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生きて私に愛されろと言われたから。

 



 いつも地下室にいた。

 世話係の女の人と二人きりで。

 七歳のころに女の人が風邪を引いて亡くなった。それからは、ずっと一人きり。

 

 必要なときだけ上の階に呼び出され、きらびやかな衣装を身に着けさせられる。

 地下室の生活があまりにも当たり前すぎて、随分と長いあいだ、それが異常なことなのだと思いもしなかった。


 真実を知ったのは十二歳のころ。

 妹は私より幼く、このときは五歳だった。だから、時々会える両親に甘えたがるのだろうと思っていた。そしてそんな姿が愛らしいから、両親は私より妹を可愛がるのだろうと。


「ドレスを脱いで地下に戻れ」

「はい」


 お父様にそう言われたら、素早く移動して着替えないと頬をぶたれる。そんなときお母様はいつも冷ややかな目でこちらを見ているだけだ。

 チラリと幼い妹を見ると、お父様と手を繋いだままで、にこにこと微笑みこちらを見ていた。急がないと妹もぶたれてしまうと思い、妹の方に手を伸ばし名前を呼んだ。


「ディアも早く――――」

「うふふ。アリアおねぇさまってバカね?」


 幼い妹の口から飛び出したのは、私だけが地下で生活しているのだという事実だった。

 衝撃だった。


 なぜ、妹は上階で両親に愛されているの?

 なぜ、私は地下に閉じ込められているの?


「アリアおねぇさまは、にせものだから」

「え……」

「そのみずいろのかみとめ、わたしたちとまったくちがうでしょ? きもちわるいわ」


 うふふと可憐な声で笑い続ける妹をジッと見ていたら、お父様に殴り飛ばされた。不潔な目で愛らしいディアを見るなと。自分の立場を弁えろと。


 痛む頬や腹部を押さえながら地下室に戻り、ベッドに倒れ込む。溢れ出しそうな涙を堪え、天井を見つめた。


 ――――偽物って、どういうこと?


 地下室の天井近くの壁には、小さな窓のようなものがある。鉄格子がはめられていて、草が見えるのであそこが地上との境目なのだろう。

 そして、その窓のような場所からはよく人の声が聞こえた。使用人たちがこの家のことについてコソコソと話しているのだと知ってからは、注意深く聞くようにしていた。

 なぜなら、次に呼び出されるであろう日や、お父様の機嫌なんかがわかるから。


「はぁ、今日の折檻は本当に酷かったわね」

「地下の子、自分の出自を知らなかったようだな」


 その日の夕方、使用人たちの噂話から、私がお母様の子どもではないのだと知った。お父様とお母様が結婚した直後に、お父様が使用人を身籠らせてしまったのだとか。醜聞を恐れたお父様が、私はお母様の実の娘であり、この家の長女だとして育てることにしたのだとか。


 確かに私だけ髪も瞳も色が違う。でも、人っていろんな色を持っているから、そういうものだと思っていた。

 そういえば、世話係の女の人は私と同じ髪色だったっけ。


 私だけが偽物の家族だったのね――――。




 ◇◇◇◇◇




 なんだか懐かしい夢を見ていた気がする。

 

 重たい目蓋を押し上げると、天井近くの窓から使用人たちの声が聞こえてきた。

 また何か噂話でもしているのだろう。


「来月が憂鬱ね、また大きな夜会を開くんでしょ」

「あぁ、そこで婚約者を発表するらしい」

「え? 地下の人、とうとう売り飛ばされるの?」

「違う違う、ディアお嬢様の方だよ」


 来月、また呼び出されてドレスを着せられるのかと思うと、今から気分が落ち込んでしまう。


 妹が婚約するらしい。

 この家には男児がいないので、妹が婿を迎えるのだろう。あの両親は私をどう扱っているのかを外の人たちには知られたくないらしいから、婿になる人もグルなのだろう。

 妹はそんな相手と結婚して幸せになれるのだろうか?


 そんなことをぐるぐると考えながら、特に何も変わらない日々をいつも通りに過ごしていた。




 使用人が投げやるように渡してくるカピカピのパンとふかした芋、ほとんど具のないスープ。いつもと代わり映えのない夕食を一口食べた瞬間だった。

 地下室のドアが大きな音を立てて開かれた。

 壊れてしまわないだろうかとそちらに目を向けると、黒い髪を長く伸ばし、真っ黒の騎士服に身を包んだ男性が立っていた。


「アリア嬢…………やはり、こんなことにっ!」


 ――――黒の騎士様?


 黒い騎士服は第二騎士団の方々で、黒の騎士様はその副団長様。お父様も元第二騎士団らしく、その繋がりで我が家の夜会に顔を出されているようだった。他の家や王城の夜会でも、お会いすると笑顔で話し掛けてくださる、優しい方。

 夜会のあと、両親や妹に『色目を使うな』や『流石売女の娘だ』なんて蔑まれ、ときには杖や拳でぶたれもするけれど、彼との会話は退屈な日常を彩ってくれるから、いつの間にか私の心の支えになっていた。


「黒の騎士様。どうしてここに?」

「っ……君を、助けに」

「なぜ?」


 なぜ助けると言われたのか、助けてもらえるのか、理由が分からなかった。

 だから、黒の騎士様に『なぜ』と聞いた。

 騎士様は、酷く悲しそうな顔をして、目頭を押さえ俯いた。

 体調でも悪いのかと思い、立ち上がり騎士様に近づくと、騎士様の濃い緑の瞳から透明な雫がぽたりと落ちた。


「泣いてるんですか?」

「っ、あぁ」

「…………なんで?」

「君をずっとこんな目に遭わせていたことが悔しいんだ」


 黒の騎士様はそう言うと私をギュッと抱きしめてきた。

 意味が分からなかった。

 騎士様から離れたくて藻掻くけれど、騎士様が更に腕に力を込めてきて逃げられない。


「…………苦しいです」


 そう伝えると、黒の騎士様が腕の力を緩めてくれた。その優しさにつけ入るようで申し訳ないけれど、騎士様の腕から抜け出して素早く身を翻し、ベッドに駆け寄って枕の下から小瓶を取った。騎士様に見えないようにしっかりと握りしめて。

 騎士様は怖がらせてすまないと謝ってくれたけど、別に怖くはなかった。ただ、私のことを気にかけてくれるのが不思議だっただけ。


「その手のものは? ナイフ?」


 首を傾げて聞かれた。

 ふるふると首を振る。ナイフなんて危ないものは持たせてもらえない。


「あの……」

「ん?」

「近づかないでください」

「すまない」


 黒の騎士様がゆっくりと距離を縮めようとしているのが分かった。これ以上は近づかないで欲しい。騎士様は困ったような顔で謝るだけで、止まってはくれなかった。


「あの………………ごめんなさい」

「は――――?」


 手の中にあった小瓶の蓋を開け、一気に煽った。喉が焼けるようだった。飲み込んだ直後から胃がひっくり返りそうな程の吐き気を感じた。


『拐われたり、助けに来たなどと言われたら、迷わずに飲め。吐き出すな。絶対にだ』


 幼いころからお父様にそう言われていた。

 これが何かは知っている。毒だ。

 他人に何かを漏らす前に、自分で命を断てと言われていた。家の醜聞を晒したら、両親や妹、使用人たちも路頭に迷うのだと。私の命ひとつで皆が助かるのだと。

 そして、何の教養もない私が外の世界に出て、生きていけるわけがない。今より酷い生活が待っている。奴隷になり重労働をさせられるかもしれない。顔はいいから娼館に連れられる可能性の方が高いだろう、なんて言われていた。


「ゴホッ……」


 身体から力が抜け、床に崩れ落ちた。

 咳と共に口から血が溢れ出てきた。息が苦しい。きっともうすぐ死ねる。やっと終わる。ずっとずっとずっと考えていた。生きている意味を。

 うんと幼いころ、お母様とは別の女性と過ごしていた。たぶんあれが生みの母親なのだろう。女性はいつも同じことを言っていた。


『アリア、前を向いて生きるのよ』

『生き続けていれば、いつかきっといいことがあるわ』

『アリア、希望を捨てないでね』


 希望なんて、ない。

 生きている意味がわからない。

 でも今まで生きてきた。


 私は、根性が悪いと思う。

 お父様の言葉なんて一切信じていない。

 私が生きているかぎり、お父様もお母様も苦い顔をする。だから、生きていた。

 そして今、この状況で私が死ねばあの人たちは余計に窮地に陥るだろうから。


「っ! 何を飲んだ!? 吐き出すんだ!」

「…………何かあった、ときは……これを…………飲むよう、お父様に……言われていました」


 怒鳴りながら駆け寄り、抱き上げてくれた黒の騎士様に毒の瓶をそっと渡した。

 中身は少し残している。きっと調べてくれるだろう。そして、あの人たちを追い詰めてくれるだろう。私の死が、命が、これでやっと意味を持つような気がした。


「…………噛むなよ!」

「ウグッ」

 

 騎士様が口の中に手を突っ込んできた。喉の奥で蠢くあまりにも大きな異物に、一気に吐き気が上り詰めてしまい、せっかく飲んだ毒も胃の中身も全て吐き出してしまった。

 それなのに騎士様は、机に置いていた水やスープをどんどんと私の口の中に流し込み飲めという。そしてまた手を突っ込んで吐かせる。

 何度目かの嘔吐のあと、意識が飛んだ――――。




 ◆◆◆◆◆




「そこで何をしているんだい?」


 招待された伯爵家の夜会。古の繋がりで招待を受けた。ゴダール伯爵にはいい噂がなく、あまり気乗りしなかったが、団長命令で参加せざるを得なかった。

 宝石だらけの丸々とした手に不快感を抱きつつ、表情を崩さないよう笑顔を張り付け握手。その後、小うるさく年齢に見合わないドレスを着た香水臭い娘とダンスをし、臭いに酔ってバルコニーに避難した。


 バルコニーには、水の精霊かと思うほどに透き通った少女がいた。水色の髪に水色の瞳、どこか古めかしい淡いクリーム色のドレスを着て、この世を憂うような表情で暗闇に浮かぶ庭の噴水を眺めていた。


 精霊か幽霊か……そんなことを考えていると、少女がゆっくりとこちらに視線を向け、ふわりと微笑んだ。


「涼んでいただけですわ」

「寒くないのか?」


 いまは秋の終わり。女性がドレスで外に出る気温ではない。上着を脱ぎ肩に掛けようとすると、笑みを深めて顔を振り無言で断られた。

 その反応から婚約者がいるのかと思い聞くと、またふるふると首を振られた。


「では――――」

「ダーク様、こんなところにいらしたの!? もう一度ダンス……って、アリアお姉様と何していらっしゃいますの? お姉様、また暗闇で男性を誘っていますの?」

「ディア……」


 二人の会話から、精霊かと思った女性がこの家の長女なのだと知った。そして、妹と仲が悪そうなのだということも。


 その後、夜会で見かけるたびにアリア嬢に話しかけていた。

 初めは情報収集の一環ではあった。彼女は家のことを一切話さないので、時間の無駄ということで収集対象から外されていたが。それでも話しかけていたのは、興味本位からなのか、騎士の勘が何かを感じていたからなのか。

 彼女は私を『黒の騎士様』と呼んだ。ダークという名前で呼んでいいと言っても、困ったような表情をしてふるふると顔を振るだけ。そして、妹や両親がこちらに近付いて来ると、表情を消して壁際に控える。

 ずっと、何かが可怪しいとは思っていた。


 そんな歪な様子を見続けて二年が経ったある日、ゴダール伯爵家で行われた夜会に参加したときに転機が訪れた。


 演習で挫いた足を隠してディア嬢とダンスをしていたが、胸を押し付け体重をこちらにかけて来るおかげで、痛みが増した。二曲目もと誘われたが喉が渇いたからと飲み物を取りに行ったところで、壁際にいたアリア嬢がこちらをじっと見ていることに気が付いた。


「やぁ、アリア嬢」

「……ごきげんよう」


 スッと目を伏せて挨拶をされるたびに、距離が縮まっていないのだなと痛感する。


「ダーク様! 早くダンスしましょ!?」

「あぁ……」


 ディア嬢がこちらに駆け寄ってきて、左腕に絡みついて来た。彼女は何でもかんでも話してくれるから、ここは痛みを我慢してもダンスすべきだろうなと判断したとき、アリア嬢が珍しく怒りのような表情を浮かべた。


「ディア、ダーク様はいま私と話しています。ダンスは後にしてちょうだい」

「はぁ? 偉そうに話しかけないでくれる? 後でどうなるか分かってないの? お姉様ってほんと頭が悪いわね」

「ディア、口を滑らせすぎよ。お父様の指示を覚えていないの?」

「ふんっ!」


 ――――伯爵の指示?


 気になる言葉はあったものの、彼女が私を引き留めた理由が気になった。

 ディア嬢が不機嫌そうに立ち去ってから、アリア嬢に何か話したいことがあるのかと聞いてみた。


「……足、庇いながら踊られていたので」


 スッと目を逸らされた。それはいつもの彼女だったが、少し顔を赤らめているのは、いつもの彼女じゃなかった。そこでやっと自分がなぜアリア嬢のことが気になるのか理解した。


 ――――あぁ、好きだからか。


 その後すぐに彼女に求婚しようとしたが全くと言っていいほど夜会や茶会に参加しなくなった。

 ディア嬢に彼女のことをそれとなしに聞いてみると、あのあとアリア嬢は伯爵に酷い折檻を受け、人前に出られない顔になっているのだと楽しそうに声を上げて笑った。

 逆らえない立場なのに、家族じゃないのに、まだ勘違いをしている、頭の悪い女なのだと蔑んだ。

 

 これは流石にまずいと思い、団長とも相談して伯爵にアリア嬢に求婚して引き取りたいと申し出ることにした。ところが伯爵はアリア嬢には決まった相手がいる、妹のディア嬢が私に恋しているからどうかもらってはくれないかと言ってきた。

 私は断固拒否したかったが、団長にしばらくその方向でゴダール伯爵家に潜入してくれと言われ、了承するしかなかった。 


 そして、内々でディア嬢との婚約の話が進みだしたころ、気をよくしたディア嬢が内緒だと教えてくれたのは、アリア嬢の出自。様々な疑惑がそのおかげで繋がった。

 

 やっと、助けられる――――そう思ったのに。




 ◇◇◇◇◇




 目覚めると、体が沈み込むほどにふかふかなベッドの中にいた。上半身を起こすと、酷いめまいに襲われまたベッドに逆戻り。


 ――――ここ、どこ?


 見たこともないような豪華な部屋。サラサラのシーツに柔らかな掛布。

 服はいつものボロのワンピースからシルクみたいな手触りの綺麗なものになっていた。

 ベッドに寝そべってボーッとしていると、手桶を持った高齢の女の人が部屋に入ってきた。


「ダーク様に伝えて! お目覚めになられたわよ!」


 部屋の外にいる誰かにそう伝えると、ベッド横に駆け寄ってきて大丈夫かと聞かれた。誰かわからないけれど、心配そうな顔をしてくれているから、ちゃんと返事をしたかった。


「だ……じょ、ぶ」


 喉が酷く痛んだ。声はガラガラで音程もガタガタ。ちゃんと話せなくて何でだろうかと考えていると、黒の騎士様が駆け込んできた。そして、ベッドに乗り上がる勢いで抱きつかれてしまった。


「え……っど……?」

「ダーク様、アリア様が困られていますよ」

「っ、すまない」


 黒の騎士様が鼻声で目覚めて良かったと言い、肩を撫で下ろしていた。

 何が何だか分からなくて、黒の騎士様が何か話しているけれど、移り変わる表情をただ見つめていた。ここが黒の騎士様のご実家で、グリエット侯爵家なのだということは聞き取れた。

 

「――――聞いているかい?」

「え、あ……ごめ……ざい」

「声が…………医者をすぐ呼ぶよ」


 お医者様から説明されたのは、毒薬は経年劣化で効果がかなり薄まっていたものの、喉や内臓を爛れされていて、命を奪うには充分だったということ。黒の騎士様が直ぐに吐かせたことで命がギリギリ繋げられたそう。

 いま痛んでいる喉や内臓も一ヵ月ほど安静にして、ちゃんと薬を飲んでいれば回復するだろう、ということだった。


 お医者様が帰ったあと、黒の騎士様に二人きりで話したいと言われ了承した。


「アリア嬢」

「は……ぃ」

「命を粗末にするなっ!」


 怒った男の人は怖い。黒の騎士様がそんな人だとは思っていないけれど、お父様は怒鳴ったあとはいつも暴力を振るっていたから、体が勝手に震えてしまう。

 黒の騎士様は怒っているけど、とても悲しそうな声だった。そして「生きててくれてありがとう」と呟かれて、心臓が締め付けられた。

 今までこんなふうに私の生死を気にかけてくれる人はいなかった。あの女の人以外は。


「なぜ死のうとしたんだ」

「くろの――――」


 黒の騎士様の目の前で服毒して死ねば、あの人たちは窮地に追い込まれるから。

 きちんと言葉が紡げなくて、辿々しく話していたし、変な発音も多かったのに、騎士様はちゃんと聞き取って、頷いてくれた。


「そんな可能性の低いことをするな!」


 そして、また怒られてしまった。


「仕留めるなら、確実にしろ」

「どう、やっで……?」

「裁判で証言し、非人道的行いをしていたことを訴え出るんだ」


 白日の下に晒せば私のことが皆にバレる。生きづらい世の中になるかもしれない。それでも、がんばって生きてほしいと言われた。


「……なん、で?」

「君が好きだからだ。死ぬ勇気があるなら、生きて私に愛されろ」

 

 その熱い言葉に心臓が締め付けられた。全身がぽかぽかと温かくなって、生きていてもいいのかもと思えた。




 一ヵ月の間、ゆっくりと心も体も休めることが出来た。声はほとんど戻った。時々咳は出てしまうけど、それも徐々に治まるだろうとのことだった。


「君には辛い話かもしれないが――――」


 ダーク様から聞いたのは、両親が隠していた恐ろしい行い。地下室の女の人――産みの母は、準男爵家の娘だった。準男爵家には金品を盗んで逃げ出したと報告していたらしい。準男爵家が娘はそんな子ではないと騎士団に捜査を依頼したものの、産みの母からの手紙が届き、泣く泣く諦め、盗んだものの賠償で屋敷を売り払い、爵位も手放したそう。

 私の見た目が、娘と酷似していることに気づいた元準男爵が騎士団に訴え出て再捜査のきっかけになったらしい。

 



 裁判に証言者として出廷すると、国王陛下や宰相閣下など、国の上層部が勢ぞろいしていて、ことの大きさに驚いてしまった。


 連行されてきた両親に、今まで育ててやった恩を返せと言われた。修道院に『保護』されていたらしいディアには、私のせいで人生が滅茶苦茶だと言われた。


「申し訳ございません」


 正面にいた国王陛下にそう伝えると、なぜか両親がしたり顔になり、ディアは傍聴席から勝手に前に出てきて私を指差し叫んだ。


「この女は魔女なのよ! 皆騙されているの!」

「黙れ」


 低く響き渡る国王陛下のその言葉でも、妹は止まらなかった。


「いつもバルコニーで男たちを暗闇に誘い込んでいたの! 私知ってるんだから。ダーク様、目を覚まして! そんな女より私のほうがずっと若くて綺麗なのになんで!?」


 両親を助けるような言葉など一切なく、自分のことばかり。この場にいた全員が呆れて言葉を失っていたのに、ディアは皆が自分の話を傾聴しているのだと勘違いしたようで、私が地下に閉じ込められ何の教養もないことなどを小馬鹿にしながらペラペラと話した。

 我慢の限界が訪れた国王陛下が衛兵に手を払う仕草をすると、侮辱罪として捕縛され退場させられた。


「さて、静かになったな。君は地下にずっと閉じ込められていたのか?」

「はい――――」


 いままで受けていた扱い、受けた暴力、亡くなった産みの母のことなどを事細かに伝えた。


 両親は貴族としての品位が著しく足りていないということで爵位はく奪後、殺人ならびに殺人未遂罪、詐欺罪などの様々な罪状で投獄されることとなった。妹は侮辱罪で修道院に一生幽閉されるらしい。


「あの、私はどうすれば……」

「ん? それに聞け」


 国王陛下のいう『それ』はダーク様のことで、ダーク様はというと、隣でふわりと微笑んでいるだけだった。




 グリエット侯爵家に戻ると、ダーク様の部屋に通された。なぜ私が借りている部屋ではなくダーク様の部屋なのか不思議に思いつつも勧められたソファに座る。


「警戒は……するか」


 苦笑いしたダーク様が、少し照れながら私に恋した経緯を話してくれた。


「それだけで?」

「君の心の綺麗さや芯の強さを知るには十分だったよ」

「……ありがとうございます」


 お礼を伝えると、苦笑いされてしまった。ダーク様が「好きになってもらえるまで、いつまでも待つよ」と言ったことで、こういう場合のお礼は『断り』のように聞こえるのかもしれないと理解。


「あの……待たなくていい…………です」


 だって、私もずっと好きだったから。好きという感情だったのだと知ったのは最近だけどと付け加えると、ダーク様にきつく抱きしめられた。


 じっと見つめ合っている内に自然とお互いの顔が近寄っていき、唇がふわりと触れ合った。


「ダーク様、もう一度言ってくださいませんか?」

「ん?」


 助け出してくれて、生きろと言ってくれたあの言葉をもう一度言って欲しかった。


「生きて私に愛されろ?」


 首を傾げて言うダーク様に自分から唇を重ねた。歯がガチッとあたってしまってちょっと痛かった。


「はい。いっぱい愛してください。私もめいっぱい愛します」

「っ、君の攻撃力が恐ろしいよ」

「えぇ?」 


 確かに歯は当たったけど、攻撃じゃない。訳が分からないと言うと、追々教えるよと言われた。


「とりあえず、いまはキスの仕方からかな」




 ―― fin ――




読んでいただきありがとうございます!


面白かったぞ、長編化しろ、ざまぁ増やせ、ダークのかっこいいとこ増やせぇぇぇ!とかそんなんでいいので(?)ブクマや評価、感想などなど入れていただけますと、作者が小躍りしますヽ(=´▽`=)ノわはーい♪

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