙間から漏れ高音が鳴る。カップ麺に湯を注いでタイマーをセットしてから、その場で倒れている人物を見る。顔には布袋が被されていて、そこにアクアリウムに入った水が注がれる。ここは熱帯魚屋であり、そのアクアリウムにも色とりどりの小魚が泳いでいた。そいつは水から逃れようと身を捩るが、倒された椅子に胴と両足を縛られて動けない。そいつの顔の周りには小魚(値札にはデルタテール2000円(税抜き)と書かれていた。)が散らばっている。椅子を引き起こして布袋を取る。そいつが咳き込んで水を少し吐く。タイマーがなり、カップ麺の紙蓋を取る。しばらくは身体を傷付けるつもりがないことを手にしたカップ麺を啜りながらそいつに伝える。傷があれば商品価値が下がってしまう。戸籍上は普通失踪になる。だから7年間は安心してほしい。君に話して貰わなけば次の段階に進めない。時間を無駄にできないし、君だってずっとこうして眠ることもできず、水責めされ続けるのも嫌だろう。そいつの顔から水が滴っている。そいつはしばらく黙っていたが、やがて震え声で話しだした。(懸命な判断だ。このまま粘ればUSENから流れるイエローサブマリンにかこつけて水から糞尿にグレードアップしていただろう。)
━━━どこから話せばいいでしょうか。━━出会ったところから手短に頼むよ。━━・・・わかりました。私は、その日とある沼を見に行きました。噂の真相を確かめるため以前からそこに定期的に訪れていたのです。どこかご存知でしょうが、[大まかな場所を説明する]。そこは木々が鬱蒼としていて、心霊スポットとしてやや有名になって増えた訪問者からも身を隠すことが容易にできました。実際、その日まで一度も見つからずにそこを観察できたんです。なので後ろから声をかけられた時は、心臓が止まるかと思いました。(そいつはここで初めて━自嘲気味にだが━笑う。)振り返ると少女が一人立っており、不自然に思いながらも私は安心して次に取るべき行為を想像し、身構えました。見られたからには可哀想ですが、生かしておけない。向こうは華奢な年端のいかない子供です。死体はまた沼に捨てればいい。昼間でも薄暗い森の中で沼は特に暗く、ものを捨てればなんの抵抗もなく、落ちるように沈んでいきます。その様が不気味で一度肝試しに大学生が来て落ちて消えて大騒ぎになり柵が設けられてからというもの沼に近づくものはほとんどいなくなりました。柵を越えてまで近づく ということです。時々、カタギではなさそうな人々がシートに包まれた何かを捨てにくるぐらいで(あなた方にもお会いしたかもしれません。)、大半は雰囲気を味わって満足して帰ります。なのでまず露見することはない。わたしが少女に向き直ると彼女はなにをしようとしているのかわかったようで、大声で笑ってこう言いました。あたしもう死んでるんだよね。━━そいつが生きているか死んでいるかはこの際関係ない。君の妄想な産物かどうかもな。ただ、君があの日に見たもののみを伝えてくれさえすればいいんだ。━━[反抗的な目をしながら]ある時、森の中でそのシートに包まれたものを見たんです。それは細長い楕円状の形をしていて、下半分が地面に埋められていました。中身が生きているせいもあってか、上半分は身を捩っていました。それがあまりにも激しいので、シートが裂けそこから中のものが流れ出ていました。それは、私が想像してたものとは全く違い、何か黒いドロっとした液体と数人分の臓器のような肉片が詰まっているようでした。それが生命を持ったように脈動していたのです。




